「ナイト!」
「モンク」
「白魔道士!」
「黒魔道士」
「赤魔道士!」
「シーフ」
「吟遊詩人!」
「狩人。…結構あるもんだね」
「まだまだあるぞ。ものまねし!」
「それは知らない」
「おっ!違うの発見!」
「近い世界か、時代から来たのかな僕達?」
「ん~そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「まぁどうでもいいけどね。…記憶も大分戻ってきたことだし」
「だな~」
  記憶をなくしてこの世界に「呼ばれた」者は、戦闘によって記憶を取り戻すことができるというのはすでに周知の物となっている。
  正確には、「戦闘に付随する諸々の作用」によって眠っている記憶が呼び覚まされてくるのではと思われるが、それを証明したところで得られるものは何もなかった。
  この世界には人間の生活がない。
  必要とされるものはただ、戦闘に関する知識と蓄積のみであった。
  戦うことのみを求められる世界は楽でいいが、それ故戦わざるものは異端視され、勝つことを要求される。
  記憶を取り戻してきたということは、気が遠くなるほど戦闘を繰り返してきた証でもあった。
「…あいつらは何を言い合ってるんだ?」
  秩序の神の聖域へと戻ってきたクラウドが、離れた所で盛り上がっている二人の存在に気がついた。
  もう成人しているはずの青年と、少年ながらしっかりとした意思を持ち、この世界で戦っている二人の図はなかなか見かけないものだ。
「彼らの世界に存在するジョブを言い合ってるみたいだよ」
  同じく二人を見ていたセシルが、クラウドの疑問に答える。
  クラウドは首を傾げた。
「ジョブ?…job…仕事か?」
「ああ、そうだよね、ジョブの概念のない世界だとそうなるよね」
「…あんたはわかるのか」
  セシルの隣で興味なさげに腕を組んで立っている男に問えば、男はちらりと目線を上げて、緩く首を振った。
「いや」
「クラウドは元兵士なんだっけ?スコールは傭兵だって言ってたね。それがジョブだとすると、色々な職業にクラスチェンジすることで、特殊な能力を使えるようになるみたいだね。…僕も彼らの受け売りだから詳しくは知らないんだけど」
「ああ、理解した。バッツは…俺達の技も自在に使えるようだからな。それもそのジョブチェンジと言うやつか」
「うーん、そうなのかな。アビリティがどうのって言ってたけど、よくわからなかった」
「そうか」
「…いずれにしても器用なヤツだ」
「確かに」
  スコールの呟きに、セシルとクラウドが同意した。
  ジョブの話で盛り上がっていた二人の会話がひと段落ついたのか、青年が立ち上がってこちらに向かって歩いてくる。
「バッツ、話は終わったの?」
  セシルが声をかければ「おう!」と明るく頷いて、スコールに視線を向けた。
「スコールそろそろ出かけるなら、一緒に行かない?」
「…いいだろう」
「おっ最近スコール協調性出てきたよな!大変よろしい!じゃ、セシルとクラウドはこれから休憩だよな。ごゆっくりー」
  手を振り歩き出す男に手を振り返し、セシルはスコールに笑いかけた。
「気をつけて!」
「ああ」
「スコール、早くしないと置いてくぞー!」
「…一向に構わんが」
「おいいいい!一緒に行くって今言ったばっかだろ!」
「……」
  ため息を吐き、スコールも歩き出す。
  早く来いと手招きする男は、スコールよりも年上のはずなのに全くそうは見えなかった。
「さーって、今日はどこのひずみ行くかなー。スコール希望は?」
「しらみつぶしに」
「げっ…スコールって、真顔で冗談言うよな」
「……」
  冗談ではないのだが。
  口には出さずに呟くが、当然男には伝わらなかった。
「とりあえずー、イミテーションの数減らさないとな」
「ああ」
「よし!敵が強いとこ行こうぜ!」
  名案だ!と言わんばかりに手を打って、「で、どこがいいかなー」とまた悩む。
  無計画に俺を巻き込むなと言いたかったが、スコールは手近なひずみへと歩き出す。
「スコール?」
「どうせ敵を減らさなければならない事実に変わりはない。どこからだろうが同じことだ」
「…スコールがカッコイイこと言ってる」
「…うるさいバッツ」
  眉を顰めて睨むが、睨まれた方は気にした様子もなく笑って隣に並び、腕を掴んで目指していたひずみとは違う方向へ走り出す。
「…おい!?」
「こっちにしようぜ!二人一緒なら強い敵でも楽勝楽勝!」
「……」
  敵の強さに異論はなかったが、連れて行かれた場所は聖域から随分と離れており、途中途中で徘徊するイミテーションを破壊しながら進んだ為かなりの時間を必要とした。
「よっし、この辺でいいかな。行こう、スコール」
「…ああ」
  嬉々として乗り込むバッツのテンションについていけないスコールがため息を吐いたが、バッツは気づかなかった。

