隣を歩く足音は規則的で迷いなく、緩やかな速度で草を踏みしめ目的地を目指す。どこへ行くのかと問うても明確な場所の名前は返って来なかったもののただ一言、邪魔が入らない所と言われ納得する。
  始終掴まれたままの腕が熱を持って痛んだが、目を塞いでいれば外は完全なる未知の世界と言って良く、一歩前に進むのも勇気が必要だった。
  布で覆われた瞳は開いた所で闇に閉ざされ、現在位置はおろか上下の感覚すらも覚束なくなりそうだったが、研ぎ澄まされた聴覚は風がそよぎ草が揺れる自然のものから、隣を歩く男の呼吸や地を踏み砂利が跳ねるその瞬間まで、些細な音を聞き分けることができるようになっていた。
  それにしても男に掴まれた腕が熱い。
  視覚を除く他の感覚が鋭敏になっているようだと言えば男は首を傾げ、しばし考えているようだった。
「…手を放すと、困るだろう」
「困る」
「抱きかかえて行こうか?」
「それは遠慮する」
「鎖に繋いで歩こうか?」
「……」
「ダメだな、リアクションにタイムラグが発生する」
  足元が覚束ないから腕を掴んで歩いているのに、距離を取ってしまっては何の意味もなかった。自らの言を否定して、男は立ち止まる。
「希望は?スコール」
  問われスコールは腕を掴む男の手に自らの掌を重ねた。
「手を」
  一言で察した男が声を出さずに笑う。短く息を吐き、頷く様は周囲の空気の揺れで理解した。
  右掌を差し出せば、男の左掌が重なって指先が絡む。ガントレットに保護されたそれは固く冷たく、覆われた布の下で眉を顰めればああそうかと気づいた男がスコールの左側へと回って、逆の手で繋ぎ直した。
「これでいいか?」
「…構わない」
「まるで仲良しカップルのデートだな」
「……」 
  男二人が手を繋ぎ、ぴったりと寄り添って何もない世界を歩く。
  滑稽だとは思わない。思うのならば最初から同行などしていない。
  もうすぐだという男に頷きで返し、短い道を進めば空気の流れが変わった。否正確には風が止まった。静かな無音の空間に辿りつき、手を引かれるまま闇の中をスコールは進む。壁と思しき場所に男が手を伸ばしたのが金属の当たる音で伝わった。
「座って」
「…ああ」
  地面との距離を空いた手で探りながら腰を下ろし壁に背を預ければ、安定した感覚に安堵した。男がスコールの両膝を開き、間に身体を滑り込ませて中腰のまま見下ろす視線は熱い。視線に熱があるかどうかは不明だが、項がちりりと逆立つような僅かばかりの緊張を熱と感じるのかもしれなかった。
  耳元でじゃら、と金属音がして、顔を向ければ両手を出せと要求される。
  男の意図を理解し両手を組むようにまとめて出せば、額に男の柔らかな唇が落ちてきた。
  細い鎖を幾重にも巻きつけられ、両手首を拘束される。
  ジャケットの下、グローブを避け素肌に直接巻かれたそれはきつくはなかったが、後で怪我をするだろうことは想像するに難くない。
  皮膚が擦り切れ血が滲み、赤黒く変色を起こしおそらく当分消えることはないだろう。
「スコール」
  だが愛しげにも聞こえる熱い囁きを落とし口付ける男には思い至る余裕はなさそうだった。
  まぁどうせ人前で脱ぐことなどないのだから、戦闘に支障が出なければ怪我があった所で問題ない。
  口腔を犯す舌が歯列を辿り、舌先を擽る。ざらりとしたそれを同じように舌で舐め上げてやると、猫のように喉を鳴らして男が悦んだようだった。
「…名前を呼んでくれ」
  顎に口付けられ、噛み付かれた。
  そのまま喉仏を通って項へと降りる舌の濡れた感覚にため息を吐き、瞼に焼きついた男の顔を思い出す。

