人間性を、捧げよ。

古い時代
世界はまだ分かたれず、霧に覆われ
灰色の岩と大樹と、朽ちぬ古竜ばかりがあった

だが、いつかはじめての火がおこり
火と共に差異がもたらされた
熱と冷たさと、生と死と、そして光と闇と

そして、闇より生まれた幾匹かが
火に惹かれ、王のソウルを見出した

最初の死者、ニト
イザリスの魔女と、混沌の娘たち
太陽の光の王グウィンと、彼の騎士たち
そして、誰も知らぬ小人

それらは王の力を得、古竜に戦いを挑んだ

グウィンの雷が、岩のウロコを貫き
魔女の炎は嵐となり
死の瘴気がニトによって解き放たれた

そして、ウロコのない白竜、シースの裏切りにより、遂に古竜は敗れた
火の時代のはじまりだ

--だが、やがて火は消え、暗闇だけが残る

今や、火はまさに消えかけ
人の世には届かず、夜ばかりが続き
人の中に、呪われたダークリングが現れはじめていた…

 

  薄暗く湿った牢内には剥き出しの地面しかなかった。陰鬱とした空気は淀みきって重く、我が物顔で飛び回る蝿は払っても払っても消えることはない。
  どこからともなく漂ってくる腐臭に嗅覚はもはやまともに機能せず、閉じ込められ顧みられることのないこの場所は「北の不死院」と呼ばれた。
  身体に突如現れたダークリングという名の輪状の呪印は、己が不死になってしまった証であった。
  不死すなわち死なない人間という意味を指すそれは、読んで字の如く死する生き物である人間の中にあって相容れない存在であり、己の国においては疎まれ恐怖され迫害を受けてこの地に幽閉される運命となっていた。
  好き好んで呪印を望む者等皆無であったが、神の気まぐれなのか運命のいたずらなのかいやきっと嫌がらせに違いない、ある日突然不死の証が現れる現実は、笑えるほどに現実味がなかった。
  いつまで幽閉されるのかと言えば、「世界の終わりまで」と言う。
  「死なない人間」にとっての世界の終わりは一体、いつか。
  自殺するならすれば良い。
  次の瞬間己はむくりと起き上がり、ただ痛覚と後悔と己の運命を呪う作業に苛まれ続けるだけだった。死んでも生き返る、それが不死と呼ばれる所以なのだから。
  おまけに厄介なのは、不死は不死でもいつまでも正気でいられるわけではないという点だった。不死人はやがて考える機能を失い、亡者と化して人を襲うようになる。
  現に今、捕えられている牢の外を闊歩するのは正気を失い亡者と化した元人間だった。
  このまま精神が朽ち果て、奴等のように亡者となって世界の終わりまでこの地で彷徨うことが、己に出来る唯一なのだった。
  あとどのくらいで正気を手放す事ができるだろうか。
  牢の壁に背を預け、膝を抱えて考える。
  ダークリングが現れた時点で夢も希望も潰えてはいたが、こんな薄暗い場所に永遠に幽閉されることを受け入れる程には迷いは断てていなかった。
  逃げられるものなら逃げ出したい。
  しかし一体、どこへ逃げればいいという?
  己の国にはもはや帰れず、目的もなく意味もない。いつ亡者と化すか恐怖と戦いながら一人生き延びてどうするというのか。
  膝に己の額をつけ、目を閉じる。
  どうしようもなかった。
  時間にしてどれくらい経ったのか、感覚などとうに麻痺して覚束なかったが、天井付近で音がした。
  何事かと見上げれば、天井の一部が外に向かって開かれた。
  久方ぶりに差し込む陽光のあまりの眩しさに目を眇めた瞬間、何かが地面へと落ちてくる。
「…?」
  眩む視界を凝らして見れば、そこには亡者の死体があった。
  一体誰が?
  影が差し、見上げるとそこには人間がいた。
  顔はフルフェイスの兜に覆われ不明だったが、小奇麗な上級騎士の鎧を身に纏ったおそらく男は小さく頷き、姿を消した。
  天井から漏れ入る陽光が明るい。
  何が起こったのか把握できず、亡者の死体をただ見やる。
  腰付近で何かが陽光を反射して煌いていた。手を伸ばせばそれは牢の鍵だった。
「!」
  外に出ろというのか。
  …外に、出てもいいのか。
  葛藤があったが、それは長いものではなかった。
