人間性を、捧げよ。

  牢の中で無残な死骸のまま放置されていた火防女の前に立ち、魂を捧げ持てばそれは白く淡く輝いて、吸い込まれるように死骸の中へと吸収された。
  身体全体が輝いて、流れ出し地面に吸われた血液が消えていき、斬りつけられた傷口は癒えていった。見ている前で生色を取り戻した火防女は、閉じていた瞼を開き、身体を起こして瞬いた。
  上の広場で、篝火に火が灯る音がした。
「…あ、ありがとう、ございました…」
  初めて女が喋った。か細く強さはなかったが、女らしい声だった。
「私は、アストラのアナスタシア。…あなたのおかげで、火防の任を、続ける事ができます…。そして…汚れた声をお聞かせしたことを、お許しください」
「…?どういう意味だ?」
「…すみません。私は汚れ、声を出すべきではありません。…ですから、もう…話しかけるのは…やめて下さい。お願いします…」
  クラーグの住処奥にある、篝火付近の蜘蛛姫は火防女だという話だった。
  アノール・ロンド最初の篝火にいた女騎士も、火防女だった。
  アナスタシアと名乗った目の前の牢の中に座る女も火防女だったが、立場は随分と違うようだ。血塗られたスカートは、ロートレクに殺害される以前からそうだった。
  自由がなく、閉じ込められているのも理由があるのだろうが、痛々しい姿である。
  彼女が蘇ったことで前の状態に戻った。篝火が使えるようになったことで良しとする。
  やはりこの祭祀場を拠点として動いた方が楽だったし、転送が可能となったことでより移動の幅も広がるだろう。
  ひとまず、大王グウィンの親友だと名乗った世界の蛇フラムトに王の器を手に入れたことを報告してやれば次の道は開けるはずだ。
  篝火へと向かうと、やたらと存在感のある乳白色の鎧男が立っていた。
「…ジークマイヤー?」
「おお、貴公。望外だ、こんな所で会えるとは」
  もはや愛嬌の塊と呼んでも差し支えないタマネギ兜が上下に揺れた。中身は肥満体のおっさんらしかったが、外見があまりに間抜けで憎めない。
「上では色々と世話になったからな、感謝しているよ」
「いや…俺は特に何も」
  アノール・ロンドからここまで戻って来たということは、この男もまた王の器を手に入れたのかもしれなかった。
  世界は混じるという話だったが、この男は果たして同じ世界、同じ時代に生きている男なのだろうか?もはや出会う霊体すらも同じ世界にいるのかそうでないのか、判断はつかない。
  太陽の戦士ソラールも生身の姿で良く出会ったけれども、同じ世界なのか違う世界なのかの区別はつかない。
  はっきりと違う世界だと言い切ったのはクラウドだけだった。
「あと、それとだ…よく思索してみたんだが、古城の門は…ありゃぁ、貴公の仕業じゃないのか?」
  二つの鐘を鳴らして開いた、センの古城のことかと頷けば、やはりそうだったか!と声を大きく喜んだ。
「門の前で立ち往生していたのだが、できすぎた偶然だと思ってはいたんだ。いや、ありがとう。カタリナのジークマイヤー、改めて貴公に礼を言おう」
「必要だったからな。気にするな」
  丁寧な一礼を送られ、戸惑う。
  あんたみたいなお人良しは長生きできないぞと言いかけたが、この世界でその台詞は洒落にならないので自粛した。
  これからまた探索の旅に出るという男に気をつけてと言葉をかければ、貴公も、と返される。
  この奇妙な世界で生きる生身の不死の存在は、心強いものがあった。
  共に戦ってはいなくとも、正気を保って生きている。
  歩き出したタマネギ姿を視線で見送り、篝火を見やればいつの間にかクラウドが座っていて驚いた。
「いつからいた!」
「…あんたがアイツと喋ってる途中から」
「……」
  ため息をついて、クラウドの隣に腰を下ろす。窺うような視線をこちらに向けてくるので、思い出した。
「そうだ。フラムトに、器を見せてくればいいのか?」
「…ああ、それもいいが…」
「何だ」
「見せる前に他の所に行っておこう」
「…どこに?」
「盗賊が襲ってきたりキノコが襲ってきたり骸骨が襲ってきたり幽霊が襲ってきたりする所」
「ろくでもないな」
「ああ、ろくでもない」
  まだまだ行くべき場所は多いらしい。うんざりする。
