眠れ、眠れ、手の中で。
客室に用意された露天風呂と言えば、温泉ではなく通常の湯であることも多いが、ここは源泉掛け流しのれっきとした温泉を利用しているようだった。
木製の衝立のようなものが壁代わりに立てられている為外の景色を一望することはできないが、上を見れば夜空は解放されており、木の衝立に続く石造りの壁と、坪庭のような岩と砂の灰色の上に茂る緑の葉を浮かび上がらせる橙色の照明は美しかった。
黒い石の床と、檜で出来た縁の湯船も落ち着いた。
二人が浸かれば余裕のない小さめな浴槽であったが、客室風呂としては十分だ。
熱めの湯が身体を温め、冷えた外気が頬を撫でていくのが心地良い。
足を投げ出し肩まで浸かり、木枠に首を預けて弛緩しているレオンの項に手を伸ばし、唇を寄せて吸い付つけば熱い身体には容易く痕がついた。うっとうしげにクラウドの顔を払いはするものの強い抵抗はない。
「…ここの温泉の効能って何?」
離れろと言わんばかりに頬に押し付けられるレオンの熱い手を取り、手首に緩く歯を立て肘に向かって舌を這わす。
くすぐったいと言いながら腕を引こうとするのを押し留め、湯の中に沈んでいたレオンの腰を抱いて引き寄せ己の上に跨らせる。
大した力を必要としないのは浮力の成せる業だったが、腹から上が外気に晒される形になったレオンが嫌そうに眉を顰めてため息を落とし、肌の上を這い回るクラウドの両手首を掴んで湯船の中に落とした。
「効能は確か…神経痛リュウマチ、運動機能障害、関節痛、筋肉痛、冷え性、それから…」
「あーもういい。身体にいいってことはわかった。手離せ」
「…なら聞くな。離したらこの手はろくでもないことに使うだろ」
「そこまで詳しく調べてるとは意外っていうかさすがっていうか。…ろくでもないことって何だよ。具体的に言ってみろ」
「仕事の一環だ。…全く、自分のモノでも握ってろ」
「お前がいるのにそれは申し訳ないだろ。ちゃんとお前に突っ込んでやらないと」
「…何を、どこに?具体的に言ってみろ」
「うわぁレオンがエロイ顔して笑ってる。変態だなお前。間違いない」
「ん?俺が変態ならお前はド変態だろ。何を一人で興奮してるんだ?擦り付けて来るなド変態め」
跨った身体をずらし、勃ち上がったクラウドのモノの上に腰を下ろす。適当に乗り上げ下敷きにしてやれば、クラウドが両手をばたつかせて暴れた。
バシャバシャと音を立てて湯が跳ね、顔や肩に容赦なくかかって不快なのでやめろと言えば、今度は両足をばたつかせて暴れ始める。
「ちょ、馬鹿擦りつけてるのはお前だろうが!挿れるならちゃんと挿れろ馬鹿!」
「お前うるさい、ここ外だぞ静かにしろ。こんな所でヤるか馬鹿」
脈打つモノは湯船の中にあっても熱い。
あまりに暴れるので仕方なく腰を浮かせて、腹の上に座り直す。
溢れんばかりに湯船一杯の温泉の浮力は足元を攫おうとして不安定だが、膝をついてクラウドの腰を強めに挟み込んでやれば安定した。
「ああもう全く、お前悪質すぎ」
ため息混じりに零す男を見下ろして、レオンは首を傾げた。
「お互い様だろ。今更何言ってるんだ」
「手離せって。座り直さないと俺沈みそうなんだけど」
「暴れるからだろう…」
そもそもレオンを上に座らせたのはこの男のはずだったが、被害者面で口元まで湯に浸かりながら縁に首で引っかかっている状態を見れば確かに滑り落ちそうではあった。
気は進まなかったが、両手を離し自由にしてやる。
床に手をつき、レオンを乗せたまま両膝を立て座り直したクラウドの俯いた口元に浮かんだ笑みに、レオンは気づかなかった。
「さてレオン」
