錯覚と倒錯の狭間。

  適当に千切り取った紙に書かれた墨文字は、達筆と言える程流麗ではなかったが丁寧であり、およそ普段の人間性からは予想もつかぬ程には美しい文字であった。
  内容を確認し、桐生は眉を顰める。
  冒頭の『果たし状』の文字にまず苦笑が漏れ、次いで『次の場所まで来られたし』の文面にため息が漏れた。
  指定された日時は今日であり、残された時間は一時間もなかった。
  午後八時を回ったばかりの神室町はすでに夜の喧騒に包まれ始め、昼にいる人種から夜の町に繰り出しに来た人種へと入れ替わる時間帯であるせいもあってか、すでにほろ酔い気分のサラリーマンから学生服の未成年までが入り乱れ、どこもかしこも賑やかだった。
  今しがた手渡されたばかりの紙を見下ろし、適当に書かれた地図を確認する。
「…飯一緒に食ったっていうのに、何がしてぇんだ兄さんは」
  誘いの電話を受けたのは一時間程前のことで、店の前で待ち合わせをし、共に食事をした。
  会話は至って普通の世間話から東城会のことまで様々であり、近況を話しもしたが特に変わった様子もなく、男は落ち着いて静かに食事をしていた。
  酒を飲まなかったのはこの果たし状のせいかと思えば納得も行ったが、わざわざ紙を渡して「俺の姿が消えてから見てや!」と念を押した意味がわからなかった。
  戦いたいのならばその場で言い、共に移動すれば済むだけの話ではないか。
  まどろっこしい事を好む男ではなかったはずだが、とは思ったが、真島なので気にしても仕方がない。
  あの男はやりたいようにやるのだった。
「それにしても…」
  地図は適当に縦横線は入っているものの、神室町の通りの本数とは合わなかった。
  おまけに「ココ」と矢印で示されている場所は、道路線からかけ離れており、どう見ても異空間だ。
  ところどころについた黒い点に気づいたが、汚れかと思いきや目を凝らせば米粒ほどの大きさで書かれた文字であり、「桐生ちゃん家」「俺ん家」と書いてあった。
  神室町に桐生の家は存在しないし、真島の家など知りはしない。
  もう一つついた点には「冴島ん家」と書いてあったが、それこそ知るわけがなかった。
  紙の下端には謎の記号が並んでおり、解読せねばならぬのかと思えば頭痛を覚えこめかみを押さえる。

  R ↓ → ← → → ↓ ↓ ↓ → → ○

  文字は丁寧なくせに地図が異次元とはどういうことだ。
  携帯で直接場所を聞く、という手段も考えないではなかったが、わざわざ紙で渡された以上、電話が繋がったとしても教えてくれるとは思えない。
  自分で解読して来い、ということなのだろうから、桐生は行かねばならないのだった。
「…無視して帰る…わけにはいかねぇよな…」
  そもそも真島は桐生が放棄する、などとは思ってもいないだろう。
  期待に応えるつもりはさらさらないが、結局真島の望み通りに行動する羽目になり、桐生はもう一度ため息をついた。

