※スコールがラグナのことを思い出した(色々諸々思い出した!ラグスコな世界から召喚されている様子)。

  この世界は広いようで実は狭いと、ラグナがそう評した。
  その通りだとスコールは内心で頷くが、表だっては反応はしなかった。ただ見つめるだけで返事をしないスコールの額の傷に指を伸ばし、「眉間に皺」と押してやればさらに力を込めて皺が寄る。
「怖い顔すんなって!俺の見立てによればだな、やっぱりこの世界は俺達以外に誰もいないな!」
「…今更何言ってるんだあんた」
「普通街には人がいて、乗り物があって、建物があってってするもんだ。けどどこまで行っても誰もいないよな」
「…ひずみの中は建物があるけどな」
「あーここ?これあれだよな、なんか俺達の世界の一部をイメージして切り出した感じ、らしいぜ。あいつらの言によると」
「…へぇ」
「お、スコールの知らない情報だった?やったね」
「……」
  嬉しそうに笑う男は、二十も後半に差し掛かっているはずなのに全くそうは見えなかった。
  列車に乗り込み、はしゃぎながら「どこに座ろうかな~」などと鼻歌混じりでご機嫌だ。
「どうせ先頭の一番前で景色を見るとか言うんだろ」
  言えばラグナが振り返り、ご名答!と親指を立てた。
「スコールも一緒に見ようぜ!こーゆーの、貴重な経験って言うんだぜ」
  そうだろうか?
  列車など特に珍しい物でもないし、元の世界でもいつでも乗れる物だった。
  スコールは首を傾げたが、いちいち反論はしない。好きに喋らせ、時折反応してやればそれでラグナは満足する。
「よっし、そうと決まればいっそげー!」
  スコールの腕を掴んで、急かす。
「…子供みたいだな」
  ため息混じりに吐き出せば、ラグナは軽く笑って「子供心を忘れないのはいいことだよな!」などと見当違いのことをのたまった。
  先頭車両のそのまた一番前まで行って、ラグナは窓を覗き込む。
  運転席には誰もいない。目的地まであらかじめ設定された速度で勝手に進むようになっていた。どのような仕組みで、誰が作ったのかは知らないが、この世界では深く考えるだけ無駄だった、全てが。
  あるものをあるがままに受け入れて、受け流すのが得策だ。
  そうでなければ、やってられないとスコールは思う。
「おー、結構なスピード出てんなぁ!」
  窓に張り付いて景色を眺める男の後姿は立派な成人男性であるのに、仕草は子供のそれだった。
  先頭座席に腰かけて、ぼんやりと眺めやる。
  夢の中でしか見たことのない姿だった。
  この男の頭の中に送り込まれ、過去を見た。
  しょっちゅう呟いている「妖精さんが来た!」というのは、俺のことだ。
  実際の俺がこの場にいるのに、一体誰が来ているのかは不明だ。もしかしたら妄想とか、テンションが上がってその気になっているだけの可能性もあったが、追求する気はないし教えてやる気もなかった。
  若いラグナが目の前にいるというのは新鮮だ。
  見慣れた姿は、大統領で父親で四十代のそれだった。
  指輪をしているところから、すでに結婚していることはわかっている。この外見からすると、新婚ほやほやというやつで幸せにウィンヒルで暮らしている頃か、エルオーネを探してエスタに向かっている頃なのかもしれなかったし、もしかするとアデルを封印して大統領に祭り上げられた時分なのかもしれなかった。
「…ラグナ、落ち着いて座ったらどうだ」
「ん?ああそうだな、そろそろ飽きてきたかも」
  そう言って、スコールの隣に腰掛けた。
  通路の向こう側にも席は空いているのに、わざわざ隣に座るとは一体どういう了見か。
  未来のラグナなら理解はするが、このラグナにとってスコールは仲間ではあっても他人なのだ。例えば少し前に見かけたヴァンと少年のように向かい合わせで座るか、今は先頭座席で向かいがないなら通路向こうに座れば良い。全て空席なのだから。
  …例えばキロスやウォードと隣り合って座るだろうかと考えるが、イメージが沸かなかった。どちらかと言うとキロスとウォードが並んで座ることはあれども、ラグナは一人離れた所に座るような気がした。無論実際の所はどうかは知らない。想像だ。
「ま、旅も二人だと楽しいな。大勢の方がもっと楽しいけど、ちーっと疲れちまうのがな」
「旅じゃないけどな」
「そういうなって。何でも前向きに楽しもうぜ!」
「……」
