「クラウド、いい所に!」
「…どうした?」
  鍛錬がてら近場のひずみを潰し、聖域へと戻って来たクラウドが振り向いた。声をかけたのはフリオニールであり、セシルとティーダが共にいた。
「今から強めのひずみ攻略しに行こうって話してたッス!パーティーで五人必要だから、クラウド一緒にどうッスか?」
「戻ってきたばかりだから疲れてるんじゃない?クラウド」
「ああ、そうか。休憩したいかな、クラウド?」
  続けて話しかけられ誰に返答すべきか迷ったが、問う内容は同じだったので最初に声をかけてきたフリオニールへと向き直る。
「いや、行こう。レベルは上げておきたい」
  声をかけて誘ってもらえるのは有難かった。一人で攻略不可能な場所も、パーティーで行けば乗り越えられたし、貴重な召喚石や素材を手に入れる機会も増える。
  パーティー単位で動くことに抵抗はなく、元の世界では複数人で行動することが多かったせいか、賑やかな道中は嫌いではない。
  他のメンバーも同様であるようで、必要に応じて効率良く動く術を知っていた。
「良かった。あと一人、誰を誘おうか?」
  フリオニールが喜んで、聖域内を見渡した。
「スコールがいるッスよ。…でもスコールはパーティー戦はあんまり好きじゃないッスかねぇ」
  頬をかきながら首を傾げるティーダに、セシルが頷く。
「誘うだけ誘ってみたら?フリオニール。嫌ならちゃんと断ってくれると思うし」
  このパーティーのリーダーはフリオニールのようだった。おそらく最初に話を持ちかけたのは彼なのだろう。促されたフリオニールは「お、おう」と変な気合を入れている。
  一人で行動する事が多いスコールに対して、パーティーを持ちかけるのは多少の勇気を必要とするようだった。
「い、行って来る」
「行ってらっしゃい」
  見送る三人の視線を背に、スコールの元に向かったフリオニールが片手を挙げて声をかけている。二言三言会話して、フリオニールが項垂れた。
「あ、断られた」
「断られたね」
「わかりやすいな」
  肩を落としたフリオニールごしにスコールがこちらを見やり、目を細めたようだった。
  認識されたことでもあるし、遠巻きに見ている必要もない。近づき、ティーダがフリオニールの肩に手を置いて慰めた。
「他探そ、フリオニール。スコール都合が悪いんだって」
「ごめんねスコール。邪魔するつもりはなかったんだけど」
「いや…」
  緩く首を振ったスコールの視線が、四人を交互に撫でる。嫌がっている風ではなさそうな気配に、クラウドが僅かに首を傾げた。
「スコール、これから行くところは敵が強い。鍛錬にもなるしアイテムも手に入るだろう。…付き合わないか?」
  試しに声をかけてみる。視線が、クラウドを捉えた。
「…パーティー推奨の所か」
「ああ。一人ではなかなか踏み込む機会がないからな。どうだ?」
「……」
  腕を組み、顎に手をやり考えるスコールを見て、あと一押しだなとクラウドは思う。
「戦闘順序は、一番を希望か?スコール」
「…いいだろう。行こう」
  スコールが頷いた。
「うお、やった!スコールが仲間になったッスよ!」
「そんな、ゲームみたいな言い方…ティーダ」
  苦笑しながらセシルが嗜めるが、ティーダは拳を作って喜んだ。
「レアキャラクターッスからねスコールは!」
「……」
  誰がゲームのキャラクターだとスコールが眉を顰めたが、思っただけで口に出すことはない。
「で、フリオニール。どこのひずみに行くかは決めてるのか」
「あ、あぁ…任せてくれ」
  クラウドに水を向けられ、立ち直ったらしいフリオニールが力強く頷いた。行こうと歩き出す後ろに従いながら、ティーダは頭の後ろで両手を組んで話しかける。
「ところで、フリオニールはさっきなんて言ってスコールに断られたッスか?」
「……」
  スコールがため息をつき、フリオニールは下を向いた。
「フリオニールー?」
「あー…明るく、声をかけただけだ…「スコール、ちょっとそこまで一緒に出かけないか?」って」
「……」
「……」
「……」
  三人分のため息が漏れた。スコールはすでに呆れていたので、無反応だ。
「ナンパかよ。そりゃ断られてもしょうがないっていうか…」
「……ほ、ほっといてくれ…」
  ティーダの冷たい視線に、フリオニールが項垂れる。
「スコールに声をかけるときは、クラウドみたいにちゃんと目的をはっきり言わないと駄目ってことだね。…まぁ普通はそうすると思うけど…」
  セシルの追い討ちにフリオニールが落ち込んだ。
「まぁ、普段団体行動を滅多にしないスコールの誘い方を間違ったとしても仕方がない。気にするな、フリオニール」
「ク、クラウド…君はいいヤツだな…!」
「…いや、それは買いかぶりというやつだ」
  道中を賑やかに会話しながら進んだが、主に会話しているのはフリオニール、セシル、ティーダの三人であり、クラウドは適度に返事はするが積極的に加わろうとはせず、スコールは相槌すら打つかどうかという有様だったが、団体行動を厭っている様子はなかった。
「よーし着いた!俺一番乗りぃー!」
  強敵がいるひずみに勇んで飛び込もうとするティーダを制し、スコールが一番という約束だとクラウドが言えば、スコールが嫌そうな顔をする。
「俺はそこまで自己中心的じゃない。…ティーダが行きたいなら、一番を譲る」
「えっ!いいッスか!?スコール、いいヤツだ!」
「…やめろそういうのは…いいから早く行け。負けたら代われ」
「負けたらて…ま、負けないッスよー!!」
「行って来い。腕前を見せてみろ」
「おう!見てろよスコール!!」
  ティーダの扱い方を心得ている、と三人は思った。
  この孤高の獅子は、孤高の割には仲間の性質を理解していた。聞いたところで答えてくれるとは思わないが、元の世界でそういうことを要求される立場にいたのかもしれないと思う。
  見事な勢いでイミテーションを駆逐していく様を眺めながら、パーティーもたまには悪くないなとスコールは思うのだった。
  エリアの半分程度の敵を倒した所でティーダが体力の限界を訴えたので、交代する。
  残り半分なら一人で片付けられるかと思ったが、思わぬ邪魔が入った。

