その視線の先を知りたい。

「納得いかねぇ」
「何が」
  バーカウンターの上に乱暴に置いたグラスの氷が音を立て、ぶつかり踊った琥珀色の液体が跳ね黒檀の上へと飛び出した。
  淡い照明に照らされ艶めく液体は鏡面仕上げのカウンターに反射し煌いたが、零した当人にも首を傾げる連れにも顧みられることはなく、気づいたバーテンダーがさりげなくカウンターを拭いて去るまでしばしの間放置された。
「真島の叔父貴が戻ってきた」
「あぁ、そうだな」
「あの、嶋野の狂犬が、戻ってきた」
「頼もしい限りじゃないか」
「つーか、自分で出て行ったのに何で戻って来たんだ?」
「心境の変化でもあったんだろう」
「心境の変化ね…」
「……」
  睨み上げるように見つめるが、相手はグラスを傾け静かに酒を飲んでいた。
「…桐生さん、アンタどんな手使ったんだ?」
「東城会に戻ってくれと頼んだだけだ」
「あの「真島」が?それだけで?」
「…何だ、大吾。一杯目でもう酔ってるのか」
「まだ一口しか飲んでねぇ…」
「じゃぁ飲め。全部カウンターにくれてやる気がないならな」
「…わざと零したわけじゃねぇっつーの」
  グラスに浮かぶ氷が煌く様に視線を落とす桐生の口元には笑みが浮かんでいる。
  軽く流されている感が否めない大吾は不満気に眉を寄せ、一気にグラスを煽った。強めの酒は胸を焼きながら胃の中へと落ちて行く。
  不快だった。
  次は?と問う桐生のグラスにはまだ液体が満たされたままだ。
「…アンタこそ飲めば」
「飲むにもペースというものがある」
「人には勧めておいてよく言うぜ」
  言いたいことはあるはずなのに上手く言葉としてまとまらず、手持ち無沙汰に煙草を取り出しライターを探っている間に、先に桐生が火をつけライターを近づける。
「…どうも」
  遠火に火をつけ、ゆっくりと吸い込んだ。
  舌先から喉を通り鼻へと抜けて行く香りは慣れ親しんだもので、細く息を吐き出せば薄い煙が立ち昇る。
  ポケットから探り出した自らのライターを桐生に掲げ、吸うかと問うが返ってくる答えは「否」の一言でそっけない。今日は酒を楽しみたいのだと言い、また一口酒を含む。
「…そういえば」
「ん?」
「俺にもアンタ言ったよな。東城会に戻れって」
「ああ。…東城会を頼むぞ、六代目」
「何で俺素直に言うこと聞いちまったんだろ…」
  天井に向けて煙を吐き出す。暗い照明の中、細く上がった煙は部分的に照明に照らされ不可思議な色を反射しながら消えて行く。
「戻る気があったからだろ」
  ため息をつく大吾に答える桐生の言葉は明快だった。ムカつくほどに。
「…あの嶋野の狂犬に、戻る気があったとは思えねぇ」
「何故そう思う?」
「百歩譲って俺はまぁいい。けど「真島さん」は違うだろ。頼んで言うこと聞くとは思えねぇ」
「条件は飲んだからな。アイツは約束は守る男だ」
「納得いかねー。条件って何だよ」
「戦って勝つこと」
「…ええっ?マジで?」
「ああ」
「……、……へぇー」
「何だ、それは納得いかねぇって、言わないのか」
「アンタの強さは知ってるからな。…何笑ってんだよ」
「いや」
  桐生が持つグラスの中の氷が、小さく笑った瞬間揺れて軽やかな音を立てた。
  ジャズをベースに、抑えられたピアノ演奏が響く静かな店内にふさわしく、桐生は静かに酒を飲む。
  大吾がいようがいまいが関係ないと言いたげなマイペースぶりだ。
  気に食わなかった。
「で、俺らを東城会に戻しておいて、肝心のアンタは戻って来ないのかよ」
  四代目の襲名式と同時に引退式を済ませ堅気になると言った時、桐生はすでに五代目を用意していた。三代目を失い、大幹部であった嶋野、風間の両名をも相次いで亡くし、錦山までも失った東城会は混乱の極みにあって、四代目を呼び戻すより先に五代目を立て、組織を建て直すことを優先した。
  当時はそれで良かったが、五代目が死に四代目が名代として関西に赴き表舞台に立った今、復帰しても誰も文句は言わないはずであったし、戻って然るべきであると思っている。
  最愛の女の子供をまっとうに育てる為に堅気になったのだという理由は、理由になっていなかった。
「ああ、俺は戻らない」
  だがあっさり肯定する男はそれ以上を語る気はないようだった。
「何で」
「…戻るわけにはいかねぇんだ」
「だから何で」
「……」
  聞いても無言が返るだけだ。
  苛立ち混じりに煙草を灰皿に押し付ければ、煙草の先についたままだった灰が跳ねてカウンターの上に舞った。まだ火がついて赤い灰の塊が黒檀の上で美しく燻りながら煙を上げる。
「こら、早く消せ」
  さすがにこれには桐生も眉を顰め、バーテンダーを呼んですまないと声をかけた。
「鏡面塗装ですから、火には強いので大丈夫です」
  にこやかに笑んだ壮年のバーテンダーは慣れた手つきで灰を拭き取り、カウンターの上を瞬く間に綺麗にして、すんませんと頭を下げる大吾に向かって一礼してみせ「お怪我はございませんでしたか」と気遣った。大丈夫だと返す男に微笑みながら、空になったグラスを下げる。
「何か、軽めのものが宜しいですか?」
「…ああ、いや…同じヤツで」
「かしこまりました」
  ついでに桐生の二杯目のオーダーも取り付けて、熟練の接客を見せ付けるバーテンダーの腕前に感心したのも束の間、桐生が立ち上がった。
「桐生さん?」
「トイレ」
  自分には振り返りもせず声を投げ、先ほどのバーテンダーには通りすがりに笑みを見せて声をかけた。柔和な笑みで礼をし、桐生の後姿を見送る壮年の男の様子を見つめる己の気持ちは晴れなかった。
  運ばれてきた二杯目を味わう気になれず一気に煽り、大吾も席を立つのだった。