「…クラウド…」
 
  呼べば褒美とばかりに胸の突起を抓られ、声が漏れた。
  肩と腰に手が回り、肩を後ろに腰を手前に抱き寄せるように引かれてスコールは地面に倒される。カチカチと金属と布を擦る音が聞こえ、地面に落としたそれはクラウドのガントレットのようだった。無機物で肌を嬲られる感覚はそれはそれで捨てがたかったが、それは次回以降へと持ち越されるようだ。続いて服も脱ぎ落とし、スコールのシャツを首元までたくし上げて鎖骨に歯を立て強く吸い付いた。走る疼痛に上半身を捩るが、胸に降りたクラウドの舌と指が執拗に突起を弄んでそこにも歯を立てられスコールの身体が跳ねた。
「っ、ん、…っ」
  クラウドが吐き出す熱い息が肌を掠め、勃ち上がった下半身を押し付けられスコールもまた興奮する。
  いつもより鋭敏になっている感覚を持て余し、早くと両脚でクラウドの胴を挟み込む。
  己の腹の上に落ちる金髪を撫でてやり、邪魔にならないよう拘束された両手は頭上へ。気づいた男が顔を上げ、スコールの耳朶を舐め回しながら囁いた。
「…さぁ、スコール」
  促すそれの意味を、知っている。
  生暖かく柔らかい舌が差し入れられ唾液と共に耳を這い回り聴覚を犯す。ゾクゾクと這い登る快感に、スコールが首を竦めて小さく啼いた。
  手は着衣の上からスコールのモノを握り込み、膝は後ろに当てられグリグリと押された。ここでイったら服が汚れる。
「はっ…、ぁ、ク、ラウド」
  今クラウドがどんな表情をしているのか興味があったが、目隠しは外さない約束だった。
  拘束された両手もまた、同様に。
  そして約束は、もう一つ。
「…っ、は、やく」
「…早く?」
  男の声が期待で上擦った。言わなければ。 
「っ服を、脱がせろ」
「…了解」
  喜色に震える音はたった二語、けれど確かにスコールは聴いた。
  ベルトを引きちぎらん勢いで乱雑に引っ張られ、一本が抜かれる。相変わらず男の熱く滾ったモノを押し付けられたまま身体を揺すられたまらなかった。二本目を引き抜き、次へ。もどかしく苛立ちの混じるため息が男の口から漏れた。確かに面倒くさかろう。
  だがそれは許してはならなかった。
  スコールの命令があるまで、勝手な行動をしてはならないというのが最後の一つ。
  スコールが不安定な体勢から右足の踵で男の背中を蹴り付ける。反動でクラウドの腰が強く押し付けられぶつかって、スコールのモノを擦り上げた。
「ふ、ぅ…っ、…っ喜んで、脱がせるんじゃ、なかったか…っ!」
「っ…あぁ…、すまない」
  早く挿れたくて、と口答えをする男の背を再度蹴る。
  この刺激だけで、下手したらイってしまいそうだった。震えだす身体を抑える術をスコールは持たない。
「んぅ…っく、こ、れで、イく気はないぞ…!」
「…わかってる」
  ベルトを全て外し終われば、男の手際は早かった。剥かれた素肌に感じる男のモノが熱くて硬い。
  露になったスコールのモノに触れ、指先で擽るように撫で上げ男が小さく囁く。
「…次は、スコール?」
「ん…っ、」
  上がる息を飲み込んで、「お前は」と問えば困ったような笑みがため息混じりに落ちてきた。
「…早く挿れたい。あんたの中はキモチイイ。引き抜いて、ぶち込んで、擦り上げたい。あんたの中に、出したい。何度でも」
  後ろを探る指先が中に入りたいと許しを請うて行き来する。
  スコールのモノを弄る指も、許しがあるまで行動に移ることは許されない。
「…っ、ぁ」
  もどかしい刺激に腰が跳ね、押し付けるように動く。
  次を、言わなければ。
  口を開いた所で、熱く濡れた男の唇がスコールのモノを咥え込んだ為言葉にはならなかった。
「…ぃッ…っぁあ、あ、あ…っや、…ッ!」
  根元から先端まで絞るように扱かれ吸い上げられては保たない。あっけなくスコールがイった。余韻で震える腿を肩で押し、大きく脚を開かせる。
  放たれた精液を掌の上に吐き出し指先で粘度を確かめながらクラウドが次はと促す。
「ふ…ッ!おま、えっ…何、勝手に…ッ」
「蹴っていい。…いや、罵ってくれた方がいいな…次は?スコール」
  言いながら男の指は後ろを探っている。早く言えと急かされているようで、それはスコールも同意見だったが気に入らなかった。
「…クソ野郎。まずは、…っ勝手な、行動して、ごめんなさいと、謝れ!」
  罵詈雑言を撒き散らす趣味はないので、語彙が豊富とは言えなかった。コレが続くと萎えそうだなと思ったものの、足の裏で肩を蹴ってやれば圧し掛かる男に有効に作用した。
「…っ勝手に咥えて、ごめんなさい…!」
  男が一つ身震いし、震える声には愉悦が滲む。早く挿れたいと押し付けられる怒張したモノは興奮ですでに濡れていた。
「ぁ…ッんふ、し、…っかり、慣らせ」
「了、解」
  同時に突き入れられる指は容赦がない。前立腺を押され刺激されてスコールのモノがまた勃ち上がって震え出す。
  締め付ける肉を押し開くように指を増やし、赤く熟れたそこを白い粘液混じりの指が行き来する。ぬちゃぬちゃと音を立て、男を咥え込みたいとひくつく肉襞が卑猥だった。