「…何だ」
「具体的に言うと、俺のコレを、お前のココに挿れたいわけだが、その為には色々と準備が必要なので協力してくれ」
「お…前、こら待て…っ!」
右手でレオンのモノを握り込み、左手は後ろに回してココ、と言いつつ弄った。
無意識に仰け反り逃げを打つレオンを立てた膝で囲い込み、肩を掴んで引き剥がそうとするのを上下にゆるゆると扱いてやることで阻止をする。
この体勢で逃げられるわけもなく、下からゆっくり先端までを撫でてやれば素直に反応を返すレオンのモノに勝ちを確信した。
「変態なレオンさん、気持ち良さそうな顔してるな」
「…っ、ああもう、やめろ馬鹿、のぼせるか風邪を引くかの二択だぞお前…っ」
「温泉プレイとか憧れるだろ。あんまり声出すなよ…深夜だし、ここ外だし?」
「全く、現実的じゃ、ない…!」
「うーん…挿れるにはどうすればいいか?考えろ」
「は…っ風邪引いて死ね!」
「んん?やっぱ湯船から上がらないと無理ってこと?ココ、女みたいに濡れたらいいのにな…」
指を一本入れて動かしてみるが、熱く絡みついてくる肉の感覚はひどく生々しく誘ってくるというのに、滑らないので無理に挿入すれば怪我をするだろうことは明白だった。
「っ…なら、女とヤれよ、俺じゃなく…っ」
濡れた吐息を落とし、残念そうに呟くクラウドの髪を掴んで引っ張る。
痛い痛いと首を竦める男の首筋に噛み付いて、歯型を残してやれば少し気は紛れたものの、腰を浮かされ前も後ろも刺激されてはどうしようもなかった。
中で蠢く指の形をリアルに感じ、前立腺を掠める度に背が跳ねるが、入り口は引き攣れて僅かながら痛みを伴う。
クラウドが凭れている縁に左手を伸ばして支え、右手はクラウドの頭を抱え込む。
背を撫でる深夜の風は冷たかったが、熱を持った身体からは汗が流れ落ちて寒さはまだ感じなかった。
「そういう問題じゃなくてだな…ああ、夏なら良かったのに。風邪の心配なさそうだし。来年また来る?」
「…っ…ふ、ば、かなこと、言ってるな…」
「おいこら、エロイ声で耳元で囁くな。突っ込みたくなるだろ…!」
「っぁ、じゃ、キス、してやるから我慢しろっ」
「それ無理、絶対無理、怪我したいのかマゾめ!」
「っは、怪我させたらお前、次はないから、な…ッ」
「はぁ?って、おい、レ」
髪を掴んで上を向かせ、唇を塞いで舌を差し込む。
文句を言う割に、舌先が触れれば積極的に絡んでくるので現金な奴だと思う。
キスに夢中でおざなりになったクラウドの手の甲に己の手を重ね、ゆっくりと抜き差しを繰り返す後ろの指が肉を開いて擦り上げて行くのを締めつけて、前に集中しろと促す。クラウドの指を動かし己のモノを扱いた。早くイきたかった。
「お前、ホンットに…」
腰を揺らして早くと強請りながら、クラウドの唇を舐めるレオンにため息が漏れる。
「んっ…ふ、何だ、っ」
「…いや、も、いい。俺そのうち死ぬかも」
「…は…?」
死因は腹上死だな。
ああもうダメだ、早く挿れたい。
イきたがるレオンの望みどおりに手を動かす。
食い締めて来る後ろの肉襞を指の腹で確かめるように抉りながら付け根まで押し込んで、指先まで引き抜く。入り口を解し開くようにしながらまた奥へ。
二本までは入ったが、それ以上は潤滑が必要そうだった。
この場にはそんなものはなかったし、時間をかけると自分がのぼせそうで、湯から上がってセックスというのも風邪を引きそうだしで温泉プレイは諦める。
さっさと上がって、ベッドへ行きたい。
「ん、ぁ…っぁ、あ…」
「なぁ、前がイイの?後ろがイイの?」
「ぁ…ッは、ど、っちも、…!」
