人間性を、捧げよ。

  クラウドの世界と混じる前に、スコールは情報収集する為に歩く。
  篝火付近に座っていた心折れたはずの戦士は、やる気を出して旅に出たようで姿はなかった。おかっぱ頭の聖職者は未だ一人で佇んでおり、下層で助けた魔術師とセンの古城で助け出した老魔術師ローガンは師弟関係にあるようで、並んで祭祀場の端の方で休憩していた。
  近いうちにローガンは公爵の書庫へ赴く予定だと言った。聞き慣れない単語に首を傾げれば、白竜シースが研究用に引きこもっている書庫なのだと言った。
「…白竜シースって、古竜を裏切って大王側についた竜?」
「その通り。大王グウィンより王のソウルを分け与えられ、公爵の地位を与えられたウロコを持たぬ竜。…ウロコを作りたいが為、あらゆる書物を集め知識を極め研究を重ねている」
「…なるほど…」
「魔術のさらなる進化の為、かの書庫は訪ねなければならぬ場所なのだよ」
「それはどこにあるんだ?聞いたことないが」
「…それは、お前さん次第だな」
「俺…?」
「突如現れた世界の蛇。…あれが道を示してくれるだろう」
「……」
  王の器を手に入れなければ、行けない場所ということなのだろうか。
  口ぶりからすると、自分で王の器を手に入れてどうにかしようというつもりはなさそうだった。俺任せかよ、とスコールは思ったが、どの道先へ進まねばならぬのだから書庫への道は開けるだろう。
  それにしても、とスコールは地面に座り込み、帽子で完全に顔のわからなくなっている老魔術師を見下ろした。
  不死であっても、火を継ぐ旅をするだけが全てではないのだという実例が目の前にいた。
  誰かの旅の進行具合に左右される目的ではあったけれども、純粋に魔術の知識を得る為に生きるという手段もあるのだった。
  ローガンに師事する隣の男はグリッグズと名乗ったが、男も火を継ぐのが目的ではなく、ローガンについて魔術の研究をする為に旅をしているのだと言った。
  …誰かが火を継がねば人の世界は永遠に夜に閉ざされてしまうわけだが、その点については完全に人任せなのか。誰かがやってくれるだろうという甘い目論見なのか。
  スコールはまだ継ぐとは決めていなかったが、他の誰かが継いでくれたら自分は好きな事ができるのだろうと思うと心惹かれるものはあった。現実問題「好きなこと」などこんな呪われた不死の地であるはずもないのだが、人間に戻り、帰れるものなら帰りたかった。
  それが不可能であるのなら、使命とやらを果たす以外にないのだった。
  最下層で樽に入れられていた呪術師は大沼出身のラレンティウスと言った。
  呪術は嫌いか?と問われたが、好きも嫌いもなかったので嫌いではないと答えれば大層喜び、呪術が使えるようになると言って呪術の火をくれた。
「呪術の火ってのは、呪術師の体の一部なんだ。皆、これを大事に育て、自分の術を高めていく。だから、あんたに渡した火は俺の一部でもある。せいぜい大事にしてくれよな」
  この世界に「魔法」と呼ばれるものは複数存在した。
  聖職者が使う「奇跡」、魔術師が使う「魔術」、呪術師が使う「呪術」。
  「奇跡」はタリスマンを触媒に信仰心によって神の力を呼び出す魔術系統の一種であり、経典である神の物語を学習することで身につく。信仰すべき神の名は「主神ロイド」であり、それは大王グウィンの叔父にあたる人物だった。不死を狩る者として知られ、ロイドの騎士は不死と化した者を「北の不死院」へと護送する役目を負う。彼を信仰する者が不死となった場合には、最初の火を継がせるために、ロードランへ巡礼者として送り込んでいた。主神ロイドは「人間の」神である。朝と昼を奪われた人間の世界はロイドの欲する所ではないのだろう、そう考えれば神といえども考えることは利己的であると言わざるを得なかった。
