人間性を、捧げよ。

  ふと我に返って隣を見れば、世界がずれたようでクラウドの姿はなかった。
  自分は一体何をやっているのか、醜態にため息が漏れる。
  呆けている場合ではないのだ。
  世界の蛇カアスに言われた通り、四人の公王、墓王ニト、白竜シース、魔女イザリスから王のソウルは手に入れた。王の器に献じれば、火継ぎの祭壇の扉が開いて大王グウィンへの道が開かれる。
  これで終わりか。思えば早かったなとスコールは振り返った。
  最初からここまで、一人ではなかった。
  目的に向かって最短ルートで走り攻略してきた。白い霊体を召喚し、エリア攻略を手伝ってもらう権利は生身の不死全てが持っていたが、誰もが死ぬことなく生身のまま、人間性も失わずに旅ができるわけではない。どれだけの手練れであろうとも進行は困難を極めるはずであり、進んで手伝いを申し出たあのクラウドすらも数え切れない程死んできたと言うのだった。世界の全てを把握しているかのようなあの男でさえだ。
  知識と経験によって今のクラウドがあるのだろうことは理解している。あいつに手伝って貰えたことは幸運だったのだろうことも承知していた。
  俺には経験が足りない。
  死んでもがき苦しんだ経験がない。
  もちろん死にたいとは思わないし苦しみたいとも思わないが、導かれ敷かれた道は綺麗だった。
  後悔はしていない。感謝している。
  だが、それでは駄目だということに気がついた。
  グウィンに勝てるかどうかはさておいて、このまま火を継いでしまっていいのか。
  俺はまだこの世界の全てを知らない。
  クラウドのように、自由を手に入れてから世界を歩き回ってもいいのだろう。その方が気楽で安全で制約もなく、世界も平和なのだろう。でもそれでは駄目だ。
  今のこの世界を見ておかなければ。
  またクラウドは心配するかもしれないが、今この時世界を回っておきたかった。
  一度通った道だ、それほど時間はかかるまい。
  立ち上がり、さてどこから行こうと考える。
「…そういえばセンの古城の地下がまだだったな」
  あの時召喚したジタンがアイテムがあると言っていた。攻略を優先したので結局行かず終いだったのだが、せっかくの機会だ、アイテム回収の為に行ってみてもいいかと思う。
  不死教区から抜けて向かおうと踵を返しかけたが、篝火に向かって歩いてくるタマネギ兜を見つけて立ち止まった。向こうも気づき、礼をした。   
「お久しぶりです。またお会いできましたね。やっと、父を見つけました」
  娘と父の違いは武器だった。それ以外は同じ甲冑で顔も体型もわからずそっくりなので、喋るまで判断がつかない。
「そうか、会えたんだな」
「はい。あなたにも、何度もお世話になったそうで…ありがとうございます。おかげさまで、母の言葉を伝えられました…」
  悔いはありません、と言ってジークリンデは父親に似た朗らかな笑いを漏らす。肝心の父親はどうしたと問えば、最後の探索に向かったと言った。
「ジークマイヤーらしいな」
  一つ所に留まらず、英雄の嗜みだと言いながらふらふらと歩き回るタマネギ姿は微笑ましいくらいだったが、一人で探索する危険性については良く知っている。
  あのおっさんは弱くはなかったが、歴戦の戦士が亡者と化していくのを目の当たりにしてきた身としてはあまり推奨できるものでもない。
「いいんです。それが父ですし、不死になっても父らしくて…嬉しいくらいです。もし父が、心を亡くしたら、何度でも、私が殺せばいいんですから…」
  覚悟を決めてこの地に来たのだろう、娘の言葉に迷いはなかった。
  強い女だった。
  少し休憩していくと言った娘に別れを告げて、センの古城へと向かう。
  気まぐれに、初めて白いサインを書いた。
  果たして俺の力は助っ人として通用するのか、それとも否か。
  召喚されるまでの間は地下でアイテム回収でもしていようと、ギロチンの刃が振れる通路を進んだ所で召喚された。
  突然身体が引っ張られる感覚があり、視界が暗く閉ざされる。
  目を開ければそこは古城入り口で、召喚主は若い女だった。
「よろしくお願いします。ティナです」
「スコールだ。…よろしく」
「僕はオニオンナイト。よろしく」
