26歳レオン(KH)inディシディア。

 

 女神のおわす聖域は、今日も清浄な力と光に満たされており平和であった。
 一歩外に出れば大量のイミテーションが徘徊する危険な世界であったが、ここだけは静謐であり許された癒しの場なのだった。
 女神の側に属する者は、ここへと帰って来て束の間のひと時を過ごす。
 そしてまた戦いへと向かっていくのだが、休憩の為に戻ってきたスコールは、聖域内の異様な盛り上がりに戸惑った。
 スコール以外のメンバーが勢ぞろいして輪を作り、大声で応援している。中心では、バトルが繰り広げられていた。
「…何の騒ぎだ?」
 呟くと、手前にいた男が振り向いた。
「遅かったな、スコール」
「…レオン!?」
 軽く手招きをされ、歩み寄る。
 なんで当たり前のようにここにいるんだ。
 疑問が顔に出たのだろう、隣に並んだスコールに苦笑を向けて、レオンは溜息をついた。
「つい五分ほど前だ。…トーナメントをやるからと」
「ああ…ホントにやることにしたのか」
「対戦表も用意されていた」
「用意周到だな…で、アイツもメンバーに入ってるのか?」
 アイツ、と中央で戦っている黒衣の金髪男を指させば、レオンはあっさり首を振る。
「アイツは俺の代わり」
「何だ、代わりってことは、あんた参加する気あるのか?」
 即答で断っていた気がしたが、と言えば、嫌そうに眉を顰めて「まさか」と返る。
「俺は辞退すると言ったんだが、クラウドが…」
「一緒に来たんだな」
「まぁ、事故だ」
「へぇ」
 レオンの世界の現在時刻は午後九時だった。なるほど、一緒にいたのか。
 一人納得したスコールは、腕時計を見ていた。気づいたレオンは小さく笑みを刻む。
 それは以前、レオンがスコールに贈ったものだったからだ。
「それ、ネジ巻いてるか?」
「ちゃんと巻いてる。問題ない」
「そうか。大事にしてもらってるようで何よりだ」
「…あいつらには召喚時間のことは話してなかった」
「それでか。…お前がいなかったから、そうじゃないかとは思っていた」
「悪い」
「いや、お前が謝ることじゃないだろう」
「そうだが…」
 よりにもよって俺がいない時にレオンを召喚するとは。
 曲がりなりにも「スコールの未来の姿」として呼ばれているのだから、自分がいる時に許可を取って召喚すべきではないのか、と思う。
 どうせバッツやジタンあたりに頼み込まれたのを口実に、喜々として呼んだのだろう。一言文句でも言ってやるかと女神を見れば、向こうもこちらをじっと見ていた。
 否、両手を胸の前で組み、熱い視線で見つめているのは隣にいる男だった。
 観客としてあるメンバーの中でもレオンは女神から最も遠い位置にいた。おそらくレオンはわざと、女神から離れている。
 女神の視線上にはメンバーの頭がちらつき、中央には黒衣のクラウドと、こちらの世界のクラウドが戦っているのだから障害物が多すぎた。
 にも拘らず女神はひたすらにレオンを見ていた。障害物が動くたびに、頭が左右に振れている。ボクサーもかくやといわんばかりの素晴らしい振り子運動だった。何としてもレオンを視界に収めたいという執念が垣間見える。
 正直、怖い。
 挙動不審だったが、ツッコミを入れられる者はこの場には存在しないのだった。
 いやしかし、中央で戦っているのがクラウドvsクラウドであるということに、今更ながらに気が付いた。
「…どっちもクラウドじゃないか」
「こちらのクラウド、相当強いな」
 レオンの言葉には素直な感嘆が込められていた。
 それにはスコールも同意する。
 まともなクラウドはとても強く、信頼に足る「仲間」であった。
「黒い方も相当強いな。互角じゃないか」
「…アイツと互角ということは、それはすごく強いということだ」
「……」
 あれ、と思う。
 台詞だけを聞けば信頼しているかのように聞こえるのに、ひどく冷淡に響いた。
 突き放すような、それ。
 レオンの横顔を見つめれば、視線に気づいた男は軽く首を傾げてどうしたと問う。
「いや…他人事みたいだな」
「実際他人事だが。…まぁ、俺の出る幕はないな」
「…どういう意味だ?」
「言葉通りの意味だ。おそらくここにいる連中は、あいつらと同等には強いんだろう」
「まぁ、そうだな」
「そういうことさ」
「……?」
 どういうことだ?
 今度はスコールが首を傾げて考え込むが、レオンは答えをくれなかった。
 戦闘開始から十分で終了の合図が光の戦士から出され、二人のクラウドは距離を取って武器を収めた。
「えー!決着つくまでやらせろよー!」
「引き分けとかありかよー!」
 バッツとジタンからブーイングが上がるが、戦士は聞く耳を持たなかった。
「トーナメントとはいえ、戦闘が長引けば支障をきたす。あくまでも鍛錬の一環として開催しているのだから、かならずしも勝敗にこだわる必要もない」
「いやいや、じゃぁトーナメントの意味ないじゃん!どっちが上に行くんだよ!」
「ジャンケンでもしてもらおう」
「ジャンケン!?本気で言ってんの!?」
「無論、本気だ」
「出たウォル様の正論攻撃!」
「…また名前候補が増えたな…」
「つまんないのー!」
「つまんなくない。そもそも、トーナメントは面白いものでもない」
 至極真面目に語る光の戦士に冗談は通じないようだった。
 女神は穏やかな笑みを浮かべてその様子を見守っているかと思いきや、視線は目の前で騒ぐバッツ達をすり抜けて、ずっとレオンを見ていた。
 ああ、今日もいい男。
 スコールに笑いかけるその笑顔が素敵。
 スコールも早くあんな笑みができるようになればいいのに。
 あと十年?もっと早いかしら?
 いつか二人並んで微笑んでほしい。
 にこにこと上機嫌の女神は文句のつけようもなく美しかったが、話しかけようとする者は存在しない。仮に話しかけた所で、聞いちゃいないだろうことを、誰もが知っているからだ。
 レオンはずっと、女神の方を見ようともしていない。
 気づいていて、無視しているのだった。
 レオンと話そうとすると、嫌でも視界に入るコスモスの夢見る乙女の視線が怖いと思いながら、スコールはまだ先ほどの答えを考えているが、わからなかった。
「レオン、」
「そういえば、あのクラウドはその後どうなった?」
 問われ、開きかけた口を閉じて逡巡する。
 レオンに殴られ踏みにじられて以来、すっかり落ち着きを取り戻したクラウドは、スコールにストーカーまがいのことをすることはなくなっていた。だが散々やられた数々の行為や投げられた言葉はなかったことにはできないのだった。
 やられたといっても実際にヤられたわけではないのでまだマシではあるが、いつまた豹変するかと思うとあまり近づきたくないのが本心だ。
 会話はする。
 必要であれば共に行動もする。
 だが、関わりたくはない。
 素直に感情を吐露すれば、レオンは溜息をついてそうかと頷いた。
「だがあまり警戒してやるな。下手に刺激すると暴発しかねんぞ」
「おい、何他人事みたいに言ってんだ。そこは他人事じゃ済まないだろなんとかしろよ」
「なんとかした結果が今だろ。…普通に接してやれ」
「無理言うな」
「…ああ、お前は若いんだったな」
「溜息交じりに言うのやめろ。子供扱いは不愉快だ」
 言えば今度はよしよしと頭を撫でられた。
「おいこら」
 払いのけようとしたが、予測していたようで一瞬早く手は引いた。
「……」
「怒るな。お前かわいいな」
「馬鹿にしてるのか」
「いいや」
 笑いながら言うレオンに説得力があろうはずもない。
 眉間に皺を寄せて睨みつけるが、バッツやジタンに囲まれたせいで怒りは霧散してしまう。
「レオンさん!次レオンさん戦いません!?」
「せっかくだしトーナメント関係なしで!俺!俺とやろう!」
 ジタンが手を上げぜひ!と促すが、レオンは首を振る。
「いや、やめておこう」
「何でですかー!?」
「代わりにスコールが相手してくれる」
「おっスコールやるか!?」
「は!?何でだよ!俺は俺で組まれてるんじゃないのか!」
「組まれてるけど最後の組だから当分出番ないぜ」
「……」
「鍛錬の一環なんだろう、行って来るといい」
「…人に押し付けるのがお得意か」
 あの黒衣のクラウドの場合、押し付ける前に自分から立候補しそうだ、とは思ったもののあえて言えば、レオンは肩を竦めて軽く目を伏せた。
「そうだ。俺は……」
「……」
 レオンが自嘲交じりに囁いた言葉に、スコールは返す言葉を失った。
「俺はもう、若くない」
 両手を上げておどけたようなポーズは、レオンには似合わない。
「やめろ年寄り発言」
 武器を持ち、ジタンと共に中央へ歩きながら吐いた悪態にも、力は入らなかった。
 