  一般的なバーの玄関にあるような木製扉に手をかければ、軽い電子音が鳴って横へと静かにスライドした。虚を突かれ瞬間立ち竦んだが中へと足を踏み入れ、少し進んだ所で背後で扉が自動的に閉まった。
  フットライトが細く暗い廊下を淡く照らし、足元に不自由する事はなかったが、照明の落とされた薄暗い部屋は本格的にバーの様相を呈しており、突き当たりを折れて広がる空間もまた、小奇麗なバーのようだった。
  だがバーでありえないのはそこにカウンター席やテーブルがなく、正面に百インチは超えそうな大画面テレビと黒の革張りのソファが置かれ、左端にはおそらく大きさ的にダブルベッドが、奥にはさらに奥へと続く扉がついていて、逆へと流した視線の先、右端には壁一面のラックが設置されており、びっしりと本なのかDVDのパッケージなのかは不明だが、何かが綺麗に並べられていた。手前には簡易キッチンと冷蔵庫があった。
  家か?と、桐生は思った。
  窓はなく、壁に囲まれてはいたがマンションの一室をそのまま持ってきたかのようだった。
  大画面テレビには今まさに化け物に頭から食われようとしている人間の断末魔の叫びが映されていた。
  ホラー映画のようだったが、タイトルは知る由もない。
「…兄さん?」
  呼びかけてみるが、部屋の主と思しき人物はいなかった。
  流れっぱなしで放置されている映画はひたすらに人間の血と内臓と悲鳴のオンパレードであり、どこが面白いのか桐生にはわからなかったが、大音量で流れるそれに眉を顰め、ローテーブルに置かれたリモコンを取り音量を下げる。
  己の家ならば即座に消すが、他人の空間であるので配慮をした結果であった。
  テーブルの上に雑然と並んでいるパッケージはどれもこれもホラーやスプラッタ系のラインナップだ。
  袋を開けられたスナック菓子はまだ半分以上残っており、ガラス製のコップに満たされた黒い液体はホットコーヒーの匂いがした。
  コップにホットコーヒー?
  …考えてはいけない。ツッコミを入れるだけ無駄だった。
  まだ中身は熱く、それほど時間は経っていない。
  目的の人物はいなかったが部屋の中に入れたということは、この場所で間違いはないはずだった。
  ぐるりと見渡し、奥へと続く扉を見る。
  あそこか。
  あそこは何だ?トイレか、風呂か。両方か。
  不躾に引き開けるのは躊躇われたので、歩み寄り軽くノックをすれば向こうから開いた。
「おっ桐生ちゃん、遅かったなぁ!」
「…兄さん…あんた」
「ちょうど今風呂入れとってん」
「……」
  スーツを着込み、革手袋も嵌めたままの隙のない真島が、無邪気ともいうべき笑顔を向けながら湯船を指差した。
「ほっといたら勝手に湯止まるし、部屋戻ろかー」
  扉前に立つ桐生を促し、背中を押して部屋へと戻る。
  浴室はホテルに良くあるタイプの、洗面台と浴槽とトイレが一体になっているものであり、狭くはないが広くもない。
  体格の良い男二人が入ればもういっぱいだった。 
「…ここはあんたの家か?」
「ちゃう。秘密基地や!」
「……」
  桐生をソファに座らせ、己はコップや菓子など邪魔な物を端に寄せて、ローテーブルの上に腰掛け向かい合う。
  ガラス製のそれは僅かに軋んだ音を立てたが、厚みはあり作りは頑丈であったので壊れはしない。
  背後で未だ流れ続ける凄惨な映像を観る事は叶わないが、正面には桐生がおり聴こえる悲鳴は心地良いので満足していた。
  ミレニアムタワー五十七階に、撤退したバーがあったので買い取り改造をした。
  倉庫として使っていた部分もろとも壁をぶち抜き一部屋として繋げ、フロアからは一般人が入れないよう壁を作って封鎖した。
  入り口は認証式になっており、組員であっても足を踏み入れる事は叶わない。
  秘密基地。
  ただの暇つぶしの為の、場所。
  基本的には寝るか映画を観るしかない、つまらない場所だった。
「ようこそ桐生ちゃん!ハジメテのお客さんや。約束の時間より三分遅れやな」
「あんな地図でわかるわけねぇだろ!」
「何でやねん。めっちゃわかりやすく書いたったやろが」
「何年前の家だ。あんたと冴島の家なんざ知るか。地図自体が何年前だ。記号がなければ思いつかなかったぜ」
  疲れたように額を抑え、ソファの背凭れに身体を投げ出す桐生は不満気だ。
  だが、ここまで来たのだった。
  真島は隻眼を細めて眺めやる。
「桐生ちゃん、三分遅れやで」
「…さっき聞いた」
「桐生ちゃんの負けやで」
「…何でそうなる」
「三分言うたらカップラーメンが出来る時間や。ゾンビ映画やったら何十人が死ぬ時間やで」
  立ち上がり、桐生が投げ出した両脚の間、出来た空間に膝を乗せる。ソファが沈んで、桐生の身体が揺れた。
「俺が風呂入れに行く余裕のある時間や」
「…それが?」