 

 さほど広くない店に設置されたトイレもまたさほど広くはなかったが、店内と同じく気配りと掃除の行き届いた内部は綺麗であった。
  スピーカーが埋め込まれた天井から、店内で演奏されているピアノが静かに流れ、ブルーの照明と黒の壁面で統一されたシンプルモダンな内部は落ち着いた。
  扉を閉めわずかな細い廊下を折れた先、正面に大理石風の洗面台と壁面に取り付けられた円形の鏡が設置されており、桐生はそこに立って手を洗っていた。 
  気づいた桐生が鏡越しに視線を寄越すのをそ知らぬ顔で近づいて、通りすがりに肘を掴む。
「大吾?」
  怪訝に眉を顰め振り返ろうとする男の顎に、拳を叩き込んだ。
「……ッ!」
  不意打ちを食らった桐生は上半身をよろめかせ、たたらを踏んだ。
  グレーのスーツと臙脂のシャツの襟元を一緒に掴み、腕を組むようにして力任せに背後の個室へと連れ込んだ。後ろ手に鍵をかけ、狭い壁面に押し付ける。蹴られないよう桐生の両脚の間に身体を割り込ませて密着することも忘れなかった。
  壁面が黒なら便座シートや便器も黒い個性的な個室であったが、床はライトグレーのリノリウムで照明は変わらず青く淡く、暗いコントラストの上に抑えられた照明効果で、床だけがやけに白く浮いて見えた。
  狭い個室に押し込まれ、押さえ込まれた桐生は眩暈に耐えるようにこめかみを押さえながら睨みつける。
「…何だ!」 
  怒りを隠すことなく問うが、大吾もまた不機嫌極まりない顔をしていた。
「納得いかねぇ」
「…何がだ」
  胸倉を掴んだままの大吾の腕を掴んで引き剥がそうとするが、剥がれなかった。力を込めてもう一度引き剥がそうとすれば、大吾は報復とばかりに桐生の項に噛み付いた。
「…っおい、何なんだ」
「…気に食わねぇ…」
「だから、何が!」
「アンタが」
「…わかるように言え」
  腕を掴む力が緩んだ所を見逃さず、大吾はシャツのボタンを外しにかかる。
「オイ、大吾」
  冗談ではないと、桐生の身体に力が入った。再び腕に力を込められ、大吾は内心舌打ちした。
  下半身を押し付け足の動きは封じているものの、至近距離で殴られたらたまったものではない。頭突きも勘弁願いたかった。
「…アンタは、最初っから俺が言う通りに動くと思ってたんだろ」
  事実その通りになっているから腹立たしい。
「…六代目に、なってもいい。それはいい。けどアンタは何なんだよ」
  誰もが桐生一馬を評価する。
  堂島の龍を、評価する。
  伝説の極道と呼ばれる男を、評価する。
  東城会の、たった一日だけの四代目なのに、評価する。
  近江連合の連中でさえもだ。
  現会長である郷田仁すらもだ。
  東城会に戻って建て直せと人に頼んで、自分は戻らないと明言してしまえる男なのに。
  人に六代目を押し付けて、自分は堅気だからと逃げる男なのに。
「気に食わねぇ。アンタ全然人の言う事は聞かねぇし」
「…そんなことねぇだろう」
「あるね。俺の言う事聞いてくれねぇし」
「何だそれは」
  親友の罪を被って十年も服役してしまえる男だった。
  破門され命を狙われたにも関わらず、東城会の未来を憂えてしまえる男だった。
  自分を裏切った親友を、それでも「家族で親友」と呼んでしまえる男だった。