 
「俺は俺の限界を知っている」
 
 
 そんな言葉、あんたの口から聞きたくない。
 
 
 
 
 
「おいあんた」
「…は?」
 こちらの世界のクラウドが黒衣のクラウドに話しかければ、明らかに不快に顔を歪めて振り返られて、驚く。
「…俺、あんたに何かしたか?」
「何が?」
「同じ顔にそんな嫌悪感丸出しで見られる意味がわからないんだが」
「同じ顔ね…それがムカつく」
「は…?いや、それはしょうがないだろ。スコールとレオンだって同じ顔だ」
「同じ顔だからムカつくって言ってるんだが」
「いや、だから意味が…」
「殺せるものなら殺したかったが、お前結構強いな、余計にムカつく」
「殺…!?なんで!?」
「なんでじゃない」
「……」
 嫌悪ではなく、殺意かこれ。わかりにくい負の感情の発露だと、クラウドはクラウドに対して思ったが、何故殺意を向けられねばならないのかがわからなかった。
「何で殺されなきゃならないんだ?」
「…なぁお前」
 同じ顔をしているというのに何故こんなに間抜け面をしているのか、こちらの世界のクラウドは。
 見た所、スコールとの関係は「お仲間」以上のものではなさそうだった。
 「お仲間」以上の関係になりたそうな気配はひしひしと感じる。
 だが、まだモノにできてはいなさそうだった。
 
 
 じゃぁ何でレオンには手を出せた。
 
 
 そこが未だにわからない。
 いやまぁレオンが迫ったら手を出すのかもしれない。あのレオンが本気で落としにかかったらこの間抜け面は一瞬で落ちそうだし。
 でも別にレオンに対して何か特別な感情がありそうにも見えなかった。
 何なんだ。
 レオンは逐一事情を報告したりはしない。
 こちらも聞かないし、ウェットな関係ではないから興味もないし、聞きたいとも思わない。
 だが、この間抜け面が相手をしたというその一点だけは納得がいかなかった。
 スコールじゃなくて?
 何でレオン?
「スコールに嫌われてるのか」
「えっ…ななな、何言って…っき、嫌われてなんかない…!」
「……」
 殺意がぶり返す程にはわかりやすい反応だった。
 何をやったら嫌われるんだ?
 レオンだろ?
 …いや、レオンとは同じ顔なだけで、違う人間だとはわかっていても、レオンだろ?
 想像がつかなかった。
「今はちょっと、スコールが過剰反応しているだけだ」
「何やったんだ」
 聖域内のメンバーの数は減っていた。
 休憩を終えた者から順に出かけて行き、残った者の中でスコールとジタンが今度は戦い始めたようだった。
 対戦表にはない組み合わせだったので、トーナメントとは無関係に鍛錬とやらでもしているのだろう。
 今ならスコールに聞かれる心配はない。
 レオンはと見れば、スコール達の戦いを少し離れた所でバッツと共に観戦していた。
 興味はないし聞きたくもないし、関わり合いになりたくもないが、ここで何とかしておかねば今後も面倒なことに巻き込まれかねない。
 …率直に言えば、この間抜け面はスコールだけを相手していればいいのだった。
 レオンに興味を持つな。
 お前には関係ないだろ。
 事情を話せと歩み寄れば明らかに警戒の色を見せたが、この間抜け面も相当切羽詰まっているのだろう、うろうろと視線を彷徨わせた後、一つ頷き真剣な表情でクラウドを見る。
「実は…」
 聞いた内容はクラウドの理解を超えていた。
 
