どこにも、行けない。

 

「スコールくん、泊まって行っていいんだよ」
「約束なので帰ります」
「そうかね。今日は私はここに泊まるよ。犬の朝食の見守りは任せてくれたまえ」
「…よろしくお願いします」
 玄関先で一礼し、踵を返すスコールに手を振る男は、ラフに着崩したシャツを気にすることなく、曲がり角でスコールが見えなくなるまで後姿を見送った。
 深夜と呼ぶにはまだ早い時刻であったが、人気はすでに絶え静寂の落ちた街は眠りに沈んで、街灯と店舗のネオンだけが淡く夜道を照らしている。
 スコールは睡魔を振り払うように頭を振って、帰路を急いだ。
 早く帰って、寝たかった。
 ああ疲れた、と、無意識にひとりごちる。
 疲労だけが蓄積しており、己は何をしているのだろうと考える。
 立ち位置を見失いそうで、どうすればいいのかわからなくなる。
 だがそもそも立ち位置とは何なのか。己は今どこに立っているというのか。
 笑わせる。
 どこにも立ってはいないのだった。
 生きているから、生きている。
 生きるために、生きている。
 目的と手段が同じでしかない現状で、地に足をつけて生きているとどうして言える。
 元いた世界に帰る日までは、生きていたかった。
 帰った暁には闇を払拭し、闇に落ちる前の平和で温かかった時代へと街を蘇らせるという、新たな目的ができるのだった。
 現在の所、いつ帰れるのか目途は立たない。
 帰れた所で、何もできずに逃げるしかなかった無力な俺達に、何ができるというのだろう。
 あの世界が今どうなっているのか誰も知らない。
 あの日よりももっと荒廃していたら?
 もっと強力な闇の力に支配されていたら?
 それらを全て打ち倒すだけの力が必要だった。
 いつか来る日の為に、鍛える。
 いつか帰る日の為に、学ぶ。
 いつまで?
 どこまで?
 道しるべは存在せず、闇の中を手探りで進むようなものだった。
 形のない希望の光は弱く微かであり、ともすれば消えそうに儚い。
 雲をつかむような不確かさで延々と生きねばならない状況は、現実感を欠いていた。
 無力であったから、逃げるしかなかった。
 何もできなかったから、全てを失った。
 今いる己はただの抜け殻に等しい、無力なただの人間でしかないのだった。
 せめて何か確実なものが、欲しかった。
 今この場にいるべき理由、この場にいていいのだという実感が、欲しかった。
 この街は行く当てのない外の世界からの移民を受け入れてはくれるが、ここは本当の居場所ではない。
 移民は、やがて去るから移民なのだ。
 それでもここで、生きている。
 ここで生きていていいのだという保証が、欲しかった。
「……ッ!」
 ああ、油断した。
 まさかこいつ、ずっと外で待っていたのか。
 背後に気配を感じて振り向く寸前、襟首を掴まれ抵抗する間もなく路地へと引きずり込まれた。
 布で刃の部分を巻いた大剣を喉元に突き付けられて、身動きを封じられる。
 全く、壁に押し付けられるのは本日二度目で、一度目は加減があったが二度目のこれは力任せで痛みを伴う。
「…っ何か、用か…」
 喋ると喉元に冷たい刃が当たって不快だった。
 睨むように眉を引き絞って見つめてくる男の蒼い瞳は怒りのような色を滲ませ、逆立てた金髪は特徴的だ。
 男は若かった。少なくとも年下のはずで、エアリスと同じくらいか、と思ったところでスコールは思い出す。
 名は確か、……。
 スコールが無抵抗であることに不審を見せながらも、男が口を開く。
「…お前はエアリスの恋人じゃないのか?」
「は…?」
「一緒に住んでいるだろう」
「…は…」
「今まで隙がなかったが」
「…あぁ…」
 今はさぞや腑抜けて映っていることだろう。
 こんな狼藉を働かなくとも、普通に話しかければいいのにと思うスコールだった。
「お前がクラウドか」
「…なんで、」
 目を瞬かせ驚いた男の表情はひどく幼く見える。
 ああ、やはり若いなこいつ。