「うっわ聞かなきゃ良かった…レオンがエロイ。変態。淫乱。早くぶち込ませろ」
指の腹でレオンの先端を開くように捩じ込んで、イけと囁き耳たぶに食いついてやれば、ぶるりと身を震わせてレオンが息を詰めた。
「……ッ、ん、ぁ…っ!」
跳ねる身体を押さえつけ、良く出来ましたと震える頬に口付けてやるが、さっさと身体を離して湯船から上がるレオンは余韻とか、そういう生温い感傷には興味がないようだった。
掛け流しで常に新しい湯が流れ続ける湯船の中に出したはずのレオンのモノは、すでにどこかに消えていた。真昼の明るさならば目で追えたかもしれないが、深夜の薄明るい橙色の照明のみでは白い液体は湯気に紛れてしまったようだ。
見たからどうだというわけでもないが、何となく物足りない。
のぼせても知らんぞと言いながら、すでにレオンはバスローブを羽織って部屋へと戻ろうとしている。
「…お前は情緒がないな!」
思わず背に声を投げつければ、首だけ巡らせた男は何故か口端に笑みを乗せ、目を細めて笑って見せた。
「…ベッドで、待ってる」
「……っ」
露骨なお誘いすぎて対抗する言葉が見つからなかった。
「ゆっくりするのは結構だが、俺が寝てたら起こすなよ」と言われては、急がないわけにはいかない。
バスルームを出て行ったレオンを追って、クラウドも立ち上がる。立ちくらみがした。
危ない、のぼせる所だったと思いながら、バスローブを引っ掛けて部屋へと戻る。
ミネラルウォーターをコップに注いで飲んでいたレオンと目が合った。
飲むかと差し出されたコップを取り上げテーブルに置いて、腰を引き寄せ勃ち上がって挿れたがる下半身を押し付けた。
「もう我慢できないんですけど」
「…ベッドはすぐそこだが」
「そこまで行くのもめんどくさい。バスローブ邪魔。さっさと脱いで」
腰紐を外すのももどかしく、合わせを開いて直接素肌に押し付けた。
後ろに下がりながら苦笑したレオンが結んだ紐を解き、床に落とす。
露わになった鎖骨を吸い上げ痕をつけ、平らな胸を弄って突起を摘めば吐息が漏れた。
ベッドサイドまで下がったレオンの身体を押し倒し、両足を開かせ乗り上がる。口の中に指を突っ込んで舐めろと言えば、何か言いたげな表情を浮かべながらも大人しく舌を絡ませ指を含む。
生温くぬめる口腔を蹂躙し、口端から流れ落ちる唾液を紅い舌が舐める仕草もいやらしい。笑みを含んだ視線が絡み、わざとやっているのだと思えば呆れもするが、それ以上に煽られて仕方がなかった。
名を呼んで、舌を伸ばす。
後頭部に回された両腕が愛しげに絡み付いて、背を撫でる。
後ろに濡れた手を回し、二本含ませ肉を開き、ひくついてぬめる中が指を受け入れ慣れる頃には、レオンのモノが再び首を擡げて震えていた。
「も、挿れる。いいよな」
「…っは、余裕がないな、クラウド…っ」
「…んなもん、とうに、ない…!」
一回イってるお前と一緒にするなと思いつつ、腿を掴んで先端を押し付ける。
ぬるぬると滑る入り口を開いて含ませ、少しずつ奥へと押し込んだつもりだったが気が急いた。カリが入った時点で一気に腰が動いて奥まで貫き、衝撃で顎を反らせたレオンの身体がびくついた。
「ぃ…ッ!あ、ぁ…っ」
「…あ、悪い…っ、あーでも、すごいキモチイイ…」
「おま、え、っぁ、待て、うごくな…!」
ギチギチと肉壁に締め上げられて、クラウドが息を詰めた。
「っい、や無理、それ無理、締め付けるなって…!っは、お前、嫌がらせだろ…っガンガン突いて欲しいって、ことだよな…っ」
ゆっくり先端まで引き抜いて、両足を高く持ち上げ肩にかけ、上から落とすように最奥を目指して根元まで押し込む。
