手にした一冊を本棚に収め、レオンは書庫を見渡した。
高い天井付近まで伸びる本棚は最上段まで分厚い書籍で埋め尽くされ、人の通れる幅を残して部屋中にずらりと並ぶ様はいつ見ても壮観であった。
現在ここに立ち入る人間は数えるほどしかおらず、手入れが行き届かないことが悔やまれる。この知の宝庫は、ハートレスやノーバディが一掃された暁には優先的に保存しなければならないものの一つであって、定期的に訪れては書庫の様子に変化はないかを確認するのも、仕事の一つとなっていた。
普段雑多な音に囲まれ、復興途中の活気に満ちた街中で生きているレオンにとって、物音一つなく静まりかえった室内は落ちついた。
ハートレスは書庫内には入ってこないので、ほんの一時、この空間は自分だけのものとなる。
朝から晩まで居座って、ゆっくりと本を読みつつ疲れたら惰眠を貪る、そんな優雅な一日を過ごしてみたいものだと思う。
知る限りでは一人だけ、自由を満喫している男がいたが、そいつは現在腕が落ちないようにと理由を付けてオリンポスコロシアムへと出向いている。
お前もどうかと声をかけられはしたものの、暇がないのだと断った。
クラウドという名のあの男にも目的があるはずだったが、気づけばふらふらと出歩いており、一人の男を捜しているというのは口実なのではないかと疑念を抱く程には、気ままに生きているように見える。
レオンはクラウドの捜し人につい先日会ったーー否、命を救ってもらったのだが、そのことを知らせてはいなかった。この街にいる、もしくはどこか近くにいると、気配は感じていても位置まではわからないらしいクラウドは、キーブレードの勇者にも見かけたら教えてくれと頼んているようだが、芳しい情報は得られていないようだった。
まだこの街にいるのだろうか。
セフィロスという名の捜し人の気配とやらを、レオンに感じ取る能力はない。
あれから見かけることもないので、他の世界に移動している可能性は十分にあった。
不本意な出会い方をしてしまったこともあるが、セフィロスはこの街をどうこうしようという気はないようなので、クラウドのように男を敵視する気にはなれない。
レオンには関わりのない話であり、街を巻き込まない場所で勝手にやってくれと思うのだった。
現在時刻は十七時だった。
秋へと向かい始めたこの季節、夕暮れが迫り程なく夜へと移り変わっていく頃合いだったが、窓の外を見やればすでに暗い。
「…あれ」
ステンドグラスの窓は外の景色を映してくれない。
再度時刻を確認し、空の暗さを見やって眉を顰めた。
書庫は静謐であり、外の音の一切も入ってこない。
雨の音も、雷の音もだ。
…落雷でもあれば光で気づくだろうが、それはなかった。
だが突然の空の暗さが夕立を物語る。
傘は持ってきていなかった。
濡れて帰るか、止むまで待つかの二択であったが、レオンが迷うことはない。
扉を開けて、廊下へと出る。
今日は直帰できる日なのだった。
走って急ぎ帰宅して、風呂に入ってゆっくりする以外に選択肢は存在しない。
外に出れば数メートル先の視界すらも怪しい程の激しい雨が地面に打ち付け、跳ね返った水滴が地上数十センチの高さで踊り狂っている。
靄のかかった景色は灰に染まり、雨音に支配された己の聴覚は圧迫感を訴えた。
一歩先に踏み出せば屋根はない。
一瞬で濡れ鼠になることは確定であり、家までの距離とかかる時間を考えるとさすがに躊躇する。
あと三十分も待てば雨足は弱まるかもしれないが、空は暗く墨を流したような分厚い雲に覆われており、稜線の向こうを見やっても晴れ間は覗いていなかった。
望み薄だなと思う。
今朝確認した天気予報は晴れのちくもり、雨の予定はなかったので油断していた。
仕方がない。
視界は悪いが、見えなくはない。
こんな天候で出歩く人間はほぼいないので、雨を避け俯きながら走ったところでぶつかる心配も無用であった。
ハートレスは無視をする。