「ふ…ッ次は、スコール」
  男の呼気が荒い。
  触れ合う部分の体温がじわりと上がって、溜まった汗が流れ落ちた。
「…っは、ぁっん…ッ」
  付け根まで押し込み中をグリグリと動かされ、たまらず指を締め上げながらスコールの腰が揺れる。指では足りない、もっと、太くて熱いモノで奥まで突き上げてもらわなければ!
「スコール、」
  反り返ってイきたがるスコールのモノを掌で包み込む。
「ア…ッ!あっあ…っ、さ、わるな、許してない…ッ」
「ッ…ご、めんなさい…っ」
  叱責されクラウドの背が跳ねた。
  汗で滑り落ちそうになるスコールの足を肩に乗せ直し、内腿に這わせた舌が汗の塩分を絡めとる。
「ふ…ぅ、」
「…次、は?スコール…」
  ぐ、とクラウドのモノが押し付けられ、先端で押し開かれる。我慢できないと言わんばかりの強さに、ソレに犯される肉の感覚を思い出したスコールが身震いした。
「ん、く…っ挿れたい、か…っ?」
「挿れたい、早く、スコール、早く…っ」
  言え、とクラウドが腰を引いて離れたソレが、また入り口にぶつかりぬめって滑る。
「あ、っぅ、は…っ、い、挿れて、い…ッ」
  最後まで言えなかった。
  押し入ってきた質量が、窒息しそうな勢いで肉壁を抉りながら最奥を目指す。
「ぅっぁ…ッんぁっアッあ…ふ…ッ!」
  涙が溢れたが、熱い液体はすぐに覆われた布に吸収されて湿って行く。
  息を吐いて衝撃を逃がそうと大きく胸が上下した。
  男が動いて身体が揺れる度に、組んだ手に力が入り頭上でじゃらじゃらと鎖が鳴った。
「んっあ、ぁっ、ク、ラウド、待…っ」
「…っく、ふ、何…っ?」
  少し抜いて、奥まで突き上げスコールの言葉を待つ。
  ああ、絡みついて離そうとしないこの熱い肉がたまらない。
  ゆるゆると注挿を繰り返すのは男の本能か。
  スコールの言を待ちながらも、動きを止めることはしない男のモノを締め上げれば呻いて奥まで押し込んだ。
「っ…、ぅ…ッ動いて、いいとは、言ってない…っ!」
「…っ!」
  ビクリと男が震えた。それはないと言いたげな様子が窺えたが、反論はなかった。
  ギチギチに押し広げられ根元まで収まる男のモノが動きたいと腰ごと揺れる。全身でソレが欲しいと訴える己の身体に、スコールが舌打ちをした。無意識に締め付ける度に沸き上がる快感が耐え難い。
  舌打ちに男がまた震え、伸び上がってスコールの耳朶に噛み付きながら謝罪する言葉はやはり喜びに濡れていた。
「っごめん、ごめんなさい、スコール…!」
「つっ、…んんぅ…っ、わか、ればいい…っは…っ、」
「…スコール、動きたい、突き上げたい…っスコール、スコール…!」
  我慢と理性の限界が近いのだろう、攻め立てるようなクラウドの言葉は切羽詰っていた。
  その顔を見たかったが、約束は破ってはならない。
  血流が滞り始めてだるい両腕を持ち上げて、拘束された両手の間にクラウドの頭を抱え込む。後頭部に手首をやり引き寄せるようにすれば、抵抗なく男の顔は至近に寄った。
「…キスを」
  熱く囁けば落ちてくるのは情熱的で欲に塗れた激しいキスだ。
「ッ…ふ、…は…っ」
「スコール、…っす、こーる…!」
「あっ…ぁ、いい、動いて、い、い…っ!」
  一体化したのではと思うほどに馴染んだ雄が、凶器となってスコールを穿つ。
「んぁっ、ッあァ、んっ、あぅ、アッあぁ、あッ…!」
  キモチイイ。
  焦らした分だけ男の動きは凶暴で、肉のぶつかる音と擦れて溢れる粘液のねばついた音がやけにリアルに耳に響く。
  男の腹で擦られたスコールのモノが、イきたがって震えていた。
「あ、あ、あっ…ク、ラウド、…ッ」
「ッ…は、イって、いい…っ!?」
「や…ッ、ま、だ、ダメ、だっ…!」
  イくまで、もう少し。
「ふっ、…っく、もう、保たない、ぞっ…」
「ぁ、っんふ、先に、イくのは、許さない…っ」
  前立腺を掠めてやれば背が撓り太股が引き攣った。スコールのモノに手を添えてやるが、先ほど怒られたので勝手なことはしない。
「…っは、触る?」
  お伺いを立てるが首を振って拒まれた。
  後ろだけでイきたいらしい。いやらしい身体だと思うが、こちらはもう余裕がない。早くイきたくてたまらなかったが、お許しを得なければイくことも適わない。勝手にイったら、怒られる。
「…ッ!」
  想像し、ゾクゾクと背筋を快感が駆け上る。
  ああ、それもいい。
  スコールの声で、言葉で、口汚く罵られたい。蹴られたっていいのだ。殴られても構わない。
  屈辱の数々は、組み伏せ征服することで報われる。
「は…ぁッあ、あっぁ、ん…ッく、…っ」
  縋りつくスコールの身体が燃えるように熱く、汗が流れて混じり合う。腰を振って擦り付けて来るのは無意識だろうが、愛しかった。
「スコール、スコール…ッ!」
  早くイきたいと訴えて、イかせてくれと希う。限界が近いだろうスコールのモノを密着して腹で擦り上げてやれば、後ろが締まって震え出す。
「ぅ…ッン、あ…ッあ、イ、…っく、っあぁ、イって、いっ、~…ッ!」
  スコールが唇を噛み締め痙攣する。