 外見だけではなく、内面も。
「エアリスから聞いた」
「……」
「俺は恋人じゃない。…お前が恋人か?」
「ちがう」
 即座に否定する男の表情は至って真面目だ。
 恋人でもないくせに、怒りに任せて他人に刃を押し付ける了見を疑う。
 力を緩めることなく押し付けられた肩が痛んだ。
 スコールは肩を抑え込む男の腕に手を置き、離すよう言おうとしたが、叶わなかった。
「じゃぁさっきのおっさんは?」
「あ?」
「エアリスよりもずっと親しそうに見える」
「はぁ?…心外だ」
「他にもそういうの、何人もいるだろう?」
「……」
 親しいわけではない。
 立場上、友好的に接しているだけの話である。
「お前を監視してるおっさんまでいるし」
「…何だって?」
 聞き捨てならなかった。
「玄関前に張り付いて聞き耳立ててたけど、あれ素人だな」
「……」
「さっきも尾けてたけど、余所見が多かったから俺が割り込んだ」
「……」
「気づいてなかったのか?」
 まさかな、と言わんばかりの口調に、「考え事をしていて気づきませんでした」とは言えなかった。
「…お前の方がここのところずっと俺を尾けてただろう」
 さりげなく話題をずらしたが、男は気づかず素直に頷いた。
「いつ気づくのかと思ってた。気づいてたのか」
「お前が接触して来なければ、ずっと放置するつもりだった」
「なんで」
「面倒くさい」
「……」
 面倒、と言われて男の眉根が寄った。
「それよりも、尾けてたおっさんとやらのことだが」
「それこそ面倒くさい」
「は?」
 男は不機嫌を隠しもせずに、金髪の頭を軽く振って話題を断ち切り、力を抜いた。
「…お前がエアリスの恋人じゃないならどうでもいい。悪かったな」
 身体を離してスコールを解放し、武器を収める。立ち去ろうと歩きかけるのを、スコールが腕を引いて止めた。
「ちょっと待て。お前は俺が何股もかけてエアリスを悲しませていると思っていた、だから警告してやろうと思った、という解釈でいいのか?」
「…だいたい、合ってる」
「ひどい誤解だ」
「興味ないね。帰る」 
「待てクラウド」
 クラウドは掴まれた腕を取り戻そうと力を入れるが、スコールの手は緩まなかった。
「エアリスが心配している。ちゃんと顔を見せて事情を話してやれ」
「……」
 クラウドの顔が微妙に歪む。何か言いたそうに口を開いたものの、上手く言葉にできなかったようで、拗ねたように唇を尖らせた。
「今日はもう遅いから明日にでも改めて。…お前どこで寝泊まりしてるんだ?」
「そこのホテル」
 この街唯一のホテルを指さされ、当然と言えば当然の返答に、スコールは愚問だったと苦笑を噛み殺した。
「もっと早く顔を出せば良かったのに」
「お前がエアリスとずっと一緒にいたからだろ!」
「なるほど、話しかけたくても話しかけられなかった、と」
「うるさいな!」
 素直に感情を吐露するクラウドは少年と呼ぶにふさわしく、微笑ましいなとスコールは思う。
 だがエアリスと二十四時間共にいるわけもなく、外で常に行動を共にしているわけでもない。
 一人になる瞬間は必ずあるはずで、機会はいくらでもあったはずなのにそれを逸しているという事実に、コイツは相当な小心者だなと想像するに容易かった。
 真実はどうか知らないが、この少年にとってエアリスは親しく重要な存在であるのだろうことは理解できる。
「で、さっきのおっさんの話だが」
 話を戻せば、これ以上なく面倒くさそうな応えが返ってきた。
「お前の恋人その三だろ。いや、その四かな?」
「冗談でもやめろ…誰だよ」
「今日の昼に会ってた」
「うわ聞きたくなかった」
「は!?わざわざ教えてやったのに!?」
「ちょ…っうるさい黙れ」
 人通りもなく静寂のみを友とするこの深夜にさしかかった二番街で、しかも男がうろついているというにも関わらず、大声を上げたクラウドの口を慌てて塞ぐが、驚くほどの俊敏さで身体を引いて後ろに下がられ、スコールの手は空を切る。