全速力で走ればおそらく十分ほどで辿り着くはずだった。
わき目もふらずに、走って帰る。
一つ深呼吸し、レオンは屋根の下から飛び出した。
予想通り、瞬く間に服は水を吸って重くなり、叩きつけるような雨が頭や肩に降り注ぐ。窒息しかねぬ激しさから顔を庇うために腕をかざして隙間を作り、無心で走る。
遠雷が聞こえ、遙か向こうの空に稲妻が走るのが見えて瞬間後悔をした。
数秒後には地面を揺るがす轟音と共に光と振動が走り、耳を塞ぐ。外で体感するものではなかった。
心臓を突き抜けていくような衝撃は、慣れることがないなと思う。
街中にはやはり人の姿はない。
家々の明かりも灰色に閉ざされた世界の中では朧気で、遠く見える。濡れた身体から体温が雨水と共に流れ出し、ひどく寒かった。
こんな雷雨でもハートレスには関係がないらしく、律儀に人が近づけば現れるのを走ってかわしながら角を曲がる。遠くまでは追ってこない習性を理解していれば、一般人でも逃げることは可能であるので、最近街での被害者はいなくなっていた。
いい傾向であり、あとは全てをキーブレードで消滅させてもらえれば平和は約束されるのだが、現状頼れる勇者は一人しかいないので、時間がかかるのは仕方がない。
自分が使えれば、と何度思ったかしれないが、「選ばれなかった」のでこれもまた仕方がないのだった。
全身濡れそぼる不快に眉を顰め、水を振り払うように頭を振ってみるが全く意味を成さない。
雨足は弱まることなく地面とレオンの身体に叩きつけるように落ちてくる。
体力はじりじりと奪われ身体は重く、呼吸がし辛い。
さすがに息が切れ、大きく息を吐き出した。
後ろから追ってくるハートレスはおそらく角を曲がってしまえば諦める。
角を曲がれば我が家であった。
水たまりにかまうことなく足を突っ込み、大きく水を跳ね上げる。
角までもう少しというところで、背後に迫っていたハートレスの気配が一掃されたことに気づいて、立ち止まった。
「え…」
予想よりずっと早く気配が消えたことに不審を抱き振り返る。
ザーザーと聴覚を埋め尽くす雨音以外には音のしない世界に、男が背を向けて立っていた。
靄がかかり視界が著しく悪い中でも、その長身と銀髪の長髪、漆黒の翼は見間違えようはずもない。
「……」
何だこいつ。
何故こんな街中に現れた。
瞬間、金髪頭の男がいないかと周囲に視線を巡らす己の親切さ加減に内心で呆れる。
クラウドが捜して見つからない男が、目の前にいるのだった。
これで、二度目。
こちらを振り返った男に無表情に見据えられ、レオンもまた向き直る。
「目障りなモノに追われている哀れな人間がお前とは」
淡々と紡がれる男の言葉には温かさの欠片もなかった。
雨音に潰され消えそうな声量だというのに、消されることなく耳に届く事実が不思議だと思いながら、レオンは返答する為呼吸を整える。
「こんな豪雨の中で相手していられるか。俺は物好きではない」
「ほう」
お前が物好きなのだと揶揄してやれば、男は瞳を眇めて笑ったようだった。
「気まぐれが過ぎたようだ」
「おかげであんたも濡れ烏みたいになってるじゃないか」
「…何?」
「全体的に」
「……」
腰を超えた長髪も、片翼も、コートも、男の身体を覆う面積が大きい分、土砂降りの雨に晒され水を含んでひどく重そうに見えた。
「クラウドの闇というわりに、雨は弾けないんだな」
「…この世界に存在する限り、それは神でも不可能だ」
「なるほど、あんたは自分を神と同列に置くのか」
「……」
「ああ、しかしまた俺はあんたに助けてもらったのか…」
頼んでない。
頼んでないし危機でもなかったしすぐに逃げ切れたはずだったのだが。
事実を見れば助けてもらったことになる。
額に手を当てため息をつくが、濡れたグローブは額と前髪に張りついて不快でしかない。
ずっと雨は降り続いており、体温は奪われ続けている。
長居は無用だった。
「あんたは風邪引くのか?」
「…何の話だ」