「効率のいい順番を頼む」
「…黒い森の庭、小ロンド遺跡、深淵、地下墓地、巨人墓地」
「…単語がまたろくでもないな」
  場所の名前が多すぎた。
「必要なものは?」
「不死教区にいる鍛冶屋のおっさんからアルトリウスの紋章を買うくらいかな」
「わかった」
  立ち上がり、出かける準備をするが見上げてくる金髪の男に動く気配はなかった。
  見下ろせば、視線が絡む。何かを言って欲しそうに、期待に満ちた顔をしていた。
  内心、スコールは舌打ちする。
「…あんた、手伝ってくれるのか?」
「スコールが必要とするなら」
「必要だ」
  仕方がない。
  これくらいはリップサービスというやつだった。
  真っ直ぐ見つめて言ってやれば、クラウドが嬉しそうに笑う。
「じゃぁ行こう。鍛冶屋から外に出たところで、サインを出しておく」
  わかりやすい反応に、見ているこちらが恥ずかしくなる程だ。
  一旦別れ、不死教区を抜けようと祭祀場からエレベーターへと向かう。
「…あれ」
  聖職者が一人、戻ってきていた。
「出かけてたんじゃなかったのか?」
  思わず声をかけていた。俺も随分お人良しになったものだと思う。
  振り返ったおかっぱ頭の聖職者は、動揺した様子でどうしようと呟いた。
「ああ、実は、お嬢様達とはぐれてしまったのです。八方手を尽くしているのですが見つかりません…」
「え?」
「どこに行ってしまったのか…お嬢様…私が命を賭けてお守りすると、誓っておりましたものを…」
「……」
  見つけたらその旨知らせよう、と聖職者に伝え、鍛冶屋へと向かう。
  言われた通り二万ソウルを支払って紋章を買った。外に出ればサインが出ていて、召喚する。
  振り返ってみれば祭祀場に運ばれてきてからずっと、常にクラウドと共にいる気がしたが気のせいではないだろう。
  不快ではないのでもういいのだが、クラウドは本当に暇人なのだということが証明されたのだった。
  自分の旅はいいのだろうか。
  それともすでに終了しているのだろうか。
  ここまで駆け足でやって来て、この男は先行しているどころではないのではないかと思い始めている。
  クラウドは火を継いだのか?
  グウィンの後継として、世界に存在しているのだろうか。
  だとしたら、それは自由だということだった。
  世界を歩き回り、暇を潰す。
  もはや使命もなく、火が消える心配もなく、神話の住人として生きることが可能だということだ。
  ならば、火を継ぐことを躊躇う必要はないのかもしれない。
  呼び出した霊体のクラウドは、目的を果たす前に寄るべき所があると言い、横道に逸れた。
  細く曲がりくねった下り坂を下りた先、淡く輝く光が見えた。少し開けた遠くに湖が見える。
「飛竜の谷にあった滝の下があそこに繋がっている」
「へぇ」
  飛竜の谷とは、病み村から祭祀場へと戻る際、ほんのわずか立ち寄った場所だった。
  あの道以外に進めばまだ色々と敵がいたりもするのだと言われたが、行く機会はあるのだろうか。
  湖に用があるのかと言えば否と返る。では何故と問えば、「救出と買い物と掃除」と簡潔極まる一文が返された。
  歩けば硬質な物質らしき塊に襲われ、湖からはでかい水の塊が飛んできた。
「…何だこれは!」
「…あの青い物体はクリスタルゴーレム。敵だ。水を飛ばして来ているのはヤマタノオロチ」
「は!?何か聞いたことあるなその名前」
「神話の世界の名だ。…ただ、ここにいる奴の首は七本だから正確にはヤマタノオロチではない」
「そうなのか。ではヒュドラとか。…ヒュドラは首九本か?七本て、半端だな」
「湖獣と呼ぶのが一番正しい。…まぁ、ヤマタノオロチと呼んだほうが夢がある」
「…夢って…」
  敵に夢を求めてどうするのか。
  ゴーレムはクリスタルというだけあって強靭だったが根気強く倒していき、水の塊はおそらくヤマタノオロチが吐き出しているのだろう、ものすごい勢いで飛んでくるその威力はクリスタルゴーレムすらも瀕死にする程であった。
  …敵同士なのに、容赦ないんだな。
  連携とか、協力とかいうものは敵の間には存在しないらしかった。
  大砲並みの威力を誇る水の塊をかわしつつ、ゴーレムを一掃し水際へ迫り、反応した竜が首を揺らして襲い掛かってくるのを斬り倒す。