 深追いはせずただ見つめてやれば、気配の変化に気づいた少年が口を閉ざす。
 いい反応だった。
 敏くなければ生き残れない世界に身を置いているのだろうと推測した。
「お前が言ってたおっさんとやらは、あれか?」
 物陰に身を隠すようにして顎で指し示せば、隣に並んだクラウドはこちらに向かって歩いて来る男の姿を認め、大人しく頷いた。
「そうか」
 それは昼間に会っていた三番街の紳士であった。
 この街の町長である。
 ああもう疲れた、と思う。 
 考えることを放棄したい。
 厄介で、面倒な相手だった。
 さてどうするか。
 もう深夜になる。
 約束の時間を破るとシドがうるさいというのはもちろんあるが、スコールは何より疲れているので早く帰りたかった。
 少年を見やれば「さっさと帰りたい」と小さく呟く。全くもって同感だ、と思うと同時に、せっかくの機会だ、少々利用させてもらおうとも思う。
 まだ成長途中であろう身長はスコールよりも少し低めだったが、まぁ問題はないだろうと判断する。
 並んで歩いて、クラウドが男であると認識されればそれで良い。
 徐に真面目な表情を作り、気遣うようにクラウドを見る。
「ところでクラウド、ここに落ち着く気なら住むところを提供できるが」
「え?」
「ホテルに住むわけではないだろう?」
「…探し物がある」
「探し物?」
「すぐに出ていく。長居はしない」
「そうか、残念だ。エアリスは悲しむだろうな」
「……」
 好都合だった。
 すぐにいなくなるなら、コイツ自身に迷惑がかかることはないだろう。
「ではクラウド。これからお前が泊まっている部屋に、案内してくれないか」
「…は?何で?断る」
「あの男を撒きたい。協力してくれ」
「何で俺が?」
 もっともな反応だったが、スコールはこれみよがしに溜息をついて見せた。
「肩と背中が痛い。あと、首も痛いな。斬れてないだろうな?」
 ココが痛いと首を撫でさすってみせれば、クラウドは気まずそうに視線を逸らした。
 刃が触れていた部分が赤く腫れたようになっているのを見つけたからだったが、口に出しては否定した。
「…そんなミスはしない」
「そうか、そうだよな」
「…いいけど、さっさと帰れよ」
「もちろん」
 素直で大変結構なことだった。
 五十路を超えたばかりの中年の町長は、一般人だった。比べてこいつはそれなりに鍛えていそうだから、もし喧嘩沙汰になったとしても怪我をすることはないだろうし、権力を振りかざしてきたとしても、住人ではないクラウドには意味がない。
 痛い目に遭わせたところで、罰は当たるまい。
 路地からクラウドと並んで出、男の視界にわざと入る位置を選びながら背を向けて、ホテルへと入る。クラウドに不審がられぬ程度の距離は取りつつ、出来る限り親し気に見える距離を模索する。確認するまでもなく、気づいた男はついてきた。
 それほど距離のない廊下を歩きながら、クラウドは首を傾げる。
「…あの恋人その四は、なんでお前を尾けるんだ?」
 恋人じゃないと否定しても、クラウドは意に介した様子もなく「それで?」と尋ねてくるので、完全に嫌がらせだった。
「俺が囲ってやるから関係者全部と手を切れと言われたら、お前は受けるか?」
「うわ気持ちわる。受けるわけない」
「だよな」
「尾けてくるってことは、諦めてないってことか」
「…力ずくでモノにできると思っているようだな」
「想像させるなよ」
「するなよ」
 部屋の前で立ち止まり、扉に手をかけてクラウドが振り返る。
「別に同情はしないが。…入るのか?」
「中からテラスに出られるだろう?そこから帰るから、入れろ」
「何で知ってるんだ?」
「街のことはだいたいもう、知ってる」
「ふーん…」
 頑なに拒否したところで押し問答にしかならなさそうで、時間の無駄と悟ったのだろう、クラウドは大人しく扉を開け、スコールが先に入る。
 扉を閉めたクラウドが早く帰れと言う前に、すでにテラスへと続く扉を開けながら、スコールはこちらを見ていた。