 …親友の罪を己の罪だと言い、東城会に申し訳ないと、思ってしまえる男だった。

  何故四代目を辞したのか、知っている。
  何故それを、アンタの口から聞かせてもらえないのだろうと、思う。

「大吾…」
「何だよ」
「どかねぇと、殴るぞ」
「嫌だ。ごめんだね。拒否する」
「……」
「俺の言う事、聞く気ねぇだろ」
「これに関しちゃ、聞く耳持たねぇな」
「ひでぇ。やっぱアンタひでぇ」
「…だから、」
  わかるように言え、と、桐生は思う。
「…アンタ言わないこと多すぎる」
「はぁ?それが何で、……」
  外から靴音が近づいて来るのに気づき、桐生は口を閉ざした。
  客とスタッフがいる限り、当然利用する人間はいるだろう。
  閉ざされた個室の中から聴こえる話し声など、他人から見ればホラーでしかない。
  気配を窺う桐生の注意が逸れた隙に、大吾は桐生の耳に舌先を押し付け舐め回す。
「…ッ…」
  首を竦めて逃げようにも、黒いタンクに阻まれ押さえ込まれた状態では逃げられない。
  生温く濡れた舌が耳朶から項を這い回り、肌に残された唾液が冷えて背を震わせた。
  ベルトの留め金を外しファスナーを下ろして中に侵入してくる手は熱く、止めようと伸ばした手に力は入らなかった。
  自身を握り込まれ根元から先端へとなぞり上げられ、息が上がる。
  睨んだ先、大吾の顔には勝ち誇ったような笑みが浮かび、撫でられる自身に押し付けられた布越しの大吾のモノもすでに熱く硬かった。
「っ…、…!」
  引きずり出された自身を擦りあげる布と熱の感覚は耐え難い。
  縋るように肩を掴む桐生の手もまた熱く、ゆるゆると突き上げるように腰を動かしながら、大吾は桐生の後ろを探って中指を含ませる。
「っふ…」
  手を洗い去っていく靴音に安堵して、桐生が息を吐き出した。
  力が抜けた所に指を奥まで突っ込まれ、無理な挿入に顔を顰めれば大吾が耳元に熱い息を吹きかけ、歯を立てながら囁いた。
「…桐生さん、イって」
「っ、…ぅ…ッ」
  桐生の片足を持ち上げ、後ろを弄りながら前も扱く。
  ぬるぬると濡れ始めた桐生のモノを裏筋に沿わせて指先で締めながら、先端を親指で刺激してやれば身体が震えた。
  同時に締め付けてくる肉の襞を指の腹で確かめながら抜き差しするが、きしんで潤滑にはいかない。腸液では、足りなかった。
「桐生さん、もっと締めて。…ココが、イイ?」
  奥まで入れた中指の第一関節を曲げ、腹で内壁を押し上げる。
「…ッは…、…ぁ…っ」
  グリグリと前立腺を刺激され、抱えた桐生の足が引きつった。
  中は熱くひくついて、大吾の指を食い締める。
  勃ち上がりぬめるくびれから先を力を入れて細かく上下に扱き、射精を促せばびくりと一度大きく震えて桐生の身体が弛緩した。