  首一本一本の体力はたいした事なく、全ての首を潰してヤマタノオロチが消え去った。
「…拍子抜けだな」
「見掛け倒しの代表格だ」
  倒した後にはさっさと移動を開始する。寄り道の本当の目的はこいつではないらしい。
  水際を進み、滝前を通り過ぎて奥へ向かえば、黄金色をしたクリスタルゴーレムがいた。
「…あんな所に」
「あれを倒して中身を助けておくと後で助かる」
「ほう」
  ゴーレムの中に囚われていたのは古めかしい様式のドレスを身に纏った気品ある女であった。
「…貴方が、助けてくれたのですね…。ありがとうございます、深く、感謝します。私はウーラシールの宵闇。貴方とは違う時代、とても古い時代の人間です…ここに長く留まることはできません」
「そうなのか」
「ですから、このまま消えてしまう前に、一つだけ聞かせてください」
「…何だ?」
「私の故郷、ウーラシールは古い魔術の地です。その知識を、よろしければ恩人たる貴方のお役に立てたいのですが…。それは貴方に必要でしょうか?」
  同じような質問を隣に立つ男にもされたなと思いつつ、スコールは頷く。
「必要だ」
「そうですか!…それは嬉しいことです。それでは、私は、サインを残していきましょう。必要な時は、サインから私を召喚してください」
「ああ、わかった」
「今、必要なものはありますか?」
  魔術を提供すると言われ、全て手に入れた所で、もう時間がないと女が言った。
「お役に立てて光栄です。貴方に炎の導きのあらんことを…」
  宵闇と名乗った女も生身であったが、跡形もなく消え去った。クラウドと同じように、世界がずれたというやつなのかもしれなかった。
「…買い物って、これで良かったのか?」
  問えばクラウドは頷いた。
「光が後で役に立つ」
「そうか」
  来た道を戻りながら、ウーラシールという国の名を聞いた覚えがあることを思い出した。
「…ウーラシールは、確か二百年ほど前に滅んだ国じゃなかったか」
「この世界は時間も歪んでいるからな…正確に二百年かどうかはわからないぞ」
「え、そうなのか?」
「百年前の英雄が普通に生きていたりもする。…自分の世界では死んでいても、交わった世界が百年前ということもある」
「……」
  いい加減で恐ろしい世界だった。
「だがウーラシールの魔術はここでは一般的ではないことは確かだ。この地にやってくる魔術師は大体ヴィンハイム系だ」
「竜の学院だったな」
「ああ。魔術の総本山と言われる国家だ。…俺は行った事ないから知らないが」
  下層で助けた魔術師や、センの古城で助けた老魔術師ローガンも確かヴィンハイムから来たはずだった。
  もはや行くこともないだろう、人間の国だった。
  坂道を上がり、最初の道へと戻る。
「…そういえば黒い森の庭は、何が目的なんだ?」
  今更ながら行く先の目的を聞くのはどうなのかとスコールは自問する。本来ならば、これは自分で調べるべきことのはずなのだ。クラウドに頼りすぎている自覚はあった。
「アルトリウスは深淵の魔物と契約を交わし、深淵を自由に歩き回れる指輪を手に入れた」
「…大王グウィンの四騎士の一人だな」
「ああ。…紋章はアルトリウスの墓を封印する為にある。二万ソウル如きを集められない者に入る資格はないと言う、簡単なものだが」
「なるほど。指輪が目的か」
  石造りの堅牢な門の中央にあるくぼみに紋章をはめ込めば、光を発して封印が解けた。
  扉が開き、中に入る。
「…アルトリウスには友人がいた」
「友人?」
  中に踏み込み、緑に囲まれた薄暗い森を歩く。
  突然、魔法の矢が飛んできた。
「何だ!」
  走り寄って来たのは生身の不死だ。魔法を撃ってくるのをかわし、武器を構えるが倒していいものか迷う。
  迷っている間に、さらに姿を隠した半透明の騎士が剣を振りかぶって襲い来る。
「…おいクラウド、倒していいのか!?」
「相棒である大狼シフと、盟友である白猫アルヴィナ。今もアルトリウスとの盟約を守り、墓を守り、荒らしに来た侵入者を撃退するべく盗賊団を結成している」
「…おい、盗賊団ってこいつらか」
「そう」
「倒していいのか!?」
  暢気に説明をしている場合か!