  空間が、歪んだのだ。

「…っうわ、これマジでやめて欲しいんスけどー!!」
「分散しちゃうかなこれは…皆、バラバラになってしまったら、無理せず撤退してね」
  セシルが崩れる足場から飛び退り、別の足場へと移動する。
「すぐに元に戻ればいいが、駄目な場合は聖域で会おう、皆」
「了解」
「あと少しだったのに、残念だな」
  フリオニールの言葉に全員が頷いて、不安定に揺れる空間に成す術もなく目を閉じた。
  空間遷移の瞬間は五感を失い、己の位置を見失う。
  戦闘中だったスコールは同時に移動するだろう敵の姿のみを見つめていた為、違和感は小さくて済んだ。
  足場を失い重力に従って落ちて行くが、敵もまた落ちている。下方に見える地面に下り立ち、敵の接地する無防備な一瞬を狙って一撃を加え、砕く。
  戦闘を終了し周囲を見渡すが敵の姿はなく、味方の姿もなかった。どこかのひずみの中であろうことは推測できたが、遷移したまま元の場所へ戻る気配は一向にない。
  こうなってしまってはどことも知れぬ外へ出て、自力で聖域まで帰らねばならなかった。
  また攻略をやり直しかと思えば面倒だったが、鍛錬だと思えば我慢のしようもあった。
  さて戻るかと出口を探すが、背後で砂利を踏む音がして振り向いた。
  こちらに歩いて来るのは敵ではなく、金髪を逆立て大剣を背負った男だった。
「…クラウド」
「大丈夫かスコール。同じ所へ飛ばされたみたいだな。…他の連中は」
「さぁ」
「そうか」
  軽く肩を竦めて見せたが、心配している様子ではない。
  連中は、弱くない。無事に戻る事が出来るだろう事を知っているから、心配する必要がないのだった。
「ここはどこだろうな」
「さぁ」
「…外に出てみればわかるか」
「そうだな」
  簡潔な返答でも、クラウドは気にしない。
  返答があるだけでもそれは十分進歩だった。
  ひずみを出ようと踵を返した少年の後ろ姿を、クラウドは呼び止める。
「スコール」
「なんだ?」
  振り返る蒼の瞳に、微かな笑みを乗せて誘いをかける。
「…ちょっとそこまで一緒に出かけないか?」
「……」
  聞き覚えのある台詞に、スコールが目を見開く。
  何の冗談だと言いたかったが、クラウドの目は笑っていなかった。
「ナンパかよ」
  問えば、「そうだ」と返された。
「……」
  正面に向き直り、蒼とも碧ともつかぬ光を湛える瞳を見据え、真意を測ろうとするが、無理だった。
  一体何を考えているのやら。
  …いや、明白か。
  無言で見つめあう事しばし、先に目を伏せたのはクラウドだった。
「…駄目か?」
  懇願の色を帯びた言葉だったが、口元に浮かぶ笑みが消えることはない。
  余裕ぶったその表情は気に入らないとスコールは思う。
「いや、いいだろう。…どこへ?」
「ここでいい」
「何だそれは」
「敵も味方もいないしな」
「……」
  ため息が漏れた。
  やはりそういうことか。
  距離にして三歩を詰め至近に寄って、さして身長の変わらぬ男の瞳を覗き込む。
「…それで?」
  言葉を紡げば吐息が触れる。
  未だ唇に笑みを刷いたままのクラウドの瞳は、楽しげに細められていた。
「…口説き文句は得意じゃない」
「知るか。それで?」
「…キスしていいか」
  スコールの腰に手を伸ばし、引き寄せれば容易く腕の中に納まる男の額に走る傷痕に舌を伸ばすが、拒絶はなかった。
「…俺を子供扱いとは、いい度胸だなクラウド」
「まさか。子供にこんなことはしない」
  抱き寄せ密着させた下半身を、押し付ける。
  明確な欲望を示す形で擦り上げるように動かされ、スコールは背筋が粟立つような感覚に目を眇めた。
「…スコール」
  囁く唇が近い。
「…それで?」
  なお問えば、男は苦笑の形に唇を歪めた。
「セックスしよう」
「…いいだろう」
  なんとも間抜けな会話だったが、これが二人のコミュニケーションの形なのだった。

