「ところで桐生君」
「何だ?尾田」
「……それな」
「あ?」

「立華社長、今戻りました」
「尾田さん、桐生さん、お疲れ様です」
「それです」
「え?」
「何なんだ尾田。さっきから」
「それだよ桐生君」
「…だから、何だつってんだろ」
「社長、おかしいと思われませんか?」
「何がです?」
「何がだよ」
「お前は黙ってろ桐生君」
「…あぁ?」
「…で、何ですか?尾田さん」
「コイツ、インターンのくせに何でタメ口なんですかねぇ。俺には理解できません社長!」
「……」
「インター…何?」
「インターン!研修生ってこと!」
「…けん…俺がか?」
「他に誰がいんだよ!」
「何で俺が研修生なんだ。んな話聞いてねぇぞ」
「いいか桐生君?フツーはさ、いいか?もっかい言うけどフッツーはさ、社員てのは研修期間があるもんなの。現に俺が教育係についてるってことはだな、お前は俺に教わる立場だってことだ」
「不本意だがな」
「不本意とか言うな。名刺逆向きで渡したクセに」
「あっお前それ言わないって言っただろうが!」
「あん?そんなん知らね」
「桐生さん、可愛い間違いをするんですね」
「可愛いとか言うな。次はもう失敗しねぇ」
「そうですね」
「それでですね社長!」
「…聞いてますよ尾田さん」
「コイツにはクチの利き方から教えてやらないとダメだと思うんです」
「…具体的には?」
「敬語!敬称!」
「…桐生さん、できますよね?」
「当たり前だ」
「では、問題ないですね」
「いやいや、できてないでしょ!?」
「尾田…落ち着けよ」
「お前は落ち込めよ!俺がまっとうな教育してないみたいだろ!」
「してないだろ」
「してないんですか?尾田さん」
「してますよ!?」
「では、問題ないですね」
「いやいやいやいや…社長、俺の話、聞いて下さってました?」
「聞いてますよ。桐生さん、敬語敬称、できるんですよね?」
「もちろんだ」
「ほら、尾田さん」

「今この瞬間に、出来てないでしょッ!?」

「うるせぇなぁ。必要な時に喋れれば、問題ねぇだろ?…だよな?立華」
「立華、じゃねぇぞ桐生君!何呼び捨てにしてんだお前!!」
「立華は立華だろう?」
「社長、をつけろこの野郎!立華社長、だ!」
「……」
「不満そうな顔すんな。俺だってお前のこと桐生「君」つって呼んでやってんだろうが!」
「馬鹿にしてるからだろ?」
「尾田さん…、そんな理由で「桐生君」だったんですか」
「いやいやいやいや…否定はしませんけど、でも彼の立場なら当然なわけで」
「否定しないんですね」
「立派な教育係だなぁ?尾田」
「あぁああああ俺の品性が貶められてる…!しかも社長の前で!つーか、「さん」をつけろ社会人なんだから!」
「立華は気にしてねぇからいいだろ、さん?」
「気にしてませんよ、桐生さん、さん?」

「あぁあああああああぁ社長やめてやめて桐生に惑わされないで!」

「さんを付けろよ尾田!」
「うるせぇお前につける「さん」なんざねぇっつんだよ馬鹿桐生!!社長、何とか言ってください!」
「「さん」はつけないんですか?尾田さん」

「ああぁああああ社長に「さん」つけたら「社長さん」でしょ!俺は客引きか!飲み屋のボーイか!おかしいでしょ!ニッポンゴおかしいでしょ!?」

「『社長』は役職ですから、そもそも「さん」をつける必要はありません」
「ええはい、わかってます、社長。ツッこむところ、そこじゃないと思います。むしろ俺がボケずにツッこむべきでしたすいません」
「そうですね」
「そうだよな」
「うるせぇ桐生!お前が言うな!」
「……」
「だから不満そうな顔すんなって!」
「桐生さんもウチの大事な社員ですよ、尾田さん」
「…いえあの、社長は何で桐生の味方するんですか?」
「してませんよ?」
「してます!」
「してません」
「してます!」
「してません」
「……してますって」
「してませんって」
「…あぁもう…桐生君が、ちゃんと敬語で喋ってくれたらいいだけの話じゃないですか」
「だから、必要な時には喋るっつってんだろが」

「今!!この時!!必要だろうが!!」

「何でだ?」
「何でだと!?俺はお前の先輩!!立華社長は社長!!わかってんのか!?お前雇われの身なの!新人なの!下っ端なの!!」
「…お前に「さん」つけたら、立華にも「さん」つけるんだぜ?日本語おかしいって、立華に指摘されたばっかだろ」
「そうですよね」

「社長は「さん」いらないだろお前馬鹿かッ!!!」

「え…」
「……」
「……え…って、え?社長まで、何で黙っちゃうんですか?」
「……」
「…立華、心中お察しするぜ」
「いえ、いいんですよ桐生さん。これまで通りで、結構です」
「いやいやちょっとちょっと、何?何で二人でわかり合っちゃってんの?説明してくれないかな桐生君?」
「お前が立華をないがしろにするからだろ」
「してねぇよ!?いつしたよ!?」
「今」
「え!?俺!?俺がいつ!?なぜ!?」

「立華に「さん」は不要だって」

「待てーーーい!!」
「…あ、そのノリあれですね、お笑い芸人でいましたね、ご存知ですか?桐生さん」
「今バブル期だからその芸人、まだいねぇぞ。二十年以上先の話だ」
「あ、そうでした。では聞かなかったことに」
「そうしよう」
「…何なの?社長と桐生君、なんでそんなに仲良しなの?」
「何言ってんだ?尾田」
「そうですよ尾田さん。疲れてるんですか?」
「ええ疲れましたけどもですね!」
「もう休め、尾田」
「早退、許可しますよ。届けは出してから帰ってくださいね」
「…何だろうこの疎外感」
「ところで桐生さん、名刺渡すミス以外は大丈夫だったんですか?」
「フッ…伊達に下積みやってねぇよ。極道は躾厳しいんだぜ」
「さすが風間さんが見込んだ人ですね」
「…たいしたことじゃない」
「良かったら食事一緒にいかがですか?この間はご一緒できませんでしたし」
「…あぁ…あんたの正体が不明だったからな…」
「少しは信用して頂けましたか?」
「…でなけりゃ、ここにはいねぇな」
「それは良かった。では行きましょう」
「ああ」

「……な、何一つ解決してない…」

尾田は一人項垂れた。


END
桐生さんと立華社長はどっちもボケだよな、と、思ったのでした。

鶏が先か、卵が先か

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