警察官の年収は低くない。
  にも関わらず、谷村が住むマンションはごく平均的な1DKだった。
  それほど古くはない建物にはオートロックのエントランスと宅配ボックス、部屋の玄関もまたオートロックであったが、まず一般的な最近建築されたマンションの範疇に入り、小奇麗ではあったが高級ではない。
  部屋の中は男の部屋らしく、洗濯物は干されたまま放置され、脱いだジャケットや読んだ本、入れ替えたDVDなどはベッドの上や机の上に散乱していた。
  足の踏み場もないというほど酷くはないが、整理整頓されているというには程遠い。
  よく他人を家に入れようと思ったな、と、桐生は逆に感心した。
「あー…人来るなら片付けときゃ良かったー」
  谷村がベッド周りを片付けながらぼやいたが、後の祭りである。
  どこかに座ろうという気にはなれず、ダイニングから寝室へと続くドア付近の壁に腕を組んで凭れ、忙しなく動く谷村の背中を見守った。
  暇だ。そして己は何を待っているのだろう。
  桐生は馬鹿らしくなり、煙草をスーツのポケットから取り出した。
「あっ桐生さん煙草吸うのちょっと待って」
「……」
  目敏く注意され冷めた瞳で一睨みすれば、一段落ついた男が桐生の元へと歩み寄る。
  煙草を箱ごと取り上げられ、テーブルの上に投げられた。ぞんざいな扱いに眉を顰め、咎めるつもりで開いた口の中に、谷村の舌が入り込む。
「…っ」
  両手を後頭部に回され、ホールドされた。
  壁に押し付けてくる男の身長は意外に高く、桐生とそれほど変わらなかった。
  腰骨が同じ高さで当たって、神経に障る。
  桐生の両脚の間に身体を割り込ませ、擦り付けられる下半身はすでに硬くその存在を主張しており、絡む吐息も熱かった。
「あー…早く、桐生さんに挿れてみたい…」
  ぐりぐりと桐生のモノに己のモノを押し付けて、刺激する。音を立てて唇に口付けながら、いまいち反応の鈍い桐生に笑いかける。
「桐生さん、キス下手なの?あ、セックスも下手だったりしないですよね?俺頑張るけど協力してくれないと大変だなぁ」
  後頭部へ回していた左手を下ろし、着衣のままの後ろを探る。
  腰から尻へ、内腿を撫で上げながら、上へ。服に阻まれ目的の場所へは到達できなかったが、撫でられる感覚に桐生が落ち着かなさげに身じろいだ。
  右手は桐生のベルトへと伸ばし、引っ張る。
  自分で外して、という遠まわしな催促に桐生が苦笑し、谷村の手をどけてベルトを外した。
「随分安い挑発だな、谷村?」
  抜いたベルトを床へと落とし、桐生は自らのシャツの釦を外しにかかる。
  一つずつ上から開かれ露わになる肉体は男ならば憧れてやまないものだった。
  美しい筋肉だ。
  無意識に手が伸び、谷村は鎖骨から胸へと掌全体で撫でさする。 
  胸の突起を強めに摘んで、押し潰すように刺激すれば熱く濡れた息を落とされ興奮した。
「ちゃんと感じるんですね、桐生さん。どれくらい開発されてるのかな」
「…は、さぁな」
  お前は脱がないのかと目線で問われ、苦笑で返す。
「いい身体だなぁ。俺細いけど、見たいですか?」
「野郎の身体なんぞ見たいわけがねぇ」
「あ、ひでぇ。じゃぁいいじゃないですか。俺は桐生さんの身体見たいから全部脱いで欲しいな。脱がせてあげる」
「……」
  釦を全て外したシャツとスーツの上着を一緒に脱がせ、ダイニングチェアの背凭れにかける。
  下衣へと手をかけ、下着も一緒にずり下ろす。
  甲斐甲斐しいな俺、と谷村は自画自賛した。
  どこもかしこも、立派としか言いようのない肉体美にため息が漏れる。
  不満があるとすれば、桐生のモノは全く平静だということだ。
  自分はいつでも準備オーケーだというのにこの差。
  腹立つなぁと口内で小さく呟いたが、至近にいた桐生には聞こえたようだ。
  緩く首を傾げてみせて、谷村のネクタイを引っ張った。
「…何ですか?」
「そうだな、お前も脱げ」
「ん?見たくなったの?」
「興味はねぇが、俺だけ全裸はそれこそ腹が立つ」
「…何それ、桐生さん可愛いこと言うんですね!」
  引っ張られたネクタイを解いて、外す。
