午後、駅前で待ち合わせをした。
  その日は朝から曇っており、残暑厳しいここ最近にしては風も涼しく過ごしやすい一日だった。
  待ち合わせの五分前に到着したクラウドだったが、レオンはすでに待っていた。
「…悪い、レオン早いな」
「ああ、先に寄る所があって早く終わったからな。…時間前にちゃんと来るんだな。遅れるかと思っていた」
  日陰で壁に凭れて腕を組む男がそう言って笑った。
「約束の時間前行動は社会人の常識だ…と、言いたいとこだが今日はちゃんと起きて用意してた」
「なるほど。で、どこか店に入るのか?」
「ああ、そのつもりだったけど」
「けど?」
  店だと目立ちそうな気がした。
  どうしようか、と首を傾げるクラウドに、レオンはごく自然に提案する。
「お前の家に行こうか」
「…へ!?」
「自宅ならゆっくり話もできるだろう」
「お、俺んち!?」
「そう、クラウドの家」
「……、……」
  掃除しておいて良かったー!
  返事が来るまで眠れなかったので、部屋の掃除をしていた。
  返事が来たら喜んで眠れなくなり、気合を入れて掃除をした。
  おかげで睡眠不足だったが、不精して散らかり放題だった部屋は綺麗になっていた。
「一応土産を買ってある。赤ワイン」
「おお」
  土産があるということは、最初から部屋に来るつもりだったということだ。
  レオンが積極的だ。
  …いや、そういう意味じゃないだろう。そんなことはわかっているが。
「…じゃぁ、途中で何か買って行こう。食うものも飲み物もまともにないし。…あ、ワイングラスもないし開けるやつもない」
「ソムリエナイフとグラスは一緒に買ってきた」
「すご。…高かったんじゃないか?」
「たいした金額じゃない。まともなものを買うならコンビニじゃなくてスーパーとかの方が良さそうだな。駅ビルでもいいが」
  大都市は何でも手に入る。
  ちょっと変わったものが欲しければ駅ビル周辺に、生活に密着したものが必要ならば自宅近くのスーパーに行けば安く手に入り、使い分けることで共存できた。
  駅ビルに寄ってスーパーにも寄りたいと言えばレオンは頷き、面倒くさがる様子も見せずに付き合ってくれ、あれこれと必要品を買い込んだ。
  買い物カートはさすがに使わなかったが、買い物カゴを抱えて二人で一緒に買い物をする。
  憧れていたやつだ。今までいつかやりたいと思いながらも機会がなくてできなかった夢が実現していることにクラウドは喜んだ。
  相手は可愛い彼女ではなく男だということについては黙殺する。いいのだ、レオンだから。
  一気に距離が縮まった気がして万々歳だった。
  家では普段殆ど食べないので食料は必要最低限のものを買い、日持ちするものを選んだ。
  飲み物もコーヒーや紅茶など、これまた日持ちがして湯を注ぐだけでできる簡単なものを選ぶ。一人暮らしで自炊しない男の生活など、コンビニがないと生きて行けない凄惨な有様なのが当然だった。逆に言えばコンビニさえあれば生きていける為、いつまで経っても自炊しないという悪循環でもあるのだった。
  レオンが今後定期的に来てくれるなら前向きに検討してもいいのだが、果たしてどうだろう。
  扉を開けて、玄関に入る。掃除したばかりで汚れてはいないはずだがゴミが落ちていないか確認し、大丈夫そうだと振り返る。
  玄関口で中に入ることなく佇んでいるレオンに向かって「どうぞ」と促せば、目線を上げて微笑んだ。
「…ありがとう。お邪魔します」
  「ありがとう」の意味がよくわからなかったが、一歩中に踏み入ればあとは堂々とクラウドの後ろについて歩き、リビングテーブルの上に買ってきたものを乗せて、一緒に片付ける。勝手知ったる様子で冷蔵庫を開け、ワインを立てて保管するレオンの後姿を見ながら新婚みたいだな、などと思う己の脳みそは腐ってきているとクラウドは思う。
  コーヒーでも淹れようか、と声をかけてみる。インスタントなので湯を沸かすだけだったが、レオンはクラウドをちらりと見やってソファで座ってろと言ってのけた。