問えば意図を計りかねた男の微妙な間があり、戸惑いのようなものが垣間見えてレオンは笑う。
「すぐそこが俺の家。…雨宿りくらいはさせてやってもいい」
「…物好きだな」
「借りを作ったままでは気持ち悪いので礼をする」
「…本当に、物好きだな」
「その羽は邪魔だから引っ込めておいてくれ」
「……」
邪魔扱いされ、セフィロスが目を瞬いた。
レオンはすでに歩き出しており、ついて来ているか確認の為に振り返ることもしなかった。
ついて来るも来ないも好きにしろということなのだろうが、角を曲がって消える背中をしばし見つめ、セフィロスは後に続く。
玄関の鍵を開けて中に入るレオンに「そこで待て」と言い渡され、セフィロスは腕を組んで首を傾げた。
「…お前は」
私を何だと思っているのか。
「何だ?タオルを持ってくる。ずぶ濡れで部屋に入られるのは迷惑だ」
「私を烏扱いしてくれたな」
「…でかくて黒い烏だ。服を脱いでおけよ」
「……」
当然のような命令形に、セフィロスは眉を顰めた。
だが濡れた服のまま部屋に入るのは確かに躊躇われる。…人間世界の常識で考えればだ。
さっさと姿を消せばそれで済んだというのについて来てしまった以上は仕方なく、コートを脱ぐ。
玄関扉付近が水浸しになっていたが、知ったことではなかった。
着替えてきたらしいレオンからタオルを受け取り、コートを渡す。
「このコートは乾燥機に入れても大丈夫か?生地傷まないだろうな…」
「……」
元英雄でありクラウドが言うところの「闇が具現化した存在」であるセフィロスが着ている服の、洗濯表示や生地を気にする日が来るとは誰が想像するだろう。
構わずコートの裾をめくって表示の確認をするレオンの存在が特異に見え、セフィロスはただ沈黙を守る。
「オーダーメイドかこれ。考えれば当然か、こんな変わったデザイン。…まぁダメなら裸で帰れ」
「死にたいのか」
「冗談だ。大丈夫だろう、たぶん」
何とも失礼であり頼りない発言でもあり、冗談を言われる筋合いもないセフィロスは、口を引き結んで不機嫌を表現した。
クラウドから多少なりとも話を聞いているだろうに、レオンの態度は知人や友人に対するそれに近い。
緊張も警戒もなく、よく言えば気さくであった。
「風呂入るといい」
案内をすると踵を返すレオンに続き、サニタリーへ向かう。
乾燥機にコートを放り込むレオンに躊躇はない。
レオンのジャケットやパンツも入っていたので、一蓮托生というやつだった。
「バスルームは奥」
「…ああ」
「さっさと脱げ」
「……」
レオンはその場から動かない。
どころかレオンは自身のシャツを脱ぎ、パンツへと手をかけて脱いでいた。
「何のつもりだ」
「あんたが出てくるのを待っていたら俺が風邪を引く」
「…それで?」
一緒に入る気か?と見下ろせば視線がぶつかり、肯定を返され眉を顰める。
さっさと脱いで裸になったレオンはごく自然にセフィロスの首へと手を回し、後頭部を引き寄せて唇を塞いだ。
舌を出して唇を舐め、奥へと差し込みセフィロスの舌を引きずり出すが、反応は悪かった。
噛まれないだけマシか、と思い、レオンは唇を離して至近で見上げた。
男の表情は凪いでおり、全く興味もなさそうな様子に笑みを刻む。
相手を誘う、笑みだった。
「…礼をさせてくれ」
「礼とはこれか」
「この前はあんたの好きにされたからな。今日は俺の好きにやらせてもらう」
「ほう…?」
勝手に勘違いして好きにやっていたのはお前の方だろう、とは言わない。
クラウドに対して向けられた誘いの手を拒否しなかったのは、セフィロス自身だからだった。
「…拒否するなら今のうちだぞ?」
レオンの口元は笑っているが、細められた蒼の瞳は獰猛だった。
猫ではなく、肉食獣のそれだった。
セフィロスもまた口角を引き上げ笑って返す。
「その気にさせることができれば、相手をしてやろう」
向けられる感情は心地良かった。
敵意や悪意ではなく、優位に立ちたいという純粋な感情はいっそ好意と感じるほどだ。