  「魔術」は杖を触媒としてソウルの力を顕現させる技術だった。主にヴィンハイムの竜の学院で研究されているが、力としてソウルを飛ばして敵を攻撃したり、武器に魔力を付与して攻撃力を上げるなど、主に攻撃に特化した魔法として知られる。亡国ウーラシールの魔術は攻撃ではなく補助的な役割が強く、明かりを灯したり擬態して敵から目をくらましたり、姿を隠したりといったユニークさが目立ち系統が違う。すでに滅び去った国の魔術の再現にヴィンハイムは苦慮していると言う話は有名だった。
  「呪術」は「呪術の火」を媒介して内なる生命力を変換するものだった。生命の根源的な力を引き出すものとして、文明から隔離された大沼の者達が扱う技術である。
  触媒となる「呪術の火」も、持ち主の命が具現化したものと言われ、元は炎の魔術であり、それが進化していき呪術となったという。
  原初の火である「最初の火」への憧れが呪術を生み出したとも言われるが、詳細はわかっていない。
  不死となった今、望めばどの系統の「魔法」も習得することは可能だった。
  いずれ必要となる日が来るかもしれない。教えると言われたものは喜んで教われば、役に立てて良かったと男達も喜んだ。
  祭祀場は静かであり平和だ。
  世界の蛇フラムトも、鼾をかいて昼寝をする程には、平和だった。
  かくりと首が横に傾き、目を閉じて頭を揺らして気持ち良さそうに眠っている。少し離れた柱の上で、スコールを運んで来た大きな烏が毛繕いをして時折静かに鳴いていた。
  スコールの視線の先を見やり、思い出したように呪術師があんた知ってるかと問いかけた。
「何を?」
「あの烏、時々どこかへ飛んで行くんだ。しばらくしたら帰ってくるんだが、新しい不死が来ている様子もない。誰かを運んでいるのかもな」
「……」
  あの烏の役割は、「北の不死院」からここへ不死を連れてくるだけかと思っていたが、逆もまた在り得るのだろうか。
  助けてくれた上級騎士を思い出す。
  あの男は外からやって来て救い出してくれたのではなかったか。
  まもなく亡者になるだろうと言っていたが、今どうしているのだろう。
  北の不死院に、新たに運ばれて幽閉されている不死はいるのか。逃げ出した後どうなっているのかも気になった。
  あそこまで行って帰ってくるだけならそれほど時間もかからないだろう。
  行ってみることにする。
  入り組んだ細い通路を上がり、かつて塔だったと思われる柱を残すのみの高所に烏の巣があった。
  様子を見に来るだろうかと待てば、予想通り飛んできて、鋭い鉤爪で胴体を挟まれた。
  最初、連れてこられたのと同じように空を飛ぶ。
  下手に暴れさえしなければ落とされる心配はなさそうで安堵した。
  連れて行かれ降ろされた先は、北の不死院を出てすぐの崖上だった。
  それほど長い期間いたわけではないが、嫌悪感と同時にこみ上げるのは懐かしいという思いだった。
  開かれたままの扉から、ボロ布を纏った亡者が襲い掛かって来るのを全て倒す。
  それほど広くない院内を、ぐるりと見て回る。
  あの上級騎士がいた水路へ向かってみると、踝ほどの高さの水が跳ねる音がして、角を曲がり近づいてくるのは剣と盾を構えた男だった。
「…あんた」
  声をかけるが返事はない。
  無言で剣を突き出して襲い掛かって来る姿は、訓練された騎士の美しい剣筋だったがしかし。
「…あぁ」
  ため息が漏れた。
  亡者になったのか。
  命の恩人だった。生きる希望をくれた人だった。
  あんたがいなければ、俺は今もここで閉じ込められていたに違いないのだ。
  本人の意志によらず、ただ人を襲うだけの存在に成り果てたあんたはもう、死んだのだ。
  かわし続けていた攻撃を、カウンターで返す。
  フルフェイスの兜と首の境目を過たず切り裂く。一撃で首が飛び、切り離された胴が水路に沈んだ。