  上半身を起こし、にじり寄る真島を避けるように桐生が後ろへとずり下がる。
  背凭れに直角に背を預ける形になったが、真島は右手を背凭れに置き上から顔を寄せ至近に覗き込んだ。
「勝負に負けたら言うこときかなあかんなぁ」
「いつから勝負してたんだ!?」
「桐生ちゃんに紙渡した時からや!」
「……」
  聞いてない、と言いたかったが、あの紙には『果たし状』と書いていた。
  確かに、書いてあった。
  だがそれは現場に到着してからの話ではなかったのか。
  目的地に到達するまでが勝負であるなど、話が違う。
「…果たし状ってのは、ケンカじゃねぇのか?」
  桐生の悪あがきに、真島が首を傾げた。
「あン?」
「ケンカの結果じゃ、ねぇのか」
「桐生ちゃん、アカン、アカンでぇ」
  桐生の胸元に手を伸ばし、シャツを引っ張りボタンを外す。
  手首を掴んで「やめろ」と止められたが、「ボタンぶっちぎるけどええか」と言えば大人しくなった。
「…真島の兄さん」
「なぁ桐生ちゃん、俺にめんどい説明させる気やないやろな」
「……」
「俺に何を言うて欲しいんか、お前の口から言うてみ?」
「…兄さん」
「ほれ、命令や。言うてみ」
  促せば、桐生は嫌そうに顔を顰めて見せた。
  察しろと言いたげだったが、斟酌してやる義理はない。
  スーツの上着とシャツを脱がせ、桐生のベルトを外して下も脱げと引っ張るが、桐生は動かなかった。
「桐生ちゃ~ん?」
  語尾を延ばして催促する。
  拒否権はないのだと言外に含めて瞳を覗き込んでみても、そこに拒絶の色はなかった。桐生はそれ自体を嫌がっているわけではなさそうだった。
「…なるほど、あんたはヤりたいんだな」
「何言うとんねん今更?」
「…で?言うこと聞くってのは、何だ」
「あ?」
「俺に何をやらせたいんだ」
  桐生の手が持ち上がって真島のネクタイを掴んで引き寄せ、唇を寄せた。
  吐息も触れる程に近いが、重なるわけではない。
  露骨な挑発に真島が笑う。
「よう言うた。ほな桐生ちゃんのオナニーでも見せてもらおかな」
「……、…は…っ?」
  素直に言うことを聞く気になっているいい子に、要望を伝えてやればあからさまに頬を引き攣らせて絶句した。
「俺を使ってな、自分で馴らして挿れてしっかり腰振ってイくんやで?」
「……おい、正気か」
「騎乗位やなぁやっぱ。エエとこ見せてもらわんとなぁ」
「……」
「ついでに俺もイかせられたら合格や」
「……」
  至近で硬直している桐生の顎を掴んで引き寄せ、唇を合わせる。舌を伸ばして歯列をなぞれば、大人しく開いて受け入れた。
  軽く音を立てて唇を離し、漏れた笑いは下卑ているなと自覚した。
「ちゅうわけで、脱げ。俺を脱がせんのも桐生ちゃんのお仕事やからな?」
「…おい兄さん…」
「俺の事はディルドやと思て!」
「思えるかッ!!」
「上手に出来たらご褒美やるで」
「……」
  いらねぇと言いたげな表情を見せる桐生の頭をいい子いい子と撫でてやる。やめろと手を払われ、腕を掴んで引きずり起こされベッドへと連行された。
  突き倒すように押されてマットレスの上に身体が跳ねるのを、桐生が押さえつけて圧し掛かる。
「おお、桐生ちゃんがオットコ前や…!」
「うるせぇな」
「これからやることはオットコ前ちゃうけどな!」
「黙ってろ兄さん…!」
  真島のネクタイを外して床へと放り投げ、シャツのボタンを外す手つきは乱暴だ。
「桐生ちゃんはかわええなぁ」
  ニヤニヤと口元が緩んでいる事はわかっていたが、言葉を投げつけることを止められない。何だと怪訝に片眉を上げて睨み下ろしてくる視線と絡ませ、真島は隻眼を細めて笑う。
「腐るほど女を抱いてきとるくせに、俺にも抱かれとるくせに、恥ずかしいんか。かわええなぁ」
  誰とは言わないが他にもいるだろう事は知っている。
  四六時中共にいるわけではなく、しょっちゅう会っているわけでもない。
  密に連絡を取り合っているわけでもなければ、桐生はこの町にすらいないのだった。
  たまに現れた男を呼べば、やって来る。嫌がらない。
  手元に置いておきたければ鎖でもつけて繋いでおけばいいのかもしれなかったが、繋がれる龍など望んでいないし欲してもいないのだった。
  そもそも、大人しく繋がれるような男でもない。
  自らの意志で来い。
  繋がれたいのならば、自ら来い。
  真島は待っていれば良かった。
  …だが、待っているだけだと来ないのだった。
  面倒くさい男だと思う。
  それが、いいのだということも知っている。
  構うのが楽しいのだから、いいのだ。
  今この瞬間、真島だけを見ているのだからそれでいいとも思うのだが、それでは足りないとも思う。
  居心地悪げに視線を逸らす桐生の顔は嘘をつかない。
  少なくとも、真島の前で嘘はつかない。
 
