人間性を、捧げよ。

 王の器を手に入れるため、王都アノール・ロンドへ行けと蛇に言われたが、場所を知らない。
  篝火へと向かうが、足が止まった。
「…消えてる」
「ああ」
  ここの篝火は一番最初に火を燈したはずだった。篝火を守る役目を負う聖女がいれば、火は消えないはずではなかったのか。
  一体誰が消したんだ?火を灯してみるが、何の反応もなかった。
  クラウドは消えた篝火の前で座っている。
  何故クラウドは平然としているんだ?
「何でだ…?」
  呟けば、クラウドが僅かに考える素振りをみせた。やはり理由を知っているのだこの男は。
「クラウド」
「…アナスタシアを見てくるといい」
「…?」 
  聞き覚えのない名前だ。首を傾げれば、「下にいただろう」と返された。
「牢の中の聖女か」
「ああ。火防女と書いてひもりめと呼ぶ。彼女の名前が、アナスタシア」
  彼女は一言も言葉を発したことがなかったが、どこで名前を知ったのだろう。それはともかく、何故篝火は消えたのか?
  促されるまま下に降り、牢の前に立つ。
「な…」
  中で女が死んでいた。
  何で!?一体誰が!?
  服は裂け血に塗れていた。明らかに殺害されている。
  足元に転がっていた見慣れぬオーブを拾う。丸く、黒い瞳がぎょろりと動いた。
  病み村へ向かう前まで、背後に座っていた金色鎧の男がいない。証拠はない。疑ってはならないが、一体誰がと思わずにはいられなかった。
「…クラウド!」
  篝火まで戻ろうと踵を返した先に、クラウドは立っていた。
「あんたは知ってるんだろう?」
「…知ってる」
「一体誰が!」
「そのオーブ、失くすなよ」
「…え?」
「大事なものだ」
「……」
  何か手立てがあるのだろうか。
  戻る背中について行き、消えた篝火付近に腰かける。王都へ行くのが先決だと言われ、頷く。
「どこにあるのか知っているのか」
「もちろん。アノール・ロンドはグウィンとその一族が住む都。到達するにはセンの古城を越えて行く」
「…センの古城とは、どこにある?」
「不死教区を抜けた先にある。ここからならエレベーターを使えば戦闘なしで城門前まで行けるな」
「そうか。城ということは広いのか…」
「トラップだらけの嫌がらせの城。アノールへ到達する為の試練のつもりらしいが、作ったやつの悪意を感じる」
「……」
「ついでにそこも闇霊に侵入されやすい。襲いやすいし嫌がらせしやすいし死にやすいから」
「さすが経験者が言うと説得力が違うな」
「アノールも遊ぶには最適だ」
「……」
  遊ぶ、という表現には違和感を覚える。他人の世界に侵入して、やることと言えば殺人だ。不死とは言え殺されれば痛いのだが、気にすることもない様子を見るに、それだけクラウド自身も死んできているということなのだろう。
  死を気にかけない存在。
  それはどこか、人間からは遠い気がした。
  当分ここの篝火で休憩することが出来ないというので、センの古城近くの篝火に移動することになり立ち上がる。
  少し離れた場所に座っていた戦士と目が合った。
  ここに来て一番最初に会話をした男であったが、心折れたらしくここから動くことはなく、また目が合うこともなかったのに何か言いたげにしていた。
  首を傾げて促せば、二つ目の鐘を鳴らしたのあんただろと声をかけられ頷く。
「そうか…俺もなんとかしなきゃな…あの変な蛇の口臭ぇし…」
「……」
  やる気になったのならいいことだった。
  一人納得し頷いている男を置いて、クラウドと共に移動する。
  エレベーターに向かう途中、人待ちをしていたはずの聖職者はいなくなっていた。
  待ち人が来て出かけたのかもしれなかった。
  下層で助けた魔術師と、最下層で助けた呪術師は共に祭祀場で休憩していた。礼を言われ感謝されたが、クラウドの先導がなければ救出できたかわからない。お互い様だ、気にするなと言いはしたものの、なんとも座りの悪い思いをした。
  教会を抜け、別棟に入る。
  篝火があり、横を見れば細道を進んだ遥か向こうに城門が見えた。
「あれが?」
「そう、センの古城」
「大きいな」
「城門の中に入ったところでサインを出すから、召喚してくれ」
「ああ、わかった」
  篝火のところで別れ、スコールは一人城へと進む。見上げても尚視界に納まりきらない大きな城が眼前に聳え立っており、中は薄暗い。
  一歩足を踏み入れ、狭い空間を見渡してみる。
  奥から何かが二体現れ目を凝らせば、黄金色をした人型の…首の長い蛇だった。
「……」
  蛇人と呼べばいいのか、筋骨隆々としているから蛇戦士と呼べばいいのか、血塗れた片刃の大剣を軽々と片手で持ち、左手には鉄錆びた丸盾を構えている。いきなりの目新しい敵の登場に武器を構えたが、思わず一歩後ろに退いた。いい加減どんな敵が出てこようが慣れては来たが、いつ見ても人間じゃない敵を目の当たりにすると身体のどこかが拒否をする。
  退いた足もとの床が音を立てて沈んだ。何かのスイッチを起動したような感覚だった。この城はトラップだらけの嫌がらせの城だと言っていたことを思い出し、もしやと思えばその通りであった。
  真っ直ぐ短い階段を降り一列になって眼前へと迫ってくる蛇戦士の遥か奥から空気を割く音がして、矢が飛んできた。
  罠を発動させたスコールへと向かってくるはずだったそれは眼前に立ちふさがる蛇戦士二体の背中に突き刺さり、呻きなのか空気が漏れる音なのか判別しがたい絶叫を発して地に倒れ付した。
「……」
  頭を蹴ってみるが反応がない。二体揃って罠の矢に引っかかって死んだようだ。
  いや、お前らこの城の仕組み理解してるはずだよな?