  もう一人の白い霊体は見るからに子供の外見をしていたが、先導するように前を歩いて進んで行く様子は子供というより手馴れた勇者のようだった。
  一度通った道で迷子になることはない。
  ギミックをかわし、敵を倒し、落下死しないよう注意しながらボスエリア目指してただ進む。
  少年は丁寧にここには何があって、ここは何が危険だということを召喚主である少女に逐一説明し、少女は黙って頷きながら「物知りなんだね」と褒めていた。
「いやぁ、そんなことないよ。何度も助っ人をやっているだけで。面白いしね、ここ」
「初めてだと、怖いよ」
「任せて!その為に僕たち霊体がいるんだから。ねぇ、スコール」
「…ああ、そうだな」
  少年少女も旅をする。ろくでもない世界だった。
  ボスエリア前で闇霊に侵入され、バッツの霊体がクラウドに突き落とされて殺されたことを思い出し、何とも言えない気分になった。
  ここは通路も狭く、ボスエリア前の空間も戦闘するには狭すぎる。
「…ティナ、ボスエリアに入って闇霊との接続を切ってくれ」
「え、うん」
「待ってティナ、倒せばいいよ。こっち三人だよ!」
  元気良く少年が武器を構え、止める間もなく細い通路を走る闇霊の後を追いかける。
  闇霊は奇声を発しながら通路を飛び跳ねるように移動し、オニオンナイトを挑発した。易々と乗った少年は吹き飛ばされて通路の端に飛ばされた。
  あれは奇跡の技だった。
  周囲に強い衝撃波を発生させ、敵を吹き飛ばしながらダメージを与える事ができる。発動が早くかわしにくい。足場の悪い通路では不利だった。
  少年に近づき起き上がる瞬間を狙って連発する。
  成す術なく少年は通路下の踊り場に落ち、そこから戻ってくるには遠回りせねばならなかった。
「ひどい、ケフカ!」
  ティナが非難を込めて叫ぶが、闇霊は耳に手を当て首を傾げた。
「はー?なんですかー?キコエマセーン!」
  闇霊はムカつく程に立派な邪魔者を演じてみせる。ティナが向かって行くのを制しようとするが、呪術の炎を飛ばして闇霊へと攻撃を始めた。
「…おい、下がれ。通路は不利だ」
「ケフカはいつも邪魔をするの!何度も殺されたの!」
「……」
  なら尚更放置してボスエリアに入るべきだろうと思うが、少女は頭に血が上っているようで聞く耳を持たなかった。
  仕方なく、スコールが前に出る。
  霊体は召喚主の盾として使え、とはクラウドの言だ。霊体は死んでも何のリスクもないのだから、当然だと思う。
  闇霊ケフカは少年を吹き飛ばした衝撃波を放ってくるが、タイミングを見計らって懐に飛び込めば食らうことはない。立ち上がり様剣を薙ぎ払うが、ケフカは身軽にスコールの身体を飛び越した。
「…な…!」
  振り向いた時にはすでに少女へと迫り、衝撃波を放っていた。
「キャァ!」
  甲高い悲鳴を上げて、ティナが吹っ飛んだ。ボスエリア前の狭い空間に入り込み、姿は見えないがケフカはひたすら同じ技を連発している。
  起き上がり様を狙われては防ぎようがない。ハメ技というやつだった。
  舌打ちし、技の合間に背中を狙うが軽くかわされた。
  オニオンナイトが必死に通路を駆け上がってくるのが視界の端に映るが遅い。少女はすでに瀕死だ。
  この闇霊は人を殺すことに慣れていた。
  庇うように前に立ち、剣を構えるがこの狭い地形では。
  熟知した闇霊の作戦勝ちというやつだ。
  もう一度、衝撃波を食らわない位置まで下がれと言ったが、少女は闇霊を睨みつけたまま動かない。
  言うこと聞けよと叱りつけたかったが、闇霊の高笑いに気が逸れた。
「ぼくちんの勝ちィー!まったねーん!」
  結局道化のようなこの男は衝撃波しか使わなかった。「神の怒り」という名の奇跡は、自身の周囲のものを吹き飛ばす。
  盾替わりに少女の前に立っていても無意味だった。
  共にダメージを食らい、共に壁に打ち付けられた。
  瀕死だった少女が悲鳴を上げて死んだ。
  強制的に接続が切れ、元の世界に戻される。
  消える瞬間まで音程の外れたオルゴールのように笑い続ける闇霊の声が鼓膜にこびり付いて離れなかった。
「…ムカつくなあの野郎…」
  自分の世界に戻されて、スコールは吐き捨てた。
  勝つ為だけの作戦。召喚主を殺す為だけの作戦だ。