手段がこれ、というのがまた面白いと思う。
よほど自信があるのだろう。
わずかばかり、興味が沸いた。
「…では遠慮なく」
偉そうに言われても、レオンの表情は変わらない。
必ず、落とす。
欲望を引きずり出して、豹変する瞬間を見届けてやる。
リベンジだ。
前はクラウドのつもりで相手をしていたら別人だった衝撃で、振り回されて終わってしまったことは不本意だった。
何事においてもマウントを取られる事は望まない。
誰が相手であってもだ。
「キスを」
強請ってやれば素直に降りてくる男の顔は文句なく美形であった。顔の美醜などはどうでも良かったが、これがクラウドの闇と言われてもどうにも納得しがたい。
「自分の闇の具現化した存在」と言っていたが、本当かどうかは知らなかった。
ハートレスとノーバディのような関係なのか、全く違う存在なのかすら興味もない。
ただこの英雄は確かに過去英雄として存在していた事実があり、クラウドとは年齢も合わないのが疑問だった。触れればそこにいて、強請れば応えるコレは実在のものなのかと、考えることすら馬鹿らしい話だ。
セフィロス、と名を呼べば視線がなんだと問い返す。
「…脱がせて欲しいのか?いい加減早くシャワーを浴びたいんだが」
触れ合う部分は温かくとも、濡れて冷えた身体には室温ですら長時間は耐え難い。
ベルトに手をかけ引っ張って催促すれば、手を重ねられやんわりと離された。
「先に入っていろ」
簡潔な返答に頷きで返し、レオンは浴室へ入ってシャワーのコックをひねる。
熱めの湯を頭から被ればようやく人心地ついた気がした。
しばらくして入ってきたセフィロスの存在感に、一気に浴室が狭くなった気がして思わずレオンが吹き出すと、男は片眉を器用に引き上げ目線で何かと問うてくる。
それには答えず好きに浴びてろとシャワーヘッドを手渡して、セフィロスを壁際に立たせて身体に唇を寄せた。
服を着ていると細身に見えるが、実際には見事な筋肉がついていた。
鎖骨から胸へと舌を滑らせ擽ってやれば、男はわずかに身じろいだ。
「キスマークをつけていいか?」
「好きにするがいい」
「……」
断られる前提であったにも関わらず拒否されなかったので、変態か?とレオンは思わないでもなかったが、好きにしろとのことなので試しに一つ、右鎖骨下につけてみる。
素肌に直接コートを羽織るくせに、キスマークを厭わないとはやはり変態だなと己が付けた赤い痕を見やって思う。この位置は素肌を晒している部分なので確実に第三者から見える。見えない部分に配慮してつける、という面倒なことをレオンはこの男に対してする気はない。
好きにしろと言ったのだから、どこにつけられても文句を言うなということだった。
「綺麗についた」
「そうか」
「……」
淡々と頷く元英雄の神経が理解できないレオンだった。
露悪趣味か。
まぁ、素肌にコートを羽織る男だからな。
納得し、男の腹筋を手のひらで撫でながら舌を滑らせ少しずつ下りる。
セフィロスのモノに手を添え形を撫でてやれば、無反応だったそれが震えて質量を増した。舌を伸ばし先端に触れる寸前、熱いシャワーの湯を顔面にかけられレオンは思わず口を離して俯いた。
「ぶ…っ」
「…お前はよほど銜えたいらしいな」
「…っ、あんたはよほど銜えられたくないらしいな…って、やめろ窒息するだろ!」
顔を上げようとすると鼻と口を狙って湯が降ってくるので抗議するが、やめる気配はなかった。
「…おいセフィロス、やめろ」
「お前がやめるなら」
「…何でイヤなのか聞かせてもらおう」
レオンは濡れて湯の滴る髪をかきあげ、ため息をついた。
先にイかせておけば後が楽になるのにと思う。
ちらりと目線を上げて見上げた男の顔は、随分と遠くにあった。
身長差を実感する。
シャワーヘッドの向きを変え、自らの肩にかけて温まっている元英雄は至極真面目な表情で見下ろした。
「醜い」
「は?」
「顔が」
「……」
何だって?