  最後の一体を仕留めた後には、静寂が落ちる。
  主を欠いた玉座に腰かけたバッツが、「あー終わった終わった」と大げさなため息を吐きながら足を組む。
  少し離れた場所で壁に凭れて同じく小休止したスコールは、玉座にふんぞり返って足を投げ出す男の様子を似合わないなと思ったが、絡まれるのも面倒なので小さくため息を吐くに留まった。
「…結構強かったよな、スコール」
「そうだな…だがなんとかなった」
「やっぱ二人で来て良かったな!」
「……」
  二人で攻略する必要は必ずしもなかったはずだが、嬉しそうにバッツが笑うので水を差すのは躊躇われた。
  常にテンション高めの男は今、上機嫌の極致にいるようで、片手で操る武器を次々取り出しては汚れや傷つき具合などを鼻歌混じりに確かめている。その中に自らが使う武器であるガンブレードがあり、複雑な気分になるのだった。おまけにクラウドが扱う大剣まで片手で使うというのだから空恐ろしい。
  一体どんな腕力をしているというのか。
  クラウド本人でさえ、常に両手持ちであるはずだった。
  …実は武器は幻で重さはそれほどでもないとか。
  気にはなるが、質問をする程でもない。
  スコールは別の質問をぶつけてみることにする。
「…バッツ」
「ん?あ、スコールも玉座座りたいか?」
「は?…いや、いい」
「いやいや遠慮すんなって!俺だけ座るのは申し訳ないもんな!ホラホラ、座って座って!王様気分を味わえよー!」
「……」
  王様気分と言われても。
  言い終わった時にはすでにバッツの手がスコールを掴んでいる。
  早すぎる。
  そのまま引っ張られ、背中を押されて仕方なく玉座に座ってみるものの、天井には穴が開いて今にも崩れ落ちてきそうだし、柱や壁も剥がれ落ちてどう見てもここは廃城だ。
  こんな所の玉座についたところで、一体何の価値があるというのか。
「ははー、スコール様、何でもご命令を~」
  バッツが右手を胸に当て、騎士然と背を反らせて足元に跪く。
  呆れてスコールがため息を吐くと、目を開けたバッツが不満そうに唇を尖らせた。
「乗ってくれないと、俺馬鹿みたいだろー」
「馬鹿だろ?」
「えー!」
「…これじゃ裸の王様だな」
「お、スコールが上手い事言った」
「…悪かったな」
  守るべき国もなく、民もなく、この玉座は何の為にあるのだろう。
  空虚だった。
  この世界そのものが、と思うことは、己の存在すら否定することになりそうでできなかった。
  跪くことに疲れたのか、バッツはその場に座り込み、足を崩す。
  質問があったことを思い出した。
「お前の世界には「ジョブ」というものがあるらしいな」
「うん?」
「仲間の技が使えるのもそのせいなのか」
「ああ、そのことか!何だ、興味あるんだ?」
「戦術として組み込めないものかと思ってな」
「あー」
  そういうこと。
  バッツが視線を泳がせ、ため息を吐いた。
「バッツ?」
「いや…」
  何だ、俺に興味持ってくれたのかと思ったのに!
  残念な気持ちになるが、スコールが興味を持ってくれたこと自体は嬉しいことだ。
「俺が色々できるのは、ジョブマスターだからってのもあるんじゃないかと思うんだ」
「ジョブマスター?」
「そう」
  バッツの世界にはたくさんのジョブがあり、極めたジョブの能力は素の状態でも条件はあるものの、使えるというものだ。
「ジョブ、色々あるんだよな。俺殆ど全部使えると思う。仲間の技を使えるのは、ものまねしっていうジョブのおかげかな」
「なるほど」
  バッツがいた世界の、特殊な条件下での発動というのならば、スコールには無理そうだった。
「ピアノも弾けるし、武器何でも使えるし、一回見た技は使えるし。うん、たぶん大体のことは」
  ジョブを極める為には相当の苦労はあったのだろうが、その能力は器用で非常に有効性が高そうだと思う。
  羨ましいと素直に思う。
  多種多様な能力も、極めてしまえばそれは「器用貧乏」ではないのだ。
  自在に操れる高いレベルでの能力。
  G.F.によって能力を引き上げていた己の世界とは根本的に違う成り立ちに、世界の多様性を知る。
「バッツの世界は随分と便利なんだな」
  本音が漏れた。
  足を組んで、玉座に凭れかかる。
  本来ならば交わるはずのない世界の住人が、同じ世界に存在している。すごいことなのだ、本当は。 
「んー、便利だけど、不便かなぁ。極めないと自由に使えないし」
  スコールの様子をじっと見詰めていたバッツが、頭をかいて立ち上がる。
  玉座の肘掛に手をかけて、上から見下ろすようにすればスコールは眉を顰めて仰け反った。
「…どうした?」
「俺さー、まだマスターしてないジョブがあるんだけど、協力してくれないかなー、なんて」
「協力?」
「そう」
  怪訝に窺うスコールの瞳を覗き込む。
  さぁ、行けるか俺!
  顔を近づけ至近に寄せる。
  唇まで数センチというところで、スコールの手が額に置かれ、力いっぱい押しのけられた。
「…いててて」
「何だ、何のつもりだ!?」
「いやいやだから協力を」
「だから、何の!」
「うん、それはぁ」
  手首を掴んで、額の上から力いっぱい退かす。
  握り締めた強さにスコールが痛みに顔を顰めたが、バッツはごめんごめんと謝りながらも顔は笑っている。
「キスとエッチの協力を!」
  言えばスコールの顔に動揺が走った。
「そんなジョブあるわけない!!」
「あるある!あるって!」
「嘘だ!」
「男としてはこれをマスターしないことには…って、いたたたたただだだッ!!」
  掴んでいなかった右手で髪を引っ張られた。
  髪って!
  殴られるならかわしようもあったというのに、髪を掴むって!
「イタイイタイスコール!痛いっ!抜けるー!ハゲるー!」
  仕方なく、髪を掴む右手首も掴んで、力を込める。
  申し訳ない、俺腕力すごいんだ。
  クラウドの大剣だって片手で振り回しちゃうんだぜ!
「…ッ!痛いだろうが!馬鹿力め!」
  髪を掴む手が離れるが、同時にスコールが叫ぶ。
  スコールの叫びなんて滅多に聞けるもんじゃない。
  うわー貴重な経験したなー俺!
「だってホラ、好きな子っていじめたくなるだろ!…なるよな?」
「ならねぇよ!」
「えー!?うっそだー!」
  さりげなく告白を混ぜてみたが、スコールは華麗にスルーした。
「離せバッツ。今ならそうだな、エンドオブハート一発で許してやる」
「それ必殺技じゃん!ムリムリ!却下却下!」
  あまりに痛そうな顔をするので少し力を緩めてやるが、外せる程にはしてやらない。
  マシになった痛みに、スコールは一つ深呼吸をした。
「…こんな辺境の地までわざわざ来たのは、その為か」
「ん?そう」
「……」
  あっさり言いやがったこの野郎。
  睨み上げてくるスコールの目は怒っている。
  うん、これはよろしくない方向だ、修正しなければ!
「スコールのこと、好きなんだ。怒らないでくれよ」
「……」
  泣きそうな顔で謝りながら見つめてみると、スコールは戸惑ったような顔をした。
  スコールって実は優しいんだよな。本人絶対認めないけど。
「で、好きならやっぱ男としては」
「結論が早すぎるぞ馬鹿」
「えー!?」
  えーじゃないだろう。
  スコールは頭痛を感じたが、両手を塞がれているのでこめかみを押さえることはできなかった。
「悪いがそういうのはパスだ」
「えー!?」
「…うるさい」
「ごめん。じゃぁあれか、まずは順序を踏んで…」
「…いやそうじゃなくて諦めると言う選択肢は」