  センの古城の恐ろしさを垣間見た。色んな意味で。
  一度踏んで起動させた罠に二度目はないようだ。これから先、こういう罠も当然たくさんあるのだろうと気を引き締めて、クラウドのサインを探す。…が、なかった。
「…ないな。ここ、だよな?」
  それとももう少し奥とか?
  一人で進むのは気が重かったが、少し進んでみることにする。
  蛇戦士がやってきた短い階段を上がり、狭い通路を抜ければ視界が開け、上は果てがなく下もまた果てがなかった。
「…か、勘弁しろよ…」
  広間の中央に人間一人が通れるだけの狭い通路が用意されていたが、下は暗くて見えなかった。落ちたら死にそうだ。
  通路の途中でギロチンの刃が行く手を阻む。遥か上空、一体どこから吊るされているのかすら見ることの適わない高さから吊るされたギロチンの刃が、何個も何個も連なって左右に揺れている。
  タイミングを計って狭い通路を走り抜けなければならないのだった。
  当然、その奥には敵がいた。
「……」
  嫌がらせだ。
  確かにコレは、嫌がらせだ。
  慣れた達人ならば何の苦もなく進めるのかもしれなかったが、初見でここを一人で突破する自信は正直持てそうにない。これは味方が必要だ。しかも道を知っていて、先導してくれる頼りになるヤツが。
  ここにもサインは見当たらなかった。一体どこに出したんだ?
「やはりさっきの所しかないよな…」
  入り口まで戻ってみるが、クラウドのサインはない。あるのは他人の物ばかりであった。
  困った。
  少し待つしかないか。
  首筋にちりりと泡立つような感覚が走る。
  嫌な予感、というやつだ。
  闇霊が、来る。
「…ホントに来るんだな」
  クラウドの言は正しかった。
  仕方がない、適当に白いサインの中から一人、召喚した。仲間は一度に二名までしか呼ぶことはできないので、クラウドの分を空けておかなければならないのだ。
  侵入してきた闇霊は、先程愕然として引き返してきた広間の方から現れた。
「人間性くれないかい」
「は?誰がやるか消え失せろ」
  闇霊はクジャと名乗った。
「僕のコレクション、人間性限界まであと二個なんだよ」
「…知るか、真っ当にデーモンを倒すか商人から買え」
  武器を突きつけ言ってやれば、クジャと名乗った赤黒く輝く闇霊はわかってないなぁと言って笑った。
「侵入して殺してきた不死の数に決まってるじゃないか…どうせ死んでも死なないんだからたいしたことじゃないだろう?」
「お前にくれてやる人間性などない!」
  距離を取って対峙する。
  探ってみるが、やはりクラウドのサインはなかった。
  どこほっつき歩いてるんだあいつは!