  震えて快感に耐える様を思う存分眺めながら、クラウドは締まる肉をかきわけ抉りながら最奥へ突き上げた。
「…ッ、…っく、」
  解放感に息を吐く。
  絡みつくスコールの腕の下を潜って身を起こし、巻きつけた鎖を解いてやるが、白い肌に残る擦り傷と痣にクラウドは愕然と目を見開いた。
「あ…」
  しまった。初歩的なミスを!
  痛々しげなそれに指先を触れ、舌で舐めれば痛みにスコールが顔を顰めた。
「っやめ、ろ…そのうち、治る…から」
「…すまない」
「いい…わかってた」
  ため息を吐くスコールは叱責をくれなかった。
  謝れと命令されればおそらく土下座でも何でもしただろうに。
  目隠しを取っていいかと問われ、素直に頷く。
  露になったスコールの瞳は涙に濡れてぐちゃぐちゃで、布は湿って冷たかった。擦ろうとするのを止め、唇を落とす。
  まだ中に入ったままだったクラウドのモノが角度が変わって肉壁を押し、スコールが身を捩る。
「っはやく、抜けよ…!」
「…ああ、そうだった…」
  熱く濡れた中から解放したモノが、外気に触れて寒かった。ぐぷ、と中から漏れ溢れてくる精液を布で拭う。まだ息の整わないスコールに大丈夫かと問えば問題ないと返されたので、中に指を突っ込んで掻き出してやろうとしたが、それについては別問題らしかった。
「ば…ッ!それのことじゃない!」
「…自分でやるか?」
「…っ、…そ、」
  指を引き抜き、問うてやる。
  クラウドが見ている前で自分でやるか、クラウドに任せるか、どちらも嫌だがやらねば痛い目を見ることは明白だった。
  嫌な二者択一を迫られスコールが目を逸らす。
「スコール」
  だが男は返答を待っていた。
  いつまでこのプレイを続ける気なのだろうと思ったが、男が動かないので言わなければならなかった。
「…、まかせる…」
「…了解」
  嬉しそうに答えるクラウドの顔をまともに凝視し、スコールは背筋が泡立つのを感じる。後悔した。見なければ良かった。
  瞳を細めて笑う、その色は肉食獣のそれだった。
  丁寧に動く指先のもどかしさをため息でまぎらわせながら、スコールは指先を噛んで声を抑える。
「…っ、あんた、こんなんで、まともに戦えてるのか…」
  他人の趣味をとやかく言うつもりはないが、命令され虐げられて燃えるという性的嗜好ではさぞかし戦闘に支障が出ているに違いない。
「は?俺か?」
  他に誰がいるというのか、思いも寄らぬと言わんばかりに男は目を瞬いた。
  お前だよと睨みつければ、心外だと憤慨した。
「…え?いやだって」
「他の奴らに言われてもムカついて殺したくなるだけだ」
「…?」
「逆に問うが」
  綺麗になった、と布を放り投げ、クラウドがスコールの上に覆い被さり顔を覗き込んだ。
「あんたは求められればどんなプレイでも応じるのか」
  金を積まれれば?
  泣いて縋られれば?
  情に訴えれば?…ああ、これはあるかもしれないな。絆されれば可能かもしれない。
  気が向けば?…これが一番大きいな。クラウドがやろうと言って、否と言われなかったのだ。
「…俺にもプライドと言うものがある」
「だろうな」
「少なくとも、こんなプレイはお断りだ」
「……」 
  では何故受けた。
  クラウドとスコールが同時に首を傾げた。
  我に返ったのはクラウドの方が早かった。
  スコールの顎を掴んで上向かせ、視線を合わせたまま口付ける。舌を伸ばせば受け入れられて、絡む舌が生暖かくて気持ちいい。覗き込んだ蒼の瞳に悪感情は見られなかった。
「…ああそうか、肝心なことを忘れてた」
「何だ?」
  頬を撫でる手は優しく、見下ろす瞳は切なげだった。
  スコールはクラウドが何を言わんとしているのかを理解した。
「あんたのこと、好きだな、すごく」
「……」
  言った瞬間、クラウドが恥ずかしいと視線を逸らす。
  惚れた腫れたの色恋沙汰が豊富なわけではないらしい男の反応としては、当然といえば当然だったのかもしれないが、スコールは不満だった。
  クラウドの頬を挟み込んでこちらに向けさせ、照れる瞳を真っ直ぐ見上げ「やり直せ」と命令すれば、ひくりと喉を引き攣らせて男が唸る。
「…スコール…」
「ここはしっかり決めるところだろヘタレ」
「…っ」
  有無を言わせぬ空気を作ってくれなければ、スコールは答えられない。
  己の根性のなさを棚に上げるどころかクラウドに押し付けて、もう一回と催促すれば、やる気になったらしい男が瞳に力を込めて見下ろした。
「好きだスコール。あい、愛してる」
  これでもまだ後半噛んだ。が、まぁいい。
  真っ赤に染まった男の顔は笑えてくる程に真面目だった。スコールは男の首に腕を回して引き寄せて、耳元に一言囁く。
「俺も、」
  あいしてる。
  抱きしめてくる力が強すぎて窒息しそうになったが、耐えた。
  簡単なことに気づくのが遅すぎた。
  口が堅く余計なお喋りも必要ない相手というのは互いに都合が良かったという、ただそれだけの理由で始めた関係にまさかこんな感情が隠れていたとは。

