バスルームを出て、洗面台に備え付けの鏡で己の姿を確認する。
  よし、オーケー。
  家から持ってきたパジャマに着替え、濡れた髪をタオルで拭きながらリビングへと戻れば、長い足を組んでソファに座るレオンと目が合い思わず俯く。目を合わせることに気恥ずかしさを覚える日が来るなんて、と少年は己の内心に戸惑いつつもソファへと歩み寄り、レオンの向かいに腰を下ろす。テーブルの上に置かれたグラスに気がついた。
「飲んでいいぞ、ソラ。交代だ」
「あ、う、うん。い、頂きます!」
  いそいそとジュースの入ったグラスを手に取る少年を尻目にレオンが立ち上がり、風呂上りの少年の濡れた髪を一撫でしてからバスルームへと歩いていく。
 
  かっこいいなぁ。

  大人だなぁ、と思いながら飲んだジュースは淹れたてで氷もまだ解けてはいなかった。
  ソラが出てくるタイミングを見計らって淹れてくれたのだろうそれに、感動する。
  レオンは何でもできる大人だった。
  少なくともソラにはそう見える。
  頭が良くて、カッコ良くて、強くて、優しい。
  気配りもできて思いやりがあって、ソラの知らないこと、わからないことも何でも知っている。
  トラヴァースタウンで拾ってもらってから今まで、本当にお世話になってきた。
  レオンがいなければ今の自分はないかもしれない。
  わかっている。
  自覚している。
  レオンのことが大好きだった。
  無論この街でお世話になっているエアリスやユフィも大好きだ。
  シドも乱暴だけど、親切だし大好きだった。
  …でも、一線超えたいとは思わない。
  レオンだけが特別だった。
  そもそも男に興味ないし。
  女の子が好きだし。
  カイリが好きだし。
  でもレオンならいいかなって。
「…ん、と、違うな。レオン、が、いいな」
  言い直す。
  レオンが好き。
「…んーと」
  …レオンも、好き。
  んーと。
  えーと。
  いい加減な気持ちじゃないよ!
  と、言いたいのだが、レオンにちゃんと伝わればいいな。
  きっとレオンはわかってくれる。
  だって、俺の大好きなレオンだから。
「準備しよ!」
  空になったグラスをきちんと洗う。
  滑って取り落としそうになったが落ちる寸前受け止めて、己の反射神経の良さに満足した。
  リビングへと戻り、テレビを消して明かりを落とす。間接照明だけにして、今度は寝室へと向かった。
  寝室もまたベッドサイドのランプだけを灯し、大きなベッドに腰掛ける。

 寝室で待っているべき?
  リビングの方がいいの?

  読んだ本には「雰囲気作りが大事」って書いてあった。
  音楽とか、アロマとかもいいんだって。
  …アロマなんてなかった。
  そもそも、アロマとやらがどんなものかもソラにはよくわからない。
  どこに売っていて、どうやって使うのかすら不明だ。
  なので、それはパスする。
  音楽ならたしかリビングに機器やディスクがあった。
  レオンは普段どんな音楽を聴くのだろう。
「よし、リビングへゴー」 
  だがしかし、間接照明だけの室内は薄暗くてよく見えない。
  文字を読もうとすれば、照明そばまで持って行かなければ読みにくいことこの上なかった。
  うん、めんどくさい。
  暗がりの中無理して文字を読むのは苦痛である。
  目も悪くなるし。
  今だけ照明つけようかなぁなどと考えながら、ラックの前でしゃがみこみ、手に取ったディスクのパッケージデザインを至近距離で眺めやる。
  黒っぽい文字だともうダメ、全然読めない。ムカつく。