  シャツも脱ぎ、上半身を晒せば悪くない、と桐生が笑った。
「上から目線来た。来たよ」
「それなりに鍛えてるじゃねぇか」
「これ以上筋肉つけようと思ったら食事管理とかしないと無理でしょうねぇ。面倒なんでもういいです」
  不貞腐れたように唇を尖らせながら、谷村は下衣を寛げ勃ち上がった己のモノを取り出した。
「桐生さんフェラはお上手?」
「…咥えろってか」
「お手並み拝見したいなぁ」
「ベッドがそこにあるのに、ここで立ってやるのか?マー君?」
「……」
  一瞬何を言われたのかわからず、桐生を見返す。
  口角を引き上げ笑みの形に刻まれたその表情は笑ってはいたが、瞳に宿る光はまるで獰猛な獣のようだった。
  息を呑み、谷村は震えた。
  おそらく己は笑っているだろう。
  嬉しかった。
「…いいや。フェラも捨て難いけど、桐生さんに突っ込む方が何倍も楽しそう」
  桐生の腕を掴んで、ベッドへと誘う。
  押し倒し、軋んで跳ねる身体の上に圧し掛かり、仕切り直しとばかりに唇を塞ぐ。
  舌先が絡みつき、唾液ごと吸い上げられた。
  ざらりと表面同士を擦り合わせれば背筋を這うのは快感だ。
  吐息が混じり、桐生の口端を流れて落ちる唾液の跡を追うように舌を寄せ、舐める。
  温かい首筋を這い、鎖骨に噛みついた。
  谷村の髪を撫で、背を這う桐生の指先が時折震え、息を詰める。
  痕をつけたら嫌がるだろうなということは理解していたが、やらずにはいられない。
  鎖骨の下辺りに舌を這わせ、唇を寄せるが「痕はつけるな」と出鼻を挫かれ、ため息が漏れる。
「やっぱ駄目?」
「駄目に決まってる」
「残念」
  胸を弄り、先端を口に含んで舌で転がす。腹筋を撫で、脇腹を撫でれば桐生の身体が跳ねて切なげな息を吐いた。
  撫でる手を下肢へと下ろし桐生のモノへ触れようとしたが、手首を掴まれ阻まれる。
「…どうかしました?」
「どけ」
「へ?」
  頓狂な声が漏れたが、仕方ない。
  桐生はさっさと起き上がり、上に乗った谷村の身体と体勢を入れ替え組み敷いた。
「…ちょっと、桐生さん?」
「黙ってろ」
「…いや、えっと…」
  あれ、もしかして俺ヤられちゃうの?と、考えた己に嫌悪する。
  男らしく逞しい、誰もが惚れ惚れするような桐生一馬という男が、大人しくヤられるはずがないのだろうかと、落ち込みそうになったのだった。
  だが桐生の顔が視界から消えて、谷村は首を傾げる。
「きりゅ……、…ッちょ…!」
  語尾が不自然に跳ね上がった。
  視線を下へと向けて、絶句する。
  桐生が、己のモノを、咥えていた。
  いや咥えてくれと頼んだのは自分だが、嫌そうな顔をしたではないか。
  …だが嫌だと拒絶されたわけではない。
  ベッドでと誘われただけだった。
「…っふ、…く…ッ桐生さん、お上手です、ね…!」
  上半身を起こし、奉仕してくれる桐生の頭を撫でる。
  蹲るような姿勢になった男の背にあるのは、雄雄しき龍だ。
  龍を背負い、今や誰も跪かせることのできない男が、己の前で跪き、己のモノを咥えている。
  たまらなかった。
  唾液に塗れたグロテスクなモノはてらりと光り、桐生の口内へと吸い込まれる。
  生暖かく濡れた肉に締め上げられ、先端を吸い上げられて谷村が呻く。
「っは、そんなに、もたなさそ…っ」
「…っふ、ッん…」
  鼻にかかる声は酷く切なく響いた。
  上がる息を大きく吸って、谷村が笑う。
「…桐生さん、すげ、イイ声…っ」
「…っ、ぅ…っる、さ」
  早くイけと言わんばかりにきつく吸い上げ絞り上げながら上下する桐生の頭を掴む。
「っ…も、イきそ、です…っ」
  陰嚢を揉みしだかれ、擦り上げられ、強く吸われては耐えられない。
  喉奥まで押し込んで、もっと締めてとお願いすれば、言う通りにしてくれるのだからもうダメだった。
「ふ…っあ、たま、上げて、桐生さ…ッ!」
「っん…ッ」
  髪を掴んで、引き上げる。
  痛みに顔を顰めてずるりと口から離した瞬間、桐生の顔に精液が飛んだ。
「…っ」
  目を閉じ僅かに顔を背けたが、後頭部を押さえられているので逃げられない。
  生暖かく生臭い粘液が、頬から顎を伝って落ちシーツを汚した。