  鍵を取り、牢を出る。
  気づいた亡者が襲い掛かってくるのを剣で斬り倒す。間抜けなことに、服も武器も何一つ取り上げられてはいなかった。
  そもそも反抗した所で無意味な場所だ。朽ち行く運命の者達への、最後の慈悲が仇となる。
  広間へと続く扉を開ける。
「…っ!」
  巨大な丸々と太った化け物が行く手を塞いでいた。
  デーモン。
  原初より存在する生き物の一つであり、伝説であり、人間の世界には存在しなかったはずのモノだった。書物でしか見たことのない存在がここにあり、これがいる為に誰もこの不死院を逃げ出す事が適わないのだ。
  気づかれ襲い掛かってくるそれをかわし、奥にある外へと続く扉へと走る。取っ手を押して引いてみるが鍵がかかっているようでびくともしなかった。
  くそ、開かない。
  大槌を振り上げ、振り下ろされる。人間の身体よりも厚みがあって重そうなものを食らったら潰されてしまう。身体を捻ってかわすが壁際へと追い詰められた。
  視線を巡らせ、部屋の端にこれ見よがしに用意された通路へと逃げ込めば、鉄柵が降り閉じ込められる。
  逃亡者対策ができている時点で、過去逃亡者がおり成功者もまた存在すると言うことの裏返しでもあった。
  必ず、ここから出る。
  決意し狭い通路を進むとすぐに開けて水路に出た。
  踝ほどの水位であるので移動に不便はない。水音を立てながら角を曲がる。先程鍵を落として行ったと見られる騎士が瓦礫の上に力なく凭れかかっていた。
「…おいあんた、大丈夫か」
  酷い傷を負っていた。これは死ぬ。
  …だが不死人であるのなら再度生き返ることだろう。
  声を認識したらしい男が首を動かしこちらを見たようだった。
「君は、まともなようだな…」
  外見そのままの騎士らしい礼儀正しい口調で言い、僅かに息を吐いた。笑ったようだ。
  この有様がまともと言えるのならばそうだろうと頷いてやれば、私の話を聞いてくれと最期の願いを申し出た。
「私の一族に伝わる古い言い伝えがある。…不死とは使命の印である。その印あらわれし者は、不死院から古い王達の地にいたり、目覚ましの鐘を鳴らし、不死の使命を知れ」
「…それは?」
「ここを出るんだ」
「…あんたは」
「…私は、もう、駄目だ。まもなく亡者になるだろう…」
「……」
  ああ、この男もまた、不死人であったのだ。
「行ってくれ。君と、戦いたくはない…」
「…ありがとう」
  名も知らぬ上級騎士に別れを告げた。
  目的を与えてくれて、ありがとう。
  ここを出て、古い王達の地へと赴く。使命とやらはどうでも良かったが、生きる希望が持てそうだった。
  細い道を進み、亡者を倒す。
  広間の二階に到達し、見下ろせばでかい奴が闊歩していてため息が漏れた。
  結局この建物は、あのデーモンを倒さなければ先へと進めないようにできていた。
  仕方がない。倒さなければ。
  剣を構え、手摺を乗り越え上空からデーモンの頭上目掛けて突き下ろす。
  物凄い量の血飛沫を上げ、デーモンが絶叫した。
  暴れ出すに任せて身体を離し、攻撃する。
  冷静に対応すればどうということもなかった。断末魔の叫びを上げ、地響きをさせてデーモンが倒れ込む。
  鍵が、転がり落ちた。
  血の海に沈んだそれを持ち上げて、扉に差し込めば軋んだ音を立てて開く。
  外だ。
  冷えた強風が吹きぬけていくがそれすらも開放感で満たされた己には心地良い。
  道なりに進み、だが途中で途切れた。絶壁に阻まれこれ以上は進めない。
  どうやってここを出ればいいのかと途方に暮れた所で甲高い鳥の鳴き声がした。
「……?」
  崖下から現れた巨大すぎる烏に絶句した。
  鉤爪に胴体を掴まれる。
  待てこれは…!
  為す術なく身体を攫われ、空高く舞った。
  落とされたら死は免れない。
  硬直する身体を掴んだまま烏はひたすら飛び続け、ようやっと降ろされた時には強張った四肢がなかなか言うことを聞かずに困った。
  立ち上がり見渡せば、遠くで柱の上に留まった烏が毛繕いをしている。あの烏はこの場所へと不死人を送り届ける役目を負っているのかと気がついた。