「…でも一応俺の家だし」
「不安だ。…バイクの資料があるなら出しておいてくれ」
「…はい…」
  そうだった、今日の目的は買うべきバイクの相談に乗ってもらうことだった。
  メーカーのサイトを調べ、良さそうなものについてはスペックや評判をプリントアウトし、大体の見当はつけてある。シンプルで手を入れやすいもの、エンジン音、排気量、価格。
  購入の段になれば直接目で見て音を聞き、試乗して判断しなければならないが、無数にあるメーカーと種類をあてどなく彷徨う前に、ある程度絞り込んでおいた方が効率的だった。
  ソファに座り、ローテーブルの上に資料を出す。
  テレビをつけるべきか迷ったが、少し音量を落としてつけることにした。休日昼間の番組はどの年齢層をターゲットにしているのやら、やたらとコマーシャルが多くて番組の再放送が多かった。
  どれも興味を惹かれなかったので、ニュースチャンネルにしておく。これの方がまだマシだ。
  一緒に買ったマグカップにコーヒーを淹れ、菓子類をトレイに載せてレオンがソファへとやって来た。
  どちらが家主やらわからなくなりそうだったが、どうにも心がざわついた。
  これ、友人がやるべきことなんだろうか。
  どう考えても彼女とか奥さんがやってくれることのような気がしたが、普段弟にしてやっていることなのだとしたらちょっと複雑だった。
  ソファに腰を下ろしたレオンに礼を言い、プリントアウトした資料を見せる。どのデザインが好きかと問えば、どれも好きじゃないと一蹴された。
「え…駄目か?」
「まぁ俺の好みはともかく、お前が気に入ったものが一番だろう」
「そりゃそうだが」
  調べてみた限りではスペック的にはどれもそれほど大差はない。メーカーとデザインと価格が違うくらいだったが、一蹴されてしまっては話を続けようもなかった。
「…実際に試乗してみれば気に入るものが見つかるかもしれないし、迷うということはそもそも真実気に入ってるわけでもないってことだろう」
「仰る通りです…」
「希望の性能のものが決まっただけでも良かったんじゃないか」
「まぁ、確かに」
「あとは実際に足を運んで見てみればいいだろう。…この話は終了か?」
「…はぁ、まぁ、そうなるかな…」
  実に簡潔で的確だった。反論のしようもない。開始五分で会話が終了するとは思いも寄らなかった。
  間が持たず、マグカップに手を伸ばしコーヒーを啜る。
  テレビに目を向ければ、会社の話題が出ていて思わず咽た。
「…大丈夫か?」
「…へ、へいき…」
  咳込んだクラウドに呆れたような視線を送り、レオンもテレビへと向き直る。
  神羅カンパニーの科学部門を統括する宝条博士が殺害されたというニュースだった。
「…神羅の事件事故が続くな」
  レオンの呟きに頷く。
  前社長と重役二名の電車への飛び込みは事故だと判断された。
  自殺する理由は見当たらず、殺人事件とするにはホームに設置された防犯カメラに犯人の姿はなく、三人は自分の足で特急列車に飛び込んでいた。
  不可解な事故だったがそれ以外に判じようがなく、解剖しようにも五体はバラバラであり原因究明にも限界があるということだった。
  それだけでも十分混乱の極致にあったというのに、ここに来て今度は殺人事件だ。
  鋭利な刃物で袈裟斬りされ、一撃死。
  しかも殺されたのは神羅の研究室の中だった。
「…どう考えても内部の人間の犯行だろこれ…」
  世界に名だたる大企業のセキュリティは甘くない。外部の人間が容易に入れる場所ではなく、入るのならば厳重にチェックをされ監視される。部門統括責任者の研究室ともなれば一般社員はそのフロアに立ち入ることすらできず、無理矢理入ろうとしても多くの衛兵と監視カメラを潜り抜け、なおかつ認証キーを持っていなければ入れない。不審者は徹底的に排除されるようになっており、入室を許可されているのは内部の中でもほんの一握りだ。犯人はすぐに割れるだろうことは必至だった。