 
「普通に引くわ!!何だ前世って!!」
 
 
「…えぇ…いや、あるんだから仕方ないだろ…」 
「仮にあったとしても、知らないヤツに素で言ったらお前は単なるアブナイヤツでしかない!!」
「あぁ、レオンにも怒られた」
「そりゃそうだ!てか同じ顔して怒られたとか言うな何だその嬉しそうな顔ムカつくんだよ!」
「いや、そう言われても」
「……。…で?」
「怒られて、そうかと気づいたから、迫るのをやめた」
「…なら問題ないじゃないか?」
「そしたら、スコールが俺を避けるようになった」
「…変なトラウマを植え付けるからだろ」
「トラウマ…そうなのか?」
「お前がそこまでアホだとは思わなかった。同じ顔なのに何でだ…?」
「…どうすればいいと思う?」
「知るか」
 先が長そうな案件にぶつかってしまった。厄介極まりない。
 この阿呆が馬鹿な言動さえしなければ、スコールはすでに落ちていたかもしれないのに。いや、知らないが。どうでもいいことだし。
 だが過去には戻れない。
 やり直すこともできない。
 ではどうすればいいか。
「…お前が変なことを言ったりやったりせずに普通にしてれば、そのうち元に戻るんじゃないのか」
 マイナスをゼロに戻す。
 まずは、そこから始めるしかない。
「そう、思って、大人しくしてる」
「そうか、じゃ俺が言えることはもうないな」
「いや、待ってくれ。それじゃぁ俺がもたない」
「知るか。自業自得だろ。一人で抜いてろ」
「そもそも俺が前世を思い出したのは、レオンが抱いてくれっていうから!!」
「……」
 
 
 え、そこにつながってくるの?
 
 
 レオンのせいか。
 全く軽率にこんな阿呆にヤらせやがって。
 てか、「抱いてくれ」ってなんだ。ふざけるな。
 俺言われたことないぞ。なんだそれふざけるな。
「だからスコールにも思い出して欲しいと思って、一回ヤれば思い出すんじゃないかと…思ったんだが」
 全力で拒否され嫌われたと。
 それは自業自得だからどうでもいいが、何だすごく心がもやもやする俺のこの感情はどこにやればいいんだ?この阿呆余計な事言いやがって!
 