ぐじゅ、と音を立てて熱い襞が絡みつき、根元まで咥え込んで悦んだ。
「は…ッあ、っふ、まて、馬鹿、んっんんっあ、ぁッぁ…!」
「ああやっぱ、お前の中、キモチイイ…ッ」
熱くてきつくて蠢く肉が淫猥だ。
レオンの顔を挟むように両手をベッドについて、軋むスプリング任せに突き上げる。
縋りつくようにクラウドの腿に置かれたレオンの指先に力が入り、爪が食い込み痛かった。
ガツガツと肉のぶつかる音がする。
奥まで、もっと、擦り上げて肉を抉って溶け合ってぐちゃぐちゃになればいい。
「あっん、は…あぁッあ、ふ、ク、ラウド、…ッ」
「ん、何…っ」
「あ、ぁ、ァッん…っも、もっと、…ッ」
「っもっと、欲しいの…っ?」
「あぁっ…っも、ま、だ、イけるだろ…!」
吐き出す息が荒い。
紅い舌が覗いて唇を舐め、レオンが笑う。
もっとと欲しがり、クラウドのモノを絞り上げる。
肌に浮いた汗がベッドランプの明かりを反射して煌いて、触れた部分がぬるついて滑った。
「は、何回ヤれば、ご満足いただけるんでしょーか…っ」
「んっふ、知るか、お前は、何回イけば気が済むんでしょう、か、っ」
「さー…?とりあえず、一回イっとこう、かな…っ」
「っぁん、ん、く…ッぅ、余裕こいてると、痛い目見るぞ…!」
「よく、言う…っ、何、笑ってんの、」
「ん、は…っ、な、んでもない、早く、イけば…っ!」
「っ、ホンットに、お前って、」
どうしようもないな。
ぬちゃぬちゃと粘つく音を立てて擦れる場所が熱くて疼く。
求めるものと、求められているものが今だけは同じだった。
「あ…ぁッは、んん…っふ、ぁ、ぁっあァ…ッ」
ガクガクと揺れる身体を抱きしめる。
抱きしめ返され、キスをする。
「お、れも、どうしようもないな…!」
ああ、馬鹿だ。
本当に。
頬をなぞるレオンの指が熱い。
視線を向ければ、何を笑ってるんだと返された。
「なんでも、ない」
ただ、楽しいだけだった。
この瞬間が、とても。
突き上げる熱が上がって、息が上がる。
重なる鼓動の早さが心地良かった。
分厚いカーテンが開かれた窓から差し込む高い日差しに目覚めたクラウドは、隣に目をやりレオンの姿がないことを確認して身体を起こした。
時計を見れば昼前であり、空腹を訴える腹を押さえてベッドを降りる。
部屋に食う物はないので外に出なければならないが、さて何を食おうかと思いながら顔を洗って服を着る。
レオンの一日の行動を把握していない為、ここに何時に戻ってくるのか知らなかったし、昨夜のように深夜かもしれないと思うと、己の取るべき行動を迷う。
このまま帰っても良かったが、帰った所で何か急ぎでやる用事があるわけでもない。
暇だし、レオンに付き合って数日間の観光を楽しんでもいいかもしれない。
レオンに言わせれば「仕事だ」となるのだろうが、クラウドにとっては旅行も同然だった。
「…ガイドブックでも買うか…」
どうせ食うなら美味い店がいいだろう。ぶらりと気が向いた店に入るのも悪くないが、「観光」ならば「観光」らしく楽しむべきだ。
そうと決まれば行動だ。
レオンの行方だけが気がかりだったが、昨夜のように回廊の中をぶらついて偶然見つけることが出来る確率は低いように思う。深夜より日中の方が出歩く人間は圧倒的に多く、開いている店は比べ物にならない程多かったし、どこかのビルの中で人と会っていたりすればもう探せない。
それにしても、腹が減った。
夜戻ってきた時にでも予定を聞くことにして、扉へ向かう。
開けようと手を伸ばしたが、向こうから開いた。