レオンは首を傾げる。
考え込んだレオンを見下ろし、補足の必要を感じたらしき男が軽くため息をついた。
「萎える」
「はぁ?」
「ちゃんと聞いているのか?」
「…真面目に認識の違いについて考察している」
「そうか」
「いや、そうかじゃなく」
なるほど、理解は出来ないが何故嫌がるのかは把握した。
モノを銜える顔が醜くて萎えるから見せるなと言いたいらしい。
未だかつてそんなことを言われたことはなかったが、認識の壁は分厚いようだった。
面倒くさいなと思わないでもないが、目にもの見せてやるという気分の方が強かった。
「…わかった、銜えるのはやめる」
「わかれば良い」
「舐める」
「……」
「どの道コレを挿れなきゃならない」
「熱心なことだな」
「他人事みたいに言うな」
理性が強すぎるタイプの人間(人間かどうかは知らないが)の理性を飛ばさせるのは骨が折れる。一端飛ばせば後は容易いが、そこに至るまでが長いのだった。
左手と舌でモノを愛撫してやれば勃つのはすぐだったが、男の視線は冷静だ。
口が使えない以上手段を選んでいられないレオンは、ボディソープを手のひらに垂らしてモノに塗りつけぬるぬると擦り上げた。
指で輪を作り亀頭を絞り上げるように上下させれば、初めて男の眉が寄って唇を噛む。
「……っ」
微妙な力加減でイかせないよう調節し、ギリギリまで追いつめる。
早く挿れたいと思ってもらわなければ意味がないのだった。
左手はそのままに、レオンは持ち込んだローションを己の右手に絡め、後ろへと回して突っ込む。
どうせこの男に慣らせと言ったところで拒否されるだろう事は目に見えているし、そもそもこちらから誘ったのだから、こちらですべてお膳立てしてやるくらいは当然だろうと思うのだった。
突っ込むだけにしておいてやれば、男が男で在る限り拒絶する余地などない。
指を増やして付け根まで突っ込む。
肉が締まって指を締め付ける感覚に声が漏れた。
あとは…。
泡立ち震える男のモノから指を離しても反り返り、硬度を保っている事に満足する。
「…ソープを流せ」
男は逆らわなかった。
レオンは立ち上がり、セフィロスからシャワーヘッドを取り上げて固定する。
両手でセフィロスの頬を挟み込んで引き寄せて、キスを強請れば腰に手を回され熱くて硬いモノを押しつけられ足が震えた。
吸いついてくる舌は積極的であり、ようやくヤる気になったようだがまだ足りない。
場所を入れ替え壁に押しつけられたレオンは両腿を抱え上げられ、後ろに押しつけられるモノの感触に息が上がった。
「は…っ」
セフィロスの首に回して抱きついていた両手を下ろし右手は押し当てられるモノに添え、左手は後ろを開いて先端を含ませる。
「んぁ、そのまま、挿れ、ろ…ッ」
早く。
奥まで押し込め。
ずぶずぶと肉を押し開きながら中へと入ってくるモノを締め上げ、形を確かめる。
太くて長いソレは収縮する襞を押し分け擦り上げながらみっちりと根元まで収まった。
「ぁ、は…ッ」
息を吐いてモノを受け入れながら、レオンは震えた。
すごい。
感じるトコロ全て、当たる。
根元から絞り上げるように締め上げてやれば、自分も気持ち良くて声が出た。
「んん…っ、あ…っ」
「っ…お前が動くのか?」
耳元で熱い吐息を吹きかけられて首が竦む。
追うように舌を伸ばされ耳朶を這うぬるりとした感覚にレオンの肩が揺れた。
「あっ、んふ…好きに、しろ…ッ」
「…なるほど」
言ってから後悔したが、遅かった。
ずるりと先端まで引き抜かれ、重力任せに奥まで突き上げられて悲鳴に近い声が上がる。
「ア…っあ、ぁ…ッ!」
いきなりか!