「好きです。付き合ってください!」

「ごめんなさい」
「早い!早いからッ!」
  バッツのツッコミも十分早い。
  何故だ。
  こんなに色々ジョブマスターだの何だの言っていて、大体のことは何でもできると豪語するくせに、何故人の心はわからないのだ。 
「…恋愛マスターというジョブはないのか?」
「そんな便利なもんねぇよ!あったらくれよ!」
「じゃぁさっき言ってたキスやらのジョブもないよな?」
「うがっ…!」
  語るに落ちた。
  諭すように離せと言えば、諦めたのかバッツは素直に両手を解放する。
「……」
  こういう所、わかってないんだよな。
  スコールがため息を吐く。
「帰るぞバッツ」
「えー?」
「嫌そうな顔をするな。お前の完敗だ」
「…完敗って…え?スコール?え?」
  振り向くことなく歩き出したスコールの背中を追いかける。
  前を向いたままのスコールは、何も語ってはくれなかった。
  バッツは考える。
  スコールの性格は知っているはずで、この理解不能の発言は一体何の意図があるのかと真剣に悩む。
  歩数が落ち、距離が離れた事に気づいたスコールが振り向いた。
「…早くしろ」
「あ、うん…?」
  呆れたような表情に、バッツに対する負の感情は見えなかった。
  んー?
  んんー?
  これは、もしかして…?
  スコールに駆け寄って、顔を覗き込む。「何だ」と返すスコールを見て、確信した。

「よし、次は勝つ!」

 言えばスコールはため息を吐いたが、否定はされなかった。

「スコールマスターになる!」
 
「……」
  馬鹿だなぁ、と言いたそうな顔をスコールはしていたが、言葉にはならなかった。
「よし、まずは手を繋ぐところから!」
「それはまだ早い」
「えー!!」
 
  バッツが三ツ星になる日は来るか。


END

三ツ星の男

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