  召喚していた白い霊体が現れた。
「お、呼ばれたラッキー!俺ジタン、よろしくな!」
「…スコールだ」
「スコールだな、よろしく!…あ、クジャがいる」
「…可愛くないサルが現れたね」
「闇霊は容赦しないぜ!撃退してやる。俺の攻撃受けてみな!」
  小柄な霊体は軽快な動きで武器を構えてクジャに襲い掛かった。
  知り合いのようだったが、闇霊は邪魔なので加勢することにする。
  戦闘が終わるまでにサイン、現れなかったらどうしよう。
  呼び出してしまった霊体を長時間待たせるわけにもいくまい。相手にも相手の都合があり、世界があるのだから。
  大広間に出て、細い通路の上でジタンとクジャは軽々と剣をかわしながら戦っている。振れるギロチンの刃すらもかわしていく様子に感心した。
  あいつらも慣れてるな。
  スコールは慎重に進まざるを得ない。くそ、早く感覚を掴まなければ。
  奥に進み、クジャは敵を味方にしようとしたが、細い通路で己の身体が邪魔となり、後ろでジタンに襲い掛かろうとする蛇戦士の前で立ち塞がっていた。
「へっ、クジャ、命取りだぜ!それでお前身動き取れなくなっちまったな!」
「…っく…!」
  前にはジタンが、後ろには味方であるはずの蛇戦士がいてどこにも進めないし、攻撃をかわすのも不可能だった。
  じりじりと間合いを詰めるジタンの背後で、スコールが弓を構える。
  フリオニールを見習って、遠隔攻撃できる武器をスコールも用意していた。
  下層の商人から買った火の矢を放つ。卑怯だなんて思わないぞ。これも戦術だ。
  過たず、クジャの眉間に刺さって血飛沫が上がった。
「わぉ、ナイスヘッドショット!」
  ジタンが感嘆の声を上げ、クジャがよろめき足を踏み外す。
「あ、落ちた」
  ダメージを食らって落ちたクジャは、落下の衝撃に耐えられなかったようだ。そのまま死亡し、霊体が消滅した。
「…あそこからノーダメージで落ちれば死なずに済むのか」
「ん?そーだぜ、下は首なしデーモンの巣窟だ。アイテム手に入るけど行くかい?」
「…いや、いい。攻略を優先したい」
「オッケー。もう一人呼ぶのか?」
「ああ…」
  ギロチンの刃をかわしながら慎重に入り口へ戻り、サインを確認するが、ない。
「……」
  クラウドのサインがないが、仕方がない、これ以上は待てない。
  別の霊体を呼ぶことにする。
  仮に途中で死ぬことがあったとしても、道がわかればそこまで到達することもそれほど難しくはないだろう。
  新たに召喚した霊体は、ジャンプして喜んだ。
「初召喚ありがとう!俺バッツ!よろしくなー!」
「スコールだ」
「俺ジタン。初めてサイン出したのか?」
「おう初めてだ。アノール到達記念に!」
「なるほど、おめでとう」
「ありがとうありがとう。んじゃ行きますかー!」
「おー!」
  賑やかな道中になりそうだった。
  基本的に道は落ちたら即死コースの高所を、揺れるギロチンの刃をかわしながら進むと、進行方向に敵がいて攻撃を仕掛けてくるという精神攻撃に、忍耐の連続だった。
  抜けたと思ったら今度は巨大な鉄球が細い道いっぱいに転がり落ちてくる。
  どんなアトラクションだ。
  鉄球が落ちてくる間合いを見計らって走り抜けようとしたが、崖になった細道の隣、段差の下に白くて丸い物体があった。
「…タマネギ…?」
「あ、あれカタリナの鎧ね。話してくる?」
  乳白色で流線型。全身丸みを帯びた鎧のフォルムはどう見ても肥満体型にしか見えず、兜はタマネギのように頭頂部が尖り顔部分は丸かった。膝を崖に投げ出して、所在なさげに座っている。
  あれも不死か。
「…すまない、ちょっと行って来る」
「おう、鉄球の向き変えとくわ」
  バッツとジタンが鉄球の通り道を駆け上がり、敵を倒して奥へと消えた。しばらくして鉄球が落ちてくることはなくなったので、向きを変えると言うのは上手くいったらしかった。
「……」
  近づいてみれば、兜の隙間から唸り声が聞こえる。何だ?