 
 レオンが悪い。あとで覚えてろ。
 
 
「なるほど、話はわかった」
「そ、そうか。どうすればいい?」
「俺がスコールをヤってやれば思い出すかな?」
「…何でそうなるんだ!?やめろよ!」
 阿呆面が真剣な表情で怒っている。
 おい、お前よく俺に向かってそれ言えるな?
 まぁいい。
 面倒くさいし、早く帰りたい。
 レオンに言わせなければならない言葉ができたことだし、あとはもう帰るだけだ。
「スコールって結局レオンなんだろ?」
 言えば、阿呆は首を傾げて考え込んだ。
「違うと思うが…」
「姿形が一緒ってことは、まぁ身体的な部分は一緒ってことだろ?」
「そう…かな」
「スコールの中身については良く知らないが、身体なら」
「…なら?」
「レオンなんだし、開発してやればクソエロになるってことだろ?」
「……!!!!!!!!!」
「レオンは中身もヤバイが、スコールはまだマシだろ…よく知らないが」
「確かに…!!レオンの身体、すごくエロかっ……ちょ、殺意!」
 そろそろこの阿呆を殺したい。
 本気でスコールをヤってやろうかという気になる。
 が、抵抗されても面倒だし、そもそもスコール自体に興味がない。
 若い頃のレオン、それだけだ。
 レオンが最も嫌悪する時代のレオン。それだけだ。
 もっとも忌むべき時代、それだけだ。
 それは俺も変わらない。
 レオンはよく平気な顔をしてあの外見のスコールと話ができるなと、感心する。
 …それだけの、感想しかない。
 それだけの存在でしかないこの世界に、関わるレオンの気が知れない。
 無理矢理召喚されているのだから、レオンの意志など忖度されないのは仕方がないにしても、この世界にいる連中を気遣ってやる意味もクラウドにはわからない。
「ありがとう、えっと…クラウド。自分の名前を人に向かって呼ぶのは変な感じだが…俺、希望が持てそうだ」
 霧が晴れたように、輝く瞳を向けて謝辞を述べる阿呆の神経を疑う。
 何故こんな阿呆にヤらせてやったのか、レオンの神経を疑う。
 まぁいい。レオンには直接聞けば済む話だ。
「どうでもいいが、強姦は失敗してるんだから、ちゃんと合意の上でヤれ」 
「そうしたいところだが…難しい」
「スコールの性格を俺は知らないからな。…なら、レオンにでも聞けば?」
「え…」
「呼んできてやる」
「クラウド…いや、クラウドさん、あんた、頼りになるな…!!」
「……」
 気持ち悪いなコイツ。何で同じ顔してるんだ理不尽を感じる。
「レオン」
 声をかければ、バッツと話していたレオンが振り返り、首を傾げた。
「なんだ?」
「あっちの気持ち悪いヤツが呼んでる。話を聞いてやれ」
「…気持ち悪いってお前…」
「え、なになに、大事な話?」
 割り込んでくるバッツにそうだと答え、レオンの腕を掴んで歩き出せばついてこようとする。
 何でついてくるんだ?空気読めよ。
 睨みつければきょとんと目を見開いて、レオンを見た。
 おい、何でレオンに指示を仰ごうとする?俺に言えよ。
「おい、…」
「バッツ、済まないが時間が少ない。あちらのクラウドと話して来るが、構わないな?」
「残念だけど、そういうことなら!次はちゃんと遊んで下さい!」
「次があれば」
「ぜひー!」
 あっさり引き下がった。なんでだ。
 レオンと目が合うと、気持ち悪いクラウドは赤面して俯いた。なんでだ。
 すごく、理不尽を感じる。
「で、話とは?」
「そ、その、…スコールのことで」
「スコールがどうした?」
「……」
「ん?」
「……」
 ちらちらと、気持ち悪いヤツが見上げて助けを求める視線を飛ばしてくるのにムカついた。
 レオンの前で恥ずかしがって俯く同じ顔をしたヤツ、というだけでもうダメだ。虫酸が走るというヤツだ。
 もう面倒くさい。
 早く終わらせて帰りたい。
「コイツが合意の上でスコールとヤるにはどうすればいいかと、聞いてる」
「く、クラウドさん、すごい…直球…!」
「黙れ気持ち悪い」
「…合意と言われてもな。約束はどうした?」
「ま、守ってる。だから、無理矢理じゃなくて、ちゃんと、その…」
 子供か?
 もしくは、思春期の小僧か。
 エロイおねーさんを前にしてしどろもどろになるアレか。
 童貞か?いや童貞ではないのか。少なくともレオンとヤっているのだから。
 こいつ、俺とそう年齢変わらなかったよな?
 盛大なため息が漏れるのは無意識だったが、レオンは耐えていた。すごいなお前。
「…俺がどうこうできる問題じゃないと思うんだがな…。合意が欲しいなら、正面から話し合えとしか言えん」
「…レオンは、無理だと、思うか…?」
「……」
 おずおずと見上げる男の瞳には不安しかなかった。
 望み薄だろうな、とは思うものの、元々スコールを傷つけたいわけではないのだ、この男は。
 レオンは額に手をあて、ため息を押し殺す。