  あの場合、闇霊は放置してボスエリアに突入して闇霊を排除するか、自分は安全な所にいて霊体に相手をさせるかするしかない。
  向こうは生身を殺そうとやってくるのだから、余程勝つ自信がない限り向かっていっては自殺行為だ。
  相手に技を使わせないことが大前提で、使われてもかわせないなら近づくべきではない。
  色んな奴がいるものだ。勉強になった。
  地下に下り、当初の予定通り首なしデーモンを倒しながらアイテムを回収する。パターン化された敵の動きは把握してしまえば怖くはなかった。
  梯子を上がり、他に回収し忘れているものはないかと少しうろついてみるが、後悔した。
「…今度はあんたかよ…」
  魔術師ローガンの弟子、グリッグズが亡者化していた。
  ローガンと共に書庫に向かったはずだったのに、こんな所で力尽きてしまったのか。
  子弟揃って魔法の矢を放ってくるのをかわしながら、一撃で止めを刺してやる。せめて苦痛は少ない方がいい。
  やはり出かけて行った者は皆亡者化しているようだった。
  嫌になる。
  一旦戻り、病み村へ向かった。
  クラーグの住処から逆走すれば、一から長い道を延々歩いて来なくて済むのは楽だった。
  毒の沼地をぐるりと一周して、アイテムを回収する。
  生理的嫌悪感を催す敵を容赦なく斬り捨て、陸地になっている狭い足場に引っかかっている死体に眉を顰めた。通り過ぎようとして、黒いローブを身に纏った人が座り込んでいるのが目に入る。
「……」
  視線を向ければ、目深に被ったフードが僅かに揺れて、覗く口元が笑みを刻んだ。
「ほう…不死者が、私の姿が見えるのか?おもしろい…」
「…あんたは?」
「私はイザリスのクラーナ。人の身で私の姿を見る者は久しぶりだ…。才もある。お前も、私の呪術が目当てなのか?あのザラマンのように」
  イザリスのクラーナ。魔女イザリスの娘だった。
  こんな所で会えるとは思いもしなかったが、敵意はなさそうだ。スコールは頷いた。
「教えてもらえるなら」
「だったら、お前を私の弟子にしてやろう」
  教えてくれたのは魔女グラナが使っていたものと同じ、混沌の炎の魔術だった。ラレンティウスに教わった呪術とは趣が違うと思ったが、クラーナは自らの使う術を呪術と呼んだ。
「…ザラマンって、誰だ?」
  問えば魔女は低く笑い、かつて一人だけ取った弟子の名前だと言った。
「と言っても、二百年以上前の話だが…お前達の世界では、呪術王ザラマンなどと呼ばれているかな。あの小僧がまったく、偉そうになったものだよ…」
「……」
  覚えがあった。呪術王ザラマンとは、呪術の祖と言われる人物だった。ザラマン以前に人の世界に呪術が存在したと言う話は聞かない。この地にやってきて、この魔女に師事したというのだった。
「呪術とは、炎の業、炎を燈し、それを御する業だ。だがいいか、これだけは覚えておけ。炎を畏れろ。その畏れを忘れた者は、炎に飲まれ、全てを失う。もう、そんなものは、見たくないんだ…」
「それは廃都イザリスのことか?」
「…お前、知っているのか、イザリスを」
「ああ、行って来た」
「…そうか…」
  しばし考える様子を見せ、魔女は顔を上げた。
「私の母イザリスは、かつて最初の王の一人だった。最初の火のそばで、ソウルを見出し、その力で王になったんだ」
  それは知っていた。
  神話として語られる火の時代の物語だった。
「…そして母は、その力で自分だけの炎を燈そうとして…それを制御できなかった。混沌の炎は母も、妹達も飲み込み異形の生命の苗床になってしまった。だが、私だけは逃げ出して、こんな所にいる。母も、妹達も、ずっと、ずっと、苦しんでいるというのに…。母の野心が不遜であったとて、千年だ。もう償いは済んでいるだろう…」
「ああ、…倒してきた。王のソウルを、手に入れてきた」
  目の前で座る魔女の母や妹達を殺してきたというのは気が引けたが、素直に言えばクラーナは深く頭を下げた。
「お前…そうだったのか。ありがとう…」
  これで母も妹も救われると魔女は言った。
  人を殺して礼を言われる日が来ようとは予想外で、戸惑う。
「さぁ、行ってくれ。短い間だったが、お前に会えて良かったよ」
「…ああ」
  この魔女もまた、救われたのだろうか?