 

 

  静かに重なったはずの唇は、気づけば互いに貪り合うような激しいものになっていた。
  口腔へ差し入れ蹂躙してくる舌裏を舐め、クラウドの下唇を舐めれば唾液が顎を滑り落ちた。濡れた音が立ち、上がる息は熱い。
  互いに己の服をさっさと脱ぎ落とし、クラウドが己のガントレットを外している間にスコールはベルトを外し、クラウドの下衣へと手を伸ばす。
  音を立てて唇を離し、スコールの顎を伝って鎖骨へと伝う唾液の後をクラウドは舌を伸ばして追いかけた。所々でゆるく歯を立て、痕をつけない程度に吸い上げる。
  首を竦めて息を吐くスコールは、すでにクラウドのモノを服から取り出し撫でていた。
「…スコールが積極的だ」
  吐息混じりに笑んで言えば、先程クラウドがしたように額に舌を這わされ、軽くキスをされた。
「知るか。…それで?」
  また同じ言葉を繰り返し、クラウドのモノを指先で上下に撫でる。
  同じようにスコールのモノに触れ、クラウドが小さく笑った。
「詳細な希望リストが必要か?」
「…言えるものならな」
「言えば全部叶えてくれるなら言ってもいいな」
「それは断る」
「酷いな」
「…とりあえず、一つ二つは言ってみろ」
「そうだな…」
  少し考え、スコールの身体を力いっぱい抱きしめる。
「クラウド…?…っ」
  耳朶を食み、舌を差し込み歯を立てる。息を詰め、強張る肩を宥めるように撫でながら、耳元で熱く希望を囁いた。
「今日はスコールに、自分で乗って動いてもらいたいな」
  尻を撫で、後ろを探るように指先でなぞれば小さく声を漏らしてスコールが身じろぐ。中指を少し含ませ入り口をぐるりと回すように動かし、軽く抜き差ししてみる。
  震える背と、擦り付けられるモノが熱い。
「…スコール」
「…っ、い、だろう」
  基本的にスコールは嫌がらない。
  手を差し出してスコールを最初に誘ったのはクラウドで、スコールはその手を取った。何故手を差し出したのか、きっかけははっきりと覚えている。二人で行動する機会があった時、スコールと目が合ったのだった。
  何だそれはという程度の理由だ。
  目が合い、視線を外せなくなり、互いにしばらく見つめあっていた。それだけだった。
  クラウド自身、色恋に聡いわけでもなく、経験豊富なわけでもない。
  しばらく理由がわからぬまま過ごし、また二人で行動する機会があった時にそれは訪れた。
  目が合うと、何となく欲している己に気がついた。
  向こうもそうなのではないかと、勝手に思った。
  己の性格を考えるに、何故あそこで手を差し出したのか未だに不明だったが、手を出した。
  発した言葉はただ一言、「俺のこと、嫌いか?」だ。
  笑ってしまう程に曖昧で、そして滑稽な言葉だったがスコールは「別に」とあしらったりはしなかった。
  差し出した手を取り、しっかりと握った。「嫌いじゃない」と言い、「あんたは俺のこと、嫌いか?」と同じように問い返したのだった。
  これもまた滑稽極まる質問だった。嫌いなら手を差し出すはずはなく、聞いたりもしないのだから。
  クラウドの返答は、同じではなかった。
  だからスコールは頷き、今こんな関係になっている。 
  スコールは慣れ切っているというわけでもなさそうで、かといって経験が全くないわけでもなさそうな曖昧なラインが読めなかった。問うてみたが、「さぁ、記憶がない」とはぐらかされてそれっきりだ。全く経験がなかったのなら、それはそれですごい勇気だとクラウドは思う。
  好かれているのだろうとは思うがどの程度なのかはわからなかった。これについては、問うてみたことはない。冷静極まりなく「別に」等と言われようものなら、精神に痛手を負うことは確実だからだ。