  ならばここは、王の地か。
  緑溢れる古い神殿跡のようだったが、穏やかな気候と美しい周囲の景色に心が洗われるようだった。
  荒みきった何もない不死院に比べれば、ここは天国と言っていい。
  開けた広場の中央には消えた篝火があり、火を灯す。
  不死人は消えた篝火に火を灯す事ができた。何故かは知らないが、もしかしたら使命とやらと関係があるのかもしれなかった。
  火に惹かれるのは火の時代に生きる者達共通のものであったが今、その火が失われかけている。
  「最初の火」が失われれば世界は闇に閉ざされる。人間の世界からはすでに朝と昼が奪われた。それはこの世界に生きる者全てが知っていることであり、千年の昔、王のソウルを見出した太陽の神グウィンが火を継ぐべく旅立ったという神話が残っていたが、継げたかどうかは定かではなかった。
  茫洋と篝火に灯った火を見つめていたが、このままでは何も始まらない。
  立ち上がり、周囲を散策することにした。幸いここにはまともな不死人が存在するようだった。
  戦士、聖職者、そして牢に入った聖女。
  ここは巡礼の地であり、不死人はここへ集う。聖女は篝火を守る役目を持ち、聖職者は人を待っているのだと言った。
  篝火から少し離れた岩に腰かける戦士と目が合う。ここは「火継ぎの祭祀場」と言うのだと教えてくれた。黒髪短髪のチェーンメイルを着込んだ中年の男に覇気はないが、悪意もまたなさそうだった。
「…あんたも不死か」
  聞けばそうだと頷いた。
「ロードランには不死しかいない。誰もが同じ使命を背負い、旅しているのさ」
「鐘を鳴らすというやつか?」
「そうだ。そう簡単には行かないぜ。誰もが目指し、やがて亡者となって忘れ去られていくのがオチさ」
  自嘲気味に男は低く笑い、真っ直ぐ同情の視線を向けて鼻で笑う。
「不死のまま牢獄の中でジッとしとけば良かったものを…」
「……」
  鐘を鳴らすとは何か?
  鐘はどこにあるのか?
  不死の使命というのなら、自らもまたその使命を負ってしまったということになるのだろう。
  目の前で座り込み動く気のなさそうな戦士のように、ぼんやりと世界の終わりとやらを待つか、使命を全うする為に旅立つか、それとも他の道を模索するか。
  …他の道とは、何だ。
  不死は永遠ではないのだ。正気をなくせばそれまでだった。
  ロードランと呼ばれるこの神の地に、逃げ場は果たして用意されているのだろうか。
  まだ情報が足りなかった。もっと調べなければ。
  踵を返し、祭祀場内を歩く。
  細道の向こうから降りてくる人影があった。
  あれも、正気を保った人のようだった。
  立ち止まって見つめれば、向こうも気づいた。
  逆立てた金髪に蒼い瞳の若い男は、その身に不似合いな大剣を片手で持ち軽々と歩いていた。
  相当な手練れだということが窺えたが、気負った様子もなく軽装だった。
「…何か?」
  不審に首を傾げながら問いかけられ、頷く。
「ここに連れて来られたばかりで、どこを目指せばいいのか迷っていた」
「ああ」
  得心がいったと表情を改め、「大変だったな」と労った。歩を止めることなく篝火に近づき、腰かける男を見やれば己よりも年上のようだった。座ればと促され、離れすぎない距離で、だが近づきすぎない距離を保って腰を下ろす。
「あんた、名前は?」
「…スコール」
「スコールか。俺はクラウドという。…あんたが目指すべきは二つの目覚めの鐘」
「…二つ」
「一つは不死教区、一つは病み村。この地は広いようで、実はそれほど広くはない。縦に長いというべきか」
「はぁ…」
  簡単に地面に図を書き始めた。
  中央にこの祭祀場を置き、上に城下不死街を書き、不死街の上には不死教区を、不死街の左には不死街下層を、その下に最下層を置き、さらにその下に病み村と書いた。
  広くないと言う話だったが十分広いとスコールは思う。
「まだ他にもたくさん行くべき所はあるんだがとりあえず、不死教区の鐘の守護者はガーゴイル、病み村の守護者はクラーグだ」
「…なるほど」
