肌を熱して焦がす陽光が西へと傾き、流れ落ちる汗がようやく落ち着くかと思った矢先降り出した豪雨に、暑さに萎れかけた花のようだった人々は蜘蛛の子を散らすように、一斉に建物の屋根の下へと駆け込んだ。うだるような日中の熱を叩き潰すかの如く、街を白く飲み込む雨の勢いは止まる所を知らない。遠雷に雨宿りを余儀なくされた人々は眉をひそめ、意を決して豪雨の下走って帰る豪胆な者の背中を見送っては空を見上げてため息をつく。
激しい夕立は半時も待てば止むだろうことはわかっていたが、何をするでもなくただ空を見上げる退屈は誰しもが感じることで、一人また一人と待ちきれなくなった者が、打ち付ける雨粒の強さに頭を抱え込みながらも立ち去って行く。
少しずつ密度が薄くなっていく周辺の気配に気づいたが、前方の確認すら困難な雨粒の猛攻に晒されるのはご免であった。濡れて冷え始めた肩から腕を撫でさすり、雨雲の行方を眺めやる。黒く重そうな灰色の雲から時折覗く遥か上空は晴れていた。西へと落ち始め鮮やかな夕陽を見るまでにそう時間はかからないだろうと思う。
特に急ぐ用事があるわけでもない。
水の滴る前髪をかきあげて、ぼんやりと白く閉ざされた周辺を見渡す。大粒の雨が叩きつけ地面に跳ね返り拡散する視界は驚くほどに狭かった。
また一人、隣に立っていた壮年の男が豪雨の中へと飛び込んだ。一瞬で飲み込まれ消えて行く姿を感嘆の思いで見つめれば、人一人置いて立っていた男もまた同じように男の背中を見つめていることに気がづいた。
視線を流せば目が合った。
「…お前、何してる」
「雨宿り」
見てわからないのかと言わんばかりにため息混じりに返してやれば、向こうも同じようにため息で返す。
「何でこんな所にいるんだ?クラウド」
「それはこっちのセリフ」
「……」
それ以上の追求は諦めたのか、男が空を見上げて雲の行方を追っていた。視線の先を同じように見上げるが、もうしばらく、雨は止みそうになかった。「仕事か」と聞けば「そうだ」と返る。睨みつけるように空を見上げる視線には焦りがあった。両手に抱えた分厚い封筒の存在に気づき、クラウドは首を傾げる。
「…それ、仕事用?」
「ああ…全く、これのせいで雨の中走れない」
「濡れるからか」
「書類とディスクが入ってる。どちらも水に弱いからな」
「ああ、なるほど」
「…で、お前は?」
「ん?」
「濡れて困る理由でもあるのか」
「ああ…別にないけど、やることもないし」
「あるだろ」
人探しが。
人に「見つけたら教えてくれ」と頼んでさえいる大切な人探しが。
「…言いたいことはわかった、まぁ落ち着けよレオン」
「お前は焦れよ」
「…すみません…」
いつの間にか、屋根の下には二人しかいなかった。
まだ雨は止みそうにない。
二人そろって空を見上げ、建物に背中を預けてため息をついた。
END