最初は様子を見ながらゆっくりやるんだよ!
ヘタクソかよ!
容赦なくガンガン突かれ、肉を擦りいいところを抉る抽挿のスピードが激しすぎてレオンの身体がひくついた。
「っぁ、あぁっ、っあ、ふ、や…ッあ、ぁっ…ッ!」
抵抗するようにモノを締め上げスピードを殺そうとするが、息を荒げながらも男の動きは止まらない。
「は…ッぁっあっ、ちょ…ッ待…っ」
「好きに、しろと、言った…っ」
「っんん、ぁ、そ、…っだけど…ッあ、ああ、っぁ!」
訂正。
こいつはヘタクソではない。
的確に感じるトコロを狙ってくる。強くも弱くもなく、掠るわけではなく、抉ってくる。肉襞が締まってひくつくそこに、また太くて硬いモノが押し入って来て抉られ、快感が途切れることがない。
ヤり慣れないヤツならば苦痛に感じるだろう激しさも、レオンにはたまらなかった。
ヤバイ。
このまま続けられたら、飛ぶ。
身体は意志とは無関係に震え出し、与えられる快感に全身が悦んでいる。
「あ、っぁ、っあ、はッ…ん…ぅっ」
息を吐き、背を押しつけられた壁に手をかけ位置をずらそうと試みる。
あまりにもギチギチに収まっているモノのせいで逃げ場がなく、少し身動きするだけでもたまらない感覚に声を上げねばならなかった。
流しっぱなしのシャワーの湯に濡れた壁は滑って力が入らず、身体を捩ろうとするも今己の身体は両腿を抱えたセフィロスの腕によって支えられており、接合部分がぶつかる度に揺さぶられてままならない。
「や…っ、や、あ、っぁあ…ッい、ィ…ッあぁっイ、っく…っ」
感覚の逃げ場がなく、セフィロスは容赦がない。
自らが快感を追う必要もなく、圧倒的な威力でもって襲いかかってくるそれを、全て受け入れねばならないのだった。
急速に迫り来る射精感に震え、セフィロスのモノを食い締める。
奥まで一気に絞り上げ、両足を身体に絡めて力を入れた。
「っく、……ッ!」
根元まで押し込んで、セフィロスの動きがぴたりと止まった。
「ぁ…っ、…んふ…っ…、は……ぁ?」
レオンの身体に覆い被さるように密着し、呼吸を乱し肩で息をしながら根元をぐりぐりと押しつけてくる。
「……は…っ?」
あれ?
「……」
ゆるゆると驚くほどの緩やかさで抜き差しされるこれは。
「…イった…?」
俺より先に?
思わず呟いたレオンの言葉を、男は聞き逃さなかった。
すぐに身体を離し、モノを途中まで引き抜いて、先端で前立腺を擦り上げられレオンの身体が跳ねる。
「あっ、ちょ…っあんた、なに…ッ」
「…それは失礼をした…」
底冷えするような低音で囁かれ、レオンの視線がセフィロスを捉える。
瞳を細め、口は笑みの形に作られてはいたが笑っていない。心底意地が悪そうに見えた。
「おい、…っ」
先程までの激しさはなんだったのかと言いたくなるほどゆっくりと、執拗に一カ所を行き来し攻められレオンが息を詰める。
「っ…ふぁ、ぁ…ッ」
まだ熱は身体の中に蠢いていて、ゆっくりと一定のリズムで刻み込まれる快感に全ての熱を掘り起こされて身震いをした。
「や、め…っあ、っぁ、…あ…ッ、ぁッあ…っ」
激しく奥まで突き上げられる方がまだマシだった。
奥が疼いてひくついた。
そこまで挿れてくれないもどかしさに震え、なのにじわじわと蝕まれる熱と快感にレオンのモノは勃ちあがり、涙を流して悦んでいる。
もっと激しいのが欲しい。
イきたいのに、イけない。
入り口を亀頭で擦られ、前立腺を押し上げられる。浅くゆっくりと中へ押し込まれる度にもっと欲しいと肉を締め付け、生まれる熱は理性を蝕む。
「そ、っこイ…ッぁっ…っも、っと、ぁ、…っあ、あ…ッ」
腰を動かしもっと奥へ飲み込もうとするが、男の手が腰を掴んで引き離す。