  仕事として人を殺さねばならない時はあった。
  自分の意志で殺したいと思い殺したことは一度もなかったが、この世界では否応なく選択を迫られる。
  ロートレク然り、この恩人然り。
  これからも、誰かを殺さねばならないのか。
  死んでも生き返るから殺しても構わないと言うクラウドの理屈は理解に苦しむ。
  死ぬということは、亡者に近づくということだ。
  亡者になることを望む者などいるはずがない。
  だからロードランで、不死の世界で、必死に生きているのではないか。
  起き上がることのない騎士を見下ろし、瞑目して祈る。
  己もいずれ、こうなるのかもしれないと思うと怖かった。
  さらに歩いて見て回るが、いるのは亡者ばかりで、まともな不死とは出会えなかった。気づけば己が幽閉されていた牢付近に来ていたが、牢の前に大きな人影があった。
「…?」
  振り向き駆け寄ってきたそれは、黒い鎧を身に纏った銀騎士だった。
  いや、黒い鎧だから黒騎士と呼ぶべきか。
「…黒騎士って」
  大王グウィンについて行ったという騎士。何故こんな所に。
  薄汚れた狭い通路一杯を使って長い剣を突き出してくるのを後ろに下がって避ける。盾で威嚇し、剣を振り下ろしてくるのをかいくぐって応戦する。
  会話が成立するわけもなく、終始無言の騎士を倒すが骨が折れた。
  ぐるりと一周したが、収穫はなかった。
  地下を闊歩していたはぐれデーモンを倒し、貴重な原盤を手に入れたくらいだった。武器を最終段階まで強化するのに使える貴重な素材のようで、それだけは収穫といって良かったがそれ以外には何もない。
  徒労感に苛まれただけだった気がしたが、烏に連れられ祭祀場へと戻る。
  篝火に腰かけるクラウドの背中があった。
  …何故だろう、安堵した。
  近づけば気づいた男が振り返る。その顔は不機嫌極まりなく、スコールを見るなり立ち上がって指差した。
「あちこち探し回った。どこ行ってたんだあんた」
  怒られた。過保護な親は健在か。
「…ちょっと、北の不死院まで」
  クラウドの隣に腰掛けるが、責める視線が緩まることはない。
「…ああ、そこの呪術師がそれらしいことは言ってた。あそこはサインを出せないし広くもないしすぐ戻って来るだろうと思ってたから、待ってた」
「…じゃぁ、問題ないだろ」
「一言言ってから出かけてくれ。どこかで迷子になってるのかとか、亡者になってないかとか、心配した」
「……」
  子供じゃあるまいし、そんな心配しなくても。
  スコールの呆れた表情を見下ろして、クラウドは益々眉間の皺を深くした。
「スコール、ここで待ってるって約束しなかったか」
「…戻ってきた時あんたいなかったし」
「……」
  そうそう世界の交わりを強制的に作ることができるわけがない。
  近い淀みを手繰り寄せることはできても、離れた世界を無理矢理寄せることは世界の創造主でもなければ無理な話だった。
  言葉に詰まるクラウドを見上げ、スコールがため息混じりに呟いた。
「まぁ、座れよ。…勝手に出歩いたことは悪かった。今度から気をつけよう。…どの道、あんたがいないと効率が悪いし色々不便なんだ」
  助かっているのだと言ってやれば、大人しく腰を下ろした。
  膝を抱え込むように背を丸め、何やらぶつぶつと呟いている。
「…やっぱり、不便だよな」
「不便だが、仕方ないだろ」
「……」
  大きなため息をついて、クラウドが上体を起こして姿勢を正した。
「…不死院は何かあったか?」
  クラウドはおそらく何があるか知っているだろうに、聞いてくる。
「…黒騎士らしきものがいた」
「ああ、それはグウィンの尖兵だ」
「尖兵?」
「あんたが、火を継ぐにふさわしい者かどうか、確かめてる」
「……」
  不死院から逃げ出す不死は、この世界では長い間いなかったということか?