「じゃぁな」
「スコール」
「…何だ?」
 呼べば軽く首を傾げて応じた男に、クラウドは満足する。
「やっぱりお前の名前、スコールか」
「どういう意味だ?」
「さっきおっさんが呼んでた」
「……」
「それだけだ」
「…ああ、おやすみ」
 呼んでみたかっただけ、という無意味な呼びかけに、女子供じゃあるまいし、と思うが口にはしない。
 部屋は二階にあったが、その程度の高さならば飛び降りた所で問題はなかった。
 裏口から表通りへ出、ホテルの入口へと戻って中の廊下を窺えば、男はクラウドの部屋の前でしばし逡巡した後ノックをし、出てきたクラウドの胸倉をいきなり掴んだ。
「人のモンに手ぇ出してんじゃねぇぞ。アイツを出せ」
「はぁ?いや、出してないしもういない」
「俺を誰だと思ってるんだ!」
「知らないし興味もない」
「調子に乗んなこのガキがッ!!!」
 男は奇声を上げながら、無謀にもクラウドに殴りかかった。
 素人のパンチが当たるはずもなく、余裕を持って避け、クラウドもパンチで返した。
 的確に顔面に入ったパンチは男を軽く吹っ飛ばす。
 吹っ飛ばされた男は背から壁に激突し、ずるずると床に滑り落ちて大人しくなった。
 小さく震え出した後、すすり泣く声が聴こえ、震えて沈みそうになる膝を手で支えながら、壁伝いに外へ向かって歩き出す。
 よろめき頽れそうになりながらも、己の足で歩いて帰れるのは、ひとえにクラウドが手加減をしたからに他ならない。
 見事な正当防衛だった。おそらく年若く、一見頼りなさげなクラウドを見て「勝てる」と踏んだ上での暴挙だったのだろうが、逆撃をくらい見事に吹っ飛ばされた。男の自尊心を打ち砕くには十分に違いなかった。
 本当はスコール自身がやれたら良かったのだが、この街での立場というものがある。
 行きずりの男にやってもらった方が、後腐れなく済むというものだった。
 何不自由なく、欲しいモノを全て手に入れられる環境にある男の傲慢は、厄介極まりない。
 一番でなければ気に食わず、自分が特別でなければ不機嫌になり、自分の好意は遍く受け入れられるべきである、と信じている手合いの人間を、まともに相手するだけ無駄だった。
 これに懲りて無茶な要求をしてこなくなればいいのだが。
 男に見つからないよう気配を殺して扉の陰に身を隠し、力なく去っていく背を見送って、廊下を覗くと部屋の扉付近に立っていたクラウドがこちらに気づいて、目が合った。
 何か言いたげに口を開いたクラウドは、全てを察したのか大きく息を吐いて脱力した。
「何でお前を助けるような真似しなきゃならないんだ…」
 小さく呟いたその声を、スコールは聞き逃さなかった。
 敏いヤツは嫌いじゃない。
 アイツは見どころがあるな。
 将来が楽しみだと、恨みがましい視線を投げてくるクラウドに笑んでみせれば、一瞬呆けたような顔を見せ、すぐに不機嫌そうな顔に変化して、部屋の扉は閉められた。
「あ、エアリスにちゃんと会えって、念押しするのを忘れたな」
 まぁいいか。
 会いたくて来たのなら、会うだろう。
 もう何も考えたくない。
 一刻も早く帰宅して、ベッドに飛び込みたい気分だった。
 
 
 
 
 
 次の日、夕食後の片づけを手伝っていたスコールは、エアリスから「クラウドに会った」と報告を受け「そうか」と返した。
 アイツすぐに実行したんだな早いな、と思えばこの数日間は何だったんだという話になるが、昨日の邂逅が無駄にならなかったのなら良かったと思うべきであった。
「クラウドはいつ来た?」
「今日のお昼。スコールだけ、いなかった」
「狙ったな」
「え?」
「…いや、そうか」
「クラウド、人を探してるんだって」
「へぇ」
「また他の世界を探しに行くって」
「そうか」
 この街に同郷の人間がいることを知ったのだから、用を済ませれば戻ってくるだろう。
 一人でも仲間が増えるのは喜ばしいことだった。
「スコールによろしく、だって」