  イザリスの娘達の中で残っているのはもうクラーナと、蜘蛛姫しかいない。クラーナがこんな毒沼にいるのは、妹を気遣っているからなのだろうか。
  そこから動かない魔女に一礼し、スコールはその場を去る。
  この病み村下層の毒沼は広かった。
  一周してみたが、まだ立ち寄っていない場所がある。
  クラーグの住処から逆方向へ進んだ先、一際目立つ大きな樹があった。攻略ルートからは外れている為気づきにくいが、行ってみると大木の木の根が張っていて登れるようになっていた。
「…あれ」
  足元に一つ、メッセージがあった。
  『隠し通路』
  見たところ木の根に塞がれ行き止まりになっているようだったが、触れてみると幻のように塞いでいた根が消えて通路が現れる。行き止まりにはアイテムがあったが、さらに『隠し通路』のメッセージ。
  こんな所に、一体何が?
  さらに通路が現れた。
  ここは初めて来る場所だ。油断は出来ない。
  ゆっくり進むと大樹の中のようだった。上には行けず、通路のように張り巡らされた木の根を伝ってひたすら下へと降りていかなければならないようだが、果てがなかった。どこまで続いているのだろう。
  ぽつんと置かれた篝火に火を灯し、さて気合を入れて行くかと立ち上がるが、足元に輝く白いサインに気がついた。
  誰のサインかと確認し、スコールは目を見開いた。
「……」
  何でこんな所に。
  放置しておいていいのだろうか。
  …いや、いいわけないよな…。
  召喚すれば、現れた白い霊体が静かにスコールを見て、一礼した。
「クラウドです。よろしく」
「…何言ってんだあんた。何してんだ、あんた。何でこんなとこにいるんだ、あんた」
「三段活用か」
「…俺が来なかったらどうしたんだ、あんた」
「四段活用か。来ると思ってた。…まぁ、来るまで待つつもりだった」
「…何でだよ」
「祭祀場にあんたがいなかったから、大体想像はついたし」
「……」
  読まれていた。
  スコールは内心居たたまれない気持ちになる。どうせ子供の癇癪だとでも思ったのだろう。
「行こう。ここを抜けて行くと、古竜がいる」
「…巨人墓場で見たあの湖か?」
「そう。静かで綺麗な所だ」
  ここは大樹のうつろと言うのだとクラウドが言い、ぐるぐると螺旋階段の変わりに木の根を下る。
  下まで降りると、敵がいた。
  不死街最下層にいたカエルような敵がおり、さらに下れば大小のキノコがいた。
「…森の中のキノコが」
「ああ、襲ってくるから、攻撃食らうなよ」
「…わかった」
  子供のキノコは近寄って来るものの攻撃はして来なかったが、まとわりつかれて邪魔だった。
  親キノコが大きく右手を振りかぶるのに合わせて避けるが、子供キノコを蹴り飛ばして引っかかる。
  邪魔なキノコをぶった斬りながら、クラウドはスコールに向かって行く親キノコを後ろから斬った。
  時々不意打ちで来る左ストレートが脅威だ。
  大樹の中をぐるぐる回り攻撃をかわしながら数を減らし、全て倒した頃には目が回りそうだった。
「…親キノコ強かったな…」
「強いっていうか…しぶとい」
「ああ…」
  疲労した。
  大樹の外が見えていた。
「そこから出たら灰の湖だ」
  一面灰色がかった白の砂浜が広がっていた。霧がかった青い空、紺碧の湖水はどこまでも続き、枯れた大樹が砂浜の中点々と墓標のように立っていた。
  ここは地上ではない。では広がる空は一体何なのだろう。
  美しく幻想的な場所だったが、静謐でそよぐ風はどこか寂しい。