  探索行くなら一緒に行こうと誘われることはよくあったので、二人で行動するのも随分慣れた。スケジュールの心配がなく、仕事の心配がなく、周囲の目も心配がない。
  この世界は人がとにかくいないので、味方と敵がいなければそこは無人の空間だった。
  今この空間も、二人以外に誰もいない。
  すぐ隣で足を組んで深く腰かける男に両手を伸ばし、腰に回して抱きついてみる。
「…へ?す、スコール?」
  動揺で上擦る声に、見えない角度で笑みが零れた。
  楽しいかも。
「…ラグナ、前向きに楽しもうか」
「え?は?…、ちょ、スコール、ままま待…っ」
「待たない」
  座席の肘掛に向かってラグナの身体を押し倒す。幅に余裕があって良かった、大の大人が寝そべっても何とかなりそうだ。
  鈍い音がして後頭部をぶつけたようだったが、ラグナはそれどころではなさそうだった。
「いやいや、スコール君、ちょっと待て、待ちたまえ!えーと、なん、何のつもりかな?」
  肩を押さえつけるようにしてラグナの身体の上に乗り上がり、両膝を開いて身体を割り込ませる。真上から見下ろし、口端を引き攣らせるラグナの頬を優しく撫でた。
「…あんた、俺のこと嫌いじゃないだろう?」
「き…嫌いじゃねぇよ…?」
「俺のこと、好きだろう?」
「……す、好きだけど、えーと」
「意味が違うとか、聞かないからな」
「…いや、えーと、その」
  泳ぐ視線を固定させる為に、両頬を挟んで覗き込む。状況が把握しきれず瞬く碧の瞳を見つめながらラグナの唇を塞いでみれば、ラグナの身体が引き攣って驚愕に目を見開いた。
  ああ、新鮮な反応だ。
  引き離そうと押される肩に力を込めて拒絶する。
  残念だがラグナ、あんた力入ってない。
  舌を出し、唇を舐める。
  口を開けてと促すように下唇を食んで吸い上げ、僅かに笑ってやればラグナが大人しく口を開いて舌を出した。
  スコールの後頭部に回った右手に引き寄せられ、舌を絡め取られて口内へと引きずり込まれる。舌の根元から先端に向かってざらりと舐められ吸い上げられて背が震えた。
「…ふ…っ、」
  ラグナの下半身に手を伸ばすが、さすがにそれは阻まれる。
「…っ、つかスコール」
「…何だ?」
「お前がヤんの…?」
「……それがお望みか?」
「いやいやいやいや!!冗談きつい!!無理だって!」
「ならいい。俺はあんたを抱きたいわけではない」
「す…スコールが積極的なんですけど…」
「俺はただ、若いあんたにヤられたい」
「な、ナンデスカそのエロい子発言は!?わ…若いってお前の方が遥かに若いだろうに」
「ああ、そうだな…そうなんだけど」
  説明は面倒だ。
  大統領のあんたとは普通にヤっていると言えばいいのか。あんたの未来を話してやれば納得するのか。
  …話が長くなりそうで面倒くさい。却下だ。
  四十代と二十代ではどう違うのか?俺が知りたいのはそれだけだった。
  純粋な興味だ、文句あるか。
「…気にするな。あんたは俺を好きにしていい」
「うわ…うわわわすすす、スコールイメージ違う。イメージ違う」
  動揺しながらも嬉しそうだな。
  そこで赤面して恥ずかしがったり、目の色変えて飛びついて来ないところがあんたのあんたたる所以。
  絶対どこかが冷静だ。安心する。
  自らのジャケットを脱いで、床に落とす。外すのに面倒なベルトも手をかけて外し、これも落とす。グローブを外し、アクセサリも外す。シャツに手を伸ばし首から抜いて、首を傾げた。
「あんたも脱がせてやろうか?」 
「…ホントにヤるのねスコール君…?」
「もちろん」
「…あー…、わかった」
  一つ息を吐いて、ラグナが頷いた。
「じゃ、体勢逆がいいな」
  上体を起こし、身体の位置を入れ替える。
  ラグナのジャケットに手を伸ばすスコールの頭を撫でて、ラグナが笑った。
「スコールがこんなに積極的なら、もっと早く手出しておけば良かったなぁ」
「……」
  それは聞きたくなかったな。
  若いあんたはレインとエルオーネを大切にする男であってくれればそれでいい。
  手を出したのは俺。
  それで、いいんだ。
  キスをせがむように顔を寄せれば、もうラグナは躊躇しなかった。
  覗く瞳の色が変わった。
  欲をちらつかせて笑むその顔は、スコールが見知ったものと変わりない。
  期待で疼く。
  熱い掌に頬を寄せ、スコールは目を閉じた。