  それとも時間の流れがおかしくなっているのだろうか。
  よくわからなかったが、大王グウィンがにわかに実在する人物であるのだと実感するには十分だった。
  どこかにいて、火を継ぐ者の到来を待っているのか、拒否しているのか。
「他には?」
「…特には」
「…そうか」
  上級騎士のことは、話す気にはなれなかった。クラウドはそれ以上追求せずに、頷いた。
「まぁいい。早く進めてしまおう。次は小ロンド遺跡で封印を解く。封印を解いたら深淵だ」
「…封印?」
「小ロンド遺跡は元々四人の公王が治める地で、深淵は小ロンドの地下深くに存在した。アルトリウスのテリトリーだが」
「ほう」
「四人の公王は功績を認められ、大王グウィンより王のソウルを分け与えられたが闇に堕ちた。騎士達もまたダークレイスとなって脅威を及ぼすようになった為、アルトリウスと三人の術者が深淵にそれらを封印したと言われている」
「…闇とは?」
「闇の契約。ダークレイス…つまり闇霊のことだが、不死や神々を殺し回るようになった。アルトリウスは堕ちなかったが、公王と騎士達は堕ちた。だから深淵ごと闇を封じたんだ」
「そこらじゅうに闇霊いるような…?」
  侵入されたことは一度や二度ではない。スコールが首を傾げれば、クラウドはそうだなと頷く。
「深淵に辿りつき、闇と契約した奴らだ。…スコールも選択することになる」
「何を?」
「どちらの真実を受け入れるか」
「…?」
「…まぁ、行けばわかる。選択は一つだ」
  自分で判断しろということか。
  祭祀場の下、エレベーターを降りて着いた先が、陽光の差さぬ暗闇に閉ざされた小ロンド遺跡だった。
  所々外灯がある為、足元が覚束ないと言うことはなかったが、暗闇の中一面の水に満たされ、細く架けられた橋は朽ちかけている。
  サインを出したクラウドを召喚し周囲を見渡してみるが、陽気な気分には到底なれそうもなかった。
「…水に落ちると底なし…というか、死ぬから落ちないように気をつけろ、スコール」
「この世界は危険な場所だらけだな!」
「試練というやつなんだろうな。ここは水に沈んだ都市だから」
「…ああ、なるほど」
  封印したというのは、水底に沈めたと言う意味か。
  薄暗い道を進み、石段を降りる。
  右前方から人が飛び出し、斬りかかってきた。
「…っ!」
  咄嗟に剣で受け止める。
  青みを帯びたチェーンメイル、黒髪短髪の男の顔は亡者化していたが覚えがあった。
「…あんた、祭祀場にいた…!」
  祭祀場に着いて最初に会話した男だった。
  二つの鐘を鳴らした後、俺も何とかしないとと言って出かけた男だった。
  まさか、こんなところにいるなんて。
  身体を硬直させたスコールの横からクラウドの大剣が掠めて通り過ぎたと認識した時には、亡者と化した心折れた戦士の身体を貫いていた。
  血を撒き散らしながら男が地面へと倒れ込む。
  一瞬の出来事で、男はもう動かなかった。
「……」
「大丈夫か?スコール」
「…ああ」
  責任を感じた。
  鐘を鳴らさなければこの男は亡者にならなくて済んだのではないか。
  詮無き事だとは理解している。唆したわけでもなく、男は自らの意志で出かけて行ったのだ。
「…こんなことはよくある。気にするな」
「……」
  慰めているのだろうが、それは慰めになっていないとスコールは思う。
  見知った者が死亡して亡者となり、襲い掛かって来るのを殺さなければならない。
  嫌な気分だった。
  乗り越えなければならず、また覚悟をしなければならなかった。
「…ヘコむな」
「…そうだな」
  隣でクラウドが頷いた。
「…俺が殺してやるべきだった。済まない」
「気にするな」
  一人でなくて良かったと思った。
  共に行動できる仲間がいて良かったと思う。
  先程クラウドが怒った理由を、ほんの少しだけ理解した。
  クラウドの気遣わしげな視線に気づき、顔を上げる。
