「今日は2月14日ですね夜神くん」
「そうだな」
「ミサさんがさっきから夜神くんを探しているようですが」
「そうだな」
「なんでこんな狭い物置に隠れているのか伺ってもいいですか」
「物置っていうかここサーバー置き場だろ。別段狭くもないし。機械音がちょっとうるさいけど」
「名称はどうでもいいです。物置きであることに変わりはないですから」
「そうだね…」
「で？」
「ああ…今日は2月14日だからだよ」
「バレンタインですね」
「そうだね」
「ミサさんはきっとチョコを渡したいから夜神くんを探してるんでしょうね」
「だろうな」
「なぜ隠れるんですか？」
「そのチョコが問題だからだよ」
「ほう、それは？」
「……」
「マッズイ手作りだったりするんですか？」
「マッズイって…ミサの手作り料理でも食べたことあるのか？」
「イメージです」
「…ミサかわいそう…」
「夜神くんが逃げ回ってる方がミサさん的にはかわいそうだとは思わないのですか」
「手作りチョコくらいなら僕だって喜んで受け取る度量はあるさ。例えどんなにマズかろうとも、気持ちはありがたいからね」
「私より夜神くんの方が酷いです」
「ははっ！心外だな」
「いい加減理由を教えてもらえませんか。手錠のせいで私までこんな狭暗い場所にいなきゃならないんですよ。ホットチョコレートが飲みたいです。チョコレートパフェもいいですね。オーソドックスにチョコレートケーキでもいいですが」
「あとで何でもおごってやるから、今はおとなしくしててくれよ。頼むから」
「約束ですよ夜神くん。破ったら私怒りますよ」
「わかったよ竜崎。僕は約束は守るよ」
「そうですか」
「いやに聞き分けがいいね…まぁいいか。理由は一つだよ。ミサのバレンタインプレゼントを受け取りたくないからさ」
「プレゼントですか」
「そう」
「どんなものか聞いても？」
「……だよ」
「え？聞こえませんよ」
「…ミサ自身だよ」
「は」
「「今年はチョコレートがけしたミサ自身をライトにあげるね！！」…だそうだ」
「…それはそれは…」
「もらうのはちょっと…」
「もらってあげればいいじゃないですか？」
「無責任なこと言うなよ！一度受け取ったが最後、ミサの今後の行動なんて容易に想像できるだろ」
「キラとしてのボロを出してくだされば、私としては楽ができて助かりますが」
「僕はキラじゃない。それに気持ちが伴わないのに、受け取るなんてできないよ」
「…ほ～」
「…なにか言いたいことでも？」
「いえいえ、そうですか」
「……」
「まぁそれはそれとして、そんなギャルゲーの女の子でも言わないようなことを平気で言えるミサさんてすごいですね」
「ギャルゲーの女の子の言動とやらを把握している竜崎の方が僕としては気になるが」
「捜査の一環ですよ」
「嘘付け！」
「そういうモノに萌える人間の心理の研究の為に実際にプレイしてみたりはしますよ」
「プレイしてみてわかったのか？」
「萌えの心理と言うのは非常に奥深いものですね。なかなか難解ですが、私に理解できないことなどありません」
「ああそう…」
「秋葉原にもそのうち行ってみなければ」
「目的はメイド喫茶か？」
「執事喫茶というのもあるらしいですよ」
「…ああそう…」
「執事の何が萌えなのか、心理は理解できても私は萌えませんが」
「メイドは？」
「コスプレの一種ですよね」
「コスプレって…」
「ああ、チョコがけしたミサさんというのも、一種のコスプレですかね。その筋の人間が見たら喜ぶんじゃないですか」
「申し訳ないが、僕はその筋の人間ではない」
「私もその筋の人間ではないのでどうでもいいんですが、…一体あと何時間この閉鎖空間にいなければならないんでしょうか。さすがに飽きてきました」
「ミサの仕事が10時入りだから…あと5分の我慢」
「5分ですか。それなら我慢できそうです」
「お前は単に甘いものが食べたいだけだろ…」
「何をおごってもらいましょうかね。大抵の店のチョコやケーキは食べつくしてしまったので…」
「ありえない食いっぷりだな。すごいと素直に感心するよ」
「ありがとうございます。何度も食べたいと思うようなものにはなかなかめぐり合えないものですね。物色しているうちに食べつくしていた、なんてことはよくあることですよ」
「贅沢の極みだな、それは」
「いいんですよ、Lですから」
「……」
「食べたことないものがいいですね」
「竜崎が何を食べたことないのか、僕は知らないよ」
「夜神くんは知ってますよ。しかも明快です」
「それは？」
「あ、時間ですね。ミサさんとっとと仕事に行きましたかね」
「とっととって…」
「では行きましょうか。ワタリに準備させます」
「…何を？」
「食材を」
「は？」
「…夜神くんは私におごる代わりに、チョコレートケーキ作ってください」
「はぁ！？僕は菓子なんか作ったことないぞ！」
「夜神くんならできるでしょう。…出来なくて逃げ出すというのなら、まぁそれも仕方ありませんが…そうですか、約束を守ると言ったのは嘘でしたか…」
「…僕をみくびるなよ竜崎！レシピさえわかれば完璧に作ってみせるさ」
「それを聞いて安心しました。レシピも用意させます。さぞや美味しいケーキを作って下さるんでしょうね」
「一流パティシエ並とは行かなくとも、食える程度には作ってやるよ」
「楽しみにしてますね」
「手錠があるから当然お前も手伝うんだよな竜崎」
「え！？私は男子厨房に近寄らずの環境で育った世界の切り札Lですよ！その私に手伝わせるのですか！？」
「僕も男子厨房に近寄らずで育ってきたけど、作るって言ってるんだ、お前も捜査の一環として手伝えよ」
「ケーキ作りが捜査に役立つ日が来るんでしょうか…」
「来る～きっと来る～♪」
「…それ某ホラー映画の主題歌ですね」
「懐かしいな。井戸から出てくるやつだな」
「夜神くん結構色んなこと知ってますよね」
「竜崎こそ…」
「ミサさんが帰ってきたらうるさそうですが、捜査の邪魔にならない程度にしてくださいね」
「努力するよ…」
Happy Valentine。