「…何をよろしくなんだろうな」
「わぁ、ひねくれてる」
「…悪かったな」
 拭いた食器を片付け終わり、部屋へ戻ろうとしたところを、シドに呼び止められた。
 振り返れば手招きをされ、椅子を示され座れと促される。
「…どうした?シド」
「ちょっと話がある。エアリス、お前も座れ」
 スコールは言われるままに腰かけ、気を効かせたエアリスは三人分のコーヒーを淹れて、シドの向かいの椅子に座った。
 ユフィは今日もリビングでテレビを観ていたが、こちらを気にすることもなく集中しているようなので、あえてシドは何も言わないようだった。
「今度町長選挙があるのは知ってるか」
 頷く二人を見て、シドもまた頷く。
「この街の町長はずっと一族でやってるからよ、選挙つっても議会が満場一致で決定すんのが通例なんだが…引きずり降ろそうって動きがある」
「へぇ…」
「そうなんだ」
「今の町長には世話んなってるが、確かにいい噂を聞かねぇ」
「……」
 淹れたての熱いコーヒーを見下ろして黙るスコールと、首を傾げて「そうなの?」と問うエアリスが対照的だった。
「お前ら、関わるなよ」
「でも、お仕事の依頼が来たらどうするの?」
 もっともなエアリスからの質問に、シドは渋面を作って溜息をつく。
「それなんだよな。仕事がやりにくくてかなわん。下手に有名になっちまったもんだから、仕事受けりゃ利用されかねねぇ」
「現町長の対抗馬は誰なんだ?」
「町長の一人息子らしい」
「…結局一族かよ」
 つまらなそうに呟くスコールに変わって、今度はエアリスがコーヒーを見下ろして沈黙した。
「まぁこの街のシステムについてとやかく言っても始まらん。世代交代させたいらしい」
「息子は詳しく知らないな…」
「今年三十とか言ってたか。大人しそうな坊ちゃんだが、独身でよ、町長が嫁を世話しようとして揉めたとかなんとか」
「…嫁くらい自分で探したいんだろう」
「元々折り合いは悪かったらしいがよ」
「あの町長じゃな…」
「あん?詳しそうだなおめぇ」
「いや…」
 町長の要求と、昨日の出来事を思い出してしまえば好意的でいるべき理由は見当たらなかった。
「息子がまともなら、交代してもらえばいいんじゃないのか」
「だが厄介だぞ。町長はまだ若いしやる気満々だ。それに目だった失策もねぇ。支持層も幅広いし権力は依然としてある」
「息子は父親と対立して潰せるだけの人望や才覚はあるのか?」
「知らねぇ。数えるほどしか会ったことねぇが、父親の影に隠れて目立たない印象だったな」
「…じゃぁ、望み薄だな」
「だから、関わるなって言ってんだ。どっちについても、逆の方が町長になっちまったら俺ら余所モンは居づらくなるからよ」 
「確かに」
「私達に優しい人、町長がいいね」
「今の町長も俺らにとっちゃ別に悪かねぇんだがよ」
「……」
 そうだろうか?
 スコールは疑問だったが、自分の問題であったので沈黙を守る。
 だがなぁ、と、シドは頭を抱えてしかめっ面を作った。
「仕事はしねぇと食っていけねぇからなぁ。結局依頼者ってのは、町長始め金持ってる有力者が主だからよ」
「…有力者は何人もいるが、支持はどうなってるんだ?」
「知らん。どいつも表立って行動はしねぇだろ。理由は俺らと同じだな。上流の連中ほど、態度を保留してやがる」
「…なら、あまり考えても仕方がないな。今まで通りやるしかないだろう」
「私も、そう思う」
 こいつら大きくなったな、と感慨深く二人を見やって、シドは溜息をついた。
「確かにそうか。まぁしかし、色々と考えるトコに来てるのは確かだ…とりあえずは、気をつけろよ」
 シドの言葉に頷くスコールとエアリスだったが、平穏には終わらないのだった。


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縷縷として病む-03-

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