  砂の上に踏み出せば、さく、と静かな音がした。
  壁のように塞がる倒れた大木に沿って歩き、ぐるりと回り込めば見通しの良い場所に出た。
  視界の端に、背を向けて立つタマネギの姿があった。
  娘のようだった。
  こんな所で何をしているのかと歩み寄る。
  娘の足元で同じ甲冑を着込んだタマネギが横になっているのが見えたが、首がありえない方向へ曲がっていた。
「…ジークリンデ」
  かける声は最小限に潜められ、気遣う色に染まった。僅かに首をこちらに巡らせて、娘は諦観を滲ませ呟いた。
「父は…この亡者は…もう動きません。誰にも迷惑をかけない。…これで、やっと終わり…。…私は、カタリナに帰ります」
「……」
「あなたには、色々とお世話になりました。私はもう、十分なお助けができませんが…」
  娘の声が震えた。
  動かない父親を見下ろし、嗚咽を漏らす。
「ああ、お父様…。お父様…!」
  不死ではない娘が、母の遺言を携えこの地にやって来たのはこの為だったのだ。
  父親が亡者となった時には、自らの手で殺す為に。
  国や時代によって不死の扱いは異なる。
  スコールがいた国において、不死は北の不死院へと幽閉すべきものとされたが、カタリナの不死は自由なようだった。
  不死ではない人間すらもこの地に来る事ができ、帰る事も可能なのだ。
  それは幸せなことなのか、不幸なことなのか。
  少なくとも、ジークマイヤーにとって不死になったことは不幸であったのかもしれないが、娘の手で死ねたことは幸せだっただろうと思う。
  ちょっと抜けた所のある、人のいいおっさんだった。
  瞑目し、踵を返す。
  ジークリンデは父親の亡骸の前で、静かに泣いていた。
「…スコール」
  クラウドは見ないようにした。心配そうな顔をしているだろうことはわかっているからだ。
「…古竜はどこにいる?」
「ああ、奥に」
「行こう。…古竜は何かあるのか?」
「いや、静かに座ってるだけだ。特に何もない」
「そうか」
  砂浜をひたすら歩く。
  まばらだった大樹がどんどん並木道のようになり、森のように増えて行く。
  突き当たりに、大樹に囲まれひっそりと佇む古竜がいた。
  敵意はない。見上げるほどの大きさの竜は四枚の翼を閉じ、目を閉じているようだった。
「かつての朽ちぬ古竜の末裔と言われているが、真実は定かではない」
「…そうなのか」
「動くことはないし、攻撃しても敵対することもない」
  ずっとここにいるのだとクラウドは言った。
  不思議な世界だ。
  生きた神話の中に、自分がいるのだ。
  そして神話と戦おうとしている。
「……」
  己は何者になるというのか。
  クラウドを見る。
  この男は、何者になったのか。
「…どうした?」
  怪訝に問うてくる男に頭を振って、戻ろうと促した。
「大王グウィンに、会いに行く」
「…そうか」
  クラウドは頷いた。口元に浮かぶ笑みは、一体何を思ってのことか。
  祭祀場に戻り、フラムトがいた穴の中へ飛び込む。
  火継ぎの祭壇に王のソウルを捧げれば石の扉が開いて、奥へと続く石段が現れた。
 
  大王グウィンが、待っている。


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DARK SOULS-11-

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