 だが、後悔はない。

「…おい、スコール…今、何て…?」
「…だから、変態プレイはしない」
「変態プレイという単語には反論したいが、これは必要なコミュニケーションでありスキンシップだ!」
「…だから、変態プレイじゃなくていいだろう」
「もちろんノーマルプレイも歓迎だ。むしろどんなプレイでも歓迎だが、」
「人の話を聞け!」
「…スコール…じゃぁキスをしてくれ」
「してやるから変態プレイは諦めろ」
「……っ」
  跪いて許しを請えばいいのか?スコール!
  あの銀髪野郎に言われたらムカつくが、スコールになら構わない。
  言えば秀麗な顔を朱に染めて、そういうことを言うなと怒られた。
 
  彼女が急に恥ずかしがるようになりました。どうしたらいいでしょう。

「誰が彼女だ死ね!Yahoo知恵袋にでも投稿する気か!」
「…ああ、死ねるものなら今すぐ死んでやりたいが。お前の為に。だが死んで悲しまないか?大丈夫か?」
「…ッだ、大丈夫なわけあるか馬鹿野郎!ああ全くあんた面倒くさい。変態。面倒くさい。変態」
「……」
  まぁ、可愛いからいいのだが。
  しばらく大人しくしておこう。そのうちきっとスコールは絆される。
 
  征服する瞬間が、待ち遠しい。


END
リクエストありがとうございました!

愛しきパラフィリア

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