  耳を澄ませば、「うーむうーむ」と聞こえる。「どうかしたのか?」と問えば、気づいた男がおお!と顔を上げた。
「私はカタリナのジークマイヤー。あの、鉄球ゴロゴロがな…。ほら、私はなんとなく太っているだろう?ゴロゴロが速すぎるんだ…」
「はぁ…」
「だから、ここへ座って、思案している。なんとかなるかもしれないだろう?」
  思案していると言いながらガハハハハと豪快に笑ってみせた。
  随分人が良さそうだ。
「転がれば何とか…、…無理だなぁ。目も回るし。うーむ」
  憎めないタイプのおっさんだった。
  向きを変えたぞ、と教えてやって、二人が待つ所へ向かう。
  不死と言っても正気でいる限りは人間と変わらない。色んなヤツがいるもんだなと思うのだった。
  巨人が投げつけてくる巨大な鉄球爆弾を潜り抜けて外に出、屋上へ向かう。
「あの巨人邪魔だから倒しとこうぜ。あとで行き来することあったら楽だし」
「ああ」
  細い階段を上がって見張り塔にのさばる巨人を倒す。己の身長では足元しか見えないほどの巨人だったが、この城の城門を引き上げたのはこのタイプの巨人二体だと言われて戦慄を覚える。
  どれだけいるんだ巨人。
  城の頂上から見下ろせば、鉄球を下に投げ落としている巨人もいた。あいつもそのうち倒しておきたい所だ。
  相変わらず細くて落ちたら即死しそうな空中回廊を美しい景色の中進む。
  トラップは抜けたが、精神攻撃は健在だった。
  この城のボスは鉄鎧を着込んだ巨人と言う話だった。壁も何もないから落ちないようにと注意を受けて、いざ向かおうとしたところで闇霊の気配があった。
「…闇霊が来るな」
「あーさっさとボスエリアに入っちまってもいいけど」
「けどせっかくだし、撃退しとこうぜ!スコールに人間性も手に入るし!」
「…別に構わんが」
  結局クラウドなしでもここまでは来れたしな、と思いつつ、バッツとジタンの提案を受け入れた。
「闇霊ってどこに現れるんだろここ?ジタン知ってるか?」
  ボス前広場を出て、バッツは狭い通路を歩く。行き止まりになっている場所で立ち止まり、見下ろす絶景に口笛を吹いた。
「いい眺めだよなここ。手摺とかつけてさ、観光地にすりゃいいのに」
「観光客がいないだろ。俺らみたいな不死だけじゃん」
「不死の観光ツアー、よくね?」
「そこまでまともな不死人口いねぇっつーの!」
  緊張感の欠片もない二人のやり取りにため息が漏れたが、気負わない空気はここ最近ではなかったものだ。懐かしい気分になり、スコールは目を細めた。
「闇霊来ないぞ?」
  額に手を当て、周囲を見渡すバッツのすぐ足元が赤く光る。
「…あ、バッ…!」
  声をかける前に、バッツの真後ろに闇霊は現れた。
「…ッ!」
  スコールとジタンは武器を構えようとしたが、遅かった。
「え?」
  顔を動かしたバッツは、だが振り返ることができなかった。
  闇霊が、バッツの背中を蹴り上げた。
  通路から足が浮き、前のめりになる。
  声をかける間もなく、バッツが城の屋上から地上へと蹴り落とされた。
  即死だ。
  霊体が消滅した。
「…邪魔だ」
  赤黒く輝く霊体が忌々しげに吐き捨て、振り返る。
  武器を構えて向かって行こうとするジタンの肩を抑え、スコールが呆然と呟いた。
「…クラウド」
「…ああ、やっと会えたなスコール」
  笑みを浮かべて片手を上げた闇霊は、スコールが散々探して見つからなかったクラウドだった。
「…知り合い?スコール」
  不審気に問うてくるジタンを見下ろし、スコールは頷く。
「ああ」
「倒す?」
「…いや、待ってくれ。あんた、サインがなかったぞ」
「済まない、他のヤツに召喚されまくってどうしようもなかった」
「……」
  スコールの世界ではないことに気づいては元の世界に帰ってサインを出し直す、を繰り返していたクラウドだったが、一度帰られた側はむきになってクラウドを召喚し続けたようだった。子供の張り合いのようだと思ったが、埒が明かないと諦めたクラウドは最速で攻略を手助けする為に突っ走ったようだったが、途中で召喚者が落下死して元の世界に戻されたらしい。
  その時にはすでにスコールは限界人数を連れて攻略に赴いていたので、進行状況を確認する為と、他の闇霊にスコールを狙われないようにと自らが闇霊となって他の世界に侵入を繰り返していたらしかった。
「…召喚されて一方的に帰るとか、非常識極まりねぇぞあんた」
  非難がましい視線を向ける小柄な男に冷めた視線を突き刺して、クラウドは鼻で笑い飛ばした。
「スコールとの約束の方が優先だ。それにちゃんと付き合ってやったんだ。落下死まで責任は持てないな」
  クラウドが手伝わずとも、スコールは霊体と共にここまで来れた。
  ちゃんとやっていけるのだなと思えば微笑ましい気持ちになれたが、同時に非常に面白くなかった。
  雛が親離れする瞬間というやつか?