「システマチックに手順を踏んだ方が、拒絶はされにくいんじゃないか」
「し、システマチックって…?」
「きちんと告白をして、つきあい期間を経て、っていう、お約束の恋愛法則だ」
「な、なるほど」
「だが合意が欲しいだけなら」
「…なら?」
「お前がヤられてみれば?」
「はぁ!?」
「いやいや、ないない!!」
 二人のクラウドが同時に叫んだ。うるさい。
「結局ヤられる側の負担がでかい。スコールは経験がないようだし」
「でも、前世では…!」
「そんなものは捨ててしまえ」
「うっ…!」
 レオンがばっさり斬って捨てた。
「開発すればお前みたいになるだろ、どうせ」
「く、クラウドさん…すごい、ド直球…!」
「うるさい黙れ」
 早く終わらせて帰りたいクラウドが助け船を出すが、素直に感謝されるととても気持ち悪い思いをするのだった。
「…俺と比べてやるな。スコールがかわいそうだ」
 自分で言うのか。
 二人のクラウドは同時に思ったが、口には出さない。
 自覚はしてるんだ、という事実がすでにヤバかった。
「大事なのは、スコールがヤられる気があるのかどうかだ。そうだろう?」
「…た、確かに」
「現状無理だと思うから、時間をかけろと言っている。…まぁ、直接聞け」
「え?」
「スコールを呼んでやる。ちょうど終わったようだな」
「れ、レオン…!」
 レオンが神様に見える、と、こちらの世界のクラウドは思った。
「俺、レオンになら抱かれてもいい…いや、抱きたいけど。エロすぎるし」
「ホントに気持ち悪いなお前」
 関わり合いになってはいけないタイプだと思うのに、レオンはよく世話をしている。…どういうつもりなんだか。
「何なんだ、俺は別に話なんかないぞ」
「時間がない。俺がいるうちに、クラウドと話をしておけ」
「……」
 不満そうな表情を浮かべながらも、スコールは素直にレオンについて来る。
 コイツもな、何でレオンの言うことを聞くんだろうな。
 気持ち悪いヤツの正面に立ったスコールは、視線を逸らして見ようとしない。
「す、スコール…」
「何だ」
「その、…」
「…何なんだ?」
 口ごもり、俯く男に苛立った様子を見せて、スコールはレオンを見る。
 皆、レオンに指示を仰ぐんだな。
 レオンなら何とかしてくれると、思っているのだろうか。
 レオンはため息をついて、俯いた気持ち悪いヤツを見、スコールを見た。
「率直に聞くが、お前はヤられる気はあるのか?」
「ない」
「相手によるとか?」
「…おい、何なんだ?この間の話はあれで終わったはずだろ?」
「ヤる方ならいいのか?」
「…待て、相手は誰だよ」
 ちらりとレオンが視線を落とした方向を、スコールは見もしなかった。
「笑えない冗談だ」
「そうか…」
 気持ち悪いヤツがさらに俯き、クラウドは天を仰いだ。
 時間をかけるか、諦めるしかないのでは?
「話は終わりか?なら俺は…」
 スコールの無慈悲な言葉は途中で遮られた。
 レオンがスコールの頬を撫で、至近に寄って口づけたからだった。
「「…!?」」
 二人のクラウドが愕然と見守る中、レオンの舌がスコールの唇を舐め、唾液を光らせながら下唇を食む。
 右手で腰を引き寄せ、左手はジャケットの下に潜り込んで胸元を探った。
「……っ」
 肩を震わせ息を詰めるスコールの唇が緩んで、そこにレオンの舌が滑り込む。
 スコールの舌を舌先で舐め、絡んで来るのに任せて主導権を渡してやれば、スコールはレオンの舌に食いついた。
 レオンの首に左手を回し、後頭部を引き寄せる。
 胸を探るレオンの左手を右手で剥がし、指先を絡める。
 スコールに手を出すレオンにも驚いたが、積極的にレオンを求めるスコールの姿に唖然とする二人のクラウドは、動けない。
 レオンが引いて顔を離そうとするが、スコールの左手は離れなかった。
「ん…っ、スコール、待て…っ」
「…っ、あ…?」
「わかった、もうわかったから、…手を、離すんだ」
「……、……っ!?」
 至近に迫る蒼の瞳が困ったように微笑っているのに気づき、スコールは慌てて顔を離し、後頭部に回していた手を離し、絡め取っていたレオンの手を解放した。
 口元に指先を当て、唇を舐めるレオンの舌の赤さに己の熱を自覚したスコールが一歩後ろに下がる。視線を感じて横に流せば、二人のクラウドが目を見開いて立ち尽くしており、己が何をしていたのかをまざまざと実感して居たたまれなくなり、踵を返して走り出す。
 その場から逃走したのだった。
「「……」」
 何だ今の。
 何だったんだ今の。
 すごいモノを見た。
 クラウド同士が互いに顔を見合わせて、先ほどの出来事が現実であったことを確認した。
 レオンを見れば、平然としている。
 何故平然としていられるのか、不思議だった。
「おいレオン…」
 先に自失から立ち直った黒衣のクラウドが呼びかければ、レオンは「ああ」と言って振り向いた。
 