「…甘い」
「や、ぁっあ…っ、は…ッ、あっあ、ぁ…っぁ…っ」
笑みを含んだ熱を耳朶に吹き込まれ、後ろに力が入ってセフィロスのモノを締め上げた瞬間、強めに抉られびくりとレオンの身体が大きく跳ねて、弛緩した。
中がびくびくと痙攣し、肉襞に食われる勢いで締め上げられてセフィロスは小さく呻く。
「……ッ!」
「ぁ…っ…ッ…あ…っ」
ひくひくと震えるレオンの身体は脱力し、とろりと潤んだ瞳はどこか遠くを見ているようにおぼつかない。
完全に復活し勃ち上がったモノを奥までゆっくりと押し込めば、レオンが眉を寄せ頭を振りながら切なげに喘いだ。
「…ひどい顔をしている」
「は…ん、んん…っや、ぁっ、待、てまだ、う…ごく、な…っ」
脈打つように震えるレオンの身体は熱を持ち、中もひどく熱かった。
「動かない、わけがない」
レオンがいいというまでじっと待つ、という選択肢など、セフィロスには存在しない。
ギリギリまで引き抜いて、奥まで押し込む。
びくびくと面白いように跳ねる身体を押さえ込み、勢い任せに突き上げた。
「あっあ、あぁっあ、や…っ待、ま…っ!」
待つわけがない。
肉がぶつかり、レオンの身体が震えた。
ガツガツとただ最奥目指して肉襞を抉り、打ち付ける。
「…ぁあ、ッあぁ…ッぁく…っそ、ぁあ…ッも、…っも、あっ、ぁ…ッ」
中はひくついてセフィロスのモノに絡みついて離れない。
レオンのモノはだらだらと、ひくつきながらイっていた。
食いついて離そうとしない襞を擦りながら先端までゆっくり抜いて、熱く絡む肉をかきわけ奥までゆっくりと押し込んでやれば、レオンは面白い程震えて鳴いた。
「随分…っ、気持ち、良さそうだ」
「あぁっあ、ぁ…っ、あっん、んん…ッぁ、も、や…っ」
「…何だ」
「ベッド、が、い…っ」
「…ベッド?歩けるのか」
「む、り…っ」
「……」
寝室へ連れて行けということかと理解したセフィロスだったが、力が入らず完全に身体を預けているレオンを見下ろし思案する。
まだ繋がったままであり、セフィロスは満足していない。
途中のまま抜いて、こいつを抱えて、連れて行くのか。
気乗りしなかった。
この状態のまま連れて歩くか。
まぁ、それはそれで面白い。
シャワーを止め、子供を抱き抱えるように背に手を回してレオンの身体を抱き上げる。
両足は腰に回し、両手は首に回させるが全く力は入っていなかった。
歩けば振動でぐちゅぐちゅと接合部が音を立て、レオンが耳元で気持ち良さげな声を上げながらセフィロスのモノを締め上げる。
そのたびに歩調が乱れ息を詰めるが、眉間に力を込めて耐える元英雄の精神力は計り知れなかった。
バスタオルを表に出ている分だけ手に掴み、バスルームを出てリビングを突っ切る。
一人暮らしであるのだろう男の寝室の扉はすぐにわかった。
何とも間抜けな行進を終えてベッドへとダイブして、濡れた身体の下にバスタオルを敷いてやれば、わがままを聞いてやる時間は終了だった。
震える手を伸ばしキスを強請ってくるレオンの心理はセフィロスには理解ができない。
そんなにキスは、重要か。
レオンの両手首を掴んでベッドへと押しつけて、一つ奥まで突き上げてやればすぐにレオンの身体は跳ねる。
右鎖骨下へと唇を落とし強く吸い上げ、痕を残して見下ろした。
くだらない。
だが、悪くはない。
気持ちいいのか泣きたいのかよくわからない表情で見上げてくる男の顔は、悪くない。
「さぁ、存分に鳴け」
「は…っ」
瞬間見せる笑顔とも挑発ともつかぬ表情は、セフィロスに悦びをもたらすことだけは確かだった。
「おい、これはなんだ」
セフィロスには無事に乾燥されたコートを手渡し、自分はラフな服に着替えようとシャツに手をかけたところで動きが止まった。
