ないものねだりとあるものさがし -最終話-

「きさまが人間であった頃の記憶はあるか」  地下室にランプを灯し、ソファに腰かけ肘置きに頬杖をつく金髪の若者は、今までと変わりなく、ワインボトルとグラスをサイドテーブルに用意して、手酌で注いで飲んでいた。  これから死に

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ないものねだりとあるものさがし -03-

 特にこれといった事件もなく、日々は過ぎていく。  ローエングラム公の神出鬼没ぶりにも随分と慣れ、おおよその滞在時間は把握できるようになってきた所であった。  フェルナーがいる間に姿を見せない時でも、深夜にはふらりと現れ

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ないものねだりとあるものさがし -02-

 首都星オーディンの中でも田舎と呼ばれる地方都市の一つに、オーベルシュタインの館はあった。  数年前まで軍籍にあり辺境惑星を転々としていたが、執事夫妻の死と同時に退役して、隠居生活に入った。  夫妻の死に関わることになっ

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ないものねだりとあるものさがし -01-

 床に血で描いた円環と三角形が光り輝いている。  蔵書を保管する為の広い地下室が、地響きで揺れていた。  一冊の古書を抱え、円環の中で身動き取れず片膝をついた男は、これから起こるであろう奇跡を固唾を飲んで見守った。  俗

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愛しき箱庭-後日談-

 帝国歴四八九年一月、今冬積雪量の少ない帝都オーディンは、日陰の残雪がいつまでも泥と埃にまみれて凍り付いてはいるものの、通路に雪は少ない。足を取られる心配がない人々は、吹き付ける寒風に首を竦めながら足早に歩いて行く。日中

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