  まだ世界があるのか。
  脳裏に忘れないよう刻み込む。記憶力は悪くなかった。
「そうだな、俺が助言してやれるとすれば、ソウルを貯め素材を集めてとにかく早く武器を強化することだ」
「…ソウル」
  ソウルとは人や亡者、デーモンが持つ魂の価値、力の源であるが、詳細は不明だった。不死院にて亡者やデーモンを倒した時、ソウルを吸収し己はそれを持っていた。
「この地においてソウルとは通貨替わりの対価となる。…商人から商品を買ったり、武器を強化したり、修復するにはソウルが必要となるから大切にするといい」
「わかった」
  随分と親切だ。屈強な戦士には見えなかったが、まるで世界の全てを知っているかのような口ぶりだ。改めてクラウドと名乗った男を見つめる。 
  何者なのだろうか。
  目が合い、男は金髪を揺らして小さく微笑んだ。
「…大丈夫、最初は誰もが不安になる」
「…ああ、そうだな…」
  人も良さそうだと思った。
「あんたも不死なんだよな?」
「ああ」
「…不死の使命とかいう、鐘をあんたはすでに鳴らしているんじゃないのか?」
  そうでなければ、詳細に説明できるはずがないのだ。
  指摘すれば軽く目を瞠って驚いているようだった。
「…クラウド?」
「ああ…、よくわかったな」
「…あんたが先行しているなら、俺がやらなくてもいいのでは?」
「いや、それは駄目だ」
「何故」
「俺とあんたの世界は違う」
「…え?」
  どういうことだか、わからなかった。
「この世界は混沌としていて、混じり合う」
  同時に存在する平行世界と言うべきか。
「俺が存在している世界にあんたはいない。あんたが存在している世界に俺はいない。…いないからこそ、混じり合ったときに生身の姿で共存できる」
「…よく、意味が」
「ああ、難しいな…まぁそれはおいおい、理解できるだろう」
「はぁ…」
「俺の世界では、…そうだな、俺は結構暇人だ」
「え、暇人?」
  この世界に最もふさわしくない単語を聞いた気がした。暇を持て余すことなんて、あるのか。
「そう。他の世界の人助けをしてまわったり、他の世界に侵入したりして遊んでいる状態だ…色々飽きて」
「……」
  男の言っている内容はよく理解できなかったが、他の世界に干渉することができるのだということだけは理解した。
「だからスコール、この世界であんたの役目を果たせるように協力してやろうか」
「え?」
「暇つぶしっていうやつだ。他人の世界の行く末なんかに興味はないんだが、スコールがやりたいんだったら手伝おう」
「…それはありがたい話だが、何故だ?」
「俺より年下っぽい奴って、会ったことない」
「……」
「いや、もしかしたら召喚された時にいたかもしれないが、召喚主なんて興味ないしな」
「はぁ…召喚…?」
  また新たな単語の登場だ。覚えなければならないことが多すぎて戸惑う。
「…あー…俺余分に持ってないな…ソラールが持っている」
「そらーる?…何を?」
「不死街から不死教区へ入る橋の袂にいることが多いから、忘れずに話しかけてみるといい。あいつはいいヤツだ」
「…結構先ということか」
「ああ…そうだな…まぁ、一緒に行けば問題ないな」
  本当に、親切な男だった。それともそれほどの暇を持て余しているのか。一体どんな状況なんだと興味が沸いたが、相手の世界のことを気にしている余裕はスコールにはないのだった。
  この地に慣れ、ある程度余裕ができてからにしようと思い、立ち上がる。
「もう出かけるつもりか?」
「…都合が悪いか?」
「いや、全然構わない」
  立ち上がった金髪の男は、少し身長が低いようだったが体格はしっかりしていた。
  真っ直ぐ見つめられ、スコールも見返す。
  何を言うのかと思えば、「俺が来た道を上がって道なりに進め」と言い、一人で逆方向へと歩き出した。
「え?あんたどこへ行くんだ?」
「道なりに進んだ所にサインを出しておくから、召喚してくれ」
「…は?」
「後で説明する」
  振り返ることなく片手を上げて、下へと降りて行った。そちらには牢に入れられた聖女がいて、さらに下もあるようだったがスコールはまだ何があるのか知らない。