「大丈夫だ。…あんたがいてくれて、良かった」
「……!」
「行こう」
  何回死ねば亡者になるのか、わからない。
  人間性を失ってどれくらいで正気を失うのか、わからない。
  嫌だな。
  亡者になるのは、嫌だ。
  誰かを襲うのも殺されるのも、ご免だ。
  早く終わらせなければ。自由を、手に入れなければ。
「……」
  ほんの僅か、呆然と立ち尽くしていたクラウドだったが我に返ってスコールの後を追う。
  初めて言われる言葉は重かった。
  必要とされていることが、嬉しい。
  震える指先を握り込んだ。
  手放しては、ならない。
  失っては、ならない。
  細い橋を渡った先、白く浮かび上がった半透明の人影が攻撃を仕掛けてきた。
「何だこれ…幽霊?」
「そう、幽霊」
  全く色んな敵がいるものだ。スコールは辟易とした。
  両腕を鎌のような形状に変化させて斬りつけてくるのをかわしながら斬り捨てる。
  紙を斬っているような手応えのなさだが、攻撃を食らえば痛かった。
  狭い通路に立ちはだかる無数の敵を倒しながら進む。
  城壁跡と思しき細い階段を上がり、柱の間の通路を歩く。
  闇に浮かび上がる廃墟は崩れかけて不気味であった。
「…あそこに封印者がいるんだが、見えるか?」
  クラウドが指差した建物の屋上に、とんがり帽子を被ったような影が見えた。
「…赤い服を着ているような」
「ああ。一人だけ残った封印の番人だ。あいつが封印の鍵を持っている。あそこに辿り着く為には大量の幽霊地獄部屋を抜けなきゃならない」
「…嬉しくないが、行くしかないんだろ?」
「ここから射殺せば行かなくても鍵、落ちてくるけど」
「……」
  本気なのか冗談なのか計りかねた。
  見つめるが、クラウドが目を逸らす。
「あー…、王の器持ってれば鍵くれるから、いいか」
「……」
「一斉攻撃されるから注意で」
「…わかった」
  こういう時、クラウドの人間性がわからなくなる。
  幽霊の大群の中に突っ込んで行く男にとっての人とは何か。
  神と呼ばれる存在も、不死と呼ばれる存在も、この地において価値に違いはなく、不死が火を継ぐ為に旅をしている点から鑑みても神が神として存在する価値はもはやないも同然だった。
  屋上に立ち封印の番人をする者が神なのか不死なのかは不明だが、クラウドにとっては生きようが死のうがどうでもいい存在であるようだった。
  狭い石造りの部屋で一斉に襲い掛かって来る幽霊を蹴散らしながら、梯子を上がる。赤衣の番人はついに王の器を持つ者が現れたか、と歓迎してくれ、水門の鍵をくれた。長らく一人で封印を見守ってきたが、ようやく解放されると言い、太陽の光が恋しくなってきた所だったと軽くおどけてみせた。仮面をつけている為顔や年齢はわからなかったが、穏やかそうな老人の印象を受ける。祭祀場へ行くと言った番人に頷きで返し、梯子を降りて水門へ向かう。
  閉ざされた鉄格子を鍵で明け、水門を解放すれば小ロンド遺跡の本当の姿が現れた。大半が水に沈んでいたことがわかる廃墟跡は広く、暗かった。
  水の引いた遺跡の下で、風によるものか封印されていた何者かの呻き声なのか、不気味な音が木霊する。
「…一旦祭祀場から出直そう。そちらからの方が近い」
「わかった」
  どうやらここは接続が切れないらしく、霊体のクラウドが消えることはなかったが、戻ると言って一足先にクラウドが消えた。生身の召喚者は、霊体がいると直近の休憩した篝火へと戻る為のアイテムを使うことができない。クラウドが消えてアイテムが使えるようになり、祭祀場へと戻る。
  次は深淵、四人の公王が相手だった。
  「四人の」というからには四体いるのだろうが、上手いやり方はあるのだろうか。
  篝火の前で腰を下ろし、クラウドが現れるのを待つことにした。


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