  時間をかけて丁寧に馴らすのは最初の時から気をつけていることで、スコールに無意味な怪我をして欲しくはなかったから当然だ。そのおかげかどうかは不明だが、最初の時から痛がったりはしなかったし、かといって感じているというほど乱れることもなく、それは今でもあまり変わらないので経験の有無も曖昧なままだった。
  無茶な抱き方をしたりもしない。後々戦闘に影響が出るようでは困るからだ。
  希望はないといえば嘘になるが、スコールに嫌われたくなかった。
「…っん…!」
  大きく息を吐きながら、スコールが腰を落とす。
  岩場に凭れたクラウドと向き合い、クラウドのモノを咥え込みながら上に乗る。
  緩く立てられた男の膝頭に手を置いて、根元までしっかり納め、息を吐く。
  痛みはない。
  もう、慣れた。
  気持ち好さげに目を細めるクラウドと視線を絡ませ、唇を寄せる。察した男はスコールの髪を撫でながら、キスを寄越す。
  もう、慣れた。
  少し腰を浮かせて、落とす。
  ゆっくり引き抜き、一気に落とす。
  内壁を擦り上げるモノの質量も、もう慣れた。
  じわじわと、熱が生まれる感覚に背が震える。
  抉られかき分けられ、奥まで到達して行く肉の熱さは生々しい。
  締め上げるコツも、掴んだ。
  何故こんな所がキモチイイのか、ざわついて絡みつく襞の感覚を快感として身体が受け入れていて、戸惑う。
  動く度に粘着質な音が耳を犯す。
  肉がぶつかり、骨が当たれば神経を冒す。
  雄の顔をして己の身体を蹂躙して行くクラウドの顔は、嫌いではなかった。
  もっと、欲しがれ。
「ふ…ッん、く…っ」
  スコールの腿や顔を撫で、胸を弄る男の手を取り腰へ導く。
  お前も動けと、舌を出してクラウドの口腔へ突っ込んで舌を引きずり出す。
  ギリギリとクラウドのモノを締め付ければ、小さく呻いた。
「…っは、スコール」
  腰をしっかり掴まれ上下に持ち上げ落とされて、深い結合にスコールが喘ぐ。
「ん、ん…ッは、…!」
  自身のモノに触れ、扱けば気持ち好かった。
  こんな扱いを受けるのは屈辱以外の何物でもなかったが、そんな感情はとうに失せた。
  クラウドが、非常に気を遣っていることがわかる。
  言葉は多くないが、目が。
  訴えかけてくる、目が。
  率直な欲望を向けられて、その感情自体に嫌悪を抱かなかった己はもう、おかしいのだと思う。
  単なる欲求不満かと思ったが、それも互いの利害が一致すれば成立するものではあったけれども、そもそもクラウドはスコールのことを好きなのだと言った。
  「嫌いか?」と手を差し出された時、何故拒絶しなかったのか。
  …できなかったのだった。
  己もまた、欲しているのだと自覚したからだった。
  それがクラウドに対する感情であるのかはわからない。愛情であるのかすら不明で、何を欲しているのかすらも不明瞭だった。
  当然のように押し倒され圧し掛かられて、気がついた。
  ああ、そうか。
  己がクラウドに対して求めていたのは、安らぎとか、安心とか、そういったものだったのだった。
  肉体を求めていたわけではなかった。
  だが同時に気づいた。
  求められることは、嫌じゃない。
  クラウドの事は嫌いじゃない。
「…っぁ、ク、ラウド…!」
  名を呼べば、愛しげに名を呼ばれる。
  ガクガクと揺さぶられ、為すがままの己は情けなかったが、それを許しているのは、「嫌いじゃない」からではない。

  もっと、俺を欲しがれ。

  そうしたらいつか、ちゃんと愛の言葉を囁いてやってもいい。


END
リクエストありがとうございました!

兵士限定。

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