  サインというのは、時折誰かが残したメモのような走り書きを見かけることがあったが、それと似たようなものだろうか。
  わからないことだらけの世界だったが、進まなければならなかった。
  スコールはクラウドに言われた通り、細道を上がり待ち構えるように襲い掛かってきた亡者を倒し、道なりに進む。崖沿いに細く作られた道、石で出来た細い階段で襲い掛かられるのは心臓に悪い。
  腹を蹴り飛ばして崖から落としてやれば、敵の物と思われるソウルが降ってきた。
  亡者は殺せば死ぬ。
  不死人との違いは一体何なんだろうと思いながら、下水道に入り水路を抜けて、じめじめした汚臭漂う通路を上がれば城下町へと出た。ここが、不死街か。
  不死街というだけあって、亡者化した敵は数え切れないほど存在した。
  肉も皮も削げ落ち目は落ち窪んで暗かったが、瞳だけは爛々と真紅に輝いていた。ボロ布を纏い錆びた剣と盾を振り回し、一端の剣士もいれば弓を構えて射かけて来る厄介な亡者も存在した。
  俺もああなるのかと思うと憂鬱な気分になれた。
  正気を手放してしまえばどうでもいいことであったが、出来ることならまともなままでいたかった。
  その場にいた敵を一掃し、足元のサインに気づく。
  それは白く輝いて存在を主張していた。
「これか…?」
  触れてみればそのサインを書いた人物が浮かび上がる。クラウドだった。
  召喚しろと言っていた。言われた通り、意味もわからず召喚すれば白く身体を輝かせ、半透明のクラウドが現れた。
「…さっき会ったあんたと少し見かけが違うようだが…」
  戸惑いを隠しきれず言葉を投げれば、軽く一礼して見せクラウドが口端を引き上げて笑う。
「霊体だからな。…さっきも言ったが、世界は混じり合うが移ろいやすい。実体のままではいつ世界がずれてしまうかわからないが、霊体として召喚してもらえれば、一定時間はこの世界で安定して存在できる」
「…あぁ、なるほど」
「霊体とは言っても、実体と同じように敵と戦える。俺はあんたの仲間と言うわけだ」
「心強い限りだ」
「…そう言われると、照れるな」
  何故照れる。
  首を傾げたが、クラウドは一つ咳払いをして「行こうか」と言った。
「ああ、だが道がわからない」
「…あんたは色々探検したいタイプか?それともさっさと目標をクリアしたいタイプか?」
「無駄なく探検しつつさっさと目標をクリアしたい」
「わがままだな!」
  呆れたツッコミを入れられたが、事実だから仕方がない。憮然としたが、クラウドは寛容に頷いた。
「先導して良ければ」
「ああ、任せる」
  右も左もわからない世界だ。一人で戦々恐々と亡者の群れの中を進むのは気が滅入る所だが、頼もしい味方がいてくれるのだからありがたかった。
「亡者もいるがデーモンもいる。ドラゴンもいるしネズミもいる。…ネタバレせずにその場で楽しみたいタイプか?スコール」
「いや全く。事前に情報を提供してもらえるなら対策も練れるというものだ」
「あんたいいな」
「は?」
「助けがいがある」
「…どうも」
「では目標ガーゴイル討伐、一つ目の鐘を鳴らす」
「…時間かかりそうだな」
「そうでもない」
「そうなのか?」
「俺がいるから」
「あぁ…そうですか…」
  随分な自信だな。
  だがすでに攻略済みであるなら、大言壮語も納得だった。
「一つ注意。死ぬなよ」
「…善処するが」
「死ぬと霊体との接続が切れてしまうんだ」
「わかった」
  では、と大剣を構え迷いなく突き進んで行く男の後姿を追う。
  敵の動きを知り尽くした者の行動を見せて薙ぎ払っていく背中は迷いがなかった。
  背後に回りこみ致命の一撃を与え、敵の武器を弾いて急所を狙う。
  一撃で沈む亡者は雑魚だと言い捨て、速度も落とさず突き進む。
  強めの敵やデーモンも、クラウドにかかれば敵ではなかった。
  何だろうこの男。
  恐ろしい程戦闘慣れしていた。
  というよりも、敵の動きが事前にわかっているとしか思えなかった。
  霊体として他の世界で人助けをしていたとも言っていたから、すべて把握しているのだろう、無駄がなく効率的で的確であった。