  手のひらで受け止め切れず床に散った精液はライトグレーの床と混ざったが、暗い照明の中ではわからなかった。
  粘ついて手に絡む生暖かく白いソレを指に馴染ませ、壁に体重を預けて脱力する桐生の後ろへ塗りつける。
「ぅ…っく、お前、挿れる気か…ッ!」
「当然だろ…今更、何言ってんだアンタ」
「…っ大、」
「人が来たら…気をつけてくれよ、桐生さん」
「……ッ!」
  随分と滑らかに出し入れが出来るようになった指を増やして中を抉るように押し開いていけば、桐生が唇を噛み締めた。
  抵抗するには遅すぎた。
  熱く濡れた吐息が大吾の耳を犯し、指を動かす度にぬちゃぬちゃと糸を引くような粘着質な音にゾクゾクした。
  早く挿れたいと主張する己のモノを桐生の精液で溢れたソコに擦り付ければ、床についた桐生の片足が逃げるように爪先立った。
  抱えた不安定な片足を桐生の背後の壁面に手をつくことで支え、少し先端を含ませれば諦めたのか力を抜いて床に着いた分、ズル、と音を立てて熱い中に飲み込まれる。
「ん…ッ…ぅ…」
  鼻にかかったような息を吐いて、桐生の手が大吾の髪に絡んだ。
  誘われている気がして唇を寄せれば、素直に応じる桐生を愛しいと思う。
  根元まで納め、床についていた桐生の片足も膝裏に手を入れて抱え上げれば、自重でより深く押し開かれ貫かれて内壁が悦びできつく締まる。
「っ…」
「ぁ…っ、だ、いご…ッ」
  揺さぶれば腹の間で擦り上げられた桐生のモノが再び勃ち上がって震えていた。
「…っ、俺の服、汚すなよ、桐生さん…っ」
  脱げば良かったのだろうが、トイレの個室でヤるのに裸になるなど滑稽だった。
  こんな所でどうせヤるなら、即物的で丁度いい。
「は…ッ、知、るか、む、り、…ッ」
「…じゃ、シャツ捲り上げて持ってて、アンタ、が、っ」
  汚れないように、と壁に押し付け動きを止めて、桐生にシャツを持ち上げさせる。
「っ、何だ、内科検診か、ガキみてぇ、だな…っ」
  胸元まで引き上げさせて、汗ばんだ身体を擦り付けるように密着させればその筋肉の厚さと熱に桐生のモノが悦んだ。
「聴診器でも当てて、お医者さんゴッコでも、する…っ?マニアックだな、桐生さん…っ」
「ふ…ッ、ぅ、…っあ、だ…ッ」
  上から下へ重力任せに深々と抉る大吾のモノが熱くて容赦なかった。ガンガン突き上げられる度に締め上げ食いつく己の肉の貪欲さに殺しきれない声が漏れ、下手に口を開こうものなら妙な声が零れそうで桐生が口を引き結ぶ。
  その上を大吾の濡れた舌が行き来し、口を開かせようとした。
  嫌がらせかと抗議しようと口を開いた所に大吾の舌が入り込んで口腔を犯し、絡んだ舌を吸い上げられて桐生が呻く。
「はッぁ…っ、ァ…ッ」
  狭い肉を掻き分けて、奥まで擦り上げれば締め付けられもっとと強請る内壁の熱さに眩暈がした。
「っ、ココは、俺を欲しがってるのに、」
 