「…何してるんだ?ソラ」
「…あ」

 リビングの隅でうずくまるソラに怪訝な表情を向けたレオンは、風呂上りのラフな格好を晒していた。
  …レオンのことは、この暗がりでもちゃんと認識できるのだった。
「…えっと、音楽とか流した方がいいかなって…」
「え?」
  元気な少年らしからぬ細々とした呟きに、レオンが首を傾げた。
「あー、あー、いや、なんでもない!なんでもないです!」
「?探し物なら、照明つければいいだろう?」
「あ、いや、うん、そうなんだけど、いやもういいです、大丈夫」
「そうか…?」
「うん」
  雰囲気作り、ちょっと失敗。…いや、かなり?
  立ち上がってレオンの傍へと近づくソラの表情は何とも微妙なものだった。
「何なんだ?」
  問うてやれば、少年が不満そうに唇を尖らせる。
「…静かなクラシックとか、ない?」
「…あるが、聴きたいのか?」
「えーと…いや、うん、あるならいいんだ」
「ん?聴くのか?」
「…うーん、聴くっていうか、流すっていうか」
「…ソラ、ちゃんと俺の目を見て、言いたいことを言え」
「…うっ…うーんと、えーと、その…」
  言えるかっつーの!
  そもそもレオンの目を見られないです!
  俯き加減に視線を逸らす少年は、両手の指先を合わせては離してを繰り返しながらもじもじとしていて落ち着きがなかった。
「……」
  見下ろし、レオンは漏れそうになる溜息を飲み込んだ。
  なんとなく、察しはついた。
  リビングの照明が落とされている時点で、わかっていた。
  わかってはいたが、全てを理解してやったのではソラの為にならない。
  手を伸ばし、ソラの頬を両手で包んで上向ける。
  視線を無理やり合わせれば、明らかに狼狽し赤面した。
「…ソラ」
  ああ、もう、全く。
「お前の言葉で、ちゃんと言え」
  お子様の反応は微笑ましくて、恥ずかしい。
「うう…」
  目線だけを彷徨わせ、ソラはしばし逡巡した。
  察してよ!
  わかってよ!
  という無言の懇願は、華麗に無視を決め込んだ。
「ソラ」
  語尾を強めに名を呼べば、ようやく決心したらしい少年が真っ直ぐ視線を合わせて深呼吸をした。
「ふ、雰囲気を盛り上げる、ため…に…」
  だが語尾は消え入るように小さくなった。
  頬は薄暗い室内にあってもそれとわかるほどに赤い。
  レオンはまたしても溜息を飲み込んだ。
「…ああ、なるほど。立派な心がけだな」
「…そ…、そぉ?」
  上目遣いで窺うように問われ、内心の抵抗を抑えて頷いてやれば、一気に表情が明るくなった。
  少年なりの精一杯の勉強の成果というやつだ。無下にしてはいけない。

  …無下にしてはいけない。

  再度己に言い聞かせ、レオンは小さく笑みを作る。
  ああもう嫌だ。
  …とは、思っていても口には出さない。
「それで?次は?」
「…え、次…って、えっ」
  照れるな少年。
「おやすみでいいのか?」
「うっ…」
「なら、寝るか。おやすみソラ」
「ううっ…ま、待って待ってレオン!」
  離れようとしたレオンの手を、ソラが掴む。
「どうした?ソラ」
「…レオンが意地悪だ」
「俺はいつもこんなだが」
「レオンが意地悪で嘘つきだ」
「…それで?」
「…何て言えばいいの?」
「ん?」
「こういう時、なんて言えばいいの?」
「……」
  逆に問われてレオンが詰まる。
  さて、どう答えてやればいいのやら。
「お誘いの常套文句を、教えてください、レオン先生!」
「……」
  正面切って問われると返答に困る。
  自分のことを棚に上げてレオンは眉を寄せた。
  黙り込んだレオンを見上げ、ソラが頬を膨らませる。
「何だよーレオン先生もわかんないの?」
  じゃぁ俺に聞かないでよー、と勝ち誇り気味な表情に、レオンが溜息を落とす。
「レオンー?」
「こういう時は、」
  ソラの顎を掴む。
  真っ直ぐ見つめてくるお子様の色をした蒼い瞳に、己を映す。目は閉じない。
  唇が触れる瞬間、お子様の瞳が閉じた。
「……っ」
  ほんの一瞬、触れるだけのキスをして離れる。
  目を開けた少年の頬はさらに真っ赤になっていた。
「れ、れれれレオン…!?」
「ヤれそうなら黙って迫ってみればいい」
「や、ヤヤやれそうならって…」
「拒絶されたら引け。お前みたいに顔真っ赤にして喜ぶようなら儲けもんだな」
「……うおお、レオンが大人…!レオンが大人だ…!」
  でもそんなの見極められない。
「……」
  素直に物語るお子様の瞳に他意はない。
「そうだなそれじゃぁ、面と向かって「ヤらせて下さい」とお願いしてみろ」
「…何それ、レオン急に投げやり!」
「察してくれる相手なら何も言わなくてもヤらせてくれるだろうが、そうじゃなければ言動で示せ。お前がな」
「ううう、は、恥ずかしいです先生…!」
「そうか、なら諦めろ」
「うわ、先生がスパルタすぎる…」
「何にしろ本気でヤりたいなら」
  ソラの視線を捉える。
  目を見開き、硬直した身体のラインを撫で上げて、頬へと到達した指先で撫でてやる。
  笑みを向ければ、少年の身体が震えたのが指先越しに伝わった。
「…視線は外すな。ちゃんと、見つめろ」
「…レオン」
  少年の手が、レオンの首筋を撫でる。
  顎のラインを辿り、頬に触れて、己の方へと引き寄せた。
  屈む格好になったレオンの後頭部へと手を回し至近に寄せて、ソラが真っ赤な顔をしながらたった一言を絞り出す。