「犯人の行方を知りたいな」
  レオンが小さく呟いた。
「…え?」
  「犯人」ではなく「犯人の行方」と言ったのか。怪訝に眉を寄せ何故と問えば、「犠牲者だろうから」と返したレオンの顔は無表情だった。
「どういう意味だ?」
「犯人に関わるモノを消滅させる手法は様々あるが、殺すというのは最悪の手段だ。それをやってのけたということは、力を手に入れ捕まらない自信があるからだ。弱みを握られているのは神羅の方だろう」
「…はぁ…」
「大元を捕まえたい」
「大元?…え?犯人を捕まえるのか?何で?」
「…クラウド」
「何、…っ?」
  そっと頬を撫でられた。
  至近に寄せられたレオンの瞳が真っ直ぐ覗き込んで来る。
  クラウドは眩暈を覚え、動けなくなった。
  何だ、視線が外せない。
  愛しげにも見える優しい表情で笑うレオンの瞳の色が、紅い。
  力が抜けて、ソファに倒れ込むのを追うようにレオンが身体の上に馬乗りになった。
  言葉も出ず、意識が遠くなる。
  ただレオンの冷たい手だけがやけにリアルで、髪を撫で、頬を滑り、唇の輪郭を辿る感覚が心地良かった。
  レオンが何かを囁く。
  認識できなかったが、何故だか自分は頷いていた。
「…少し眠れ」
「ああ…」
  自然瞼が重くなる。意識が落ちて行く寸前に、「いい子だ」と褒めたレオンが口付けをくれた。

「クラウド、ワインが冷えたぞ。そろそろ飲むか?」
「……、…え?」
「え?じゃない、寝てるのか」
「…いや、…?」
  我に返り、室内を見渡した。
  窓の外は夕暮れだった。
  一体いつの間に。思い出そうとするが、はっきりとした記憶があるのはバイクの話をしていた所までだった。
「…あれ?俺、寝てた?」
  冷蔵庫から冷えたワインボトルを取り出して、顔を覗かせていたレオンが呆れたと言わんばかりに眉を寄せた。
「ぼーっとはしてた。雑誌広げたまま止まってたが…寝てたのか?」
「あー、…えーと…ちょっと、寝てたかも」
「大丈夫か?ワインやめておくか」
「あ、いや、飲む。レオンがせっかく買ってきてくれたやつだし」
「そうか」
  リビングへとやってきて、慣れた手つきでソムリエナイフを扱い、ワインのコルクを引き抜く。
  洒落たワイングラスに適量注いだものを渡され、その香りと味に満足した。
「…美味い。飲みやすい」
「ああ、これは開けたてが飲みやすい。余るようならワインストッパーで真空状態にしておけば保存もきくし新鮮なまま飲める」
「さすがプロ」
「…いや、これは普通」
「俺家ではほとんど飲まないけど…どれくらい保つ?」
「そうだな、一週間から十日くらいで飲みきれば」
「じゃぁ来週も来てくれ」
「……」
  何の用事で?と言いたそうな顔をしていたが、嫌だとは言われなかった。
  他愛もない話題をしているうちに、ぼんやりする前のことを思い出す。
  同じように他愛もない話をし、テレビを見て、雑誌を見たりゲームをやったりしたのだった。昨夜ほとんど睡眠を取れていなかった為に、ちょっと転寝をしてしまったのだろう。
  レオンが隣にいるというのに失態だったが、驚くほど違和感もなく自然に部屋に溶け込んでいて、おそらく安心したのだった。
  誰かと一緒にいられるって、いいな。
  十六で母親を喪ってから、一人で生きてきた。
  学校は出ておけと言う遺言と僅かばかりの遺産で、大学まで行き上手く就職することも出来たが、常に何かに飢えていた。いつも何かが足りなかった。
  平凡で波乱もなければ挫折もない、平和な人生なのにそれでは満足できなかった。
  レオンが心を埋めてくれる何かだと言うつもりはないが、癒される。
  何故かはわからない。
  共にいられればいいのにと思うのは、何かに毒されているのだろうか。
  自分の心がよくわからず、クラウドは懊悩する。
「…そろそろ帰る」
  グラスに注いだワインを飲み終わった所で、レオンが立ち上がった。
