「忙しい」
「……」
「レオン、俺は忙しい」
「リピートするな。こちらも忙しいからお互い様だな」
「やることが多すぎて何から手をつけたらいいのか」
「…お前のやることって一つしかないだろう。セフィロスを捜しに行けよ、クラウド」
「ソレが大変だから困っている」
「…行動してから言え。こんなところで油を売ってる場合じゃないだろう」
「お前が見てないところで捜してる。…でも見つからない。嫌にならないか?」
「俺に聞かれてもな…あ、キー打ち間違えた」
「来る日も来る日も人捜し。でも見つからない。嫌になるけど、やめられない。かわいそうだと思わないか?」
「嫌ならやめればいいんじゃないか」
「やめられないって、言ってるだろ」
「タバコか麻薬レベルの話か?百害あって一利なしだ、やめておけ」
「セフィロスはタバコか?…いや、ソレは違うけど、早く見つけて決着をつけるまではやめられない」
「答えは出たな。なら寸暇を惜しんで捜しに行けばいい」
「そうだな…」
「…おいクラウド、寛ぐな。己の言動の矛盾に気づけ」
「矛盾はしてない。…レオンは働き者だな」
「あ、また打ち間違えた…。お前…」
「集中しろよ。俺のことはおかまいなく」
「なら話しかけるな!」
「わかった」
「……」
「……で、毛布どこ?」
「…クラウド…30秒前の会話すら覚えていられないのか」
「いや、邪魔する気はないけど。ちょっと昼寝」
「…は?」
「疲れた。ちょっと寝たい」
「お前何にもしてないだろう!」
「…色々と」
「色々と?」
「…ホラ、風邪引くと困るだろ。毛布貸して」
「………奥の引き出しから自分で持って来い」
「レオンは、何やってるんだ?」
「…それを今頃聞くのか?…再建計画の修正と補足を」
「お前がやってるの?」
「実際に金を出すのは再建委員会じゃなくて、住民だからな。再建にかかる費用や今後の計画も、年度ごとに見直しが必要だ」
「へぇ」
「予算は有限だからな」
「めんどくさいことやってるんだな」
「…手伝うか?」
「俺忙しいから」
「どこがだよ!」
「1時間経ったら起こしてくれ」
「……俺はお前の時計じゃない」
「起こしてくれなくても別にいいけど。適当に起きて帰る」
「……」
「やることが多いって、幸せか?」
「……」
「…退屈しなくていいのは、幸せかもな」
「…クラウド?」
「おやすみ」

  やることは、あるのだ。
  やらねばならないことも、あるのだ。
  やろうと思えば出来ることも、実はたくさんある。
  けれども自分の中には優先順位があり、それが終わらないことには動けないと思っている。
  セフィロスを倒すこと。
  これが終わらないと、他のことが手につかない。
  集中したいといえば聞こえはいいが、実のところ不器用で怠惰なだけだろうと自分で思う。
  セフィロスを倒すこと。
  他の事を始めてしまえば、最優先事項であるはずのこれすらどうでもよくなりそうな自分が怖い。
  そう、怖いのだ、自分は。
  楽な方へ流されてしまう自分が怖い。
  それで諦めてしまいそうな自分が嫌だ。
  セフィロスを倒さなくても生きるだけなら可能だろう。
  セフィロスを倒した後に、開けるだろう未来を想像するのは未だ困難で、倒すという段階に辿り着くことすら実現できていない現状を見れば、明るい夢を描こうだなんて、妄想も甚だしいというものだ。
  捜しても簡単にみつからないし。
  毎日毎日徒労に終わるのは精神的によろしくない。
  非生産的な思考だけはぐるぐると、頭の中いっぱいになって駆け巡る。
 
  やれることはおそらくたくさんあるのだ。

  レオンの手伝いだって、街の再建だって、やろうと思えば出来るのだ。
  時間を決めてセフィロスを捜し、手伝いをし、住民の一人のように溶け込むことも、おそらく可能だ。