「…や、ヤりたい」

「ああ、よく出来ました」
  抱きしめてやればそれ以上の力で抱きしめ返してくる少年は、素直だ。
「…キスは?」
「する!」
「…する、じゃなくて、お前がしろ」
「うう、先生ホント厳しい…」
  必死に舌を伸ばしてくる少年に応えてやるが、押し倒そうとしてくるのには抵抗した。
「ここで、いいのか?ソラ」
「…えっと、ベッドがいい?」
「…なるほど、聞くのか。俺は別にどっちでも」
  どうでも、なんでも。今更。
「えっなるほどって何!?…えっと、じゃ、じゃぁ、ベッドに」
「そうか」
「お姫様抱っこできるようになりたいな」
「…え?俺がされるのか?」
「当ったり前じゃん!」
「…あ、そう」
「今でもできると思うけど。でも身長もっと伸びてからじゃないとな。レオンを落としたくないし」
「……ああ、頑張れ」
  お姫様抱っこなんぞされたくないが。
  まぁ、ソラが大人に成長していくのは自然の成り行きだろうから。
  否定はしない。
  拒絶は…した方がいいのかもしれない。
  ソラの為に。
  …だが今している「これ」も、ソラの為なのだった。
  どこまで責任を持てばいいのか、レオンにはわからない。
  責任など持てようはずもないし、持たされたくもない。
  大きな間違いを犯してしまったのではないかと思う。
 
  純粋に、彼女とだけ恋愛しておけば良かったものを。

  否定しても良かった。
  拒絶しても良かった。
  なのに、できなかった。
  愛じゃない。
  恋でもない。
  ソラの為と言いながら、ソラの為でもない。
  無論、自分の為にもならない。
「レオン、もっかいキスする!」
  ベッドに乗りあがり、馬乗りになったソラに照れはもはやない。
「…ああ、お好きに」
  この返答は最悪だった。
「レオン大好き!」
「…ああ」
「レオンは俺のこと好きだよな?」
「そうだな」
  どういう意味で好きかは問われない。
  問うてはいけないことを、ソラは無意識に悟っている。
  素直な少年だった。
  少年らしい、少年だった。
  バカではない。
  ちゃんと、人の気持ちのわかる人間だった。

 だからこそ。
  全ては本気で拒絶できなかった、レオンのせい。

「…レオン、どこが気持ちイイの?」
「お勉強して来なかったのか?補習だな」
「女の子と同じでいいの?男同士のやつは気持ち悪くて見る気になれなかった」
「…俺は男なんだが」
「わかってるけど。レオンは特別!」
「その線引きが理解できんが、基本は同じ」
「そっかー」
「…なぁソラ」
「何?今すっごい集中してるんですけど!」
「…俺だとお勉強にならないと思うんだが。今更だが」
「えっホント今更何言ってんの?」
「何というか…初々しい彼女と一緒に成長した方がいいと思うんだがな。…いや今更だが」
「男として!それはダメ!」
「…いや、まぁ、理解はするが」
「前は必死で何が何だか状態だったけど、今度は!俺頑張るから!」
「……」
「…あ、ヤバ、早くイきたい」
「…どうぞ?」
「酷いレオン。ここは一緒にイこう!って言うとこじゃないの?」
「…変なとこだけ頭でっかちか」
「レオン先生がいじめる」
「…ホラ、手を動かせ」
「…はい…」
  レオンは基本的に何もしない。
  ソラの好きにさせている。
  「彼女」が積極的な女なら話は変わってくるのだが、話を聞く限りそうではなさそうなので手は出さない。
「ゴムはつけろ」
「…生でもできるって聞いた」
「お前は彼女とヤるときに生でヤるのか」
「え…っと、安全日?にヤればいい?」
「…安全日が完全に安全だと思っている馬鹿は多いようだから、気を付けろよ」
「えっそうなの?…えー…」
「男だから安全、とも思うなよ」
「えっ?レオン、妊娠するの?」
「するか阿呆」
「…よくわかんないです先生!早く挿入したいです!」
「…ゴムはつけろ。ちゃんとお勉強して来い」
「勉強して来たら生でいい?」
「…俺の言ったこと、理解できたのか?」
「わかってるけど」
「お前の目的は何なんだ」
「レオンとえっちすること」
「…おい、違うだろ」
「え?あれ?」
  首を傾げる少年にとぼけている様子はない。
「…お前の目的はお勉強だろう」
「…え、あ、うん、そう。レオンとえっち!と、何が違うの?」
「……いや、もういい」
  根本的に間違えた気がするレオンだった。
  後悔した。
  が、もはや手遅れだった。
「なぁなぁレオン、もういい?ゴムつけたよ。挿れていい?」
  小首を傾げておねだりされても全くレオンの気分は盛り上がらない。
  楽しくない。
  感じないわけではないが、酷く空虚だ。
  弟のように、というと語弊があるが、ずっと見守り続けてきた微笑ましい子供の成長ぶりを素直に喜んでやるには、この状況は複雑に過ぎた。
  痛恨のミスというやつだ。
  ソラに許すべきではなかった。
「…ゆっくり、焦らず、落ち着いて、だ」
「…はい、先生…!」
  少年はとても気持ち良さそうで何よりだった。