 
「あれ、スコール出かけるのか?」
「…ああ、ひずみを潰しに」
「じゃ、一緒に行こうぜ!変な人形増えたし、一人より二人のがいいよな」
「…好きにすればいい」
「おう。じゃ、ちょっくら行ってくるなー!」
  スコールの背を追いかけながらラグナがヴァンに手を振った。
「スコールに迷惑かけるなよラグナー」
「かけねぇって!」
「スコール、よく嫌がらないな~」
「…嫌がっても無駄だって諦めたんじゃない」
  僕みたいに。
  とは、少年は言わなかったが、ヴァンは首を傾げてしばし考えたようだった。
「んーまぁ、ラグナ悪いヤツじゃないし。仲良くなれるならそれが一番だよな」
「…ああ、そうだねヴァンはそう思うんだね」
「ん?うん」
  少年がため息をついたが、ヴァンは気にした様子もなかった。
  聖域を離れ、隣に並んだラグナが「どこ行く?」と軽く問うてくるのに「その辺」と返せば、オッケー!とそれ以上に軽い返事が戻ってくる。
  二人になると、ラグナは接触をしたがった。
  肩を抱いたり、腰に手を回したり、そうでなければ手を繋ごうと言い出す。
  断る理由がないので好きにさせているが、内心スコールは戸惑っていた。
  過度のスキンシップは昔からだったのか。
  納得したのはいいとして、こちらのラグナはそこに常に下心が隠れている事が問題だった。状況が許せばヤろうと言い、断られることがないと理解している男の行動は大胆で強引だった。
  四十代とどこが違うのかといえば、二十代は元気で底が知れないということだった。
  二十代のラグナは超肉食だった。驚きだ。
  あの大統領も元々はこの性格であるはずだが、まだマシだと思えるのは息子と言うことで周囲への配慮を怠らないのだということに気がついた。
  何と言うことだ。あのおとぼけも甚だしい大統領が、実は気配りできる人間だったということだ。歳を取り、大切なものを失って人格が多少なりとも成長したのかもしれなかった。
「スコール、何考えてんの?」
  笑顔で問いながら、ラグナはスコールの腰を引き寄せる。
  逃がさないぞという意志表示に、スコールがため息をついた。
「…いや、俺も大概馬鹿だなと思って」
「ん?何で?」
  こちらを向いて首を傾げる黒髪を引っ張りながら、笑顔のままの唇に軽くキスを乗せる。
「…スコール?」
「…結局あんたなら、何でもいいんだな俺は」
「ナニソレ、愛の告白?」
「ああ、そういうことになるんだろうな」
  ため息混じりに白状すれば、ラグナが力いっぱい抱きしめた。
「うれしーなー。俺嬉しい、スコール」
「……」
  嬉しくなくていいんだ、あんたは。
  俺のことは気にしなくていいんだ。
  抱きしめ返しながら、スコールは眉を顰める。
  いずれ来る別れを気にしていてもしょうがないと、言えてしまうあんたもまた愛しいと思うけれども、本当に失った後でもそのセリフが言えたらいいな。

 スコールは知っている。
 
  …でも、言わない。
  今があれば、それでいい。


END

超肉食系男子。

投稿ナビゲーション


Scroll Up