  いつの間にかさらに聖職者の不死が増えていた。メイスを振り上げ、殴りかかって来るが当たってやる義理はない。
  三人相手に魔法を避け、剣を避け、メイスをかわすスコールの身軽さに感嘆の視線を投げて、クラウドが大剣を薙ぎ払えば三人まとめて吹き飛んだ。唖然とするスコールが視界の端に映ったが、構うことなく一人ずつ止めを刺して先へ進む。もう一人山賊風の男がいたが、これもまたクラウドは一撃で仕留め石造りの円形アーチの細道で立ち止まった。
「白猫アルヴィナの盗賊団に入りたければ、話しかけるといい」
  小さく作られた物見窓に、白猫が丸くなって見下ろしていた。
  神話の世界に生きていたはずのアルトリウスの盟友ということは、この猫も相当な歳を経ているはずだった。老猫と言って差し支えなかったが、不死を殺したことについて何を言うわけでもなく、仲間に入るかい?と気負った様子もなく問いかけてくる。
「…いや、悪いがそんな暇はないんだ」
「そうかい、いつでも気が向いたときに来るといいよ」
「…ああ」
  これから向かう先を知っているだろうに、そのことについては猫は何も言わなかった。
「…キノコ、倒すか?」
「は?」
  何故キノコ?
  頓狂な声が漏れてしまったが、クラウドは気にした様子もなかった。
「親子キノコ。…まぁ倒しても何もない。結構可愛げがあると思うんだが、スコールあれ見てどう思う?」
「…エリンギみたいだな」
「ああ」
  子供キノコは膝丈ほどの大きさで、二本の手を持ち、二足歩行をしていた。
  短い胴体…と言っていいのか迷うが、よたよたと覚束なげに歩く姿は愛嬌があると言われたらそうかもしれない。
  森の中を、小さなキノコが歩き回っているのはなかなかにファンタジーだが、何故こんなところにキノコがいるのか、理由を聞いてもクラウドは知らないと言う。近寄っても襲い掛かってくる気配はなく害もない。
  だが奥にいる親キノコ、お前は駄目だ。
  子供キノコがそのまま大きくなった姿だったが、人間よりも大きな身の丈で、寸胴であり、太い両腕と両手は赤黒い物に汚れている。
  …撲殺した後か、あれは血か。
  お世辞でもまかり間違ってもとち狂っても、あれが可愛いとは言えないし言わないし言ってはならない。
「…あんたの美的感覚おかしいんじゃないか」
「え?何で?」
「親キノコは凶悪だろ。あれはグロテスクと言うんだ」
「あれはあれで面白いんだぞ。ボクサーもびっくりの打撃能力だ。モーションが遅いからかわすのは容易いんだが、たまに不意打ちで左が来る。食らうと一撃死する。笑えるんだこれが」
「…あんたおかしい」
「そうか?…あ、親キノコは襲ってくるから近づき過ぎるなよ」
「……」
  言われなくても近づきたくありません。
  ファンタジーとグロテスクが融合する薄暗い森を歩く。
  所々発光する花が行く手を優しく照らし出し、敵さえいなければ幻想的で美しい場所だと言えた。
  石橋を渡った先に、封印されていた扉と同じ物が存在している。
  この奥に、アルトリウスの墓があるのだろう。
「…スコール」
「…何だ?」
「俺ここは戦いたくないかも」
「は?何故?」
「……」
「何故?」
「……」
「おいクラウド」
  ここまで来て戦いたくないとは何だ。
「入ればわかる…心が痛む」
「……」
  意味がわからなかった。
「…まぁいい。じゃぁ離れて見てろ。…注意点は?」
「…攻撃をかわしつつ、潜り込め」
「?…わかった。では行くぞ」
  紋章をはめ込み、扉を開く。
  広い空間だった。
  静謐であり、緑と水に満たされた美しい墓所と言って良かった。