「…桐生さんに顔射決めてみたかったんですよね…!ホラ赤ちゃんにも決められてたし」
「…お前な…」
「興奮、しました?」
「するか!」
「…その割には勃ってるみたいですけど。エロイなぁ桐生さん。後ろも疼いちゃった?」
「…拭いていいよな」
「あ、どうぞ。拭いてあげる」
  ティッシュを取って、顔を拭う。
  眉間の皺が深くなっているような気がしたが、不機嫌というわけではないようだ。
  促すように見つめれば、ため息が落ちてきた。
「…まぁ、飲まずに済んだだけマシか」
「…っ!!」
  ソッチの方が良かった!!
「それ、早く言ってくださいよ!桐生さんに俺の飲んで欲しかった!」
「うるせぇもうやらねぇよ」
「ひでぇ。…桐生さん言えば何でもやってくれるタイプですか」
「あ?」
「いえ何でもないです。そうか意外だなぁ。俺様タイプかと思ってたのに、従順タイプだったなんて」
「…何言ってやがる」
「いーえ。俺俄然やる気になっちゃった。さぁ桐生さん!しっかり後ろぐちゃぐちゃにしてから合体しましょう!」
「…がったいてお前…」
「はい寝て寝て。背中見せて見たいです。うつぶせー!」
「…オイ…っ」
  腕を引いて、背中に覆いかぶさった。
  ウェイトでは負けているので、本気で抵抗されては厄介だったが、桐生は今更逆らうつもりはないらしく、大人しくシーツの上にうつ伏せた。
  腕を回して胸を探る。
  背中の龍をなぞるように舌を這わせ、時折気まぐれに歯を立ててやれば肩が跳ねて、息を吐く。
  後ろを指先でなぞりあげ、入り口に一本含ませる。ローションの冷たさに桐生の内腿が引き攣ったが、馴染んでしまえばあとはぬるぬると滑って気持ち好さげな声が漏れた。
  前も同時に扱いてやりながら、指を増やす。
  熱い内壁が締まって蠢く感覚に喉が鳴った。
  再び首を擡げて挿入したがる己のモノを、桐生の腿に押し付ける。
「素股とかどう?」
  聞けば桐生は笑い含みに「それでいいなら」と平然と答えた。
  後ろは男を欲しがってひくついているというのに、可愛くないなぁと言えば「気持ち悪い事言うな」と返る。一筋縄ではいかないことに、谷村は悦びを覚えていた。
「…じゃ、ココに挿れちゃいますね。…濡れてエロイ感じになってますよ、桐生さん…、っ」
  紅く熟れた入り口が、男を誘う。
  ひくつくソコに己を宛がい、ゆっくりと含ませた。
「ん…ッ、ふ…ぅっ…」
  ぬるついて滑るソコを、指で撫でれば感じるのか尻が揺れた。
  ずず、と音がしそうな程に、滑らかに飲み込まれる己のモノに絡みつく熱い肉がたまらない。
  早くと誘われている気がして、中程まで埋まっていたモノを一気に最奥まで突き上げた。
「…ッ、…ッア…!」
  桐生の背がしなり、シーツを掴む指先に力が入るのが見て取れた。
「あー、ごめん桐生さん。痛い?…キモチイイ?」
  背中に密着し、耳朶を食みつつ囁いてやれば、首を竦めて小さく喘ぐ。
  軽く根元を押し付けるようにグリグリと動かしながら、耳に舌を絡めて舐めてやる。
  熱く吐息を吹きかけ「イイ?動いて欲しい?」と優しく問うが、桐生は恥じらったりはしなかった。
  気持ち好さげに声を漏らすくせに、見つめてくる瞳は欲に塗れて潤んでいるくせに、口元に浮かんだ笑みは余裕そうだった。
「…そ、のままで、我慢できるなら、な…?」
  笑われた。
  見透かしたような答えに、こちらも笑みが漏れる。
「桐生さん、大人ですね。…じゃぁ好きなように動いちゃおうかな」
「勝手に、し、…ッ」
  先端をギリギリまで引き抜いて、一息に根元まで。
  絞り上げられる感覚は容赦なく、絡みつく肉がひくついてとてもイイ。
  ゆっくりと引いては押してを繰り返し、少しずつペースを上げて桐生の内壁を抉り擦り上げる。熱を持ち溶かさんばかりの食いつきように、谷村が歯を食いしばった。
「は…ッ、何これ、桐生さん、慣れてるね…っ!」
「っ、…っん、く…っァ…ッし、るか、だまれ…!」
「自分で、腰振っちゃうんだ、桐生さん…ッ後ろで、イけるの…っ?」
「は、…っ、んん…ッ」
  骨がぶつかり肉がぶつかって音を立てる。