  スコール一人であったなら、おそらく死なずにはいられまい。
  これほど頼りになる味方がいてくれることに感謝した。
  気づけば不死街を抜け、橋へと到達していた。
「…こっちにソラールがいる」
「ああ、さっき言ってた…」
  何かを持っていると言っていた人物が、夕陽を見上げて黄昏ていた。
  近づけば振り向いて、「おお貴公!どうやら亡者ではないようだな」と気さくに声をかけてきたその顔はバケツのような鉄の兜に覆われわからなかった。
  頭頂部分に羽飾りをつけ、胸部には太陽の絵がついており、持っている盾にもシュールな顔つき太陽の絵が描かれていた。なんとも個性的な人物であった。
「俺はアストラのソラール。見ての通り、太陽の神の信徒だ」
  わかりやすい。確かに太陽以外を信奉していたらその存在に疑問を抱く。
  その男は不死となり、大王グウィンが生まれたこの地に太陽を探しに来たのだと言った。スコールには意味がわからなかったが、ソラールは気にするなと豪快に笑ってみせた。いい奴そうだ。
  互いに助けになろうじゃないかと言われ、亡者ばかりのこの場所で味方が増えるのは心強いことだと思い頷く。
  こちらも名乗れば喜ばれ、白いサインろう石をくれた。
  これがクラウドが言っていたアイテムか。
  このサインろう石でサインを書けば別の世界に助っ人として召喚され、また同じようにサインを見たら召喚する事ができるとのことだった。
  余程太陽が好きなのだろう、しばらく見て行くと言われその場で別れた。
  少し離れた所で待っていたクラウドにアイテムを見せれば、「それは捨てずに持っているように」と言って笑った。
「…いつか、この借りを返せる時が来たらサインを出すから召喚してくれ」
  今はまだ無理だが、と言えば嬉しそうな顔をした。
「まだ先は長い。さくさく行くか」
「ああ、よろしく頼む、クラウド」
「任せろ」
  橋を渡り、炎を吐いて焼き払おうとするドラゴンをかわして不死教区へと飛び込んで、ひたすら亡者を倒して行く。
  敵を知っていて、道を知っているクラウドに怖いものはなさそうだった。
  教会の中に踏み込み毛色の違う人型のデーモンすらも薙ぎ倒し、上を目指す。
「…囚われの身の不死人がいるが、助けるか?」
「…助けられるものなら」
「そうか、じゃぁこっちだ」
  木を打ちつけた隠し扉を破壊して、牢に閉じ込められた全身金色鎧の男を救い出す。
  カリムの騎士ロートレクと名乗った男は不吉な笑い声を上げ、あとで礼をすると言った。あとでとは、いつだとクラウドを見れば、助けた奴は祭祀場へ集まるものだと言われてそういうものかと納得する。
  ひと段落ついた後、祭祀場に戻ればいいかと思い直してさらに上へ。
  屋上へと続く入り口前に、太陽色に輝くサインを見つけた。何だこれと言えば、太陽の神を信仰するもののサインは太陽色に輝くのだと、クラウドが博識ぶりを披露した。
「…これさっきのソラールか」
「ああ、あいつは結構強い」
「…召喚するか?」
「いや、必要ない。…二匹目の炎をくらわないように」
「…二匹出るのか…」
「体力は多くない。すぐに削りきれる」
「…わかった」
「で、これを倒すと接続が切れる。…先に進んで、上に上がって、鐘を鳴らしたら祭祀場に戻ってきてくれ。俺はそこで待ってる」
「ああ、わかった」
  本当に、親切な男だった。
  この調子なら二つの鐘を鳴らすのもすぐなんじゃないかと思う。
  …どこまでこの男が手伝ってくれる気なのかは不明だが、好意はありがたかった。
「じゃ、どうぞ」
  スコールに先に行けと脇に避けて促し、クラウドが大剣を構えた。
「あぁ」
  教会の屋根の上、オブジェのガーゴイルが動き出し、巨大な斧を振り下ろす。
  向かって行くクラウドに負けないように、スコールもまた武器を構えた。


02へ
細かい所で色々設定無視してますがそこんとこはご愛嬌。

DARK SOULS-01-

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