  ああ、足りない。
  全然、足りない。

「上はもうええわ。下は?脱がせてくれるんちゃうん?」
「…わかってる」
「桐生ちゃんも脱がんとなぁ。しっかり見せてや」
「……」
  変態め、と口元が動いたのを見逃さなかった。

  ああ、かわええなぁ。

  今すぐ犯したい。
  欲望に忠実に生きることは、己に課した生き方の一つだった。
  だが即物的に生きることとは同義ではない。
「…あんたは全く、呆れるな」
「褒め言葉として受け取っとくわ」
  ベルトを緩め、下衣を脱がせて桐生がため息混じりに呟いた。
  すでに勃ち上がった真島のモノを軽く撫で上げてやれば悦んで震え、喉を鳴らして男が哂う。
「そんなに待てへんで、桐生ちゃん?」
「…ああ、そうかい」
「はよ見せろや。自分で指突っ込んで広げんねんで」
「…いちいち、言うな…っ!」
「かわええなぁ。せやから言いたなるんやって!ほれはよ」
  桐生のスラックスに手を伸ばし、急かす。
  覚悟を決めたらしい桐生が、大人しく脱いで真島の身体を跨いで四つん這いになった。
「…桐生ちゃん、下半身こっちちゃうんかい」
「うるせぇんなもんドアップで見るもんじゃねぇだろ。キスでもしてろ」
「ドアップでぐちゃぐちゃになるとこが見たいんやないかい」
「変態趣味はゾンビ映画だけにしろ。ご要望は挿れてイかせることであって、見せることじゃなかっただろうが」
  断言して斬り捨てられてしまえば、ぐうの音も出なかった。
  潤滑剤を渡してやれば、躊躇なく開けて掌に落として馴染ませ始めたので要望の追加は諦めた。
「…桐生ちゃんもイくことも入っとるで」
「ああ、そうだった、な…っ!」
  後ろを指で探りながら、ゆっくりと含ませ息を詰めた。
  腰が高く上がって背を震わせながら顔は真島の首筋に埋めるように下がった。
  浅い呼吸を繰り返し、動く指先が遠くで見える。
  アレを見たかったなぁ、と思ったが、間近で小さく喘いでいる桐生の呼気が耳を犯し、真島の背にぞわりと快感が走る。
  揺れる腰を撫でてやり、顔を上げさせ覗き込めば唇を噛み、上気し汗の浮いた額と顰められた眉にそそられた。
「…エエ顔しとるで桐生ちゃん。エロイ顔しよるなぁ。キスしたろか」
「…っん…ッ、ふ」
  息を吐き、素直に伸ばされる舌に吸い付き絡めとる。
  後ろに集中している桐生の反応はイマイチだったが、舌の表面をざらりと舐め上げ、口腔内を舌先で擽るように辿ってやれば小さく身体がひくついた。
  桐生のモノもすでに硬く勃ち上がり、指の動きに合わせて揺れる先端を指先で撫でてやる。
  びくりと大きく引き攣って、尻が揺れた。
「っぃ、…っぁ、や、めろ、触るな…ッ!」
「もうイきそうなんか?早い子やなぁ」
「…っば、か、ちが…っ」
「トコロテンしたいんか。ドエロやな桐生ちゃん…!」
  桐生の唇を舐め、顎を舐める。
  喉仏に食いついて甘噛みしてやり、舌先で擽ればひくりと動く。
  ただ待っているだけも暇だった。
  胸を探って先端を弄ぶ。
  強めに摘んでやれば後ろに力が入ったのか、桐生の身体が大きく戦慄いた。
「ッア…っぁ、…ッ」
「気持ちええ?」
「ん…ッ」
「そりゃええこっちゃけど、俺そろそろ我慢でけへんで…?」
  はよ挿れさせろや、と自らのモノを桐生のそれに擦りつけ、軽く上下に動かしてやる。逃げるように揺れる腰を掴み、後ろを解す桐生の掌を覆うように被せて指先を強引に抜き差しする。
  ぬちゃぬちゃと、卑猥な水音がした。
「ッぁ、あ、ぁ、待…っにいさ、待て…っ!」
「もうええんちゃうんか。まだ待つんか?」
「う…っく、ふ…っか、った、わかっ、たから、やめ…っ!」
  手を離し自由にしてやると、桐生の身体が脱力し、荒く息を吐く胸が密着して上下する様が感じ取れた。