「イけないなら、自分で、触っていいよ…ッ!」
  ホラ、とシーツを掴む桐生の手を取り導いてやれば、肩で自重を支えながら己のモノを扱き出す。
  揺れる腰を掴み直し、ふと思い立ち体位を変えようと提案する。
  挿入したまま、桐生の片足を掴んで持ち上げ、反転させた。
  向かい合う形になり、谷村が見下ろしながら舌なめずりをした。
「…俺に、見せてくださいよ、オナってるとこ」
「…っあ、くしゅみだなお前…ッ」
「良く言われます。ッホラ、突いてあげるから、イイとこ見せて…っ!」
  大きくグラインドさせて、奥まで一気に貫く。
  顎を仰け反らせて悦ぶ桐生は言われるがまま、己のモノを指を絡めて上下に扱く。
  中が締まって、ぐちゅりと水音を立てローションが溢れ出た。
  両足を高く抱え上げ、肩にかける。
  そのまま両手を桐生の身体を挟むようにシーツに置いて、上から深く押し込んだ。
「ぁ、…ッは、んん…っ!」
「も、っと、聞かせて、声、を」
「っぁ、ア、ァ…ッた、に、むら…っ、」
「何、」
「も…ッイ、く…ッ」
「ん、イって、いいよ…っ、俺も、イきそ、です…ッ」
  ベッドのスプリングが軋んで、追い上げる速度に合わせてギシギシと悲鳴を上げる。
  ああ、楽しい。
  ガクガクと震え出す桐生の身体を抱きしめる。
  優しくて愚かな龍だ。
  縋る手を、振り払えない。
  抱きしめ返してくれるその手が温かいだなんて、反則だ。
  喉元を食い千切ろうと虎視眈々と狙う不埒な輩にまで与えられる熱は、卑怯だ。
  溶かされる。
  それは酷く恐ろしく、甘美だった。
「…ッ」
  熱くぬるついた中に、己をぶちまけ荒い息を吐く。
  ああ、キモチイイ。
  伝説の男が己の下にいて、最強の極道が肩で息をして喘ぐ。
  たまらない。
「あー…俺明日、起きれるかなぁ…」
  桐生の首筋に鼻を埋めるようにして、呟く。
「…っぁ…?」
「ていうか、寝れるかなぁ…」
「…何でだ」
「俺まだ若いんですよ?」
「……それがどうした」
  声が一段低くなった。谷村は身体を起こし、当然の権利と言わんばかりに口付ける。
「またまたぁ。桐生さんって、分かってるくせに聞くんですね。言わせたいのかな変態」
「…変態は俺じゃねぇだろ?」
「え、俺?そっかぁ。ならそれでいいけど、とりあえずもう一回イっとこう」
「とりあえずか。…なるほど、元気でお盛んで結構だな」
  腿に当たるモノの感覚に、桐生がため息をついた。 
「やだなおじさんくさいよ桐生さん。騎乗位とかしてくれるんですか?」
「おじさんに体力使わせるんじゃねぇよ」
「俺より体力ありそうなくせに拗ねないでください。じゃぁあとで、お願いします、ね!」
「…ッ!ぅ…ッい、きなり、突っ込んでく、る、な…ッ!」
「あーたのしー…っ!」
「く…っ、ん…っ」
  どこまで受け入れてくれるのだろう、楽しみだった。
  一つ許されたらさらに先へと行きたくなる。
  さらに先へ。もっと奥へ。
  関わって行けば行くほど、深みにハマって抜けられなくなるのだろう。
  桐生一馬という男は、底なし沼のようだった。
  きちんと踏み止まらなければ、危険だ。
 
  俺なんかに、優しくしなくていいんですよ、桐生さん。

 

  拝啓東城会のお偉い人達。

  ちゃんと桐生さんの管理しておかないと、この人ダメじゃないですか?
  さすがにそこまで節操ないとは思いたくないけど、そのうち見知らぬおっさんとかに懇願されて股開いちゃったりしないでしょうね?
  まさかね。
  …いや案外好みにはうるさかったりするのかな。
  だとしたら俺お眼鏡に適ったのかなーやったね!
  二度目はないって言われたけど、押せ押せすればなんとかなりそうな予感がします。
  ということで、俺まだ死にたくないので殺さないで下さいね。
 
  敬具
 
 
 

「…っていう、メール出したら殺されるかな?」
「俺を何だと思ってやがるお前…!」


END
リクエストありがとうございました!

秘密の一夜。-02-

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