  アンタに必要とされてない気がするのは気のせいではないはずだ。

  お前が必要だと言うけれど。
  東城会に必要だからと言われても、嬉しくない。
  六代目が必要だからと言われても、知ったことではない。
 
  ならアンタが戻ればいい話。
  別に俺でなくても、済む話。
 
  誰かに頭を下げるアンタなんて見たくない。
  五分の盃の件だって、低姿勢で臨む必要なんかなかったはずだ。
  あんな連中に頭を下げて、郷田会長に頭を下げた。
  真島の叔父貴にも頭を下げて、俺にすら頭を下げるアンタなんて、見たくない。
 
  見たくない。

「はっ、やっぱ、気に食わねぇ…っ」
「…ッぁ、な、にが…!」
「俺、がっ」
「…っ、……ッぅ…ぁ」
「っ…!」
  急速に締まる中に、大吾が息を詰めた。
  ひくひくと痙攣する肉を突き上げ最奥で自身を解放すれば、腹にイった桐生のモノがかかって伝い落ちた。
  生暖かいその感覚に視線を落とし、荒い息を吐く桐生に口付ける。
  苦しげに眉を寄せたが、拒絶はされなかった。
 
  誰よりも強くて男らしくて、前を向いて立つアンタの後姿をずっと見ていた。

「…誰も入って来なくて良かった…」
「…気づいてなかっただけかもしれねぇぜ、桐生さん…」
「……」
  無言で蹴られたが、全く力は入っていなかった。
  床を拭き、黒い便座に飛び散った白いモノも拭き取った。
  黒い壁は無事だったが、もしや黒を使っているのはこの為かと一人ごちれば胡散臭そうな目で睨まれる。
「…目立つだろ、白。そしたらてめぇで掃除するじゃん」
「……何でソレが前提なんだ馬鹿が。スタッフに謝れ」
「いやだって、深夜のバーとか飲み屋のトイレなんてソレ用じゃねぇか…って、目が怖ぇぞ桐生さん」
  盛大にため息をついて個室を出る桐生の後姿はしっかりしているように見えた。
  後に続きながら、大吾は思う。

 アンタに失望できるような人間であったなら。

「…あぁ、無理だな」
「あ?何か言ったか」
「恋は盲目っていう言葉、知ってっか?」
「……お前は青春まっさかりの中高生か」
「…悪かったな」

 四代目をあっさり捨ててしまえるアンタに勝てるヤツなんていやしねぇと思う。

  席に戻れば、飲み干したはずの二杯目が入ったばかりの状態で置かれ、桐生のグラスもまた入れられたばかりの物が置かれていた。
「あれ?」
「……」
  残り少なくなった客の相手をしていた壮年のバーテンダーを見やれば、視線に気づいた男がにこやかに一礼をした。
  恐ろしい熟練ぶりに感心を通り越して薄ら寒くなったのは言うまでもないが、大吾は何故だか嬉しそうにグラスに手を伸ばしゆっくりと味わっている。
  考えることを放棄して、桐生も椅子に腰かける。だるかったが、気づかないフリをした。
 
  静かな店内に流れるピアノは心地よかった。
  上機嫌の大吾にため息をついて、桐生もグラスに手を伸ばすのだった。


END

憧れの代償

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