  ご飯までに帰ってきなさいと母親に躾けられている小さな子供じゃあるまいし、大の大人が帰宅するには早すぎるのではないかと思ったが、弟が心配だと言われて過保護かとツッこんだ。
「ソラは十六だろ?留守番くらいできるだろ。…友達と遊んでるかもしれないし」
「…妥当な指摘だな。では言い直そう。俺がそろそろ帰りたい」
「……」
  はっきり言われてしまっては引き止める気も失せた。
  元から仲のいい友人というわけでもなければ、恋人でもなんでもないのだ。会話も途切れがちだったし、俺は転寝するしで飽きたとしても責められない。
  それでもテーブルの上に乗っていたグラスを洗い、ゴミを片付けてから玄関へ向かうレオンは律儀だった。日頃している仕事の為せる業なのか。
  短い廊下を通り過ぎるレオンに何故か違和感があった。疑問に思い背中を見つめてみるが変わったところはなく、廊下もいつもと変わりない。何だろうと考えてみるが、思い当たる点はなかった。
  ドアを開けたレオンが振り返る。涼しい風が入り込み、髪を揺らして表情ははっきり見えなかったが笑っているようだった。
「お邪魔しました。…また店で、クラウド」
「ああ、気をつけて。…またいつでも来てくれ」
「気が向けば」
  軽く片手を上げてまたなと言い残し、ドアが閉まった。
  風が止み、静寂が落ちる。
  ああ一人か、と思えば何故だか心に穴が開いたような気分になったが、一人なのはいつものことだ、寂しいと思うこと自体がおかしいのだ。
  部屋に戻ろうと踵を返すが、夜に食うべき食べ物がなかった。
  面倒だが、晩飯買いにいかないと。
  財布は部屋に置いてある。
  廊下を通り過ぎようとして、視界の端に映る己に気がついた。
「…あれ…?」
  いつも出かける際に全身チェックをしている、何の変哲もない姿見だ。
  ラフな格好をした己がそこには映っているが、先程感じた違和感の正体はこれだった。
「…レオン、映ってたか…?」
  レオンが鏡の前を通り過ぎた時、鏡は壁を映したままだったような気がした。
「…いやいや、馬鹿か俺」
  そんなことがあるわけない。
  どうせ角度の問題で、クラウドの位置から見えなかっただけだろう。
  気のせいだ。
  鏡に触れてみてもいつも通りで、少し引いても横から見ても変化はない。
  うん、俺疲れてるな。
  レオンがいるのに寝てしまうくらいだし。
  頭を振って、ため息をついた。
  明日は家で大人しくしていようと思いながら、財布と携帯と鍵を持ち、コンビニへと向かうのだった。

  週明け、会社に出勤したクラウドは、社内メールで先輩に昼飯一緒にどうですかとお誘いをかけた。
  教育係として新人研修時から世話になっている男で、二歳しか年齢が違わないのに上司の覚えもめでたく、部署間を行き来してスケジュールの調整や各部署の意見のすり合わせなど、難しい調整役を仰せつかっている叩き上げのエリートだった。一部の幹部しか入れないフロアへも立ち入る事ができ、今神羅の中で起きている出来事についても詳細を知っていそうな人物である。
  今日の昼なら時間取れそう、という返事をもらい、午後を待つ。
  大企業なりの広くて綺麗で値段も安くて立派な食堂で待ち合わせをし、現れた男はネクタイを緩め、ボタンを一つ外し着崩したスーツ姿で現れた。
「よぉ久しぶりだなクラウド!しっかり仕事やってるか?」
「忙しい所済まないザックス。真面目に仕事はやってるよ」
  向かいの席に腰を下ろしたザックスは、長身に黒髪を逆立て、明るい笑顔が似合う健康そうな男だった。一見するとエリート、というイメージにそぐわない男だったが、一旦仕事に集中すれば結果と評価は必ずついてくる有能さで、見かけによらず何でもそつなくこなす事ができ、将来を嘱望されているのだった。
「急に食事のお誘いなんてどうした?お前から連絡来たことなかったからびっくりしたぜ」
「…仕事、忙しそうだったから遠慮してたんだよ先輩」
「おー立派なお返事。もっと気楽に連絡してこいよ」
「ああ、これからそうする」