「…何だ」
「何だじゃない、何だこのキスマークは!」
自分の身体を指さし、動揺した様子のレオンを冷めた目で見やる。
「……」
キスマークはキスマークだろうに、何を言っているのかこの男は、という視線を投げれば明確に察したレオンが眉間にしわを寄せた。
「…おい待て、見える範囲だけでも結構…あるじゃないか…」
「お前が望んだことだ」
「俺が!?いつ!?」
「ここに」
ここ、とセフィロスは自身の右鎖骨下を指さし、レオンへと指を向けた。
「自分がつけて欲しいからつけたんだろう」
「すいませんが意味がわからん!何でこんなに目立つところにつけた…!」
「お前がのぞん」
「でません!」
「……」
言葉を遮られ、セフィロスは沈黙する。
腕を組んで壁にもたれる姿は以前も見たなと思いはしたものの、レオンは明日からの仕事を考え額を押さえた。
本日の体力は尽きている為、これ以上の消耗を避けようとリビングのソファに腰掛ける。腰掛ける際にも色々と気を使わねばならなかった。
腰も尻ももう限界。
寝たら即熟睡できる自信はあったが、セフィロスを追い出すまでは寝てはいけないと自戒している。
さすがに泊まらせるつもりはなかった。
居着かれては困る。
誰かさんのように。
レオンは眉間のしわを押しながら、ため息をついた。
「まぁ、ついてしまったものは仕方がない。これも礼のついでということで見逃してやる」
「…お前は本当に面白いな」
「クラウドは今オリンポスコロシアムにいるはずだ。気が向いたら会ってやれば」
「向かんな」
「あ、そう」
そうだと思った、と言わんばかりの適当な返答に、さすがにセフィロスは気づいた。
「むしろ会いに来いと、お前が伝えてやれば良い」
「言えるか馬鹿ふざけるな」
「……」
暴言を吐かれ、セフィロスは眉を顰める。
「何故」
「いつ会ったかどこで会ったか何を話したか聞かれるに決まっている。面倒だ。勘弁してほしい」
「何も話してはいないな」
「全く、ボディランゲージしかしていない」
「……」
「勘弁しろ」
「……」
それは私のせいではない、とセフィロスは思うが、反論するのも面倒だ。確かに、勘弁しろと言いたくもなる案件だった。
ため息をつくレオンはクラウドに話す気はないのだろう。
どうでもいいことだった。
セフィロスは壁から背を離し、空間を開く。
「礼は受け取った。もう用はない」
「羽をまき散らすな掃除が大変だろ」
「…お前は本当に…」
「なんだ」
最後の一言を言わないまま、セフィロスの姿が消えた。
床に落ちた漆黒の羽は、手に取るとふわふわと軽い。
拾い集めて容赦なくゴミ箱へ突っ込んだが、すぐに淡く輝き消えてしまった。
ため息をつき、レオンはソファに寝そべった。
「…疲れた…」
相性は良い。おそらく最高の部類だった。
目的は達成したが、色々と消耗し疲労した。
リスクが高い。
自分が優位でいられない。
優位でいられなければ、自分が自分でいられない。
それは困るのだった。
「服を考えないとな…」
目を閉じれば睡魔がすぐにやって来る。
慌てて目を開け、寝室へと歩く。
少し寝る。
ひどく疲れていて、思考能力が低下していた。
遠慮もなくキスマークをつけてくる無神経さとか。
自分が満足するまで徹底的にやめない意地汚さとか。
クラウドとセフィロスは、確かに同類だな、と思うのだった。
「…クラウド当分来ませんように…」
面倒はごめんだった。
思考があちこちに飛んでいる自覚はあれども、ベッドに横になってしまえば全てがどうでもよくなった。
END
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