「冴島、アンタに聞きたい事がある」
「何や、どないしたんや桐生。改まって」
「……、………だよな?」
「ん?何やて?聞こえんかった。もぉちょいでかい声で頼むわ」
「真島の兄さんの関西弁、変だよな?」
「……」
「……」
「アンタは標準語の人やったな、桐生」
「ああ」
「真島の関西弁が変やって、思うんか」
「ああ。元々関西人じゃねぇんじゃねぇか?あの人」
「…ほ~ぉ。何でそう思たんや?」
「ここ数年、関西弁を多く聞くようになった。昔は気にならなかったんだが、最近どうもアクセントがおかしいというか、違うんじゃないかと思ってな…。今更兄さんには聞きづらい」
「なるほど。あれでも上手なったんやで」
「…ということは」
「そうや。元々関西人ではない」
「…そうか…。いつから?」
「そうやな、嶋野組に入ってからやから、もう25年以上は前の話や」
「えっ25年!?」
「そうや。…何や?」
「ああ、いや…」
「桐生チャーン!こんなとこにおったんかー!探したでぇー!」
「お、噂をすれば兄弟」
「真島の兄さん…」
「あ?何やねん変な顔して…俺の顔に何かついとるか?」
「ちゃうんや兄弟。桐生がな、お前の…」
「あーーーーーーー!言わなくていい!言わなくていいぞ冴島ッ!」
「何や、内緒か」
「内緒と言うか…必要ないだろう」
「…何やねん。俺に隠れて二人で内緒話かい…」
「違う。…で、兄さんは俺に何か用だったのか?」
「桐生チャン…」
「…いっ…肩掴むな肩を…ッ!」
「桐生チャンが俺に隠し事をするやなんて…!おい兄弟、何の話しとったんや!教えんかい!」
「何もたいした話はしとらんで。ただお前が関西弁話すようになったんはいつからやって聞くから教えたっただけや」
「へ?」
「……冴島…」
「別に隠すようなことちゃうしな。下手に詮索されるよりマシやろ、桐生」
「…まぁな」
「…桐生チャン…」
「何だ」
「何で俺に聞いてくれへんねん!水くさいやないか!」
「…いやそれは…」
「まぁええわ。何や桐生チャンの気持ちはよぉわかったで。いやいや昔っからわかっとったけどな、そうかそうか」
「……」
「桐生チャンなら何でも教えたるのに。…まぁ、今日のところはええわ。兄弟は昔の俺をよぉ知っとるからな、何でも聞いとき。そうかそうか」
「…兄さん?」
「飯でも一緒に行こかと思たけど、そういうことやったら邪魔はせん。ゆっくり二人で話し」
「……」
「冴島の兄弟」
「何や兄弟」
「俺のことはちゃんとええように言うといてや!わかっとるやろうけどな!」
「…桐生の目の前でそれ言うたら意味ないやろが」
「ええねんええねん。ほな!」
「……」
「…カッコつけて行きよったで」
「すまないな、冴島」
「何がや?俺はなんもしとらんで」
「いや、兄さんの関西弁が…」
「それはええねん。で、さっき何言いかけたんや」
「ああ、その」
「…何や、気になるやんけ。真島には黙っといたるから、言うてみ」
「25年も関西弁喋ってて未だにマスターできないんだなと思ってな…」
「フッ甘いな桐生」
「えっ?」
「関西人ちゃうヤツが完璧な関西弁喋ろうなんて無理な話やっちゅーねん!」
「………っそ、そういうものなのか…!」
「そうや。関西弁舐めたらあかんで。標準語はどうとでもなるけどな、関西弁は無理や。断言したるわ」
「……他の方言は?」
「そんなもん知らんわ。俺は生涯関西弁一筋や」
「…な、なるほど…」
「せやからな、真島を責めたらあかんで、桐生」
「いや責める気なんかないが」
「あれでも頑張ったんや。理解してやらんといかんで」
「……」
「何十年もドヘタクソな関西弁でもな、関西人が許したら、許したらなな」
「……いや俺はそこまで言ってない…」
「しかし真島の関西弁を見抜く関東人がおるとはな。さすがや桐生。真島が見込んだ男や」
「全く嬉しくないな…」
「よし、飯食いに行こか。今日は俺に奢らせてくれや」
「え?…いや、しかし」
「かまへんかまへん。真島のお許しも出たことや。昔話も悪ないわ」
「…ちょ、おい、やめろ引きずるな…」
「桐生も関西弁喋ってみたら大変さがわかると思うで」
「…俺は必要ない」
「意外と素質あるかもしれん。教えたろか」
「いや、結構だ」
「遠慮すんなや」
「してねぇ。真島の兄さんに無理なら俺にも無理だろう」
「お、それは兄弟に言ってやったら喜びそうやな」
「言わなくていいぞ冴島!!アイツは調子に乗るからなっ!」
「…ほ~ぉ」
「…何だ」
「この25年の間のことも色々教えてもらおか、桐生」
「……真島に聞けよ!」
「アイツはあかん。桐生チャン桐生チャンばっかりや。真面目な話も聞かせてくれや」
「何話してんだ…恐ろしい…。…じゃぁ、飯だけじゃ時間足りねぇな。飲みは俺が奢らせてもらおうか」
「話がわかる男はええな。よし行こか」
「…途中で乱入してこなきゃいいけどな…」
「来るで、断言したる」
「……」
「まぁええやないか。こういうんも、幸せっていうねんで。きっとな」
「…アンタがまともな人で良かったと思う」
「あ?何やて?」
「いや、何でもない」
END
冴島と伊達さんが桐生さんの最後の良心だといいと思います。