「んで、なんか用事あったのか?メシ食うだけじゃないんだろ?恋愛相談とか?彼女できたとか?ケンカしたとか?仲裁お願いって言われても俺で上手くできるかなー」
  湯気の立つコーヒーを啜りながらクラウドを見る視線は、優しかったが面白がっていた。
「…自分が幸せだからってそっちに持っていかれても困るんだけどな…違うよ」
「違うのか。いやーうちの彼女いい子だよー。ちょっと気が強くて変わってるけど可愛いんだこれが」
「のろけかよ」
  会った事はないが、ザックスの彼女の話は有名だった。こうやって誰彼構わずのろけるので、今や「花屋を営む可愛い彼女」はザックスの彼女の代名詞となっていた。
「いつか紹介してやるからな。で、何の話だっけ?」
  大盛りパスタにフォークを突き刺し、ぐるぐると巻きつけながらザックスが尋ねる。
「…英雄セフィロスは見つかったのか?」
「……」
  いきなりの核心を突く質問にザックスが眉を顰めた。
  それは今神羅の中で起きている出来事の中心だったからだ。
「…何でそんなこと聞く?クラウド」
「今朝のニュースで神羅の話題何もなかった」
「……」
「マスコミに圧力かかってるよな。科学部門って英雄が関わってた部署だし」
「……」
「宝条博士を嫌ってるって話有名だったし。行方不明だし。…ザックスなら知ってるかと思って」
「……」
  沈黙で答えるザックスの顔は真剣だった。やはり何かを知っているのだ。
  嘘をつけない顔なのに、英雄に次いで出世街道まっしぐらなのだからこの男の優秀さが際立つという物だった。
  しばし無言で見つめあい、ザックスの表情が迷いを見せた。
  下っ端で入ったばかりの新人が、何故そんなことを知りたがるのかという率直な疑問が見え隠れする。
  不審に思われない理由を考えた。
「…神羅に入ったからには英雄セフィロスみたいになりたいだろ。けど肝心の英雄が行方不明じゃ、気になるのは当然だ。しかも博士が死んだのは幹部フロアの研究室だし、それに前社長と重役にしたって、死に方が不可解だ。警察、ちゃんと動いてるんだよな?」
  すらすらと台本を読むように滑らかなクラウドの発言内容に無理はなく、理解もできた。
「んー、クラウドさ」
「何?」
「何で俺に聞いた?」
「聞いて教えてくれそうな先輩はあんたしか知らない」
「何それ俺そんな口軽くないんだけどなぁ」
  秘密を守れなければ出世などできようはずもないのだ。
  クラウドは理解を示した。
「それはわかってる。…けどマスコミの反応も、社内の反応も気持ち悪くて落ち付かない」
「うーん…それはわかるけど」
「セフィロスって行方不明のままなのか?」
「食い下がるねお前。…行方不明だよ。綺麗さっぱり、現社長にも何の要求も連絡もない、らしい」
「…そうなのか」
「何か深い理由はありそうだけどな。調査してるけど。…っていうか、これ社外秘な。社員にも言うなよ。俺怒られるー」
「もちろん言わない。誰にも。…俺で協力できること、あるか?」
「え!?」
  ザックスの驚きはもっともだ。何よりクラウド自身が積極的な己の発言に驚いていたが、協力しなければならないのだという強い強迫観念にも似た何かが心を後押しする。
「聞いちゃったからには協力する。何でも言ってくれ、ザックス」
「あー…うーん、とりあえず誰にも言わないでくれよな。今はそれだけ。あ、あとタークスも動いてるから目をつけられないように」
「タークスって総務課か」
「そそ。今セフィロスの調査やってっから。…あ、言っちゃった」
「わかってる。黙ってる」
「頼むぜ。何か色々因縁がありそうなんだよな。深入りしたくないんだけどしょうがないよな」
「……」
  ため息混じりのザックスの顔には疲れが滲んでいた。
  昼が終わり、またこれから幹部フロアで打ち合わせだというザックスに気をつけてと声をかけ、また連絡しなければと囁きかける心の声にクラウドは頷いた。


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