 

 

 両手でレオンの手を握り込み、少年は頬を赤く染めて真っ直ぐ見つめる。
「レオン大好き」
「…彼女に言ってやれ」
「い、言えないよ恥ずかしいもん」
「それが全てだろうに」
「え?何?」
「いや、何でも」
  玄関先で名残惜しそうに、いつまでも帰ろうとしない少年から手を取り戻し、レオンは溜息をかみ殺しながら頭を撫でてやる。
「…子供扱いしてるな?」
「いつまでも子供でいて欲しかったな」
「やだよ俺は早く大人になりたい」
「…で?もう満足したか?」
「まだまだ、全然!俺、もっと勉強して来るから!」
「…ああそう」
「やっぱり早く大人になりたい。レオンくらい身長欲しい」
「…頑張れ」
「他人事だと思ってー!牛乳飲んでるけどなかなか伸びないし!」
「俺が、頭を撫でられるうちはまだまだだな」
「もーーー」
  レオンにくしゃくしゃにされた髪を手で押さえつけ、ソラは頬を膨らませて拗ねた。
「もう帰る時間だろう?」
「そうだけど、じゃぁさよならのキスしてくれよ」
「おでこにチューか?」
「何でだよー!口だろ、口!」
「…何度も言わせるな。したければ、お前がしろ」
「する!から、しゃがんで!ああもうこんなことも言いたくない!身長欲しい身長!」
「……」
  屈んでやれば、熱烈なキスが飛んでくる。
  ヘタクソめ。
  だが厄介なことに、「大好き」という感情は伝わってくるのだった。
「うううう、帰りたくないなぁ…」
「帰れ」
「ひどっ。…帰ります…また来るから!絶対!」
「…今生の別れみたいに言わなくていい。またいつでも来るといい」
  できれば、普通に。
  今まで通り。
  何事もなかったように。
「泊まっていいよな?」
「……」
  当然のように要求してくるようになったこの少年の将来が、恐ろしいレオンだった。

 

 