 でも、できない。
  やる気はないわけではないが、動けない。
 
  セフィロスを倒すこと。
  最大の目標をクリアさえすれば、後はどうにでもなるというのに。
  早く俺の前に現れろ、と思う。
  早く俺に倒されろ、と思う。
  けれど本当にそれだけでいいのか、とも思う。
 
  毛布の隙間から見えるレオンの背中は、一途に前を向いていた。
  迷っていても、進んでいける背中だった。
  お前だってどん底の人生を歩んできたはずなのに。
  たくさんの悩みを抱えているはずなのに。
  何で前を見て生きていけるのだろう。
  何で立ち止まらないのだろう。

  …たくさんの責任と期待に押されて、立ち止まれないのかもしれないが。

  責任と期待がない分、俺は自由で、自由すぎて、制限がない。
  やらなければならないという制約がない。
  責任は俺の分だけ。
  期待は、そもそも誰からされるものでもない。

  俺だけ。
  俺だけ。

  立ち止まるのも自由だ。
  やめるのも自由だ。
  頑張るのも、もちろん自由だ。

 ………なんだか、負けそう。

「…レオン」
「何だ」
「……」
  この男に何を期待するというのだろう。
「…何だ?クラウド。寝ぼけてるのか」
「……あぁ、いや、……なんでもない」
「あと30分あるぞ。寝るなら寝ていろ」
「……」
  1時間後に起こせと言ったことを実行する気でいるようだった。
 
  レオン、お前は、本当に。

「…なぁレオン」
「?」

「俺を縛っていいよ」

 本当に。

「…は?…し?……何言ってるんだお前」
「いやむしろ縛ってください?」
「…病院へ行け。そんな趣味はない」
「緊縛してくれっていう意味じゃないぞ。俺にもそんな趣味はない」
「いやむしろ病院へ行ってください?」
「やだ」
「俺もやだ」
「……」
「……」

 お前がくれれば俺はおそらく帰って来られるのだろうに。

  ……。

「…俺、おかしいか?レオン」
「十分おかしい。変だ。元からか?そうか」
「一人で納得するなよ!」

 素直に言えるものならば、誰も苦労はしないのだ。

「…俺、また来ていいか?」
「いつも勝手に押しかけて来るのは誰だ?」
「…そうだな」

  怠惰な俺の逃げ場所に、なってください。
  …いや、違うな。
  気晴らしに、なってください。
  …これも、違う。
  傍にいさせてください。
  …何だこれは。愛の告白か。

「何か悩み事でもあるのか?クラウド」
「ああ、そうか」
「え?」

「俺のものになってください」

 何故だか空気が凍りついた気がした。

「断る」
「…あれ?これも違ったか」
「何なんださっきから…」
「じゃぁ」

「お前のものにしてください」

「帰れ」
「…何か違うな…。難しい…」
「…もう喋らなくていい。1時間と言わず寝てていいから、黙ってろ」
「え、何で?」
「お前は疲れてるんだということにしておいてやる。おやすみ、クラウド」
「いや、別に」
「いいから」
  遮るレオンの口調は憐れみに満ちている。
  俺は別に病気ではないのだが。

「…なぁレオン」
「…何」
「…俺、セフィロス倒せるよな…?」
「……」

  静寂が耳に痛い。
  レオンが言葉を探しているのがわかる。

「…馬鹿なこと言った。忘れてくれ」
「……」

 優しい言葉をかけられても困るのだ。
  そんなものが欲しいわけじゃない。

「負けたら死ぬのか?お前は」
「……どうかな…」
「後悔するなよ。それが一番最悪だ」
「……それだけ?」
「無責任に言えるほど、俺はもう若くない。お前も子供じゃない」
「…うん」
「倒すと決めたのなら、ちゃんと戦えよ。最後に、戻ってくればいい」
「……あ、ヤバイ」
「え?」

  最悪だ。
  最悪だ。
 
  ……俺は最悪な馬鹿だった。

「泣きそう」
「…気持ち悪いからやめろ」
「酷いな…」

 

 
  俺、もう死ねない。


END
迷っても帰ってくればいいよ。クラウド。

日はまた昇る。

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