「ワタリ」
「はい竜崎」
「東応大学の入学試験を受けられるように手続きを」
「お受験でございますか」
「おをつけるな。見栄と欲望に駆られた母親達の戦争に巻き込まれるつもりはない」
「母親は母親で子供の将来を考えてのことでございますよ、竜崎。そのようにおっしゃっては世の中の母親を敵に回すことになります」
「今聞いているのはお前しかいない、ワタリ」
「そうでございました。東応大学ですと、センター試験が数日後に迫っておりますが、それからお受けになりますか」
「夜神月を監視できる位置で頼む」
「受験番号と配置表をすぐに手に入れます。近すぎず遠すぎず、絶好のピーピングポイントを確保致しますのでご安心を、竜崎」
「試験会場で何故後ろ暗く覗きをしなければならないんだ。違う、むしろ堂々と顔を上げたら夜神が見える、位の位置でいいんだ」
「真後ろの席を用意致します、竜崎」
「近ッ!それ近すぎるから!…いいかワタリ、あくまで『監視しつつ試験を受けることができる距離』だ。夜神月の後方の席であることは前提だが、近すぎて気取られるのは好ましくない」
「竜崎はいつどこにいらっしゃってもお目立ちになるカリスマをお持ちでございますから、全く気取られないと言うわけにも参りますまい」
「私がLだと言っていなくても、立っているだけで注目を集めてしまうのは私ゆえだ。だからこそ表に出ることなく行動しているのだが、今回ばかりは仕方がない…だが、目立つにしても極力夜神月に強い印象を与えることだけは控えたい」
「『スープの冷めない距離』の席でよろしいですか、竜崎」
「上手い事言っても座布団は出ないぞワタリ。そうだな、2つ3つばかり後ろの席でも用意してもらおう。それで私は一受験者を装いながら夜神月の行動を監視することができる」
「では実際に試験はお受けになりませんか?東応大学に入学手続きはすぐに手配できますし、白紙で提出なさってもなんら問題はございませんが」
「夜神月は優秀なんだったな」
「はい、全国模試でも常に一位のようです」
「では問題ない。私も普通に試験を受けるとしよう。夜神月がどの程度の実力を持っているのか、それで一端がわかるだろう」
「承知いたしました。手続きする際のお名前はどうなさいますか」
「名前か…」
「話し中のところすまない竜崎、ちょっと構わないだろうか」
「はい夜神さん。どうしました?」
「今日はそろそろ家に戻る予定なのだが、スーツの上着を取りに来た」
「ああ、これですね。ここ数日、監視作業お疲れ様でした。仕事とはいえご自分の家族を監視されるのは辛かったでしょうね」
「…仕事だからな、仕方ない。だが家族に不審な者はいなかったし、粧裕の好きなものもわかったし、全てが辛かったわけでもない」
「粧裕さんですか。アイドルのなんとかがお好きなんでしたね」
「流河何とかといっていたな。今の若者が好きなアイドルなどはさっぱりだが、娘とそういう話をすることもないのでな、その…」
「父親にとって娘は何よりかわいいものと言いますしね。…月くんはアイドルなどはあまり興味がなさそうでしたね」
「受験を控えているからな。そんな余裕もないのだろう…だが普通にテレビなどは見ていたぞ」
「そうですね」
「では今日はそろそろ失礼する。竜崎、ワタリ、邪魔をして悪かった」
「お疲れ様です、夜神さん」
「名前の話だったな。そうだな…『キラは殺す相手の顔と名前が必要』という条件から考えて、偽名であればどんな名前でも構わないのだが」
「小泉ジュンイチロウとでもしますか、竜崎」
「それは色々な方面がヤバイから却下だ。だが方向としては悪くない」
「では情事・物種などはいかがでしょう」
「漢字にすればいいというものではない。しかもそれ名前に見えない」
「難しいものですね…親が生まれてくる子供に名前をつけるような気持ちになって参りました」
「そんな名前付けられたら子供可哀想!」
「今は珍妙な名前を付けるのが流行のようですよ」
「子供が将来グレないことを祈るばかりだな…というより、情事くん、などと呼ばれる私を想像してみろ、ワタリ」
「いかがわしいことこの上ないです、竜崎」
「お前が言い出したくせに!…もっとインパクトがありながらも違和感のない名前はないのか。今後夜神月に近づき監視する為にも、親しみが持てる名前は」
「杉村タイゾウ」
「ま た 政 治 家 か !」
「親しみが持てるという点では抜きん出ておりますよ、竜崎」
「そんな親しみはいらない。むしろその名前からくるイメージがいやだ」
「イメージですか…」
「無難にアイドルあたりの名前にするか…」
「ああ、ではアレしかありませんね」
「そうだな、アレでいいか…」
「…で、竜崎?」
「外では私のことは流河と呼んで下さい夜神くん」
「その流河の名前、そんな理由でつけたのか」
「他に適当な名前がなかったので」
「いや、それ以前に…」
「頭を抱え込んでどうしました?頭痛ですか?」
「オリジナルな名前を考えようという意志はなかったのか!」
「ありません。どうせ短期間しか使わない名前ですから」
「アイドルの流河に謝れ」
「何故です?むしろ私に名乗られて光栄でしょうに」
「なにその俺様思考」
「名前なんてどうでもいいことですよ」
「なら本名名乗れよ」
「本名知りたいのは夜神くんがキラだからですか?それとも私のことが好きだからですか?」
「ありえないことを言われても困るよ」
「全開の笑顔で全否定しましたね今…」
「情事くんでよかったのにね、竜崎。そしたら親しみ持てたかもよ」
「情事がお好きだからですか?」
「ははっ竜崎と話していると、キラの気持ちがすごく良くわかるよ」
「キラだからでしょう?」
「誰かこいつを回収して!」
「今日は生ゴミの日ではありませんね」
「ああ、自分が捨てられるという想像はできるんだ…」
「今現在夜神くんが私を所有していると言う前提の話ですよね?」
「所有してませんし、いりません」
「『流河旱樹』なLが夜神くんのものなんて、贅沢なことですよ」
「アイドルの流河と交換してーーー!!!」
「ちり紙交換の日でもないですね」
「もういいよ…」