内開きの扉はクラウドがいる方向へと開く為、ぶつからないよう後ろに引いて、扉の向こうに立つ男へと目をやった。
「あれ、帰ってきたのか?」
「ああお前、起きてたか」
クラウドの横を通り過ぎ、部屋の中へと入ったレオンは見るからに不機嫌だ。
何があったのやらと思いつつ、レオンの後ろについて部屋へ戻る。
腰に手をあて盛大なため息をついた男は、片手に持っていた丸めた書類らしき紙の束をテーブルの上に叩きつけた。
当たり所が良かったのだろう、スパーン、と小気味の良い音を立てて落ちた書類は、ばらけることなくテーブルの範囲に収まった。
「ああくそムカつく!」
「…物に八つ当たりか」
「うるさいな。こんなの八つ当たりに入るか」
額に手をやり引き絞られた眉間を伸ばすレオンに、首を傾げる。
「何かあったのか」
「あー…嫌な奴が」
「ん?」
「…昨日の奴が」
「…昨日?」
大きく深呼吸をして、クラウドが起きて乱れたままのベッドの上に腰掛けたレオンは憮然とした表情を崩さず頷いた。
「放蕩息子という奴だ」
「…意味が、よくわからないんだが?」
「この地区でいくつもビルやテナントを持っている馬鹿息子が」
「おいレオン?」
「クソジジイの息子はやはりクソだったという話」
「……」
随分とお怒りのようだ。言っている言葉は明瞭なのに、意図する所が意味不明だった。
「馬鹿息子って誰だよ」
「昨日見ただろ、あいつだよ」
「…?」
「お前アホなのか。深夜俺に絡んで来たあいつだ」
「…ああ!あいつか!どうでもいいから忘れてた」
深夜レオンにしつこく絡んでいたスーツの男のことだろう。思い当たったクラウドは手を打って頷いた。ようやく思い出したと言わんばかりの態度に、レオンは呆れてため息をついた。
「あいつに会ったのか?」
「この地区の権力者連中と朝から会ってた」
「あいついたのか」
「嫌な奴だ」
「…なんかされたのか」
「されるか馬鹿」
じゃぁ何で怒ってるんだろう。
「なんかされそうになったのか」
「朝からしつこく誘われる俺の身になれ」
「…ああ、なるほど」
なんとなく想像はついた。
「で?権力者の放蕩息子には逆らえないって?」
誘われたら断れないとか言い出さないだろうなと嫌な気分になりつつ問うが、レオンは鼻で笑って一蹴した。
「再建委員会が権力に媚びるようになったら終わりだな。…で、クラウド」
「何だ?」
「お前暇なんだろう。ここにいる間俺に付き合え」
「へ?」
「一人より二人の方が厄介事が減る。…女子供じゃあるまいし、何でこんな気苦労をしなきゃならないのか理解できんが仕方がない」
「……」
「色々と見て回らなきゃならない場所もたくさんある。費用は俺持ち。どうだ?」
「…とりあえず俺腹減ったんだけど」
「ああ、何か食いに行くか。俺もまだ食ってない」
ベッドから立ち上がり、外へ出ようと歩き出す。
並んで歩きながら、これは願ってもない展開だなと己の立場を理解して、クラウドはほくそ笑んだ。
暇を持て余さないで済む。
これ自体が壮大な暇つぶしだとは思うが、飽きずに済むなら構わなかった。
「俺は護衛か」
「護衛してもらう必要はないな。…まぁ、呼び名はどうでもいいだろ」
「友人とか情人とか」
「…なんとでも」
苦笑を刻むレオンの顔に否定はなかった。
まぁいいか。
「ガイドブック買いたい」
「観光気分か」
「そりゃそうだろ。美味い物も食いたいし」
「……」
「お前のケツは俺が守ってやるから安心しろ」
「…お前が言うな」
「俺ので塞いでやるから、安心しろ?」
「…品がないにも程があるな」
「…お前が言うな」
旅行気分も、悪くない。
END