俺が持っている剣を見て、それは『キーブレード』というのだとその人は教えてくれた。
世界を救う鍵なんだと、俺しか使えないものなんだと、少し悔しそうな顔をした。
その人はとても強くて。
なのに「時間がないんだ」と俺を急き立てる。
あんたなら十分ハートレスと戦って、世界を救えるんじゃないのかなと思うのに。
俺なんかあっという間に負けてノビてしまったんだから。
あんたは強くて、大人だ。
そう言ったら、「俺は選ばれし者じゃないから」とため息混じりに返された。
その顔が本当にもどかしさに耐えているようで、俺は何も言えずにただ、言われるまま旅に出た。

本当に世界はたくさんあって。
島にいたころ、リクやカイリとたくさん外の世界について話したことを思い出した。
離れ離れになってしまった二人。
二人を探すために、ドナルド達と行動を共にしている俺。
「鍵穴を見つけてふさいでくれ」というあんた。
「君なら出来るよ!」と無責任に背中を押すユフィ達。
やりたいこととやらなきゃいけないことがごちゃごちゃで。
同心円状で絡まっているようなのに、なにかがズレている気がする。

俺はどうすればいいのかな。

知らない世界を見るのは、楽しいけど怖い。
たくさんの見知らぬ人に会えて、そして自分も見知らぬ人の一人になる。
時々、足が竦んでしまいそうになるんだ。
キーブレードがあるから俺は戦えてるけど。皆も手助けしてくれて行く先を照らしてくれるけど。
もし、俺が「選ばれし者」じゃなかったら?
皆、俺のことなんか気にもかけてくれないんじゃないのかな。
どんなにリクやカイリを見つけたいからと言っても、誰も協力してくれない。
ドナルドやグーフィーも、きっと一緒に旅をしてくれない。
あんたも、俺を見てくれない。
あんまり喋るのが好きじゃなさそうだから、きっと話しかけてもくれないだろう。

強いあんたは、他の「選ばれし者」を探しに行くんだろう。

俺を見ることもなく。
冷たく一瞥して、通り過ぎていく。
きっと。
あんたはそうする。

本当は「スコール」という名前なんだってユフィが教えてくれた。
「レオンと呼べ」って、あんたは即座に拒絶したけれど。
どうして自分の名前を隠すのかな?
どうしてそんなに強いのに、思いつめたような瞳をしてるのかな。

・・・どうして、俺を見てくれないのかな。

いつも目線が合わないんだ。
あんたは遥か遠くを見ていて。
俺なんかが届くはずもない、ずっと遠くをいつも見ている。
その高い目線で、何を見てるの?
強い瞳で、何を考えてるの?
・・・なくなってしまったという、もといた故郷を思い出しているのかな。
俺と同じように。

友達や家族を、思い出しているのかな。

見上げるたびに、俺の知らない世界を見ているあんたが気になるんだ。
あんたの瞳に何が映っているのか、知りたくなるんだ。

合わない視線。

それでも俺が「選ばれし者」だから、あんたは色々な物をくれる。
情報や、アドバイス。時には大切なアイテムも。
言葉をくれる。
気にかけてくれる。
俺が、キーブレードを持っているから。
俺にしか、使えないから。
だからあんたは、俺に協力してくれる。

もっと、もっと。
あんたが考えてること、教えてよ。
あんたが見ているものを、知りたいよ。
そして、俺を見てよ。
もっと、見てよ。

「ソラ?どーしたの?ボ~ッとして」
「え?」
我に返ると、ドナルドが俺を見上げて首を傾げている。
「ボ~ッとしてたら、置いていくよ~」
グーフィーが、笑いを含んで俺を見ている。
「ごめんごめん、考えごとしてたんだ」
「探してる、お友達のこと?」
「ん~・・・。ん、そーだな」
「なんかソラ、変だよぅ?」
「変じゃないよ!早く次の世界に行こう」
「あ、そういえば」
グミシップに乗ると、情報が入ってきた。
「オリンポスコロシアムで闘技大会が開かれるそうだよ」
強くなったら、俺を見てくれる?
「行こう行こう!英雄になるんだ!!」
英雄になったら、認めてくれる?
「どーしたの?急にやる気になっちゃって」
「きゅ、急じゃないよ!いつまでも『英雄の卵』じゃ情けないだろ」
「そーだね。英雄になりたいよね」

『色々な世界を見ておくことは、お前の損にはならないはずだ』

そう言ってくれたあんたの顔が、少しだけ優しくて。
やっと合った目線が、俺をほんの少し認めてくれたみたいで。

もっともっと。
俺が強くなって、鍵穴を塞いでいったら。
世界を救うことが、できたなら。
あんたは俺に、笑いかけてくれる?
「よくやった」って、言ってくれる?
俺をちゃんと、見てくれる?

俺は頑張るから。
ちゃんと、戦うから。

だから、レオン。
もっとちゃんと、俺を見て。


END


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