  中央に大きな墓石があり、その前には装飾の美しい大剣が突き刺さっている。「深淵歩き」アルトリウスは巨人だったのだろうということは容易に想像できた。
  近づいて、大剣に触れてみる。
  猛々しい遠吠えが聞こえ、見上げれば黒い何かが落ちてきた。
  突き刺さっているのと同じ、刀身が蒼く輝く大剣を口に銜えたそれは。
「…でかい犬…!」
「違うスコール、それは狼だ!」
  速攻でクラウドにツッこまれた。
  毛並みが艶やかとまでは言いがたかったが、柔らかそうで温かそうだ。優美で無駄のないシルエットは野生の獣らしくしなやかで、見下ろす瞳は敵意に満ちて輝いていた。
「…シフか」
「そうだ。狼なんだ!」
  だからどうした。
  スコールはツッこみたかったが、俊敏な動きで振り回される大剣をかわして懐に飛び込むのに必死でそれどころではない。
  攻撃を加えるが、身軽に飛んで逃げられる。
  大剣を振り回しながら近づいてくる狼の攻撃を、かわしながら懐に飛び込むの繰り返し。
「癒されるだろ、スコール」
「…癒されるか馬鹿!油断したらこっちが死ぬんだぞ!」
  クラウドは本当に見ているだけだった。え、何だこの役立たず。しかもシフの応援をしていて、スコールが狼を傷つけるたびに痛そうな顔をした。
「何なんだあんた!どっちの味方だよ!」
「もちろんスコールだ。だが狼は強くあって欲しい」
「知るか!」
  瀕死になったシフの足元がふらついた。
  それでも墓を守る為、最後の力を振り絞る。
「…相棒の為に命を賭けて戦っているんだ。感動的じゃないか」
「もういい黙れあんた不愉快」
  こちらだって動物虐待は趣味じゃない。戦わずに済むものなら戦いたくはないのだ。だが必要なアイテムがあり、倒さなければ手に入らなくて、諦めるという選択肢は己の中には存在しない。
  ならば戦うしかないではないか。
「…あ、忘れてたが指輪を手に入れたら、祭祀場に戻ってきてくれ。接続が切れてしまうな」
「…っ、ああ、わかった!」
  止めの一撃。
  シフが大剣を口から落とし、力なく倒れて消えた。
  心が痛む、ああ、なるほど。
  だが倒さなければ先に進めないのだった。
  アルトリウスが魔物と契約し、手に入れたという指輪は草色で細身のデザインであった。
  こんな華奢な指輪一つで、深淵を歩き回れるようになると言う。…そもそも深淵と言うのがどういう場所であるのか知らなかったのだが、そこも行かねばならない場所なのだとクラウドは言った。
  次の場所は、小ロンド遺跡か。
  それすらも、どこにあるのかスコールは知らない。
  さすがにこれはまずいのではないかと思うが、聞けば教えてくれる生きた辞書がすぐ側にいて、力を貸してくれるのだった。
  …どこまで頼っていいものか、迷う。
  そもそも、フラムトに器を渡せば次の道を示してくれるはずではなかったか。だがクラウドは渡す前に他の場所を回ると言う。その意味を、知りたかった。
「…戻って聞くか…」
  何もかもを知っているだろうクラウドに任せておけば楽だろうとは思うが、出来ることは自分でやるべきだった。
  この世界で、火を継ぐか継がないかはスコールが自分で決めるしかないのだ。
  祭祀場へと戻りながら、後味の悪い戦いだったなと振り返る。
  この世界は容赦がない。
  一つ躊躇ったら、先へ進む事ができなくなるのだから気が休まる時がなかった。


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