「今そこでソラを見かけた」
  玄関の鍵をかけた瞬間、外から開けられた。中に入ってきた男は不躾だった。
「…お前…」
「泊まってた?ここに」
「…ああ」
「ふーん」
  家主の許しもなく、勝手に部屋に上がり込んでリビングへと向かう金髪の後姿について、レオンも歩く。
「…あいつもお前みたいにならなきゃいいんだが」
  まぁソラはお前より聞き分けは良さそうだが。
「は?何の話?」
「いや、なんでも」
  キッチンで飲み物を淹れてソファに座り、寛ぐ男に歩み寄る。
「クラウド」
「何か用?俺もう寝るけど」
「朝から寝るのか」
「眠いし」
「そうか、ならちょうどいい」
「?」
  怪訝に首を傾げるクラウドの膝の上に、向かい合うように腰を下ろす。
「…ちょ、レオン…?」
  見上げてくる男の頭を両手で固定し、蒼の瞳を覗き込む。
「キスをしてやる」
「……、……はぁ…?」
「ついでに、ちょっと付き合え」
「あれ?もしかしてお前盛ってる?」
「…ここでいい。このままでいい。俺が勝手に動いてやるから、お前は寝てろ」
「…いや、それ寝れないって…」
  舌を出し、唇を舐めてやれば口が開いて舌を挟まれ舐められた。
  ざわりと背を快感が這う。
「…っ」
  さっさと己の服を脱いで床に落とし、クラウドの右手を取り胸元に置いた。
「触れ」
「…俺寝てていいって、言わなかったっけか」
「…寝ていられるもんなら、寝て見せろ」
「うっわ、横暴」
「…の割には、もう勃ってるようだが」
「レオンが誘うから」
「いいから、早く」
「…何かあった?ソラと」
「何も、ない」
「……」
  強めに摘まれ、レオンの息が上がる。
「随分感度良さそうだけど」
「っ…ああ、珍しく、ヤる気になってる」
「…珍しくってお前…」
  まるで普段ヤる気がないような言い方しやがって。
  片方を舌で舐め回し、唇で挟んで刺激してやれば切なげな吐息が落ちた。
  後ろを探ろうと手を伸ばすが、腕を掴んで止められる。
「…レオン?」
「も、早く、挿れたい」
「…ちょっと待て。その言い方は語弊があるぞ」
「…は、」
「笑いごとじゃない」
「ああ、わかった。訂正してやる」
「…してくれ」
「早く、お前のモノを挿れられたい」
「……」
「クラウド」
「…お前今どんな顔してるかわかってる?」
「どんな顔してる?」
「…理性飛びそう」
「お前の?」
「俺、の…っ」
  吐息交じりの笑みが落ち、唇を塞がれ呼吸を奪われてクラウドの意識が逸れる。
  怒張し存在を主張するモノに手を添え、レオンは腰を落とした。
  …多分、入る。
「…っ、んん…っく…ッ」
  押し広げられる苦痛はあったが、どうでも良かった。
  とにかくもう、早く中を満たしたい。
  それだけだった。
「…っ、お、前、がっつきすぎ…!」
  根元まで締め上げられるような感覚に、クラウドが呻く。
  幾らなんでも、焦りすぎだった。
「…あ…ッ、ぁ、」
  背を仰け反らせ身体を震わせたレオンが、唇を舐めながらクラウドを見下ろした。
  とろりと蕩けたその表情に、クラウドの喉が引き攣る。
「レオ…」
「は…っ、た、りない。くらうど、足りない、もっ…」
「…ッ、」
  レオンの腰を掴んで、ギチギチと締まる肉を抉り出す。
  先端まで引き抜いては、腰を落として根元まで。
  骨がぶつかりガツガツと音がしたが、そんな痛みももはやどうでも良かった。
「ぁ…ッ、あ、あ、っぁ、ま、だ、クラウド、っ…」
  まだイくなと言っているのか、まだ足りないと言っているのか。
「…っふ、どんだけ…ッ」
  両方だろうな、と、思う。
  レオンの様子が、ヤバイ。
  完全に、エロモード。
  何これすごい。
「っ、床に、俯せろ。思いっきり、ぶち込んでやるから…っ」
  ずるりと抜けていく感覚に切なげに眉を寄せながらも、レオンは大人しく従った。
  躊躇なく四つん這いになり、尻を高く突き出す。
「…っあーもー…!」
  ひくつくソコが赤く熟れて、てらりと濡れて光る様は下半身にクる。
  すぐイく。マジで。
  無理だから。
「は、やく、ぶちこめ…っ」
「…マジで、も、何なのお前…!」
  尻を掴んで、最奥目指して一気にねじ込む。
「ア、…ッ!」
  一つ鳴いて、レオンが声にならない息を吐いた。
  締まる中が、怖いくらいにキモチイイ。
  ボタボタと精液を垂れ流し、突き上げられるままにレオンは喘ぐ。
  腰を振り、ひたすら快楽を求める貪欲さにクラウドの息も上がった。
「も、無理、も、イく…っ」
「あ、っぁ、中に、…っも…っと、」
「っは…、足りない…っ?」
「も…っ、と、激しくて、い…っ」
「壊して、欲しいの…っ?」
「んん…ッ、っあ、あぁ、もっと、…っだ…!」
「ふっ…く、…も、変態。変態すぎ…!いっかい、イったら、ぐちゃぐちゃに、してやる、から!」
  お望み通り。
「…ん、ん、はやく、早く…ックラウド、…ッ」

 足りない。

  ああ全く、足りない。
  お子様の相手は、満たされない。

 全く、満足できない。

  何だかんだと一晩中。
  ああ全く、よく耐えた。
 
  もう無理。
  もう耐えられない。

 いつかあのお子様が、大人になったら。
  満足できるようになるのか。
  それまでこの関係を続けるのか。
 
  苦痛だ。
  将来を夢見て今を耐える、など無理だった。
 
  どうしよう。
  どうすればいい。

  嫌だと断ればいい。
  それだけの話だった。

  …そう、だがそれはもはや、手遅れ。
 
「…レオン、こっち、向いて」
「…っん、」
  今目の前にいるこの男が。

 

 

 クラウドがいれば、今は、いい。


END

レオン先生の特別授業

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