 
「普通にイケそうだな」
 
 
「「……」」
 レオンのイケメン度がすごすぎた。
 ただただ見つめるしかない二人のクラウドのうち、こちらの世界のクラウドを見やって、レオンは一つ頷いた。
「まぁ、頑張れ」
「…れ、レオンがすごい…レオンがすごい…抱かれたい…でも抱きたい…」
「だからやめろ殺したい」
 本当に気持ち悪いこちらのクラウド、死なないかな。
 黒衣のクラウドの内心も知らず、レオンは「時間だ」と呟いた。
「…お前、いいのか?色々と厄介な種ばかり蒔いてる気がするんだが…?」
 思わず言えば、レオンは鼻で笑い飛ばした。
「知るか。俺が全ての責任を負えるわけないだろ」
 レオンは決して、何でもかんでも背負ってしまえる神などではないのだった。
 クラウドは気持ち悪いヤツを見やって「ご愁傷様」としか言えなかった。
 スコールのあの反応が、レオンに対してだからなのか、それ以外のヤツにも有効なのかは不明だった。この気持ち悪いヤツが同じ事をしたとして、同じ結果になるとも思えないが、忠告してやる時間はなかった。
 まぁとりあえず、レオンに手を出すのはやめておけ。お前の手に負えるヤツじゃないんだからな。精々遊ばれるくらいが身の丈だ。
 
 
 レオン達が消えた後、一部始終を見ていた女神が腐女子化したかどうかは、定かではない。


青少年の主張

変態+電波<真性

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