  だが寂しいという気分ではなかった。己の気持ちを言葉にできず、クラウドは眉を寄せた。
「…で、あんた、闇霊のままでボスエリアは入れるのか?」
「…ああ、そうだった。すぐそこにサインを出すから、今度はちゃんと拾ってくれ。すぐ来る」
  そう言い残して闇霊が姿を消した。
  しばらく待っていると、ボスエリア前にクラウドのサインが現れる。
「…この速さってことは、あいつアノールから逆走してきたんだな」
「…そうなのか?」
「ここのボス倒したら、アノール・ロンドに行けるようになるんだぜ」
「ほう」
「…待たせたな」
  白い霊体のクラウドの方が、見慣れている分しっくりきた。
「ボスを倒したら、そのままアノール・ロンドとやらに行っていいのか?」
「あ、待て。あんたショートカット開けたか?」
「…いや?」
「ローガンは救出したか?」
「…いや。囚われてるヤツ、いたのか…」
「なんだ、ホントに攻略しただけなんだな」
  呆れたようにため息をつくクラウドに、ジタンがそうだったと思い出したようだった。
「悪ぃ、つい最短距離で来ちまった。今から行く?スコール」
「…いや、いい。あとでまた来る」
「あーごめんな、スコール」
「気にしなくていい。早くボスを倒そう」
「…ボスを倒したら、そのままここに戻ってきてくれ。何も触らずに」
  クラウドの言に、スコールは頷いた。
「行こう」
  初っ端から衝撃波を飛ばしてくる巨大な鉄巨人の攻撃を避けて、倒しに向かう。
  クラウドの攻撃力が、高すぎた。
  武器を最大強化することは、実はかなりの難易度を伴うのではないかと思わずにはいられないほどには圧倒的だった。
  あっけなく鉄巨人を倒し、中央地面に光る輪が現れた。
  「何も触らずに」と念を押したと言うことは、おそらくこれに触れると王都へ向かうことができるのだろう。
  ひとまずそのままにしておき、言われた通りにボスエリアを戻って部屋に入る。
  柱の影から、生身のクラウドが現れた。
「…世界はそんなに頻繁に混じりあっているのか?」
「…いや、ある程度は自由にできる」
「え、そうなのか」
「まぁ…条件があるけどな。それより籠牢の鍵は持ってるか」
「ない」
「じゃぁ、こっちだ」
  順路のさらに奥の空中回廊を進み、隣の建物へと向かう。
  階段を降りたところで鍵の番人らしき敵を倒して手に入れて、来た道を戻る。
  ボスエリアを通り越して逆走した。
  建物下階に天井から吊るされた少人数用と思われる狭いゴンゴラに鍵を差し込み、鉄扉を引き開けた。
「これでスタート地点まで戻れる」
「それは便利だな」
「ああ、ローガンもここから行けば早い」
「わかった」
  二人乗ったら限界だった。窮屈で自由に動けず、ぴったり寄り添う形になったが正直苦しい。
  地上階に着いたら蛇戦士に襲われた。ギロチン通路に着くのかよ!
  全く不親切な城であった。
  ローガンというのは、大きすぎる帽子を被って顔は全く見えなかったが、老魔術師だった。ゴンドラの中に閉じ込められていたのを救出したが、自力で脱出できるのでは?と思わせる程に実力はありそうだったが、追求はしない。
  これでひと段落か?と問えば、とりあえずは、と返って来た。
「アノール・ロンド最初の篝火で会おう。あそこは先に攻略しておいた方がいい」
「わかった。あのゴンドラで上まで行けばいいな?」
「ああ、アノールに着いたら道なりに進めば篝火がある」
「…了解」
  過保護な親のようだな、と思ったが、クラウドから見れば赤子も同然なのかもしれない。
  情けなくはあったが、道連れがいるといないでは精神的にも進行的にも雲泥の差であった。
  人間関係の希薄なこの世界において、おそらくこの男の存在は貴重なのだ。
  大人しく頷いて、王都へと向かう。
  気づけば世界がずれたらしく、クラウドの姿はなかった。
  ボスエリアまで戻り、光の輪に触れる。何が起こるのかと思えば、上空から小型のガーゴイルが複数降りてきた。
「…っ!」
  両腕を掴まれ、上空へと持ち上げられた。
  いや、これ、大丈夫だよな!?
  センの古城がみるみる小さくなって行くが、ここで手を離されたら死ぬ。
  ひたすら上へ。
  人の足では到底辿り付けない上空高く、王都アノール・ロンドが広がっていた。
  夕焼けに染まる王都はどこまでも広く、美しい。
  物見場と思しき離れた場所に、降ろされた。
  ここが、大王グウィンが生きた場所。
  神話の中の、神々が存在する都であった。
  暮れ行く空と澄んだ空気に心奪われ、スコールはしばしその場に佇んだ。


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