  汗でしっとりと濡れた背を撫でてやりながら早く乗れと言えば、呼気交じりの低く濡れた声でわかったと耳朶に吹き込まれ背が粟立つ。
「…エロイ声しよる。たまらんなぁ」
  呟くが、桐生は息を吐き笑みの形に唇を歪めたのみで言葉としては何もなかった。
  身体を起こし、位置をずらして真島のモノに手を添えて、ゆっくりと腰を落とす。
  向かい合い、桐生の中に己のモノが飲み込まれていく様を堪能しながら、真島が大きく息を吐いた。
「…ッ桐生ちゃん、気持ちエエわ…っ」
「ッ…そ、りゃ、良かった、な…っ!」
  生暖かく熟れた肉が、絡みついて締め上げる。
  腰を掴んで好きなように動かしたい気分だったが我慢し、真島は根元までぴったりと収まり密着したソコを指先で撫で、腿を撫でる。力が入って強張る桐生に、笑みを向けた。
「さぁ桐生ちゃん、…っしっかり、動いてや…!」
「…っは…!」
  真島の立てられた両膝を邪魔だと言わんばかりに真っ直ぐ下ろさせ、桐生は後ろに両手をついた。
  両手両足で自重を支えながら、腰を引いて先端まで引き抜き、ゆっくりと奥まで押し込む。
  真島の位置からは赤く濡れた肉襞が押し開かれ、真島の肉を咥え込む接合部が良く見え、無意識に唇を舐めた。
  奥へと抉る肉の抵抗が熱く、柔らかな弾力で押し返そうとするのがたまらない。
  少しずつストロークは大きく早くなり、擦り上げられる感覚に息が上がった。
「っ、桐生ちゃん、ええで、その調子、や…っ」
「…っふ…ッぅ…ッ、ぁ」
「その顔、たまらんなぁ…っ気持ち、エエんか…?」
「あ、…ッぁ、き、もち、イイ、さ…っ」
「エロイこと言いよる…っ、ちゃんと、イけそう、か?」
「は…っ、…ッ」
  ギリギリと、絞り上げられるような感覚に真島が呻く。
  桐生のモノからは先走りの液が零れて、てらりと淫猥に光っている。
「イけそうやな、桐生ちゃん…!エロイ子になってしもて…っ」
「ふ、…っ変態、より、マシ…っ!」
「…お前も、十分、変態や!」
  赤い舌で唇を舐めながら笑う桐生の顔が、来いと誘っていた。
  無意識に上半身を起こし、気づけば桐生の両脚を掴んでいた。
  高く持ち上げ、ベッドの上へと押し倒す。
  上から一気に根元まで、押し込んだ。 
「ッア…!…ッぁっあ、く…っ」
  桐生の背がしなり、顎が仰け反った。
  中を掻き回し、骨がぶつかるほどに打ち付ける。
  縋るように真島の足を掴む両手が、震えていた。
「あーあ…っ最後まで、やってもらうつもり、やったのに…っ!」
「ま、じま、ぁ…ッイ、っ…、…っ」
「ああ、…イっとき…っ、なんぼでも、ご褒美やるわ…っ」
  思う様、貪った。
  ガツガツと音を立て、肉を抉る。
  もう、若くないんやけどなぁと、思う。
  性欲に塗れていられるうちは、まぁいいか、とも思う。
  
  だって桐生ちゃんが、誘うんやもん!

  …と、いうことにしておく。

 

 

「…今日は、ここにお泊まりするんやろ?桐生ちゃん」
「…あとは寝るだけだろうな?」
「アホちゃうお前」
「……」
  二人で入るには狭すぎるバスタブに半ば強引に収まって、桐生の背中から両手を回して抱きしめてやれば、これ見よがしなため息が聞こえた。
  体重をかけて後ろに倒れられ、押し潰されそうになって真島は悲鳴を上げる。
「つーぶーれーるーぅ!」
「…ああ、潰れてくれ、兄さん」
「…桐生ちゃんはもっともっと苛めて欲しいみたいやな」
「誰もそんなことは言ってねぇよ!!」
  ああ、かわええなぁと、思うのだった。
 
  この瞬間だけは、何を考える必要もない、二人だけの時間だった。


END
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